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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第九十九話

 ゴジは海軍本部基地に帰ると脇目も振らずに新兵の訓練所に移動し、目的の人物を見つけて微笑みながら邪魔しないように訓練が終わるのを待つ。


「おい!お前達はこの程度か?ゴジならすぐ立っていたぞ?さぁ、さっさと立ちあがって俺に向かってこい!! もっと稽古を付けてやる!」


 もちろん海軍本部訓練教官ゼファーのことであり、半年前と変わらず新兵を扱く姿に安堵する。

 彼は地面に倒れ伏す新兵達に“右手”の掌を上に向けて4本の指をクイクイッと曲げる。


「「「はいっ!」」」


 体を泥だらけにしながら、発破を掛けられた新兵達は必死に立ち上がって何度もゼファーに向かっていくが、その度にあっさりと殴り飛ばされたり、投げ飛ばされたりしている。

 ゴジは自分をダシに新兵達に発破を掛けているゼファーを見ながら、自分もよくしごかれた事を思い出して苦笑した。


「よし、ここまでだ。明日もいつもの時間に集合しておけよ!」

「「「は……はい…。ありがとうございました…。」」」


 日が暮れ始めた頃、ようやく訓練が終わって死屍累々といった新兵達が互いに支え合いながら訓練所を後にして行く。


「盗み見とは…しばらく見ねぇ間にえらく趣味が悪くなったな!ゴジ。」


 新兵達が全員居なくなったのを確認してゼファーは訓練所の陰で、気配を消して壁にもたれかかっていたゴジに声を掛けた。

 ゼファーは訓練所にゴジが来ていた事にすぐに気付いていたが、訓練を眺めていたので急ぎの用ではないと分かって新兵訓練を優先させた。


「誰かさんの教育の賜物だね…だだいま爺さん。」


 ゴジは訓練所に入ってすぐにゼファーと目が合い、とうの昔にゼファーにバレているのは知っていたので、悪びれもせずに軽口で返しながらゼファーに近付いて行く。


「久々に稽古を付けてやろう…構えろ。ゴジ!」


 ゼファーがゴジに対して軽く腰を落として右手と右足を前に出す半身になって構える。

 ゼファーはかつてゴジを庇って右腕を失っているので、彼の右腕に付いているのはゴジが作った義腕であるが、見た目には普通の腕にしか見えない。
 

「あぁ…その右腕の調子も確認したかった所だ。」


 ゴジはゼファーの右腕を指差した後で軽く腰を落として右手を前に半身に構える。

 ゴジはゼファーに預けられた当初から、彼に憧れて彼の武術を真似る事で実力を付け、ステューシーから六式を学んでからも、戦闘スタイルの基礎は変わらずにゴジの六・六式(ダブルロクシキ)はゼファー直伝の武術に六式とジェルマの能力を合わせたものであり、魚人空手を覚えた今も変わらずにゼファーとゴジの構えは鏡写しのように全く同じだった。


「いくぜ!爺さん!!」

「あぁ。来い!!」


 ゼファーの言葉を合図にゴジが一足飛びで間合いを詰めて左拳を真っ直ぐに繰り出すと、ゼファーはゴジの攻撃を避ける事もなくクロスカウンターの要領で右拳を出し、互いの顔面を互いの拳が穿つ。

 衝撃波で訓練所が揺れ、砂塵が舞い上がる程の拳を受けてなお、互いに拳が突きささる頬が黒く硬化して武装色の覇気で受け止めているので、互いに見た目ほどのダメージはなく倒れることは無い。
 

「ふん…。剣を覚えたと聞いて、こっちの方は疎かになってるかと思ったが、大丈夫そうだな?」

「爺さんもそろそろ引退かと思ったけど、まだまだ元気そうだな。右手も馴染んできてるようで安心した。」


 ゼファーとゴジは互いの拳が互いの顔面を穿ったまま言葉を交わしてから二人はフッと笑って拳を納めた。

 これは言うなれば、不器用なゼファーのゴジに対する挨拶である。


「あぁ…見ての通り元の腕と変わらんくらいに調子がいいぞ!!でもなぁ…このビームってのは必要なのか?ボルサリーノの技を使う気にはならねぇんだがな。」


 ゼファーは普通の腕と何ら変わらないゴジ特製の義腕の性能に大満足であるが、ピカピカの実を応用したビーム攻撃は理解出来なかった。

 特にゼファーは飄々として強力な悪魔の実であるピカピカの実の能力に頼りすぎなボルサリーノを苦手にしているので、余計にビームを使う気にはならなかった。


「なんだ?爺さん、ビームはロマンなんだぞ。それにいざと言う時の攻撃手段は多いに越したことはないだろう?ちょっとメンテするから右手を見せてくれ。」


 ゴジは難しい顔をするゼファーに対してなんて事を言うんだと、びっくりした顔で迫った。

 ゴジはかつて平和主義者(パシフィスタ)を作った時、ベガパンクに二つ作りたい物があると言った事を覚えているだろうか?

 一つは母ソラに送ったかーくんであり、もう一つがゼファーの義手だった。ただ平和主義者(パシフィスタ)の腕をそのままゼファーの義手とするのは大きすぎるので、さらに改良を重ねてゼファーの腕のサイズに縮小したものであるので、平和主義者(パシフィスタ)同様に掌からビームが撃てるのだ。


「うむ。まぁ、そんなもんか。ここは暗いから教官室に行くぞ。茶は出してやる。」

「いや、爺さんは疲れてるだろう?俺が淹れるよ。」


 ゼファーはゴジが言うロマンは理解出来ないが、攻撃手段が多いに越したことは無いという言い分には一理あると納得した。そして2人で訓練所に併設されている教官室に移動した。


 ◇


 ゴジはゼファーに茶を淹れた後、教官室で工具を使いながら、ゼファーの右腕のカバーを開いて汚れや破損がないかをカチャカチャと弄りながらチェックした後、問題がないことが分かって自分の茶を淹れる為に席を立った。

 
「ゴジ、そのまま聞け…。」

「なんだよ?改まって…。」


 ゼファーは台所に立ち茶を淹れてるゴジの背中に刻まれた正義の二文字を見ながらどうしても伝えなくてはならない事を伝える為に重い口を開いた。


「お前は“体現する正義”を背負い、俺のように海賊は絶対に殺さずに捕らえて罪を償わせているらしいな?」

「あぁ。」
 

 ゼファーはゴジがニコ・ロビンに恩赦を与え、モリアに義娘ペローナを託された事を知っている

 さらにジェガートはゴジにとって心許せる仲間であると同時に、“守るべき”宝物である事も知っているので、そろそろ自分の過去について伝える時が来たと考えていた。


「お前に伝えたい事がある。」

「爺さん…?」
 

 ゼファーは教訓として自分の過去をゴジに話し始めた。


 《Side ゼファー》


 俺は自分の生き方を貫いた末に海賊達の報復を受けて愛する妻と子を殺された事、正義に反してその海賊を復讐の為に殺して、大将を降りて教官になった事を全て話した。

 ゴジは俺の話を黙って聞いていた。

 
「ゴジ。お前には守る者が増えた。その生き方はお前が守りたい者の命を奪う事になるかもしれんぞ。この俺のようにな──。」


 俺の話を聞いてどう思うかはこの子次第。

 ゴジが俺の正義に憧れて継いでくれた時は凄く嬉しかったが、だからこそ俺のように後悔して欲しくない。

 
「爺さんは自分の正義に…海兵として貫いてきた生き方や信念に後悔しているのか?」

「何っ?」


 俺はゴジに何を言われているのか一瞬理解出来なかった…。

 自分はこの“体現する正義”を貫いて妻子を失ったのだ。


「何を言っている?後悔しているから、この俺のようにはならないようにお前に言いきかせて…」

「嘘だな。」
 

 ゴジは俺を見据えてキッパリと言い放った。


「違う…俺は本当に…。」


 俺はは真っ直ぐ自分を見つめて俺の内面をも見透かしているようなゴジの目を直視出来ずに、目線を逸らす。


「爺さんの奥さんや子供さんが亡くなったのは残念だけど、俺は爺さんが間違ってるとは思わねぇよ。俺が爺さんに憧れたのは誰かに言われたからじゃない。爺さんの背中を見て勝手に憧れたからだ。“黒腕”のゼファーは俺の目指すべき“正義のヒーロー”なんだ!」

「正義のヒーロー.......。」


 幼い頃に憧れた“正義のヒーロー”という夢。

 “正義のヒーロー”になる為に海軍に入って我武者羅に生きた挙句に、妻子を守る事も出来ずに殺されて、自分の正義に絶望して“正義のヒーロー”になる事を諦めてしまった。


「奥さんや子供さんもきっと“黒腕”のゼファーが大好きだったはずだぜ!」
 

 長年自分の心の中で燻っていた炎が燃え上がろうとしている事を感じて、ハッと顔をあげると満面の笑みを浮かべたゴジが左手を差し出していた。


『お仕事頑張ってね…あなた!』

『俺もでっかくなったら父ちゃんみたいな“正義のヒーロー”になるんだ!』


 ゴジの顔を見ながら最後に会った妻子の姿を思い出した。

 なんで俺は忘れていたんだ。

 “正義のヒーロー”に憧れる俺を誰よりも応援してくれていたのは愛する妻子だった。 

 俺は差し出されたゴジの手を震える左手で握ると、自分の左手に亡き妻と子の手が重なって自分の手の震えを止めてくれた。


「なっ.......なんで!?」

「爺さん?」
 

 ゴジに声を掛けられて我に返った俺は自分の左手の震えを止めたのは両手で包み込むように自分の手を握ってくれているゴジだった。

 周りを見渡しても当然ながら亡き妻子の姿はどこにもなかった。


「そうか…そうだな……。そうだったんだな…ぐぅぅ…。」


 その時、自分の心で長年燻っていた正義が燃え上がるのを感じると同時にゴジ達を庇って右腕を失ったあの日の真実に気付いて双眸からとめどない涙が溢れてくる。
 

お前達(妻子)はあの日、ゴジ達を守りながら悪に立ち向かう“正義のヒーロー”を見に来たのか?」
 

 あの日は妻子は死にゆく自分を迎えに来たのではなく、“正義のヒーロー”として“牛鬼”エドワード・ウィーブルに立ち向かう自分の勇姿を見に来ていた。

 そして、さっきは“正義のヒーロー”としての誇りを取り戻しつつある俺を見に来た。

 違うな。正確には見に来たんじゃねぇよな。


「俺が気づかなかっただけでお前達(妻子)は不甲斐ない俺をいつも傍で見守ってくれてたんだよな?」


 今も確かにあいつら(妻子)の温もりを感じる。

 俺が教官として海軍に残ったのも二人の導きかもしれない。何よりも新たな家族であるゴジと引き合わせてくれた事に感謝した。


「爺さん、俺は自分が憧れた“正義のヒーロー”になる為の生き方を変えるつもりはねぇよ!!」


 自分の手を両手で握りながら笑うゴジの顔を見て、俺は慌てて左手を引っ込めて溢れ出る自分の涙を乱暴に拭ってから教官室を出る。


「そうか.......勝手にしろ!話は終わりだ。早く家に帰るぞ!!」

「ちょっと待てよ。久々の爺さんの飯、楽しみだな♪そうだ連絡しておいたペローナも夜には家に来るから三人分だぞ!」

「モリアの所にいた子供だな。」


 夜ご飯を楽しみにしながら自分の後を付いてくるゴジにいつまでも泣いている無様な姿は見せられない。

 新たな家族も増えるのだ。簡単なことじゃねぇか。正義を貫き何処までも突き進むゴジのために俺がゴジの大切な物を守ってやればいい。


「あぁ。変わった娘だけど、いい子だから爺さんも気に入るさ。」


 俺は後ろにいるゴジと目の前に沈みゆく太陽を見てしみじみと思う。


「そうか.......俺の夢はとっくの昔に叶っていたのか.......。」


 少なくとも俺は──“黒腕”のゼファーはここにいるゴジと亡き妻子の三人にとっての“正義のヒーロー”だった。


「何か言ったか?」

「何でもねぇよ。ゴジ、何が食いたい?」

「肉!!」

「やっぱりか。そうだと思って山ほど買ってある。」

「流石爺さん、楽しみだなぁ♪」


 自分の夢はとうの昔に叶っていた事にようやく気付いて苦笑しながら、食い意地のはった俺の“正義のヒーロー”と新たな家族を迎えるメニューを考えながらゴジと共に帰路についた。 
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