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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第八十四話

《アーロン討伐から一週間後》


 コノミ諸島にある町や村の総意により、この島はジェルマ王国に属する事になり、レイジュとソラはその後もコノミ諸島へ残って島の復興を手伝っていた。

 さらに恐怖の象徴であったアーロンパークを改修して平和の象徴としてジェルマ王国の東の海(イーストブルー)の拠点とすることが決定した。
 

「イスカさん、もう行くの?」


 ナミはあまりにも早い別れに名残惜しむが、イスカは己の正義を全うする為に止まることはない。

 未だに島の復興も忙しい上、あまり壮大に見送られる事を嫌ったイスカが出航を告げたのはレイジュ、ソラ、ナミの三人だけで、当然見送りに来ているのも三人だけだった。


「ええ。私の追っている海賊はどうやら始まりの町ローグタウンを抜け、偉大なる航路(グランドライン)入りしたようなので戻るわ。」


 治療ポットのお陰でアーロン討伐から僅か一週間でイスカの怪我は完治した。

 イスカは治療を終えた直後にスペード海賊団が偉大なる航路(グランドライン)に入ったという情報を得たので、これから1人でも操作可能な小さな帆船で偉大なる航路(グランドライン)に入る予定である。
 

「もう怪我は大丈夫そうね?」

「はい。科学大国ジェルマ王国は医学も凄いんですね。目が覚めたら一週間も経ってた事も驚いたけど、たった一週間であの怪我が完治した事が何よりもびっくりしたわ。」


 イスカは両手を広げて完治したことをアピールする。治療ポットのお陰で彼女は一切の後遺症も傷跡も残らずに治療出来た。
 

「本当にその手の火傷の痕は本当に消さなくていいの?」

「はい。これは私の大切なモノですから──。」


 イスカは幼い頃に両親を海賊に殺された際に受けた手の火傷の痕を愛おしそうに見つめる。レイジュはこの傷すらも跡形もなく消せると申し出たがイスカ本人が断ったのだ。


「そう。また会いましょう!」

「はい!レイジュさんもお元気で!」


 この痕は両親が自分を庇ってくれた証であり、これを見る度に彼女は両親の笑顔を思い出しているのだ。
 

「イスカさん、本当にありがとう♪」


 ナミもイスカの見送りに来ていた。


「いえ、当然のことよ。うちの支部が本当に迷惑を掛けちゃってごめんなさい。第16支部の支部長のネズミ“元”大佐を始めとする佐官以上の将校達には然るべき処分を与えたからね。アイツらは一生海底大監獄(インペルダウン)から出る事はないわよ。」


 イスカからもたらされた情報を基につるを主導とする本格的な捜査のメスが入り、第16支部のネズミ大佐以下上層部はアーロンが自分の情報を海軍本部に送らない為に海軍へ送り込んだ“アーロン一味のスパイ”として海底大監獄(インペルダウン)に投獄された。

 ちなみに佐官とは少佐から大佐までの地位にある者を示す言葉であり、ネズミ“大佐”が一番上の階級であった第16支部はネズミ以下3名が上層部として処断されたのだ。 

 世界政府は海軍が海賊に買収されたという事実を公表すれば、海軍や世界政府のイメージダウンに繋がるので、当初は事実を揉み消してネズミ大佐を別の支部の閑職に異動させる方向で話が進んでいた。

 しかし、これに異を唱えたのは他ならぬつるである。

 つるはジェガートの部下達全員を我が子同然に思っているので、我が子(イスカ)を傷付けたネズミ大佐を絶対に許さずにセンゴクに直談判した。
 

『バカ言うんじゃないよ。ネズミはやっている事が海賊と変わらないだろう?きっちりと落とし前を付けさせてもらうよ。センゴク、何か文句があるかい?』
 

 まさに“つるの一声”───。


 センゴクが“黒麒麟”ゴジや“桃ウサギ”ギオンを擁するジェガートを率いる同期生()の意見と、海賊に買収された一将校(クズ)のどちらの意見や立場を尊重するかは想像に容易い。

 こうして(つる)の逆鱗に触れてしまったネズミ大佐達は“アーロン一味”として海底大監獄(インペルダウン)に投獄されたのだ。

 
「うん。イスカさん……」

「ん?何か私に言いたい事があるのね?」


 イスカはナミの何か言いたげな様子を悟って話を促すと、ナミは意を決したように話す。


「私もイスカさんのような海兵になれると思う?」


 ナミはイスカが海軍へ入隊した理由を知った時、自分と重なる部分も多く、そして彼女が命懸けで自分たちを助けてくれた姿に見惚れて憧れた。
 

「ナミちゃん、私にそれを聞くって事は貴女には正義を背負う覚悟がない証拠よ。生半可な気持ちで海兵になっても真っ先に死ぬだけだから諦めなさい。」


 イスカは海兵として海を守ってきた者として淡々とナミに告げた。その言葉には優しさの欠片も感じられないが、全てナミを思っての言葉である事はナミ自身にも理解は出来た。

 ナミはイスカなら応援してくれるのではと思っていたが、憧れの人から返ってきた言葉は自分への励ましでも、応援でもない突き放すような言葉にショックを受けながらも何処かこのような結果になる気はしていた。


「そっか…。」

 
 イスカはしょげているナミの頭を撫でながら優しく声を掛けた。
 

「それにナミちゃんは他に夢があるんじゃない?」

 
 イスカは驚いた顔を浮かべるナミに近づいて、優しく微笑みながら彼女と目線を合わせる。

 ナミはこれを言えばイスカに嫌われて軽蔑されるかもしれないと理解した上でイスカの心の内を見透かすような視線に抗えずに夢を吐露した。


「私の夢は──私の航海術で世界中の海を回って世界中の海図を書きたいの。」

 
 ナミはイスカの目を見ながら、しっかりと幼い日から抱いてきた夢を伝える。

 この夢が難しい事は成長した今はよく分かっている。この世界では偉大なる航路(グランドライン)に入るには世界政府の許可を貰う為の莫大な額の献金が必要になるからである。

 その額は人一人が一生掛けて稼げるかどうかという法外な額であり、それを支払った所で世界政府の護衛という監視下の元、決められたルートしか進む事が出来ずに進むルートによっては許可すら出ない。

 各海の入り口とされる町には本部の海兵が常駐して偉大なる航路(グランドライン)の入口で網を張っており、無許可で偉大なる航路(グランドライン)に入ろうとすれば即座に拘束され、彼等をどうにかやり過ごして偉大なる航路(グランドライン)に入った瞬間、無法者と見なされ翌日には手配書が世界中に出回って海賊と認定されるのだ。

 だから自分の夢を偉大なる航路(グランドライン)を守護する“正義”を背負う本部の海兵であるイスカが許すはずないとナミは思っていた。


「そう……素敵な夢ね。貴女は自分の夢を叶えなさい。」

「えっ…!?」


 しかし、イスカから返ってきた言葉は自分の夢を応援するモノで、ナミは理解出来ずにイスカの顔を見ながら呆然となる。

 イスカはようやく自由を手にしたナミには自分の夢を自分の手で叶えて欲しかった。その結果、海賊の道を選ぶことになろうとも、命を落とすことになろうとも後悔しない生き方を選んで欲しかったから、ナミを抱き締めて母親のように優しく頭を撫でる。


「私が反対すると思ったかしら?別に私のような生き方を無理に選ぶ必要なんてないわ。たった一度の人生だから貴女の“夢を叶える”のよ。」

 
 イスカは自分の海兵としての生き方に誇りを持っているが、自分が助けた人達にその生き方を強要するつもりなんてない。これは自分が決めた自分だけの生き方である。

 ナミはイスカの言葉と抱擁に亡き母の姿を重ねる。イスカの言葉は奇しくも義母(ベルメール)が残してくれた最後の言葉だった。

 
『人に褒められなくたって構わない。生まれてきたこの時代を憎まないで。』

 
 元海兵である義母(ベルメール)はナミの夢を実現するには難しい時代だと分かっていた。


『あんたは、“夢を叶える”んだよ。生きてね───。』


 それでも義母(ベルメール)は死ぬ間際まで娘の夢を応援していた。

 ナミはイスカに抱かれながら、義母(ベルメール)に抱かれているような温もりを感じながら、ナミの双眸から涙が溢れる。


「ナミちゃんがじっくり考えてそれでも海軍に入りたいならうちへ来なさい。その時は歓迎するし、簡単には死なないようにビシバシ鍛えてあげるわ。」

「う”ん……。」

 
 イスカはしばらくナミを抱き締め続けた後、彼女が落ち着き始めたことを確認すると船に乗り込んで出航の準備を進めていく。


「ナミちゃん、この海で生きていくなら“女の子だって強くなくちゃいけない”。”いつでも笑っていられる強さ”を忘れちゃダメよ。」

 
 ナミはイスカの言葉にまたハッとする。
 

『ナミ…“女の子だって、強くなくちゃいけない”! “いつでも笑ってられる強さ”を忘れないで。』
 
 ───ベルメールさん…。


 イスカの言葉の節々に義母(ベルメール)の言葉を見つけて、イスカに励まされるとナミはまるで義母(ベルメール)に背中を押されているような気になる。
 

「うん……。イスカさんありがとう!私決めたわ!!そうと決めたら急いで準備しなくちゃ!」


 イスカの“想い”を確かに受け取ったナミは笑顔を作ってイスカに手を振りながら自分の家の方に走っていった。


「あら?もう進むべき道を見つけたのかしら?レイジュさんとソラさんもお世話になりました。」


 イスカはナミの背中を見送りながら、同じく見送り来てくれたレイジュとソラに頭を下げる。


「いいのよ。ゴジのバカにたまには帰ってこいって言っといてね。」

「イスカさん、ゴジは誰に似たのかマイペースで周りに苦労ばかり掛けてるだろうけど、あの子をよろしくね。」

「ア”ア”アァァァー」


 レイジュとイスカはどう考えてもゴジの性格はソラ似だろうと思ったが苦笑しただけで口には出さずに擦り寄ってきたかーくんの頭を撫でる。


「あははっ!そうですね。かーくんも元気でね。ではそろそろ出発します。」


 イスカはレイジュ達に手を振りながら偉大なる航路(グランドライン)に向けて出発した。


 ◇


 港を出発してしばらくして岩壁の上からナミが顔を覗かせてイスカに向けて大きく手を振る。


「イスカさぁーん!!」

「ん?ナミちゃん?」


 ナミはイスカが自分に気づいた事を確認すると、イスカの乗る船目掛けて崖を飛び降りた。


「えっ!?」


 イスカは慌てて船に飛び降りて来たナミを受け止めると衝撃で船が転覆しそうになるくらい大きく左右に揺れた。


「なんてことするの!!危ないでしょ!?」

「イスカさん!私、決めたの。まずは海軍に入って強くなってから自分の夢を叶える事にする。ベルメールさんも15歳の時に島を出て海兵になったの!だからこれからよろしくね!」


 イスカは危険な行為に及んだナミを怒鳴るも、満面の笑顔を浮かべる彼女の顔を見て、天を見上げて苦笑するしかない。


「はぁ……では、まずはローグタウンに行くから案内してくれるかしら?当分の間は見習いとしてこき使うから覚悟しなさいよ。」

「はぁ〜い!」


 こうしてコノミ諸島を旅立った二人は海軍本部に辿り着く過程でイスカが“絶対悪”と信じるメラメラの実の能力者“火拳”ポートガス・D・エースと出会い、彼の人となりを知り絆を育んでいく過程で自分の両親を殺した仇敵の正体を知って驚嘆することとなる。

 一方ナミは海兵見習いとしてイスカと共にアーロンとは全く違う民間人を一切襲うことはなく、それどころか時に海賊達から助けることすらある夢や浪漫を追い求めて船旅を続けるピーメインと呼ばれる海賊の在り方に驚嘆する事になるのだが、今の彼女達には知る由もない。 
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