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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第8話 アイスキャンディーのようなアイツ

 そして、話は現在に戻る。
 弾幕ごっこのノウハウを華扇から教えられた楓は、その華扇に連れられて幻想郷の人里までやって来たのだった。
「うわあ~、ここが人里ですか~♪」
 やはり楓は、その古き良き日本の町並みといった様相にただただ心を惹かれるのだった。
「それじゃあ、帰るときはここに集合という事で、それまで好きな所に行っていいわよ」
「はい♪」
 華扇にそう言われて、楓はこの人里の探索を楽しみに感じるのであった。
「それじゃあ、私は他を当たっているから、楓は行きたい所へ行きなさい。あなたの事は使いの鷲に空から見守らせているから、何かあったらすぐに駆け付けるわ」
 そう言って華扇は楓の下から去っていったのだった。そして、当然楓は一人となった訳である。
「あ、華扇さんは行っちゃったか……」
 そう楓は思わず哀愁を覚えながら呟くのだった。
 だが、逆に考えればこれから楓は自由時間を使う事が出来るというものなのである。つまりこれはこれから人里を見て回る予定の楓にとって好都合なのだった。
「まず、どこへ行こうかしらね……?」
 そう楓は独りごちる。まず、彼女は華扇から人里で買い物をするにあたり、十分なお金をもらっているのである。だから、当面金銭面で困る事はないというものであったのだった。
 だが、それでも無駄遣いする等という暴挙は言語道断というものなのであった。そもそも楓にはそのような趣味は持ち合わせてはいないし、何より気を利かせてくれた華扇の気持ちを裏切る行為に等しいと言えよう。
 そして、姉である勇美と一緒に過ごす上で共に獲得していった価値観でもあるのだった。確かに性格の異なる黒銀姉妹ではあったが、そんな中で倹約家としての側面を二人は持つに至っていったのだった。
 その事を思い返して楓は自らを誇らしく感じる次第であった。そして、お金を使うのはここぞという時にしようと心に誓ったのである。
「まず、どこへ行こうかな?」
 こうしてお金は滅多な事では使わないと決めた楓であったが、それなら彼女はどこへ行くべきかと思案する所なのであった。
「ううむ……」
 そして彼女は盛大に悩む事となるのだった。だが、それも無理もない事であろう。
 思い出してみて欲しい。現代日本でも町中を歩けば多く目に入ってくるのが、コンビニやスーパーマーケットといった商品を扱う物件がほとんどであろう。そんな中で無料で満喫出来る構造の物件などそう簡単にはお目に掛かれないのである。
 一例を挙げるが、驚く程に自前の電子機器を用いて快適に執筆を行える場所など物凄く限られているのだ。これには喫茶店でお金を払って飲み物を購入して粘る等しないといけないだろう。
 文明の発達した現代でもそうなのだから、昔の日本の文明となっているこの人里であるば言わずもがなというものであろう。
 事態は暗礁に乗り上げてしまっただろうか? そのような思いが脳裏をよぎる楓であったが、前向きな彼女は何か抜け道はあるだろうと思って思案を始めたのである。
「あっ!」
 その思いが功を奏したのか、楓の頭上で豆電球が光るかのように光が差したのであった。
 そう、楓はここで思い至ったのであった。──例えば現代には『あれ』があるじゃないかと。
 あれとは即ち、商店と住宅以外に確かに手堅く存在する施設。それでいて誰もが入り込み利用出来る憩いの場。
 それこそが『公園』なのであった。その存在を思い出し、楓は暗雲の中に一筋の光明を見出だしたかのような希望に満ち溢れた感覚を抱くに至っていたのだ。
 そして、思い立ったら吉日というものだろう。楓はその『公園』に準ずるような施設を探すべく、初めての人里を練り歩く事にしたのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、楓が人里の探索を始めて暫しの時が経った頃であった。どうやら、彼女のお目当てに近いような場所が彼女の目に飛び込んで来たのである。
 公園……のように明確な施設ではないものの、そこは子供達が遊ぶのに適した広場のような所であった。そこには人里の子供達が元気よく遊び回っている光景が存在していた。
「どうやらビンゴ……のようだね♪」
 そう独りごちながら楓は心弾ませるのだった。そして、その想いを胸に彼女は一頻り辺りを見回してみる。
 そこでは子供達が楽しそうに戯れて遊んでいたのだった。そして、この人里の文明だと当然かも知れないが皆和服であったのである。
(……私もそういうの、着てみたいかも……)
 そう楓は心の中で思わず渇望してしまうのだった。
 それは当然の衝動かも知れないのであった。何せ、日本人の歴史を見ていけば洋服を着るようになってからよりも、和服で過ごしていた時の方が遥かに長いのだから。
 日本人としての血が騒ぐとでも表現すべき事であった。だが、今はその渇望は保留にしておくべきだろう。
(後で、華扇さんに相談してみようかな……?)
 楓はそう今後のプランを思い浮かべながら、期待に胸を膨らませるのであった。肌触りが良くて着心地が快適そうなお召し物に袖を通す。考えただけでもワクワクする次第である。
 だが、そんな楓のささやかな欲望の念を吹き飛ばしてしまうかのような光景が彼女の目には入っていたのだった。
(あれは……?)
 そう思いながら楓は首を傾げるのであった。
 その存在は他の和服の子供とは一線を画すものがあったのである。
 その容姿からして他よりも一際目立っていたのだった。まず、髪は鮮やかな水色であった。その美しい色彩の髪を彩るかのように濃い青のリボンが備えつけられている。
 加えて、服装がまた特徴的であった。まるで新撰組の羽織をアレンジしたかのようなデザインのワンピースをその身に纏っていたのである。
 それらだけでも他の子供達とは明らかに異質な存在である事は分かるだろう。だが、その存在には他とは違う徹底的な要素が備わっていたのだった。
 私の見間違いでなければ……楓はそう思いながら、自分が認識した内容の反芻を心の中で行うのであった。
(あれは……羽だよね?)
 そう、その存在の背中には半透明の羽が生えていたのだった。その事を確かに目に焼き付けた楓はこう結論付けるのだった。
(多分、あの子は妖精さんよね……?)
 それが楓の答えであった。そして、その読みが恐らく的を得ているだろうとも彼女は思う所なのであった。
 何故なら、楓は華扇から聞かされていたのだ。外界では見られなくなった『妖精』と呼ばれる存在が、幻想郷では今も生き続けているという事を。
 その事を思い、楓はこの幻想郷がいかに貴重な場所であるかを再認識するのであった。外界では虐げられて廃れてしまうような存在が、幻想郷ではずっと存在し続けられる事に。
 外界では常に新しい物が作られ、古い物はその姿を霞ませていくのが定めであるかのようなのだから。
 それは、ネットで情報が手に入りやすくなっても変わらずであったのだ。例えば漫画作品一つをとってもその存在を検索して入手出来るのは最新の作品ばかりで、過去の作品は片鱗すら掴めないという事態が多々ある位なのだから。
 閑話休題。つまり楓はこの瞬間に幻想郷で妖精という希少な存在に廻り合えた事に、心の中で感謝するに至るのだった。
 だが、この妖精は楓が知るタイプのそれとは些か様相が違ったのである。
 それは他でもない、その妖精の羽根にあったのだ。
 楓のイメージする妖精の羽根は、蝶のそれを薄く鮮やかなガラス細工のようにした感じという一般の妖精のものである。
 しかし、この妖精はそれとは大きく異なるものだったのだ。例えるなら、『氷柱(つらら)』を羽根の形にあしらったようとでも言えばいいだろうか?
 これには楓はますますこの妖精に興味を惹かれる所なのであった。そして、思い立ったが吉日であった。
 早速と言わんばかりに、楓はその妖精と遊んでいた子供達に声を掛けたのである。
「君達、ちょっといいかな?」
「ん?」
 この呼び掛けに対して、遊んでいた子供達は全員楓の方へと興味を惹かれて振り替えるのだった。
 それはまず、楓がこの人里では顔の知られていない存在であったのが第一であるが、楓の持つそれ以上の特徴へとその意識を拐われていったのである。
 その詳細を込めた返答を、子供の一人が楓に向けたのだった。
「何? おっぱいの大きなお姉ちゃん?」
 そう言葉を返した子供の表情は、ほんのり赤く染められていて、彼の子供らしい純粋さを示す所なのであった。
「ああ~……」
 そんな純粋な少年らしい対応をした彼に、楓は微笑ましさと嫌らしさの混じった何とも言えないような複雑な感覚を覚えたのである。
 だが、楓の精神年齢は実年齢よりも高いのであった。故に彼女は温かい気持ちで以て彼に向き合ったのである。
「正直な子ですね。そういう純粋な気持ちは嫌いではないですよ」
 そう言って照れ臭そうに振る舞う楓。そしてそんな彼女に対して更に魅惑的なものを感じてしまう少年。やはり『おっぱい』の力はいつの時代も強大なようであった。
 それはそうと、いつまでも話題をそこにばかり向けている訳にもいかないだろう。その事を少年も幼い頭でありながらも察して話を進めようとする。
「ところでお姉ちゃん、ぼく達に何か用?」
「あ、そうだったね」
 少年にそう指摘されて楓はハッとしてしまうのであった。
 それを忘れてはいけないだろう。殊更に楓はこの子供達よりも年上なのだから。
 そう思い直しながら楓は、いよいよ本題に入るのだった。
「それはね、君達と遊んでいるその妖精の事なんだよね?」
 その質問を受けて、子供達は皆合点がいったように相槌を打ったのである。
「ああ~、『チルノ』の事か~?」
 妖精の事を聞けば、その名前が返って来たのだった。どうやらこの妖精は『チルノ』というらしい。
 そう自身の名前を持ち出された所で、いよいよその妖精──チルノは言葉を発するのであった。
「あんた、見かけない顔だね。あたいに何か用?」
 そう言いながらチルノは楓の方へと視線を向けて来たのであった。
 それを受けて、楓はチルノへと言葉を返していく。
「初めましてチルノちゃん……でいいんだよね?」
「そうさ、あたいこそが氷精のチルノさ!」
 そう言ってチルノはえへんと言わんばかりに胸を張るのであった。
 そんなチルノに対して、どこか微笑ましいものを感じながら楓は対応する。
「よろしくね、チルノちゃん♪」
「うん、こちらこそ。あんた、私の友達になりたいって事でしょ? それなら大歓迎だよ♪」
 そうチルノに言われて楓は暫し思案する所であったが、すぐに考えを纏めるに至ったのである。
 そう、この妖精と自分はこれから友達になろうというのだ。そこには含みのある内容は一切存在しない純粋な気持ちだけあるのだった。そこに否定の意を介入する余地がどこにあるというのであろう。
 なので、楓の答えは最早最初から決まりきっていたのであった。
「うん、チルノちゃん。これから私達、友達だよね♪」
「そう来なくっちゃね♪」
 そう言うと、チルノはさっと自分の右手を楓の前に差し出したのであった。この場でそれが意味する事は一つであろう。
「よろしくね、チルノちゃん」
 その言葉に続けて楓は、自らも右手を差し出し……チルノと固い握手をしたのであった。
 ここに、人間と妖精の種族の垣根の越えた友情が、新たに芽生えたのだった。
「これで、お姉ちゃんもチルノの友達になったって事だね?」
 そうここまでのやり取りを見守っていた少年の一人が楓に対してそう評したのであった。
 それを受けて、楓は一先ず保留にしていた疑問をここでぶつける事にしたのだった。
「そう言えば、何でチルノちゃんは今こうして人里で君達と遊んでいたの?」
 その疑問に対して、少年の一人が答えを出したのである。
「それはね、今の人里は人間以外の存在の出入りも昔と比べて容易になったって事なんだよ」
 そう言ってその少年は語り出した。
 何でも、人里は徐々に人外の存在の介入に関して寛容になって来たという訳であったのだった。
 勿論、人里に危害を加えようとするような凶悪な妖怪などの侵入は許してはいないが、人間と友好的にしようという存在なら関わる事が容易になって来たとの事であった。
 それを聞いて、楓は合点がいく所なのだった。
 ──それは、ここが自分にとって十年後の
幻想郷だからだろうと。つまり、十年の内に幻想郷は徐々に変化が生まれていったのだろうと楓は察するのだった。
 その事に楓は若干戸惑う所ではあった。何せ、その文化は元の自分が住む世界のそれとは様相が違うものなのだから。
 だが、ここで楓は腹を括る所なのであった。それはつまり、今は今のルール、それに従うべきだろうという考えに至るのだった。
 そうと決まれば後は簡単であった。楓は、今この場で人里にてチルノと遊ぶ事が出来るこの状況に感謝する次第なのだった。
 つまり、今こうしてチルノと遊ぶ事が出来るという事実は極めて貴重という事なのであった。
 なので、この機会を逃す手はないと楓は思い、チルノにこんな事を提案するのだった。
「チルノちゃん。私と『弾幕ごっこ』しない?」
「ほえっ?」
 この一見突拍子もないかに感じる楓の提案に、さすがの能天気なチルノとて呆気に取られてしまったのである。
「ええっ、弾幕ごっこ!?」
 そして、端から見ていた子供達も楓のその提案には驚く所だった。
 それもそうだろう。弾幕ごっこをこなせる人間は、意外にも比率で見れば幻想郷でも少ないのだから。それを出会って間もない人がやろうと言い出しているのだから、その驚きも一入というものだろう。
 無論、チルノとてそれは同じ事だったのである。故に彼女が次に紡いだ言葉はこうだった。
「あんた、私と弾幕ごっこしたいだなんて、正気?」
 それが、チルノが導き出した結論という訳であった。彼女とて、弾幕ごっこを自分としたいという発想が聞き間違いではないのかという事をちゃんと確かめておきたかったのだ。
 これは、チルノなりの気遣いというものだろう。奔放な彼女とて、気配りというものは出来るようであった。
 そんなチルノの気配りに嬉しく思いつつも、楓の考えは既に決まっているようであった。
「うん、聞き間違いじゃないよ。私はチルノちゃんと弾幕ごっこがしたいんだ♪」
「あんた……」
 この楓の主張には、さすがのチルノも呆気に取られてしまう所だった。こうも自分の意見をはっきりさせる人間というものを、チルノが知る限りではそう多くはなかったのだから。
「気に入ったよ。そうだ、もう一回私に名前を教えてくれないかな?」
「うん、分かった。もう一度言っておくね。私の名前は『黒銀楓』だよ」
「よし、覚えたよ。今後ともよろしくね、楓♪」
 こうして楓はチルノから名前で呼んでもらえるようになったのであった。この愛おしい妖精に名前で呼ばれた事に、楓は内心で歓喜するのであった。
 名前も呼んでもらえた事であるし、楓はその気持ちがすっきり晴れ渡る心持ちとなっていたのだった。これで、後は弾幕ごっこに集中出来るというものであろう。
「それじゃあ、チルノちゃん。弾幕ごっこを始めましょうか?」
「うん。さいきょーのあたいに挑んだ事を後悔させてあげるからね♪」
 そう言い合って両者は笑みを向け合い、これから始まる勝負に心を踊らせるのであった。 
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