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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第九十五話

 ギオンは開始の合図をだそうとして対峙する二人の様子を伺う。

 ミホークは黒刀を右手一本で八相に構えており、ゴジはいつも通り拳を武装色の覇気で黒く硬化させて浅く握り右足を前に出して構えていた。


 ───見つけたぞ。“キング”だ。


 ギオンは右手を上げて開始の合図を出そうとしたその時、ギオンの腰に帯びた『秋水』の鯉口がカチャリと鳴る。


「うっ.......戦わせろって言ってるのか?」

「ゴジちゃんどうしたんだい?」


 ギオンは突如頭を押さえて自分を見つめるゴジを心配して駆け寄る。


「ギオンさん、その刀を貸してくれないか?」

「え?」


 ゴジは頭を押さえながらギオンの腰に帯びた『秋水』を見る。


「その黒刀から戦わせろって“声”が聞こえた気がしたんだ。」

「まさか……刀神様、あなたは世界最強の剣士“鷹の目”のミホークを前に死してなお戦いを望んでいるのかい?」


 ギオンはゴジの話を受けてハッとした顔で腰に帯びた『秋水』を見て、ゴジの言いたい事が事実であると悟った。

 400年の昔、世界最強を求めて世界を放浪してワノ国英雄となったリューマの魂が現・世界最強の剣士との戦いを望んでいると伝わってきたので、ギオンは慌てて『秋水』を鞘ごと抜いてゴジの前に差し出す。


「ゴジちゃん、受け取っておくれ!」


 ゴジはギオンから黒刀『秋水』を受け取って不思議な感覚に陥る。


「ギオンさん、ありがとう。刀なんて初めて持つのに妙にしっくりと手に馴染む。」


 ゴジは刀を右手で抜き、左手に鞘を持ったまま右足を前に出して半身に構える。


「“黒麒麟”、本当に面白い男だ。刀はおろか剣すら持ったことはないのはすぐに分かるが、何故かその構えには隙がない。まぁいい。推し量るだけだ。」

「“神眼”」


 ミホークが真っ直ぐと距離を詰めて黒刀を振り下ろしてくるので、見聞色の覇気で未来視していたゴジはミホークに合わせて刀を振り上げることで刀同士がぶつかり合う。


「やはり刀は素人だな?しかし、流石は黒刀よ。世界最強の剣を受け切るか!?そして“黒麒麟”なんという力だ。」


 そのまま互いに右手一本で刀を持ち鍔迫り合いにもつれ込んだ。

 黒刀は恐竜が踏んでも1ミリも曲がらないという硬さを誇る刀であり、全てを斬り裂く世界最強の剣をただ力任せに受け止めて弾き返しても刃こぼれ一つなく、ゴジはミホークと鍔迫り合いをしたまま左半身で体当たりをするように左腕で肘打ちを放つ。


「魚人空手・肘技(ひじき)!」

「ぐっ……!?」


 ミホークはゴジの攻撃を察知して衝撃を逃がす為に後ろに飛ぶと、ゴジは右足を振り抜いて嵐脚を放つ。


「逃がすか!!嵐脚!」

「フッ!“黒刀・波”!」


 ゴジの嵐脚をこれをいち早く察知したミホークは後ろに飛びながら黒刀を振り下ろして飛ぶ斬撃を放ち、ゴジの嵐脚を相殺した。

 ミホークは地面に着地するなり、黒刀を下段に構えてゴジ迫る。


「なるほど……この最強の剣を前にその黒刀を盾として得意の徒手空拳に繋げるつもりか?いい判断だが、ではこれはどうだ?“黒刀・斬”!」


 ミホークは一太刀でゴジがやはり剣の素人だと分かったが、ゴジの嵐脚を見て狙いに気づく。

 しかし、ゴジは六式は10歳の時に僅か一日で三式を習得し、15歳で覚えた魚人空手はコアラの筋肉や体幹の動きを横で見ながら真似るだけでほぼ習得してしまった言わずと知れた武術の天才である。

 ゴジはミホークの予想の遥かに斜め上を行く。


「“神眼・剣技模倣”!!」


 ゴジもミホークに合わせて距離詰めて、ミホークの切り上げた剣に合わせて刀を上から振り下ろす。


「なっ!?」


 互いの剣が激しくぶつかり合い、また鍔迫り合いにもつれ込むとミホークが鷹のように鋭い目を丸くして驚いていた。


 《Side ミホーク》


 正直な話、いきなり“桃ウサギ”から刀を受け取った時は何をしたいのが分からなかったが、黒刀を受け止める為に黒刀を使うとは流石に頭が切れると感心した。

 それにしても何とも卓越した身体能力だ。

 この俺の剣を避けるのではなく、初めて持ったであろう刀で受け止めるとはな。


「なるほど読めたぞ“黒麒麟”。この最強の黒刀を前にその黒刀を盾として攻撃に繋げるつもりか?いい判断だが、これはどうだ?“黒刀・斬”!」


 では、次はもっと鋭く速く斬るのみ!


「神眼・剣技模倣!!」


 俺の下段から斬りあげる斬撃に合わせて“黒麒麟”は右手一本で持った黒刀を俺に振り下ろしてくる。


「なっ……!?」


 俺は刀を振り下ろす“黒麒麟”の姿に自分を重ね、“黒麒麟”を斬るはずだった黒刀『夜』と“黒麒麟”の刀がぶつかり合った。

 力で勝る“黒麒麟”との鍔迫り合いは俺が分が悪いが、どういうことだ?


「何故、貴様が俺の剣を使える?」

「見本がいいからな。」


 そう言って楽しそうに笑う“黒麒麟”を見て、自分の顔に笑みが浮かぶのが分かる。

 そうか。この男の脅威とすべきは卓越した身体能力よりも、俺の身体の動きを一目見ただけで完璧にトレースする神の如き眼か!?

 この男は戦いの中で俺の剣を学び、剣で世界最強たるこの俺を超えるつもりなのか?


「わっはっはっは!!そうか。貴様は一目見ただけでこの世界最強の剣を真似たのか?くくっ……これは凄い。ならもっと学んでこの俺を超えてみよ。そして俺は更にお前を超えてみせよう。」


 俺は強い男との戦いを求めてここへ来たが、まさか剣士として更に高みに昇れるとは思っても見なかった。

 そこからは至福の時間だった。

 真直ぐに切り下ろす唐竹斬り、相手の左肩から右胴にかけて斬りつける袈裟斬り、相手の右肩から左胴にかけて斬りつける逆袈裟斬り、相手の右側から左側へ水平に斬りつける右薙ぎ、相手の左側から右側へ水平に斬りつける左薙ぎ、相手の右下から左肩へ斬り上げる右切り上げ、相手の左下から右肩へ斬り上げる左切り上げ、下から上へ斬り上げる逆風(さかかぜ)斬り。

 俺は俺の持つ全てを惜しみなく披露して、俺を真似る目の前の男を世界最強の剣士へと仕上げていく。

 分かる。一合一合剣がぶつかり合うごとに“黒麒麟”の剣は冴え渡っていき、俺の生き写しともいえる“黒麒麟”の剣だが、俺には分かる。


 ───これは純粋な俺の剣ではない!


「我が武、未だ頂に届かずか、感謝するぞ“黒麒麟”。この戦いは俺をさらなる高みへと押し上げてくれる。」


 何故ならこの男は生まれ持った天性の才能とその身体能力を駆使して、俺すら気づかなかった俺の小さな癖や無駄を削ぎ落として技の精度を最高まで高めた上で真似ているのだ。


「「黒刀・瞬!!」」


 そして真っ直ぐに刀を突き出す互いの最速の突きがぶつかり合うと俺は“黒麒麟”の突きの威力に為す術なく弾き飛ばされる。


「ぐっ……!?“黒麒麟”、僅か数刻でこの俺を超えたな?」


 正確には剣技ではほぼ互角だが、この男には俺の筋肉や体幹の動きから俺の剣を模倣する神の如き眼と未来を視る見聞色の覇気、そして何よりも単純な筋力を初めとした各種身体能力ではこの俺を遥かに凌駕する。

 どれほどの時間、剣を交えたのか分からないが、ただ一つ言えることはこの男は刀を手にしたその日に俺を超えて世界最強へと至った。


「“鷹の目”感謝する。これでようやく伝説の剣豪リューマの刀に相応しい剣士となれた。」


 違うぞ。感謝するのは俺の方だ。

 俺の剣を俺以上に完璧に完成させた状態で模倣する“黒麒麟”の剣のおかげで更に俺は自分の動きから一切の無駄を削ぎ落としさらなる剣の高みに昇れた。

 今ならばかつて引き分けた全盛期の“赤髪”にすら負ける気はしない。そして同時に目の前にいる“黒麒麟”には勝てる気がしない。


「なるほど剣豪リューマの刀とはな。どおりでその刀は俺の最強の剣にも引けを取らぬわけだ。“黒麒麟”誇っていい。この俺が断言する。たった今、お前は俺を超えて世界最強の剣士となった!!」


 しかし、それでいい。この歳で未だに挑戦者とは心が踊る。

 いざ、参る!!


 《Side ミホークend》

 《Side ギオン》


 二人の戦いを見て自分の体が打ち震えるのを感じる。

 ゴジちゃんが僅か10歳からゼファー先生の格闘術や六式、魚人空手を見て学び、一目見ただけで技を繰り出して見せたと聞いた事はある。


「凄い……。」


 ゴジちゃんはさっきまで剣の素人だったのに一合一合、“鷹の目”と剣を合わせていく内に物凄い速さで成長していく。

 “鷹の目”もゴジちゃんの成長を喜び、まるで成長を促すように技を繰り出していくと洗練されたゴジちゃんの剣技に“鷹の目”自身もさらに成長していく。

 そして今──


「「黒刀・瞬!!」」


 互いの黒刀の切っ先が目に止まらぬ速度と威力でぶつかり合うと“鷹の目”が押し負けて突き飛ばされた。

 あたしは“鷹の目”とは勝てないまでもいい勝負を出来る自信はあったが、もはやあたしでは“鷹の目”と戦いにもならないほど、ゴジちゃんとの戦いで“鷹の目”もさらに強くなっているけれど、ゴジちゃんの成長速度は異常すぎるわ。


「ゴジちゃん、あなたまさか刀を持って僅か数刻で剣の頂に至ったのかい?」


 ゴジちゃんは“鷹の目”の突きを同じ技で弾き返した。まるで刀神様がゴジちゃんに乗り移ったようだ。

 でも、刀神様の剣を振るう私には分かる。あれは刀神様の剣ではなく“鷹の目”の剣だ。

 でも、何故だろう。


「あぁ……刀神様、そこにおられるのですか?」


 “鷹の目”との戦いが楽しくて仕方のないといったゴジちゃんの顔に会ったことすらない刀神様の顔を見ているようで胸が熱い。


 《Side ギオンend》


 ゴジとミホークは互いに右手で刀を持ち、八相に構えている。

 それはまるで鏡写しのような二人の姿。

 戦いの前は剣の素人と世界最強の剣士だったが、僅か数刻の間に立ち位置が二人の変化していた。


「行くぞ!“黒麒麟”!!」

「来い!“鷹の目”!!世界最強の称号、奪い返してみろ!!!」


 世界最強の剣士となったゴジに対してその座を取り戻すべくミホークが剣を振り上げる。


「黒刀三連・断!!」


 ミホークはゴジに近づきながら唐竹、袈裟、右薙ぎという神速の三連撃を放つと迎え撃つゴジはそれよりも速く同じ軌道の三連撃で応じる。


「黒刀三連・絶!!」


 互いに同じ剣でもその斬撃速度が圧倒的に違う。

 ミホークの神速の三連撃に対するゴジは神速を超えた超神速でほぼ同時に三連撃を放った結果、唐竹は相殺し、袈裟はなんとかギリギリで間に合って相殺するも、右薙ぎは間に合わずミホークの腹を斬り裂いた。


「ぐっ!」

「浅いか?」


 ミホークの持つ黒刀『夜』は十字架を模した剣で柄から刃の切っ先まで2m近くある長刀、対してゴジの持つ黒刀『秋水』は普通の刀の長さと変わらないので、致命傷には至らず、ミホークは左手で腹を押さえながら後ろに飛んで距離を取った。


「“黒麒麟”…俺の剣を超神速の域へ押し上げたのか?あれが俺の剣が至るべき高みか……。」

「そう。優秀な師から学んだ剣を昇華させてこそ弟子の務めだろう?」


 ミホークはゴジの剣に己が到達すべき頂を見た。

 確かにミホークは当初ゴジに剣の稽古を付けるように剣を振るってきたが、刀は言葉よりも多くを語り、それはゴジに伝わっていた。


「優秀すぎる弟子を持つと師は必死になるものだな。次で決めるぞ。」

「あぁ……!!」


 ミホークは黒刀の柄を両手で持って上段に構えた。

 どんな攻撃がくるかは考えなくとも分かる。

 最速の斬り下し。


 ──刀を鞘に納めろ。


 ゴジはミホークの剣に応じるべく、腰を深く落として刀を構えようとした時、ゴジは手に持つ刀からまた“声”が聞こえる。


「えっ!?刀を鞘に?」


 ゴジは左手でずっと持っていた鞘に刀を納めるのを見て、ミホークは訝しむ。


「何を?」


 しかし、ゴジが居合い斬りの構えを取ったのを見て目を見開いて驚きながらも笑みがこぼれた。


「すまんな。“鷹の目”、どうしてもこの刀がこれを使えって言うんだよ。」

「構わん。今の俺は挑戦者だ。貴様をただ超えていくのみ!!“黒刀・墜葬ノ一刺(ついそうのいっし)!!」


 ゴジは連泊の気合いから繰り出されるミホークの神速の踏み込みから繰り出される超神速の黒刀を見ながら刀の“声”を聞く。


 ──“キング”と戦わせてくれてありがとう。お礼にとっておきを教えてやるよ。


 ゴジは刀の導きに従って一歩右足を深く踏み出して、左手で鯉口を切り右手で刀を抜き放つ。


「体が自然に動く。この技の名前は──“獅子歌歌(ししそんそん)”!!」


 互いの最速の剣により、互い背を向けて位置が入れ替わる。


「がふっ……参った。」


 血反吐を吐いたミホークの胸に深い傷が斜めに走ると血が噴き出して刀を持ったまま前のめりに倒れた。


「ゴジちゃん!!あんた、その技をどこで………!?」


 ギオンは動揺を隠しきれない。

 ゴジは今放った居合い斬りの名を霜月流居合術“獅子歌歌”とそう言ったのだ。

 何故、ゴジがこの技を知っているのか気になった。


「ギオンさん。説明する前に役割を果たしてくれないか?」


 ミホークは倒れてなお、鷹の目ように鋭い目でゴジを睨んでいる。

 彼は元世界最強の剣士として、今、名実共に世界最強の剣士となる男の晴れ姿を一目見るまでは意識を手放すわけにはいかないという思いだけで意識を繋ぎ止めていた。


「じょ……勝者ゴジちゃん!!」


 ギオンの勝ち名乗りを受けて戦いの終わったゴジは刀を納めて不敵に微笑んで、ミホークに向き直り深く一礼する。


「“鷹の目”、ありがとう。お前のおかげで俺はさらに強くなれた。」

「フッ……」


 ミホークは一度笑うとそのまま意識を手放す。


桃色治療(ピンクヒール)!!直ちに“鷹の目”を船に運んで治療しろ!」


 ミホークは意識を失う直前に慌てた様子で自分に近づき、部下達に自分の命じるゴジの顔を見た気がした。 
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