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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第10話 楓の弾幕デビュー:後編

 突如、冷気を纏いながら地面を殴る様を見せたチルノ。
 それは正に地面を殴る動作であった。現実世界では全くを以て無意味極まりない行為であるが、ここは幻想の世界である。故にこのチルノの行動には確かな意味があったのだ。
 その事はすぐに証明されるに至ったのである。何とチルノが殴った地面から、這うように氷が繰り出されていったのだ。
 それは、丁度つららを上下逆さまにしたような形状であろう。
 下からの攻撃。そしてそれも大量に。
 無論、この予想外の猛攻にキャリアのほとんど無い楓は成す術がなかったのであった。
「きゃあああっ……」
 その悲鳴と共に、楓はものの見事にチルノの放った猛り狂う『霜』に、文字通り足元をすくわれてしまったのだった。
 そして、彼女は弾き飛ばされて今度は自身が地面に伏す番となってしまったのである。
「うう……」
 一瞬の内に自分の身に起きた災難の内容をすぐには楓は整理がつかずに呻き声を出してうずくまってしまうのだった。
 そんな楓を図らずとも『見下ろす』形となってしまったチルノは、さてここからどうしたものかと頭の中で思案する。馬鹿にしてはならない。チルノとてそれ位の考慮は出来るのである。ましてや、彼女は十年後の世界のチルノであるのだから。
 そうして彼女は言葉を選びながら楓に声を掛けるのであった。
「楓、あんたのセンスには驚かされたけど、油断しちゃ駄目だよ。今回のようにね♪」
 そう言いながらチルノは楓に微笑んでみせた。あくまで自分の力で立ってもらい手は差し伸べない、それでいて辛辣ではない態度をチルノは取るのだった。
 その言葉を聞きながら、楓は身を起こす事となる。そんな彼女の心境は複雑なものなのであった。
(これが……弾幕ごっこ……)
 その事実を噛み締めながら、楓は目の前のチルノを見据える。そこには敬意や対抗心などの念が存在するのだった。
 そのような感情を抱きながら、楓はさてどうしたものかと思案する。
 こうも相手に攻めを行わせてしまったのだ。ここからは安易な対処ではまた敵に足下をすくわれてしまうというものだろう。
 だが、こうしてずっと立ち往生している訳にもいかないだろう。戦いの流れをスムーズに行わなければならないのが美しさを競う弾幕ごっこなのだから。
「う~ん、ここから一体どうしたものかなぁ……」
 なので楓はそう憂いを含めた呟きをするのだった。それを巨乳の少女が行うものだから、そこにはそこはかとなく官能的な雰囲気が醸し出されていたのだった。
 無論、そのような妖艶な雰囲気を見せつけられては、この勝負の一部始終をここまで見守って来たチルノの友人の『少年』達は非常に魅せられてしまう所なのだった。
「なあ、あの楓ってお姉ちゃん。色っぺえなあ~」
「そうだな。今度はオレ達と遊んで欲しいよなぁ~、いや、別に変な意味じゃなくて……」
「うん、その気持ち分かるよ」
 等と、少年達は結構勝手な事を口々に言うのであった。
 それはさておき、どうしようか迷っている楓に対してチルノが何か声を掛けようかとした、その時であった。
「あ、ここのようね」
「えっ?」
 突如として現れたその声の性質を、楓は良く知っていた為に驚いてしまったのである。
 そして、その声の主の名前を彼女は口にする。
「もしかして、華扇さん?」
「あ、楓。気付いたようね?」
 そう指摘する楓に対して、そこにいたのは先日彼女に弾幕ごっこのノウハウを教えた、茨木華扇その人だったのである。
 今まで通りに特徴的な中華風の衣装を纏いながら華扇はそこにいたのだった──何故か皮とあんこのハーモニーがこれまた絶品な甘味、今川焼を頬張る形を取りながら……。
「って、華扇さん。何食べてるんですか?」
「今川焼よ。確か外の世界でもメジャーな食べ物の筈だけど」
「そうじゃなくてですね。私が言いたいのは食べ歩きは行儀が悪いって事ですよ」
 このような華扇のシュールな登場には、楓はその意識をごっそりと彼女の存在に持って行かれてしまったのである。何かもう、今しがた迷っていた事が馬鹿馬鹿しく感じる程に。
 てっきり楓は華扇の事を真面目な人だと思っていたが、どうやらこのような『だらしない』側面もあるようだ。
 だが、言い方を変えれば楓の今の気持ちはリラックス状態となったのである。こうなると変に固い感覚に襲われる事もなくなったのだ。
 そんな楓の心境を……多分知らないだろうが、ここで華扇はこう言うのだった。
「ところで、楓。弾幕ごっこデビュー頑張っているようね」
「ええ、初めてでどうなる事かと思っていますけど……」
 そうどこか煮え切らない楓の口調に、楓はこう口にする。
「楓、あなたなら大丈夫よ。何せ要領がいいからね。後は私と戦った時の事を思い出してやりなさい」
 そう言われて、楓は心強い気持ちを感じるのであった。
 そう、自分には華扇がいるのだ。まだ出会って間もないけれど、幻想郷、それも未来の世界のそれに来てしまった自分に何かと気を利かせてくれるかけがえのない存在なのだ。
 そんな華扇がこうして今自分の晴れ舞台を見に来てくれたのだ。これだけでも楓にとって励みになるというものだろう。
 そう楓が想いを胸に抱いている最中、華扇はこのような事を言い始めるのであった。
「よし、それでは楓。この勝負が終わったらあなたにも今川焼を食べさせてあげるわね」
「あ、どうも……」
 楓はこの時、何とも言えないようなシュールな気持ちとなったのである。別に自分は今川焼を食べたい等とは一言も言っていないのだから。
 しかし、折角華扇がご馳走してくれるというのだから、取り敢えず楓はその言葉に甘える事とするのだった。
「ありがとう華扇さん、楽しみにしていますよ♪」
「そうこなくてはいけませんね♪」
 そう乗り気となった楓に、華扇の気を良くするのだった。そして、彼女はそのノリのまま続ける。
「その調子で二人とも頑張りなさいよ」
 そう、華扇は身内たる楓の事のみならず、敵に当たるチルノの事も応援し出したのであった。
 その事に対して楓は別段嫌な思いはしなかったのである。寧ろ……。
(あ、やっぱり華扇さんって信用出来る人ですね……)
 そのようにしみじみと楓は感じる所なのであった。その理由はえこひいきせずに皆の事を見てくれる懸命な人であるというのが、楓の思う所なのだ。
 そのように楓が思っていると、その一部始終に立ち会っていた者から声が上がった。
「こらー、あんたらあたいの事を忘れてない?」
 無論、その声は楓と戦っている相手であるチルノからのものであった。
 そのチルノの主張に周りの者は目を白黒させていた。それに構わずチルノは言葉を続ける。
「あたいだって今川焼欲しいんだからね~!」
 そして、当然ながらその言葉の次の瞬間には辺りの時間が止まる事となるのだった。
「はえっ?」
「チルノちゃん……?」
 当然ながらチルノのその振る舞いには華扇も楓も呆気に取られる所なのであった。
 だが、チルノとしては大真面目な主張なのである。それが故に二人のその反応は極めて遺憾なのである。
「何さ! あたいだって今川焼を食べたいんだからねぇ~!」
 そうのたまいながらチルノは頬をぷっくりと膨らませながら抗議するのだった。
 その様が余りにも愛おしく、思わず華扇は堪らずに吹き出してしまった。
「あっはははっ!」
 その吹き出し様といったら、普段のクールに振る舞う華扇のイメージを台無しにしてしまわんばかりのものであった。
「こら~、そこの仙人! あたいのしんけんなしゅちょうを馬鹿にするな~!」
 当然チルノは笑われたとなれば、まことに捨て置く事など出来ない訳である。
「あっはっは……。いや悪かったわね。あなたのその純粋さが余りにも可愛らしくってね。まあ取り敢えずは、ごめんなさい」
「うむ、分かればいいのさ」
 色々含みのある言い方をされている事を感じながらも、取り敢えずチルノは華扇から素直に謝られている事は分かったが故に、彼女は広い心で華扇を許す事にしたのだった。
 そして、華扇はそんな純粋なチルノを見ながらこう提案をする。
「よし、じゃあ二人ともこの勝負を頑張りなさい。一生懸命にやれば後には今川焼が待っているからね♪」
「そう来なくっちゃね~♪」
 こうして華扇のやたら羽振りが良い仕切り様にチルノはノリに乗るのだった。そして、当然この展開に頭を抱える者もいるのである。
「華扇さん……?」
 そう言いながら楓は抗議の目で華扇を見据えながら言うのだった。そこには『どうしてこうなった?』と言外のメッセージがありありと染み込んでいたのである。
 そんな楓に対して、華扇は申し訳なさそうに小声で彼女に耳打ちする。
「済まないね楓。でもまあじゃじゃ馬なあの子を慣らすには必要な犠牲って事で、この場は多目に見てくれない?」
「はあ……仕方ないですね。分かりました」
 そう華扇に懇願されては楓も一歩譲る気持ちにならざるを得なかったのだ。それは他ならぬ先日から何かと気を利かせてくれている華扇の頼み事なのだから。
「それじゃあ、よろしく頼むわぬ」
「仕方ないですね。弾幕ごっこの後のおやつってのも悪くない気がしてきましたし……いっちょやりますか♪」
「そう言ってくれるとありがたいわね」
 華扇はそう楓に感謝しつつ、再び二人の弾幕ごっこのギャラリーとして元の位置に戻っていったのだった。
 その華扇を見据えながら、再び楓は気を引き締める所となる。ここから弾幕ごっこは本番に入るのだと。
 そして、腹を括った楓は、今まさに立ち向かうべき存在へと声を掛ける。
「それじゃあチルノちゃん、勝負を再開しましょうか? 今度はさっきの様には行きませんよ?」
「いや、もう一回あの時の二の舞にしてあげるわよ♪」
 互いに挑発的な言葉を投げ掛け合う楓とチルノであったが、そこに敵意というものは全く存在してはいなかったのである。
 互いに刺激し合い、互いにぶつかり合う。それが弾幕ごっこの醍醐味だからなのだ。その事を初心者ながら楓も肌で感じとるに至っていたのである。
 このように弾幕ごっこに挑む者達にしか分からない一種の絆の下、二人は再度勝負を繰り広げるべく互いに距離を取り合ったのである。
 そして、勝負特有の張り詰めた空気が場を支配していく。
「じゃあ、あたいから行くわね」
「望む所です」
 互いにどちらが出るかを了承しあってから、その言葉通り動いたのはチルノの方であった。
「それじゃあ行くよ。【氷塊「コールドスプリンクラー」】!」
 その宣言の後にチルノが両手を頭上に掲げると、そこに冷気をかき集めたのである。
 すると、そこには宣言通り氷の塊が形成されていった。
 これをそのままぶつけてくるのだろうか? そう思いながら楓は身構えていた。だが、その予想は些か外れる事となる。
「これで準備は出来たさ。後は仕上げに掛かるまでだよ♪」
 そうチルノが言うと、彼女はその集めた氷の塊をおもむろに頭上へと送り出したのである。
 それを見て楓はハッとなった。
(スプリンクラー……っ!?)
 そのキーワードと今しがたチルノが取った行動。それらが楓の脳内で結び付き、綺麗な一本の線となるのだった。
 そして、その予想が正しければ自分がやるべき事も決まってくる。
 そう楓が思案している中で、いよいよチルノは仕上げの行動に出る事となる。
「いっくよー! あたいのとっておきのスプリンクラーのお味、とくと味わいなさーい!」
 言うとチルノは自分の力をその上空へ向かった氷へと送り込んだのである。
 次の瞬間、それは起こったのであった。チルノの力の送り込まれたその氷塊は、キュルキュルとそのまま宙で横方向に回転を始めたのである。
 それを見て、咄嗟に楓は思うのであった。
(やっぱり、私の思った通りだった!)
 そして、回転を始めた氷塊を親とするかのように、次々と子供と言えるような氷の塊が放出されていったのだった。
 それらは、360度所構わずに撃ち出されていった。その様は正にこうであろう。
「どうかな? あたいの氷のスプリンクラーは?」
 そう言ってチルノは得意気に胸を張って見せた。そして、そう彼女が意気込むのも当然と言えるような状況が今という訳である。
 何せ、現実の消火機材であるスプリンクラーの放水顔負けで氷が放出されているのだ。非常事態用のそれに匹敵するような勢いの攻撃など手に負えないというものであろう。
 このような攻撃を喰らえば、弾幕ごっこ初心者の楓は一溜まりもないであろう。だが、彼女は至って落ち着いていたのだった。
(さっきの『霜』は見事に喰らっちゃったけど、これなら……)
 そう心の中で言うように、この攻撃に対して楓は勝算があったのである。それを今から彼女は行動に移すべく、新たなスペルの発動を試みるのだ。
「【混符「まぜるよ機巻」】」
 その宣言と共に楓が手にしていたのは、機械式の泡立て道具のような物であった。それを彼女は自らの前方へと向ける。
「では、まぜまぜ行きますよ~♪」
 言うと楓は手に持った泡立て機のスイッチを入れたのである。
 当然ながら電源コードなど入っておらず、現代の人間が端から見れば神経を疑うような光景だろう。
 しかし、知っての通りこれは楓の力で作り出した幻想の産物なのだ。故にこのアイテムには現実的な懸念は全く通用しなかったのである。
 そして、楓は事も無げに泡立て機の電源を入れたのであった。
 それにより、この機械は本物と同じように起動を始め、勢いよく金属部分の回転が起こっていった。
「そんなチンケな回転であたいのスプリンクラーを止められると思ってるの~?」
 対して、チルノはその程度の代物では自分の攻撃は受け止められはしないだろうと自信ありげにのたまって見せる。当然だろう、今彼女の目の前で回っている機械の規模では、とてもではないが受け止められるようには見えないのだから。
 そうチルノが反応を見せるのも無理はないだろうと、楓は諭すような心持ちでこう言うのであった。
「んん~、チルノちゃん甘いですよ。これをただの泡立て機だと思っちゃ困るってものですよ♪」
「なにぃ~?」
 その挑発的な楓の物言いに、チルノは従来の性格もあって訝るのだった。だが、チルノがそのような態度をとった所で、もしかしたら流れが決まってしまっていたのかも知れない。
「それじゃあ、今から本番に入るとしますね♪」
 そう言うと楓はおもむろに自身の霊力をその泡立て機へと送り込んだのである。そして、事は起こるに至るのであった。
「やりますよー!」
 その楓の掛け声を合図にするかのように、彼女が手に持った泡立て機から勢いよく旋風が繰り出されたのであった。
「何いっ!?」
 この予想だにしない事態に、チルノは当然慌てふためいてしまったのである。
 そして、決して頭が強くない彼女では、この事態に対応する案が思いつかなかったようだ。
 そんなチルノに対して、その後の展開は容赦なく結構されていったのだった。
 まず、楓の泡立て機から生成された旋風は、ものの見事にチルノの繰り出している氷のスプリンクラーをすっぽりと飲み込んだのである。
 そこからが、楓のこのスペルの真骨頂だった。何と、包み込んだ氷の塊達を旋風はガリガリと砕いていったのだ。
 その現象が続いていくと、氷の塊はみるみる内に小さく分解されていくのであった。
「っ!?」
 その光景に対してチルノは驚愕した。無理もない事だろう。自分の自信作の攻撃が、こうも大規模に作り替えられていってしまったのだから。
 だが、チルノがそう驚くのはまだはやかったようである。
「面白いのは、これからですよ~♪」
 そう言いながら楓が送風を続けていく。するとどうであろうか? 風に飲み込まれて砕かれていった氷は粒状になるのを経て、徐々に泡状になっていったのだから。
「……さすがは泡立て器って所のようね」
 端から見ていた華扇はそう呟きながら感心するのであった。やはりこのように楓の潜在能力は侮れないのだと。
 チルノの氷は泡状のエネルギーとなり、更にそこに先程から送風が繰り出されている……。この後どうなるかは勘の良い読者ならご察しかも知れないだろう。
 そう、泡となった氷のエネルギーは、楓の送り込む風に取り込まれる形で彼女自身の攻撃手段となって付加されたのである。つまりは、楓は今氷の泡による攻撃の放出を行っているという事であった。
 その事にチルノは、どうやら気付くのが遅かったようである。
「しまっ……!」
 その言葉も言い切る事が出来ないままに、チルノはそのまま自らの放った氷もろとも敵の放つ奔流に飲み込まれてしまったのであった。
「うわああっ!」
 そして、叫び声を上げながらチルノは氷の力に押し流されて地面に叩き付けられてしまったのだった。 
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