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大学に行けという理由

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第一章

               大学に行けという理由
 小原哲章はもう百歳になる、だが自分の曾孫達にこう言っていた。
「いいか、大学には絶対に行け」
「ひい祖父ちゃんいつもそう言うな」
 曾孫の一人で高校生の赤枩はこう返した、癖のある茶色の髪の毛で細面で鋭い目つきで背は一七一程で痩せている。
「別にな」
「大学に行かなくてもか」
「いいんじゃね?」
 こう言うのだった。
「もうな」
「いや、行け」
 曽祖父の言葉は変わらなかった。
「何があってもな」
「大学にはかよ」
「行け」
 こう言うのだった。
「いいな」
「行かないと駄目か」
「浪人してもな」
「それでもか」
「行け、いいな」
「じゃあな」 
 赤枩も曽祖父があまりにも強く言うからだ。
 部活のバスケットボールだけでなく勉学にも励んだ、それで無事に地元で誰もが知っている大学に入学したが。
 入学祝いで家族で寿司を食べに行った時にだ、曽祖父に尋ねた。
「ひい祖父ちゃんちょっといいか?」
「何だ」
「何でなんだよ」
 曽祖父が出してくれた金で大トロを食べつつ尋ねた、曽祖父はすっかりしわがれた感じでまだ多い髪の毛は真っ白だが背筋はしっかりしていて生海老を食べている。その曽祖父に対してカウンターの隣の席から尋ねた。
「俺だけじゃなく皆に大学に行けって言うのは」
「それで行かせてるのはか」
「何でなんだよ」
「沢村栄治さん知ってるか」 
 曽祖父は曾孫に顔を向けて尋ねた。
「この人を」
「沢村賞の人だよな」
 赤枩は即座に答えた。
「戦前活躍した」
「物凄い速球投げてたな」
「一六〇キロ普通に出てたんだろ」
「わしもそう聞いている」
「ひい祖父ちゃんが若い頃の人か」
「わしは戦争に行ったことがある」
 哲章はこのことも語った、周りでは親戚全員が寿司それに酒を楽しんでいる。有名な店でどれも美味い。
「二次大戦のな」
「ああ、そうだったな」
「それで沢村さんにも会った」
「そうなのかよ」
「一度な、わしは内地にずっといたが」 
 召集されたがというのだ。
「港であの人に会った」
「そうだったのかよ」
「地元だったからあの頃から中日だったが」
「それでもか」
「あの人は知っていて好きだった」 
 沢村、彼はというのだ。
「それで話をしたがあの人は中学を出ただけだった」
「今で言う高校だったな」
「中学を出ただけでも結構以上なものだったが」 
 当時はというのだ。
「あの人は三回召集されたんだ」
「えっ、三回もかよ」
 赤枩はこのことを聞いて驚いた。 
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