| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章 青年期
  第八十九話

 
前書き
ギオンの出生に際してオリジナル設定がありますので、ご了承ください。

 

 
 城へ向かう道中、白髪短髪で顔の半分に包帯を巻き、包帯のない部分のほとんどの肉や皮の剥がれ落ちた劣化の激しい薄灰色の着流しを着た一体の侍ゾンビがゴジの前に姿を現した。


「どうやら好戦的なゾンビもいるようだな。」

「ヨホホホ。お嬢さん方こんばんは。良い夜ですねぇ……そちらの長い黒髪のお嬢さん、私とお手合わせ願いますか?」


 そう言ったその侍ゾンビは腰に帯びた塚から鞘まで真っ黒の刀を抜くと、その刀は刀身まで真っ黒であった。

 そらにこの侍ゾンビには他のゾンビのような縫合の後が後が無いことをみると過去の英雄の遺体に影を入れた将軍(ジェネラル)ソンビであることが分かる。


「なっ……あんた……その刀は!?」


 侍ゾンビが手に持った刀を見たギオンは激しく動揺するので、ゴジとポルチェが声を掛ける。


「「ギオンさん!?」」

「ヨホホホ!!この刀に目をつけましたか?お目が高い。これは大業物21工の1本、刃は『黒刀乱刃大逆丁字!!名刀『秋水(しゅうすい)』という一品。そこらではお目にかかれぬ代物でしょう。」


 ギオンは激昂しながら侍ゾンビを問い質す。


「やはりそれはワノ国の英雄リューマの刀。あんたその刀をどこで手に入れたの!?それはリューマの死体と共に……盗まれ……まさか!?あなた様は……。」


 ギオンは信じられないモノを見たという具合に自らの口を抑えて涙を溢れさせる。

 そのゾンビが着る着流しは袖と裾に紫色のススキ柄があしらわれ、両肩にそれぞれ龍の一文字が刻まれているのだ。

 生前、名刀『秋水』を持ち、この着流しを着た侍は過去に一人しかいない。


「おや?貴女はこの体の生前の持ち主をご存知のようですね。」

「偉大な御先祖さまの名前を知らないはずもない。私はワノ国鈴後(りんご)が大名霜月牛マルの長女、霜月ギオン。そして貴方の名前は霜月リューマ。ワノ国の英雄。」

「「「えっ……!?」」」


 ギオンの名乗りを聞いてゴジ達は目を見開く。


「リューマってあの剣豪リューマですか?ギオンさんがそのご子孫だなんて……」

「たしぎもあのゾンビを知ってるの?」


 ポルチェがリューマを知ってるたしぎに説明をせがむと、ゴジがその説明を引き継ぐ。


「ポルチェもワノ国の侍の精強さは聞いたことがあるだろう?」

「うん。普通、世界政府非加盟国は海賊や悪党の蔓延る不法の国になるけど、仁義を重んじ剣に生きる最強の剣客集団“侍”を擁するワノ国だけは違うのよね?」

「そう。ワノ国は800年以上、外海との交流、交易を禁止する鎖国という政策をとっているのになんでポルチェは侍が強いって知っているんだい?」

「えっ?それは……うーん……なんでだろう?」

「女の子には興味ないだろうが世界各国で読まれてある有名な絵物語があるんだ。今から400年の昔、世界最強の剣士兵の魂(つわもののこころ)を持つ“キング”と呼ばれる男がいた。同時期、世界最強の剣士となる為にワノ国を出奔し、諸国を放浪して武者修行に明け暮れて腕を磨きながら“キング”を追い求めた侍こそリューマだ。けれど彼はとうとう“キング”には会えずにワノ国に戻ることになるんだよ。何故だか分かるかい?」


 リューマに憧れて剣士を志した結末を知ってるたしぎは笑っているが、ポルチェは首を捻る。


「リューマが追い求めた世界最強の剣士は彼自身だったという結末だ。富と名声も求めずに困ってる人の為に剣を振るい続け、そんな彼に救われた多くの人達が彼を讃えて最強の兵の魂(つわもののこころ)を持つ者、剣の王リューマ・ド・“キング”と呼んだからさ。ワノ国に最強の剣客集団“侍”ありと知っているのは竜を両断したともされる彼の活躍が後世まで残されているからだよ。」

「はい。私はリューマの生き方に憧れて困ってる人を助ける為に剣を学び、海軍に入ったんです。」


 ギオンはゴジやたしぎの話を聞きながら涙を拭って説明を続ける。


「ゴジちゃんの説明通りだよ。鈴後(りんご)の国では生まれたと同時に刀が送られて刀と共に生きる。そして死後は遺体は桶に入れて埋葬して生前使用していた刀を墓標とする風習があるのよ。その鈴後の国を守ってきた数多の侍達の眠る土地こそ“常世の墓”。。私の故郷は一年中雪に覆われた豪雪地帯だから死体は数百年経っても腐らないから、死後も鈴後の国を守ってくれると信じていた。しかし、19年前墓荒らしの被害に遭ってリューマの遺体と刀が盗み出された。その時ちょうど鈴後では正体不明の海賊が攻めてきてたからその海賊が盗んだに違いないと睨んだ私はその正体不明の海賊を突き止める為に海へ出て海軍に入ったの。」


 ギオンの父、霜月牛マルは鈴後の国の大名として18歳となった娘であるギオンにリューマの遺体と刀の探索を秘密裏に命じる。
 

『ギオン、霜月家の誇りに賭けておまえはワノ国を出て刀神様を探し出せ!当時外の海からワノ国へ密入国した不死の兵を従える巨大な体躯を持つ海賊が盗んだに違いない。』

『はっ!』


 元々光月おでんに憧れて外の世界を夢見ていた娘を想って背中を押した不器用な父の親心もあり、既に四皇カイドウが支配していたワノ国から秘密裏に出国させたのだ。


「なるほど、ギオンさんはご先祖さまの行方を探すためにここに来たかったのか?」


 ゴジは土下座してまでギオンが同行を頼み込んだ理由が分かり、納得した。


「えぇ。確証はなかったけど、当時の鈴後の国を襲った海賊を撃退した父の話から不死の兵を操る大男と聞いていたから、モリアが盗んだ可能性が1番高かったけど手が出せなかった。」

「ここは島のようでモリアの船。王下七武海の船に許可なく立ち入ることは出来ないってわけか。仮に見つけても王下七武海の所有物扱いになるから手も出せない。それに王下七武海は未開の地への海賊行為を許可されている。そして世界非加盟国であるワノ国は未開の地扱いだからリューマの遺体と刀を盗んだことは罪に問えない。」

「ゴジちゃん……。」


 ギオンはゴジの言い分が正しいと分かってるので、悔しそうに口を噤む。


「だけど、そんな一般論クソ喰らえだ。ギオンさんは心置き無く御先祖様を取り戻すといい。モリアと五老星の爺様には俺が話を付けとく。ポルチェとたしぎは俺と先に行くよ。」

「……っ!?ゴジちゃんありがとう。ポルチェちゃん、たしぎちゃんしっかりやりな。」


 ギオンの激励を受けたたしぎとポルチェは嫌な予感がする。


「私達ってモリアの視察に来たんですよね?」

「なんかさ。今からモリアを拿捕しに行く流れになってるような気がするわね。」


 たしぎとポルチェが左右から回り込むように恐る恐るゴジの顔を見て、微笑みながらも真剣な顔で城を睨んでいるゴジの目を見て全てを悟る。


「俺達は海軍。海賊(モリア)の船に乗り込んでやる事は一つだけさ。モリアをぶっ飛ばしに行くぞ。」

「「は……はいっ!」」

「ゴジちゃん……ありがとう……」


 ゴジはこの時点でモリアを拿捕する事を決めてたしぎとポルチェが慌てて了承する。ギオンは涙を拭いながらゴジに礼を述べる。


「ギオンさん、一つだけアドバイス。ゾンビの弱点は塩と炎だよ。」

「炎……了解だよ!」


 理由はただ1つ、仲間であると同時にもう一人の母親とも思っているギオンを泣かせた。これだけで王下七武海の拿捕権限の与えられたゴジには十分過ぎる理由だった。

 ゴジはポルチェとたしぎを引き連れて、侍ゾンビ改めリューマゾンビの脇を歩いて通り抜けるが、彼はゴジ達には無反応であった。


 ◇


 ゴジ達が立ち去ってからリューマはギオンに話しかけた。


「ヨホホホホ!私は強い剣客にしか用はありません。そちらのお嬢さんの言う通りこの体の持ち主はワノ国の侍リューマに相違ありません。この体と刀を取り戻そうと言うならば、この私に勝つことです。ヨホホホ。」


 ギオンはリューマの立ち振る舞いを見て、眉間に皺寄せるほどイライラしている。


「御先祖様は刀神様と呼ばれるワノ国の守り神となったお方なの。構えだけで分かるわ。モリアにより別人の影を入れられただけの貴方は刀神様では無い。」


 ギオンはそう言いながら腰に帯びた金毘羅を抜き放つ。ギオン程の剣士てあれば一目で相手の力量を正確に推し量れる。

 リューマの中にいる影は刀ではなく刺突剣の使い手であるので、フェンシングのような構えを取るリューマと正眼で構えるギオンの構えはまるで違う。


「この体の持ち主の子孫というだけあってお嬢さんはとてもお強いですね?記憶にない感情が湧き上がってきますよ。何か巨大な生物とでも対峙した時のような不思議な感覚、体が踊り出しそうだ。」

「刀神様……今常世の闇から解放致します。」


 祈るように刀を構えたギオンに向けて先に動いたのはリューマだった。


革命舞曲(ガボット)ボンナバン!」


 リューマは地面を強く蹴り込んで急加速し、その勢いのままにギオンに向けて激しい突きを繰り出す。

 彼の中にいる影の正体はルンバー海賊団の船長代理として活躍していた“鼻唄”のブルックと恐れられた剣豪であるが、ブルックの剣では最速の突きであるが、ここにリューマの筋力が合わさるとその技は衝撃波をも発生させる威力を持つ。


牛針(うしばり)!」


 ギオンはリューマの突きに逆らう事なく、突き技で応じると互いの切っ先がぶつかり合うとギオンの剣がリューマの剣を体ごと突き飛ばした。


「なっ……!?おっと……凄まじい威力ですね!?」


 大きく後ろに後退したリューマは剣を構え直すが、ギオンは激しい怒りの中にいた。


「何よその技は?やっぱりそれは刀神様の剣じゃない!私は貴方に憧れて剣を身に付けた。誰の影かは知らないけどさっさとその体から出ていけぇえええ!」


 ギオンが幼き頃より腕を磨いてきた霜月家の剣技の開祖こそ他ならぬリューマであるからこそギオンには分かる。本物のリューマの剣であれば、突き飛ばされるのは自分でなくてはならないのだ。

 リューマはそんなギオンの心の内を悟り、謝罪しつつ自分の想いを伝える。


「確かに、私如き剣士ではこの体の持ち主の力量には到底及ぶべくもありません。であるからこそこの強靭な肉体を得た今だから私は剣士として高みに登りたいのです。」


 リューマの体に入ったブルックの影はブルックの記憶もほぼ失っているが、リューマの肉体、ブルックの魂の強い剣士になりたいという想いは一致しており、スリラーバークを練り歩き武者修行に明け暮れて今に至る。


「へぇ。あんたも一端の剣士って事かい?確かに刀神様の身体に影を入れたのモリアだからあんたを恨むのは筋違いってやつだね。なら、あんたの自身の名を名乗りな。」

「ヨホホホ!名など久しく忘れておりました。“鼻唄”のブルックと申します。ギオン殿、改めてお手合わせよろしくお願いいたします。」

「非礼の詫びとしてワノ国最強と呼ばれる刀神様の剣を魅せてあげるよ。」


 ギオンは責めるべきはリューマの遺体を盗み、辱めたモリアである事を思い出して、技を魅せるべく刀を鞘に納めると、リューマも刀を鞘に納めた。


「それは楽しみです。ならば私も“鼻唄”と謳われたとっておきの技をご覧に入れましょう“鼻唄三丁……」

「来な!“煉獄……」


 互いにこの状態から放つ技は一つしかない。

 ───神速の抜刀術。

 リューマゾンビはいつでも刀を抜けるように自然体のままゆっくりとギオンに近づいていくと、対するギオンはリューマゾンビを見据えてどっしりと腰を落として居合いの構えを取る。


「……矢筈斬り!」

「……獅子歌歌(ししそんそん)!」


 互いの最速の居合が放たれて先程いた場所が入れ替わって互いに背を向けて立っている。


「お……お見事です。」


 そう言ったリューマの胸から腰にかけて斜めに切れ込みが走り、その傷口から発火する。

 ギオンの圧倒的な速度で鞘から刀を抜き放たれた居合により斬り裂いた相手を発火させてしまう生前のリューマが最も得意とした技である。

 ギオンは手に持つ刀を落として後ろを振り返りその場に跪いて頭を地に付ける。


「うぅぅぅ……刀神様ぁぁぁ!」


 ギオンを始めとしてワノ国に住む者にとってリューマは神。戦いを終えた今、そんな神に向けて仕方ない事とはいえ刃を向けた事を謝罪した。


「今受けた技は懐かしい感じがするのは気の所為ではないのでしょうね。お嬢さん……この刀はお返ししますよ。ヨホホホ!」


 ギオンは差し出された刀を跪いたまま両手で恭しく受けとり、再び深く頭を下げる。


「っ……!?」

「ヨホホホ!この侍の体に敗北を与えてしまうのは……本当に口惜しいが、子孫である貴方だからか……悪い気がしないのは気の所為ではないのでしょうね。」


 そう言い残してブルックの影は抜けて本人の元へ還る為に天に昇っていく。

 リューマの体が燃え尽きていくのをギオンは涙ながらに見送っていると愉快な笑い声が聞こえてくる。


 ───わっはっはっは!負けた負けた!

「刀神様!?刀神様の魂はワノ国に必ず連れて帰ります。どうか安らかにお眠りください。」


 幻聴かもしれないが、ギオンは確かにリューマの愉快な笑い声を聞いた気がして自然と笑みが浮かべて、故郷を舞う雪を連想させる白い灰となったリューマに向けて深く頭を下げた。


「父上……19年かかりましたがようやく刀神様を取り戻しました。恩人(ゴジちゃん)の任務が終わり次第、帰国致します。」


 リューマを見送ったギオンは立ちが上がって腰に帯びた秋水の塚を撫でた後、この刀を取り戻す機会をくれたゴジを手助けして恩を返し、彼に与えられた王下七武海の視察任務が終わり次第、海兵を除隊して帰国する覚悟を決めた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧