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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第7話 楓の幻想郷デビュー:後編

 楓の華扇との模擬弾幕ごっこで、楓は良い掴みを覚えるのだった。
「いや、驚きましたよ楓さん。初めての弾幕ごっこでここまで手腕もセンスも見せるなんて……。だから私も遠慮なくいかせてもらうわ♪」
「はい」
 楓としては初の試みだったが故に、内心では実は不安を感じていたのである。
 だが、それもその筋の先輩たる華扇に褒められた事で自信を持つに至れたのだった。後はその想いを胸に、ここから先も奮闘するまでだろう。
 しかし、ここから先が本番であろう。今までのは楓がいかに弾幕に対処出来るかというデモンストレーションのようなものだったのだから。
 故に、楓はきりっと気を引き締めて華扇の次なる手に備えるのであった。その様は垂れ目の彼女ながら非常に凛々しく映っていたのである。
「いい目ね。褒められてものぼせ上がる事なく立ち向かう。それこそ勝負に赴く者として大切な事よ。その気持ちのままこれも攻略してみなさい」
 そう言うと華扇は生身の腕の存在する左腕をおもむろに天高く掲げたのである。
「これを使うのも、久しぶりというものね」
 そう言うと華扇は意識をその左腕へと向けていった。すると、そこにはめられた鉄の手枷のような装飾品の鎖がジャラリと音を立てた。
 そして、次の瞬間であった。その音を立てた鎖が、みるみる内にその長さを増幅していったのである。
「んんっ!?」
 これには今まで順調に初弾幕ごっこをこなしていた楓であろうとも驚いてしまうのであった。
 だが、無理もない事であろう。何せ装飾品程度にしか存在しなかった鎖が蛇の脱皮の如くその全長を増していったのだから。
「な、何ですかそれは!?」
「驚いているようね。でもメインディッシュはこれからよ♪」
 漸くそつなくこなす楓の鼻を明かせてご満悦となった華扇は、その流れのままに最後の一手間を加えるのだった。
 華扇の仙力を最大限にまで注ぎ込まれた鎖には、その先端にバスケットボール大の頑丈そうな鉄の玉が形成されたのである。
 その玉をけん玉の要領で、ポンと左手に乗せる。
「【鉄丸「鎖付きアイアンボール」】。さあ、行くわよ♪」
 その瞬間、華扇の表情が獰猛な肉食獣のようになった。
「!!」
 これには楓は戦慄してしまったのである。
 だが、彼女は気丈にもただ慄くだけの事はしなかったのである。──今の状況からある仮説を立てたのであった。
 重厚そうな鉄の塊を軽々と片手で持ち上げるという芸当に、今見せた獣のような気迫……。
 これらの事から楓が出した推論はこうだ。
 ──この人は多分、『人間の』仙人じゃない、と。
 そこまで結論付けた楓は、この瞬間一層気を引き締める次第なのであった。
 だが、次に華扇がして来るだろう事が予測通りなら、自分にも光明が見えるというものなのである。その思いを胸に楓は油断なく身構えた。
 そして、いよいよ行動は華扇の番となるのだった。
「いざっ!」
 そう華扇は掛け声を上げると、左手に乗せた鉄球をその手で楓目掛けて放り投げて来たのだった。
「っ!」
 咄嗟の反応でそれを間一髪の所で身を翻してかわす楓。そして先程まで彼女がいた地面はその鉄球の質量と速度により、ものの見事に抉れてしまったのである。
 こんなものをまともに貰ったら一堪りもないだろう。だが、今の楓は至って冷静なのであった。
 それは他でもなく、今の華扇の攻撃は楓が想定したものそのものであったからだ。
(これなら……『あれ』が使えるわね)
 そう楓が内心でほくそ笑んでいるとも露知らず、華扇は鎖を引くと一気に投げ付けた鉄球の回収を試みたのであった。
 そして、再びそれをゴムボールか何かのように事も無げに左手に乗せる華扇。続いてしたり顔で楓を見据えて言った。
「どう? 驚いたかしら?」
「ええ、とても『人間技とは思えない一発でしたよ』♪」
「……中々着眼点が良いようね」
 楓のその言い回しに華扇は感心するも、それでもやる事は変わらないのである。
「でも、目の付け所が良くても状況は変わりはしないわよ。では」
 そう華扇が言うや否や、再び楓目掛けて鉄球を投げ付けて来たのだった。
 この攻撃を受けようものなら、一堪りもないだろう。だが、今楓はこれを絶好の好機だと踏んでいたのである。
(……今しかない!)
 そう瞬時に自分に言い聞かせた楓の行動は速かった。すぐさまに彼女は現在発動している攻撃手段の変更を行ったのであった。
 まずはその包丁型に形成したエネルギーを解除する。そして間髪入れずに新たにエネルギーを別の形にする。
 それは、火の上で操り食べ物を焼くのが目的の調理道具──即ち『フライパン』であったのだ。
 そのフライパンを構えながら楓は既にものにした様子で『スペル宣言』を行った。
「【返符「藍のフライパン」】っ!」
 そのスペル名が示す通り、そのフライパンの色は一際目立つ藍色であったのだった。どうやら先程包丁を形成していたエネルギーをそのまま形を変えさせたようであった。
 だが、楓にとって色は特に問題ではなかったのである。今彼女に重要な事はただ一つなのである。
 その考えを胸に秘めながら楓は刻一刻と迫って来た鉄球をキリリと凛とした表情で見据えた。
 そして、いよいよ鉄球が楓に肉薄せんとばかりになった所で楓はその考えを行動に移したのであった。
「いっけえーー!!」
 そう勇ましく掛け声を上げた楓は、その手に持ったフライパンを一気に振り抜いた。
 そして、後はご察しの通り、そのフライパンの裏面を向かって来た鉄球へと合わせたのだ。
 勿論、普通のフライパンでそのような使い方をすればただでは済まないだろう。本体はめり込み、持ち手はひん曲がるという惨事になって瞬く間に使い物にならなくなってしまう事は火を見る事よりも明らかというものだ。
 だが、これは楓の能力で作り出したエネルギー体であるのだ。故に実態の無い概念が損傷するという事など無いだろう。
 その事を漠然としたイメージの元、楓はこの戦いの中で瞬時に感じ取ったのであった。これまた彼女のセンスの賜物というべきだろう。
 フライパンで敵の飛び道具を弾き返す。そのような漫画の世界でのみ許されるような戦法。だが、どうやらそれが見事に功を奏したようであった。
「んなっ!?」
 思わず華扇は普段の振る舞いらしからぬ、はしたない声を漏らしてしまった。その間にも弾き返された鉄球が飼い主に牙を向かんと逆走るして来たのである。
(受け止めるのは……間に合いそうにないわね……)
 そう咄嗟に判断した華扇は、この場はこんな戦法で彼女を出し抜いた楓に華を持たせる事としたのだった。
「くっ!」
 そう呻くように声を出すと、華扇は咄嗟に自らの仙力を練り合わせて体に纏ったのである。
「【仙符「鋼の鉄壁疾走」】!」
 咄嗟のスペル宣言を行い、華扇は間一髪の所で防御態勢を張ったのだ。それにより実際に一時的に華扇の体は鋼のように固くなり、向かって来た鉄球の砲撃を防いだのである。
「くうっ……!」
 だが、やはり咄嗟の事であったが為に華扇は完全には防御を行う事は出来ずにその身を後方へと押し戻されたのだった。
 そう、今の攻撃を受けた事による華扇のダメージは確実にあったのである。
「やるわね……」
 そう重々しく呟きながら華扇は楓を見据えるのだった。
 正直彼女は初めての弾幕ごっこでここまで楓が奮闘するとは思っても見なかったのである。
 確かに今までの情報から、楓の潜在能力は高い事は調べがついていたのだ。
 だが、やはり百聞は一見にしかずというもの。話に聞いただけと、実際に体感してみるのとでは大違いなのであった。
(見事なものね……)
 それが華扇が導き出した、正直な感想であった。『称賛に値する』。それが楓に対する紛れもない評価なのだ。
 だから華扇は、今この場で少し厳しい事を楓に見せても良いだろうと思うのであった。否、強い可能性を秘める楓であるからこそ、彼女にとって大きくプラスになるだろうという考えの下である。
 そう考えながら華扇は、おもむろに今度は右腕を前方に掲げたのである。
 そう、紛れもなく華扇が包帯と仙力で形成している彼女の義手の部分なのだ。
「?」
 その華扇の様子を見ながら楓は訝しんだ。一体『義手』で何をする気なのかと。
 華扇はその楓の反応を予想通りだと思いながら、その右腕を楓に向けていた。
 そして次の瞬間、思い切って華扇は行動に出たのであった。
「【劾符「ハーミットナックル」】」
 その宣言のまま華扇は、何とその包帯で形成された義手を撃ち出したのである。さながらアニメで取られる手法である『ロケットパンチ』そのものであった。
 勿論その未来兵器と化した腕が向かう先は、楓の下だった。
「!?」
 完全にその予想しがたい展開に楓は対処する事が出来なかったのであった。
 そして、楓は敢えなくその奇想天外な『鉄拳』の餌食となってしまったのだった。
「きゃあっ……!!」
 正に『鉄拳制裁』を受けてしまった楓は、そのまま後方へと弾き飛ばされて、地面へと倒れ込んでしまったのだった。
 つまり、これにて華扇との初勝負は楓の敗北という形で着いたと言う事である。

◇ ◇ ◇

「ううっ……」
 暫し地面に伏していた楓は、呻きながらも何とか立ち上がるという気概を見せた。それを華扇は暖かい目で見守っていた。
「自分で立てるかしら?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
 華扇のさりげない気配りに嬉しく思いながら、楓はその場で自らの足で立ち上がったのであった。
「いや、楓さんはよくやりましたよ。とても初めてとは思えないくらいにね」
 それは華扇の本心からの言葉であった。そうして嘘偽りなく彼女は自らの心境を明かしていくのだった。
 予想以上の逸材だと華扇は思うところである。しかし、だからこそ敢えて彼女は言っておかなければならないと思う事があるのだった。
「でも、あなたは努力する程身を結ぶ能力であるが故に、甘さが心に生まれてしまっていたわ。恐らくあなたは私の事を『隻腕の人で可哀相』と思っていたのでしょう?」
「はい……」
 この華扇の言葉に楓は見事に図星を突かれてしまっていた。全くを以て華扇の推論は的を得ていたのである。
 華扇の指摘通り、楓は彼女に対して『可哀相』という感情を抱いていたのだった。その心の隙を突かれて楓は華扇の義手を攻撃に使うという荒業に足元を見事に掬われる形となったのだから。
「楓は努力でどんどん強くなっていったのでしょうから、些か努力を過信し過ぎる傾向が生まれてしまうようね。少しきつい言い方をするのを謝っておくけど、今回の私のように努力以上の成果を出そうとする事は必要で、努力だけでは足りない事は世の中には沢山あるのを覚えておきなさい」
「……」
 その華扇の言葉を楓は無言ながらも真摯に受け止めているのだった。そんな楓に華扇はふと柔らかい笑みで以て言葉を付け加えていった。
「でも、『努力無しの成功』などこの世には存在しない事も忘れてはならないわ──あなたの努力によって培われた力、見事だったわ。これからもその心を大切にしなさい」
「……うっ、華扇さぁん……」
 華扇のその言葉を受けた事により、楓は思わず涙ぐんでしまったのだった。初めての弾幕ごっこをこなした事や、彼女の親では絶対にしてくれないような華扇の厳しさと優しさを兼ねた接し方を受けた事などが楓の心の中で溢れたが故であった。
「あらあら楓さん、強いのに結構泣き虫なのね。でもありがとう。お陰で久しぶりに弾幕ごっこを楽しめたわ……あなたも楽しかったでしょう?」
 そう言いながら華扇は、そっと楓の頭を撫でるのだった。
「ええ……とっても♪」
 一頻り泣いて心が澄み渡っていた楓は、華扇の温もりを感じながらそう爽やかに答えたのであった。 
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