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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第9話 楓の弾幕デビュー:前編

 人里にてチルノと知り合った楓。そこで彼女はお近づきの印として弾幕ごっこの提案をしたのだった。
 これに対してチルノは快く承諾の意を示すのだった。元より彼女はそういう話が好きなのだから。
 そして、二人は広場にて弾幕ごっこをする為に適切な具合に距離を取り合っていたのである。
 それはつまり、二人とも既に勝負の体勢に入っているという事であった。
 暫し無言の状態が続いたが、ここでチルノが口を開く。
「何だかあたいら、早撃ちガンマンみたいだね~♪」
「あ、確かに♪」
 そんなチルノの例えに、楓も同意をする所であった。
 チルノのイメージする所はこうであろう。西部劇のガンマン同士の決闘のシーンを想起しての事と思われる。
 つまり、今のこの状況は非常に様になっているという事であった。これには皆も雰囲気が出て盛り上がる所なのだった。
「おお~、チルノ。様になってるぞ~♪」
「楓さんも頑張って~♪」
 こうして、いつの間にかこの人里の弾幕ごっこの場は盛り上がりを見せていたのである。
 対してこう言う雰囲気は二人は嫌いではなかったのだった。
「チルノちゃん、何だか盛り上がって来たね♪」
「そうだね。それじゃあギャラリーの声援を裏切らないようにあたい達も頑張ろうか♪」
 こうして二人の心は決まったのであった。後は互いにに恨みっこ無しに悔いの残らないように戦うまである。
「それじゃあ、初めましょうか」
「そうだね」
 そう言い合って二人はいよいよ臨戦体勢に入ったのだった。

◇ ◇ ◇

「まずはあたいからいかせてもらうからね」
 そう先陣を切ろうとしたのはチルノであった。そして、それは何も彼女の身勝手な判断というものではなかったのである。
 チルノは楓が弾幕ごっこを始めてから日が浅い事を瞬時に見抜いていたのだった。チルノとて伊達に長い年月の間弾幕ごっこをこなして来た訳ではないのだから。
 その経験を活かしてチルノは弾幕ごっこの先輩として楓に気を利かせようという魂胆なのであった。チルノといえど、そういう気配りは出来るのである。
「まずはこれからね♪ 【氷符「アイシクルフォール」】!」
 そう言うとチルノは両手を頭上へと向けると、そこから冷気の放出を始めたのだった。
「上空に向けて?」
 そのチルノの行動に、楓は驚くのだった。あらぬ方向へ向けてエネルギーを発射して、一体どうしようというのだろうと。
 そして、その行動を行ったチルノは、実にあっけらかんとした態度で答えるのだった。
「ふふん。ここで変な方向に射ったなんて思っちゃダメだよ♪」
「!?」
 チルノにそう言われた後、楓は何気なく上を見て『それ』に気付いてしまったのだった。
 何と、チルノの上空に放った冷気が、そこで固形化して鋭く長い針状になって張り巡らされていたのである。まさにアイシクル(つらら)といえるだろう。
「……」
「驚いた? 驚いてるよね?」
 その圧倒的な光景を目の当たりにして無言を貫いている楓を見ながら、チルノは思わず得意気になってしまうのだった。
 我ながら大人気ない、でもあたい永遠の子供だもんなどと一人心の中でのたまうチルノなのであった。
 ともあれ、こうして今流れは自分に巡っているのだ。それを活用しない手はないとチルノは踏む所だった。
 そうなれば、この後にやる事は決まって来るだろう。そう心にチルノは誓いながら行動に移したのである。
「いっけえ! あたいのつらら達ー!」
 どうやらその言葉が合図となったようであった。これに合わせて上空でスタンバイしていたつららの群れが一斉に楓へと襲っていったのだ。
 これを受けて、当然楓は息を飲む事となった。
「これが……弾幕ごっこ……?」
 初めてのデビューといえるこの戦いで、その真髄を受けて楓は圧倒されるのだった。
 この洗礼により、楓は様々な感情に囚われるのであった。驚きや恐怖がまず来るが、他にも……。
(楽しい……!)
『歓喜』。それが楓の思考を一番支配していったのだった。恐れよりも喜びの方が勝る、今の楓の感情はそうなのである。
 楓はこれ程の強い感情を呼び起こしてくれる弾幕ごっこそのもの、そして自分と戦ってくれているチルノへも感謝の念で持って迎え打つ事にしたのだった。
 そして、この熱い気持ちに応えるべく楓は手を打つのだ。
「【猛火「でも私はファイヤーオイル」】!」
 そう言って楓は、懐から瓶を取り出したのであった。
 無論、そのような代物を楓が携帯出来ている筈もないので、つまりこれは……。
 ともあれ、今楓がすべき事は一つ、目の前に迫り来るつららへの対処のみであるのだった。
「いっけえ!」
 その掛け声と共に、楓は瓶の中の油をつらら目掛けてぶちまけたのである。
 と、言ってもこれは楓の能力により作り出したエネルギーの塊なのであり、実際に本物の油としては構成されていないのである。
 だが、それは楓にとって問題ではなかった。必要なのは、炎を生み出す事以外の何物でもなかったのだから。
 そして、楓が望んだ通り油の役割の物がつららに降り掛かると同時に、瞬く間にそれらは炎に包まれたのであった。
 寧ろ、この場合は普通の油でなくて良かったと言うべきだろう。何せ、当たり前の話であるが油だけを振り掛けられてそこから火の手が上がる事などないのだから。
「何だってえ……!?」
 そして、その光景を目の当たりにしていたチルノは当然驚愕してしまったのだった。何せ自分がこしらえた自慢のつらら達が一瞬にして、正に『猛火』に包まれたのだから。
 そして、熱に晒された氷の運命というものは目に見えていたのである。そう、溶けて水になる事は火を見るよりも明らかだったのだ。
 こうして、チルノが築き上げた氷の牙城は無惨にも突き崩されてしまったのである。後には、初めから何も無かったかのように澄み切った青空が晴れ渡っていたのだった。
「ぐぬぬ……あんたやるね……」
 これにはチルノは歯噛みするしかなかったのであった。自分の自信作がこうも容易く破られたのであるから。
 だが、彼女は断じて『弾幕ごっこの初心者に』とは思わなかったのである。
 それは、弾幕ごっこが鍛練だけがものを言う勝負方法ではないからだ。こうして経験や年季の差を埋めるような逆転劇が起こるのが弾幕ごっこの醍醐味の一つなのである。
 そして、楓は今正に心の中で歓喜していたのだった。──こうして自分の弾幕ごっこが相手に通用している、と。
 その事にチルノが何となく察して楓に指摘する。
「楓、あんたもこの弾幕ごっこを楽しんでいるみたいだね♪」
「ええ、お陰様でね♪」
 こうして、この場で勝負している二人の間にはどこか友情めいたものが生まれていたのである。そういう互いの心を通わせる力があるのも弾幕ごっこの魅力であろう。
 ともあれ、チルノの自慢の第一手は楓の手により防がれてしまったのだ。故に、彼女は次の手を打たないといけないのである。
「よし、こうなったら次のスペルに行くとするよ♪」
「望む所です♪」
 チルノは楓の了承の下、第二発目のスペルを繰り出す為に懐から札を取り出すのであった。
「二枚目はこれだよ。【氷符「アイシクルマシンガン」】」
 そう宣言を行うと、チルノは両手を前方に突き出したのである。そして、それを受けて楓は思案をしていく。
(このスペル名と今の予備動作から、恐らく……。それなら『アレ』の出番ね)
 そこまで考えを巡らせると、楓は内心で密かにほくそ笑むのだった。
 そうとは知らず、チルノはいよいよを以て攻撃へと入っていく。
「いっくよ~!」
 掛け声と共にチルノの開かれた両手に冷気が集まっていき、そこに纏わり付いた。そして、次の瞬間にはそれらが無数の氷の塊となって撃ち出されたのである。
 それらもやはりつららの形をしていたのである。しかし、今回は無数に撃ち出す形を取っているが為に先程よりも小型となっていた。
 だが、それが問題とならないのはやはりその数であったのだ。『マシンガン』──機関銃の名を冠するそれは伊達では無かったのである。
 そして、それらは容赦なく楓を撃ち抜くべく彼女へと肉薄して行った。
「さあ、これをどう攻略する?」
 この隙のない攻撃を繰り出しながら、チルノは得意気になるのだった。今度の攻撃は先程の上空設置よりも勢いの激しいものであるが故に、チルノはそう易々と防がれるような事はないと踏んでいたのだ。
 だが、楓は至って慌ててはいなかった。これに対する攻略方法は既に脳内で構築されていたのだから。
 楓はニッとさりげなく笑みを浮かべると、すかさずスペル宣言を行う。
「【黄符「ホウチョウスパーダ乱舞」】っ!」
 言うや否や楓は自身の能力で包丁を形成してその両手に持つと、そこに黄金色に輝くエネルギーを纏わり付けたのであった。
「はあっ!」
 そして、楓はその輝く包丁の一つを前方へ振り翳したのだ。すると、そこから複数のエネルギーの刃が放出された。
 その大きさは、丁度一般的な包丁と同じ位であり、決して大きくは無かったのである。だが、相手の撃ち出したつららの弾丸も一発一発は決して大きくない事と、こちらも複数の刃を生み出せた事によりカバー出来ているのだった。
 そして黄金の刃はそれぞれ、つららの弾丸に命中するとそれらを相殺していったのだ。
 それだけで判断するなら、これは互角と言えるだろう。だが、実際は徹底的に違う事があるのだった。
「ちょっとあたいの攻撃を相討ちにしたからってぇ~!」
「相討ち? フフ、それはどうですか?」
「? はっ!」
 楓にそう意味ありげな事を言われて、チルノはハッとしてしまったのだった。それが意味する事はこうである。
「もしかして、両手ですかぁ~!?」
「YES YES YES……♪」
 何か自分も悪ノリしているなと思いつつも、ついチルノのノリに乗る楓であった。そして、相手の要望通りに彼女は行動する。
 チルノの指摘通り、楓は続いて空いていた左手に握った包丁も振り翳したのである。それにより、当然そこからまたしても複数の刃が放出されたのであった。
 そして、それらの刃もチルノの放ったつららへと向かっていき、見事に相殺をしたのである。
「っ!」
 その今の状況に対して、チルノは苦虫を噛んだような心持ちとなるのだった。
 何せ、分かってしまったのだから。こうしてチルノが行う氷の機関銃照射よりも、相手が繰り出す斬撃の方が勢力が強いという事を。それは頭が弱い彼女でも分かる簡単な事であったのだ。
 そして、左手による二撃目を今しがた終えた楓は続けてまた右手による攻撃を行ったのである。
 またしても複数の斬撃が放たれ、そしてつららの弾丸に向かって行きそれを砕いたのであった。
 それを繰り返して行けば、その後の流れは見えてくるというものであろう。
 気付けばチルノが放つ弾丸よりも、楓が放つ刃の勢力が上回っていた。こうなれば次はどうなるかは明白だ。
「チェックメイト……ですよ♪」
 そう言って楓はとどめの斬撃を繰り出したのであった。そして、その斬撃は前に立ちはだかる存在がいなくなっていた為に、直接チルノの下へと飛び交って行ったのである。
「うわあっ!」
 思わず叫び声を上げるチルノ。そんな彼女に対しても容赦なく刃の群れは突っ込んでいったのだった。
 そして、数多の黄金の刃は彼女に次々とヒットしたのだった。
 これには堪らず、チルノはその場から弾き飛ばされて地面に倒れ伏してしまった。
 そして、暫しチルノは地面でうずくまっていたのだった。
「うう……」
 思わず呻き声をあげてしまうチルノ。こうも、一度のみならず二度までも相手に出し抜かれてしまうものなのかと。
 だが、それを良しとするような心はチルノには無かったのだった。いくら逆転劇が介入しやすい弾幕ごっことは言えど、はいそうですかと易々と受け入れたくはないのである。
 その想いを胸にチルノは自らの身体を奮い起こして立ち上がったのであった。
「チルノちゃん、大丈夫?」
 チルノのそのハラハラするような振る舞いを目の当たりにしながら、弾幕ごっこのキャリアの短い楓は思わずそう声を掛けるのであった。
 そして、チルノはそのように声を掛けられながらその身を起こしながら言った。
「いいのかな~、楓。そんな風に敵の心配なんかしちゃって~♪」
 そう言うチルノの口調は、自分が不利にあるにも関わらず、どこか威圧感すらあるのだった。
「!?」
 それを見ながら、楓は何か得も言われぬような感覚に襲われる。
 そして、そんな最中にもチルノはその身を完全に起こしていったのである。
「ふぅ……っと」
 そう溜め息をつきながら、チルノはパンパンとそのワンピースについた埃を手で払う動作をしてみせたのだ。それだけで『様になっている』という様相であった。
「いやあ、参ったよ。あたいは楓を初心者だと思って侮っていたみたいだね」
 言ってチルノはニヤリとして楓を見据えるのだった。それに対して楓はちょっとした戦慄すら覚えていた。
 このようなチルノがこうして気迫を見せられるのは、やはりこの世界が十年後の幻想郷というのが大きいだろう。彼女とてその歳月の中で成長していったという事である。
 このようにじわじわと流れを自分に持っていったチルノは、ここで懐から新たなスペルカードを取り出す。
「それじゃあ次はこんなので行かせてもらうよ♪ 【霜符「フロストコラムス」】」
 その宣言によりチルノからは冷気が放たれ、辺りに立ち込めたのである。それだけでもどこか気迫が伝わってくるというものだ。
 勿論それだけでは終わらず、チルノは冷気を纏ったその状態から拳を地面へと向けたのだった。 
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