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こんな大記録は嫌だ

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第三章

「まだな」
「いいのね」
「怒らないさ」
「そこまで至らないのね」
「しかし佐藤選手はカープからも打つ様になるさ」
「どうかしらね」
 千佳はあくまで強気だった。
 佐藤輝明はやがて一軍に復帰した、しかし相変わらずノーヒットは続き。
 六十一打席目でだ、やっとだった。
「打ったよ」
「長かったな」
「六十打席ノーヒットなんてな」
「二軍で調整も挟んでだからな」
「凄かったな」
「記録だってね」
 寿は学校でクラスメイト達に話した。
「言われてるよ」
「前は五十三打席だったよな」
「何処かのチームの助っ人がそうだったんだよな」
「それも凄いけれどな」
「それを更新してだからな」
「しかもルーキーで」
「こっちの記録も達成するとは思わなかったよ」
 寿は感慨を込めた声で言った。
「チームのルーキーのホームラン記録を達成して」
「今度は連続ノーヒット記録か」
「今度は日本の」
「両方達成するって凄いな」
「いい記録も悪い記録も両方だからな」
「凄いな」
「大物って言っていいかな」
 よくも悪くもとだ、寿は腕を組んで述べた。
「将来は凄い選手になるかな」
「もう既に凄くないか?」
「いい意味でも悪い意味でも」
「ホームランもノーヒットも」
「両方の意味で」
「そうかな、まあ兎に角打ってよかったよ」
 六十一打席目にしてというのだ。
「本当に」
「そのことは素直に喜べるな」
「打ってくれたことは」
「これまで長かったにしても」
「それでも」
「そのことは素直に喜ぶよ」
 寿はファンとしてこう言った、そうしてだった。
 彼は今は佐藤輝明のヒットを喜んだ、久し振りに打ったそれを。そのうえで彼のこれからのことを期待するのだった。どれだけの大選手になるのかと。


こんな大記録は嫌だ   完


                  2021・10・28 
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