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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第6話 楓の幻想郷デビュー:前編

「さあ、ここが人里よ」
 そう言って華扇は、ここまで楓を護衛と案内役を兼ねて連れて来て、そして今のように紹介したのだった。
「ほえ~、ここが人里ですか~♪」
 華扇に紹介された楓は、とても感心したようにそこを見渡すのであった。
 それも無理ならぬ事であろう。何故ならそこには古き良きとでも言うべき日本の町並みが繰り広げられていたのだから。まさか未来の世界に来てまでこのような貴重な光景にありつけるとは楓は思ってもみなかったのである。
 そう、幻想郷は十年経った今でもその町並みを安易に変える事なく維持していたのだった。それは幻想郷の管理者たる八雲紫の並々ならぬ努力の賜物というのが背景にあるのだった。
 それはそうと、話は楓が華扇によってここまで連れて来られるまで遡るのである。

◇ ◇ ◇

 時はまだ楓が華扇と一緒に彼女の庵にいる所まで遡る。
 一先ず楓の衣食住に関しては、華扇の庵に住まわせるという事で決定したのである。
「ありがとうございますね華扇さん♪」
「何、困った時はお互い様というものよ。だから気を遣う事はないわ」
 そう華扇は事も無げに言ってのける。だが、まだ課題というものは存在するのであった。
 それは、正に幻想郷と『渡り合う』上で欠かせない事となってくるのである。次に華扇はその事へと話題を持っていったのである。
「楓さん。あなたの衣食住についての問題に関してはこれで解決したわ。次に重要となってくるのは『弾幕ごっこ』をするためのスキルね」
「『弾幕ごっこ』ですか……?」
 何やら聞き慣れない単語だと思いながら、楓は注意深くその言葉に意識を向けたのであった。
「初めて聞く言葉のようだけど当然よね? 何せ主に幻想郷だけで通じるルールなのだからね」
 ここで華扇は『主に』という言葉を据え置いたのであった。
 それは、言葉通りに幻想郷以外でも用いられるに至ったルールだからである。現に月の裏側に存在する文明にも広まっており、故に楓の姉の勇美は二度に渡り月の異変を解決に導くに至ったのだから。
 だが、現時点では楓はその事を知らなくてもいい訳であり。だから華扇は現状の為に話を進めていくのである。
「その弾幕ごっこ──正式名称は『スペルカード戦』ね。これは互いに命の取り合いをせずに決闘する為に創られたルールという訳よ」
 そして、華扇は淡々とその内容を説明していく。
 曰く、力の弱い人間が力の強い妖怪と渡り合う為のルールである事。
 曰く、強大な力を持った妖怪が周りへの被害を抑えて戦う事が出来るルールである事。
 曰く、無駄な命の犠牲の無い元に勝負を行えるルールである事。
 それらの華扇の説明を真摯に聞き受けながら、楓はその内容を脳内で反芻するのであった。
 そして、その反芻が一頻り済んだ後に楓は口を開いたのである。
「……素晴らしいルールですね。是非とも幻想郷の外にも伝えたい位ですね」
 そう言いながら楓はうんうんと頷いていたのであった。
 そんな彼女の脳裏にあったのは、無論外界での戦争の事である。武力と兵器による殺し合いは、未だに無くなってはいないのだから。
 だが、華扇としては楓の反応の別の所に注目する次第であったのである。
「あなた、弾幕ごっこによる決闘の話を聞いても積極的ね……あっ、いえそれもそうかも知れないわね」
 楓の事で言い掛けた華扇であったが、それを思い直す事としたのである。
 それは他でもない、先の楓の妖怪との戦いっぷりを思い出しての事であった。
 楓はその時あろう事か、人間の身でありながら自身の力で妖怪と戦い、そして彼等を追い払うに至っているのである。
 この事から、華扇は楓はその見た目によらず内面は戦闘に対して積極的であろうという結論を導き出したのだった。
 そう心の中で一人合点を覚えている華扇に対して、楓は首を傾げるのだ。
「……どうしましたか、華扇さん?」
「いえ、少々考え事をしていましてね……さっきあなたは妖怪を追い払った事から、戦いには慣れているなと思ってね」
「あ、その事でしたか?」
 言われた楓は、合点がいったとばかりにポンと手を打つのであった。そして、その事に対して彼女は説明をしていく。
「私の能力は『料理の腕と強さが比例する』という、少々特殊なものでしてね……」
 そう言ってから楓は自らの能力について打ち明けていった。恐らく幻想郷の住人となればそのような者が多いだろうという楓の判断故であった。
 曰く、楓のその能力の詳細は、全くを以て言葉通りの代物であるようだ。
 それは、まず料理の腕を磨けば自身の身体能力や戦闘能力が向上するというものである。これにより料理をすればする程彼女は強くなっていく訳である。
 加えて、逆に彼女が強くなれば、それだけ料理の腕も上がるというものなのだ。
 それらの説明を聞いて、華扇は驚きを隠せない様子であった。
「……驚いたわ。あなたのような能力は幻想郷を基準にして見ても非常に類い稀な代物よ」
 そう言った後に続いて華扇は話していった。
 華扇曰く、楓のような能力のケースは極めて稀であると。
 何故なら、料理と強さという互いの要素が互いにその力を引き出し合っているからである。
 料理の腕が上がれば自身が強くなり、強くなれば料理の腕が上がる。
 このような強力な効果は幻想郷に住まう者達を探しても、そう簡単には見つからないだろう。これ程努力すればする程成果を実らせるような能力はそうそうないからである。
 それらの華扇の説明を聞いて、今度は楓が驚かされる番であった。
「ほええ……私の能力って、そんな大それたものだったんですか……?」
「ええ。でもそれであぐらをかかない事ね。確かにあなた程に努力の効力が出るような能力は稀であるけれど、それは将来性を考慮しての事だからね」
 今の幻想郷には既に強大な力を持った存在がごろごろいるからね、そう華扇は付け加えたのであった。
「はい、分かりました。心に留めておきます」
「素直な子ね。やっぱりあなたなら心配いらなかったようね」
 ちゃんと地に足を付ける事を忘れずにいてくれた。その事に華扇は気を良くした後、突然こう切り出すのであった。
「それじゃあ楓さん。突然だけど、あなたに弾幕ごっこのやり方を教えるわ」
「華扇さんが、私に……ですか?」
 華扇にそう言われて、楓は首を傾げる所であったのだった。そんな楓に対して、華扇はあっけらかんとした態度でこう言うのだった。
「そう、私があなたに対して。あなたがこの世界で初めて会ったのが私というのも何かの縁かも知れないからね♪」
「……」
 茶目っ気を出してそう提案する華扇に対して、暫し楓は考え込むのであった。
 この先楓は華扇の住まいに一緒に住まわせてもらう立場にあるのだ。それだけでも恩を感じるのに、この上に弾幕ごっこの事に関してまで面倒をみてもらうというのか。
 考え込んでいた楓であったが、ここで彼女は意を決したようであった。どうやら彼女の『欲』が謙遜を上回ったようである。
「ありがとうございます華扇さん。是非とも私に弾幕ごっこの手解きをして下さい♪」
 それは、最愛の姉である勇美の為に、そして自身の為により強くなりたいと願う楓の願望なのであった。
 そんな楓に対して、華扇は微笑みながらこう言うのであった。
「ふふ……そういう『欲に忠実』なのって、悪い気がしないわ……」

◇ ◇ ◇

 そして、華扇と楓の二人は庵の縁側から庭へと躍り出ていたのであった。これから楓に初めての弾幕ごっこのやり方を教える為に。
 まずは確認の為に華扇は楓に対して呼び掛ける。
「それでは楓さん。準備はいいかしら?」
 それに対して、楓の方も答えは決まっているのだった。
「ええ、私の方もバッチリです。いつでもいいですよ」
「いい心構えね。それでは始めましょうか?」
 ここに二人の意思は疎通し合ったのであった。後は事を始めるだけである。
「では、始めるわよ」
「お願いします」
 そう二人は言い合うと、それぞれ適切な距離を取り合うのだった。
 最初に動いたのは華扇であった。それは当然の事であろう。
「まずは弾幕ごっこのやり方をあなたに教えなくてはならないから、私が手本を見せるわ」
 そう言うと華扇は懐から何やら札のような物を取り出したのである。
「何ですかそれは?」
 当然それに対して楓は疑問に思う所なのであった。
 その疑問を当然だと噛み締めながら、華扇は楓の問いに答えていく。
「これこそ『スペルカード』よ」
「それがそうなんですか?」
 こうして初めてスペルカードの実物を見た楓は、いかにも興味津々といった態度を取るのであった。
 その態度には華扇も気を良くし、続けて説明していった。
「そして、これに各々の人妖の力を込めておいて、それを弾幕ごっこの際に解放する訳よ」
「成る程……」
 その華扇の言葉を聞き漏らすまいと、楓は注意深くその説明に耳を傾ける所であるのだった。
 そんな楓に、華扇は百聞は一見にしかずであろうと実践の形で示そうとする。
「まあ、口でいくら説明した所で分かりづらいでしょうから、まずはものは試しという事でやってみせるわね」
「はい、お願いします」
 いよいよ自分に対して弾幕ごっこのルールに乗っ取った上での攻撃が繰り出される。そう思い楓は意識を引き締める所であった。
「いい気概ね。それじゃあ行くわよ」
 そう言うと華扇はスペルカードを自分の前方へと掲げた。その状態で彼女は続ける。
「スペルカードを掲げたら、後はそこに込めた力の名前を『宣言』するまでよ、このようにね♪」
 言って華扇は呼吸を整えると、いよいよ宣言に入るのだった。
「仙符【赤色の弾幕疾走】♪」
 その言葉に続く形で華扇の生身の左腕から次々にその名の通り、薔薇の花びらの如く赤いエネルギーの弾が放出されていった。
 それを見ながら楓は思わず見とれてしまうのだった。
「これが……弾幕ごっこ……」
「そう。これが『美しさ』を重点に置く、弾幕ごっこの真髄というものよ」
 感心しながら見る楓に対して、華扇は弾幕を張りながらも説明していった。
 だが、これ『だけ』では弾幕ごっことしては完成しないのである。なので、華扇はこう楓に促すのであった。
「さあ、楓さんもこれに対抗して手を打ちなさい」
 そう、それこそが弾幕ごっこの醍醐味であるのだった。自分と相手が共に弾幕を張り合い、共に攻略し合う、それが真骨頂なのである。
「私が……」
 華扇に言われてそう呟く楓であったが、ここからは迷わずに彼女は行動に移すのであった。──それは今まで料理の腕と共に強くなっていった彼女ならではなのだ。
「分かりました。では私も行きますよ♪」
 そう言うと楓は弾幕を避けつつ念じる。すると彼女の手にエネルギーが包丁状に形成されて握られたのであった。
 そして、楓はそこで付け加えるようにして言う。
「確か、『宣言』をすれば良いのですよね」
「んっ?」
 楓に言われて、一瞬の事であったが為に華扇は首を傾げる所であった。しかし、どうやら事はトントン拍子に進んで行くのだった。
「要は技名の宣言をすればいいんですよね♪」
 楓がそう言ったのに合わせる形で華扇が「そうよ」と相槌を打とうとする前に楓の行動は決まっていたのだった。
 楓はにんまりと笑みを見せると、そのまま言ってのけた。
「【藍刃「ホウチョウプリンセス」】っと♪」
 それは、初めての楓のスペル宣言であったのだった。そして彼女は続いて事も無げに作り出した自前の包丁に自身のエネルギーを集めていく。
 そして、ひとしきりそれを集めた楓はおもむろに包丁を振り翳したのであった。
 次の瞬間にはそこからエネルギーの刃が放出されたのだ。しかも宣言にあるようにご丁寧に見事な藍色であった。
 確かに楓は妖狼に対してエネルギー刃の放出攻撃を繰り出している。だが、それと同じ事を初めての弾幕ごっこでこなしたのである。
 その事に息を飲みそうになる華扇であったが、彼女が驚くのはこれに留まりはしなかったのであった。
 まずはエネルギー刃の一発目により華扇の赤い弾は相殺された。だが、彼女の放った弾はまだまだ存在するのである。
 それに対して楓が取った事、即ちその弾全てに包丁によるエネルギーの斬撃を加えていくというものだった。
「要領は掴んできましたから、このまま攻めさせていただきますよ♪」
 その意気揚々とした言葉通りに、楓は次々に包丁を振り翳しエネルギー斬を繰り出し続けていったのだった。
 そして、それらはことごとく華扇の放った弾へと命中していく事となったのである。
 エネルギー斬を受けた赤弾は瞬く間に粒子になって弾け飛び、その度に上品な打ち上げ花火と見まごうかのようになっていったのであった。
 このようにして華扇の敷いた弾幕の群れは、いとも簡単に楓の初陣により攻略されたのである。
「……」
 その事実を、華扇は内心驚きながら噛み締めるのだった。
 ──こうも初めて手を出す弾幕ごっこを、いとも簡単にこなしてしまうのかと。
 さすがは成長性の増大しやすい能力故かと華扇はただただ感心するばかりであった。
 しかも、弾幕のデザインに対するセンスも洒落ているときたものである。先程のような発想を咄嗟に思いつくとは、そう簡単に出来るものではないだろう。
 ここまでの状況を頭の中で整理した華扇は、こう思うのであった。
(……これは楽しくなりそうね)
 それが華扇の本心であった。そして、そのような感情に至るのは実に久方ぶりというものだと感じていた。
 そう、華扇が仙人となる前に存在していた感情なのだ。その事を思い返すと彼女は複雑な心持ちとなる。
 だが、感傷に浸るのは後でも出来るというものだろう。今はこの楓との戦いを『楽しむ』事に集中すべきというものだ。
 そうと決まれば、仙人になった華扇とてケチケチする意味合いもないであろう。なので、彼女は次の手に移行する事を楓に告げるのだった。 
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