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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第4話 この時代の事について

「えっ!?」
 華扇にそう言われた瞬間、思わず楓は我が耳を疑ってしまったのである。
 無理もないだろう。別の世界へやって来たという事は覚悟していたが、それに加えて更に十年後の世界に来てしまったというのだから。
 当然その事に関して楓には疑問が浮かんでしまうのである。
「い、一体どういう事ですか華扇さん……?」
 その楓の驚きようも無理はない事だと思いながら、華扇は今の現状を説明していく。
「言葉通りよ楓さん。あなたは今の幻想郷に十年前の過去から来たという事、つまりあなたにとっては十年後の未来へとやって来た……そういう訳よ」
「そんな……」
 楓はその事実に全くを以て唖然としてしまう。
 何故なら、別世界へやって来るだけならまだ現実味があるというものなのである。
 だが、時間移動とは人間誰しもが渇望する禁断の領域の話となってくるのだ。それを易々と経験してしまう事になるとは楓は思ってもみない所なのだった。
 しかし、ここで疑問が沸くというものであろう。──何故なら、何を根拠に楓が『今』にとって十年前の存在だと決める要因となるのかという事があるのだから。
 だから、楓はその疑問を華扇へと向ける事にしたのである。
「華扇さん……一体何なのですか? 私が過去から来た人間だという根拠は?」
 それを聞いて華扇は、その疑問はすべからく当然だろうと思う所なのであった。自分が別の時間からやって来た等という夢物語をどうやって易々と信じろというものであろうかと。
 そして、暫し華扇は『その事実』を楓に包み隠さずに伝えようかと迷う所なのであった。
 それもそうだろう。未来を知ってしまうという事は、不幸を招く可能性の方が高いのだから。
 例えば、ある者が将来一流のスポーツ選手になるという未来であるとしよう。それをその者に伝えてしまえばどうなるだろうか?
 もしその者が何事があっても常に気を緩めず努力する者であったなら問題ないかも知れない。
 だが、ここで多くの人間は程度の差はあれど『自分は未来では成功するんだ』という安堵を覚え──その未来に至るまでの自分よりも努力を、気の緩みから怠ってしまうのではないだろうか?
 そして、それにより未来が変わってしまいその者は一流のスポーツ選手になる事が出来なくなる──そういう可能性もあるという事なのである。
 そこまで華扇は考えて思考に耽っていた。今自分はどう楓に話していくべきかと。
 だが、それもつかの間の事であった。華扇は一瞬の迷いの後に、意を決してこの時代の真実を打ち上げる事に決めたのであった。
「何故私があなたの事を知っているかという話だったわよね。それは……あなた達が今の時代だと、それはもうとても有名であるからよ」
「……それってどういう事ですか?」
 華扇の物言いに、当然ながら楓は首を傾げる所なのだった。
 そんな楓に対して、華扇は思い切って真実を打ち明けていく。
「まず、あなたのお姉さんの黒銀勇美さんの事から言わなくてはならないわね」
 まず華扇はそう言うと、そこで一呼吸置いたのである。
 そして、粗方落ち着いた所で彼女は打ち明けていく。
「この時代では黒銀勇美と言えば有名よ。何せ彼女は小説家として大成功して巨万の富を築き上げたのだからね」
「ほええ~……お姉ちゃんが……」
「きっと勇美さんは幻想郷と渡り合っていくうちに類いまれなインスピレーションを抱くに至ったのでしょうね。まずそれ以前に彼女には才能があったという所かしら」
「驚いたなぁ。すごいな~」
 当然その事実に対して呆気に取られてしまう楓。だが、驚くのはまだ早いと言わんばかりに華扇は話を続きに持っていく。
「そして、忘れてはならないのがあなたである『黒銀楓』ね。あなたも海外で料理の修行をして世界的に注目される実力にまでなって、お姉さんの専属シェフとして名を轟かせるに至ったわ」
「……」
 楓は無言で話を聞きながら、余りの内容の飛びように完全に呆けてしまっていたのだった。
 だが、華扇はその事実を楓に打ち明けても彼女の足を引っ張る事はないと踏んだ上で言ったのである。その読みが的を得ている事は次の楓の言葉ですぐに分かる所なのであった。
「すごいよ……私、そこまでお姉ちゃんの役に立てるんだね。よし、今から頑張らないと♪」
 そう言って楓は意気込むのだった。
 それは正に華扇の読み通りの展開だったと言えよう。楓が自分の未来を知った所で、それによりあぐらをかく事など無かったのである。寧ろ、彼女の場合は自分の未来を知った事により俄然やる気が出たと判断しても良い所であろう。
 それを見届けた華扇は、問題はまるでなかった事に安堵する所存なのであった。取り敢えず、これで肩の荷が降りたというものだろう。
 なので、当面の課題をクリアした華扇は、そこから半分独り言のような感覚で話していく。
「大したものよ……『欲望』というものは……」
「『欲望』ですか?」
 突如として華扇の口から紡がれたそのキーワードに、楓は首を傾げた。
「そう、欲望の力よ」
 呟くように言い始めた華扇は、そのままぽつぽつと言葉を刻んでいく。
「勇美さんは神降ろしの力を借りるという方法で戦って行くに至った。つまり自分の力でない分、より自分のものにしようという『欲望』が強くなっていったのね……」
 それにより身に付いた貪欲さが、その後小説を書く上でもこれとない力となっていったのだろうと華扇は自分の推測を挙げるのであった。
 そして、華扇は勇美にとってなくてはならなかった人物も話題に挙げていく。
「そして、忘れてはならないのが、彼女の師匠的な存在であった『綿月依姫』ね……」
 その名前を口に出した所で、再び華扇はそこで一呼吸置くのであった。恐らく、その者は華扇にとって思う所がある人物であるのだろう。
「彼女も『神降ろし』という神の力を借りるスタイルで戦っていたが故に、勇美さんと同じようにその力をより自分のものにしたいという欲望が強かったのでしょうね。だから、あれだけ強くなる事が出来たのでしょう」
 そこまで独白するように思う所を吐き出した華扇は、そこでハッと我にかえるのであった。
「あっ、ごめんなさいね。突然こんなマニアックな話をしてしまって……」
「いえ、いいんですよ。寧ろ、何か有意義な話を聞けて良かったです」
 それは、断じて遠慮などではなく、楓が本心からそう思う事なのであった。
 その理由は、話の話題に『欲望』というキーワードが度々用いられていたからである。
 それだけなら別に楓が注目するに至る事はなかったであろう。それが彼女が感心するに至ったのは、それが否定的な意味合いで持ち出されてはいない所にあったのだ。
『欲望』。その言葉は殊更現代日本ではマイナスの意味合いで持ち出される話題であろう。何かと人間が悪い事件を起こすと、この言葉と共に槍玉に挙げられるものなのである。
 そして、他人を支配したがる人間にとって、個人個人の欲望は自分への貢献の際に非常に邪魔になるのだ。故に、特にそういった人間は『自分ではなく他人を』無欲な人間に作り替えたがるものなのである。──無論、勇美と楓の母もその類いの人種なのだ。
 だから、欲望という話題を否定的ではない方向に持って行った華扇を、楓は新鮮な感覚を覚えていたのであった。そして、その話をした華扇自身にも好感を抱くに至る所存なのだった。
「そう言って貰えると、こちらとしても嬉しいわ」
 華扇は半ば自分の我がままと勢いで始めてしまった独白のような話を懸命に聞いてくれた楓に感謝した。
 そして、楓は華扇が欲望の価値を分かる者だと知った事により、少し踏み入った話をしたくなり、是非ともそれを知りたくなって聞く事にしたのだった。
「華扇さん自身はどうなんですか? あなたはどんな欲を持っているのか、是非とも知りたいです」
 それは楓の興味本位であるのであった。だが、華扇はその言葉を聞いて、一瞬彼女の空気が張り詰めたのを楓は咄嗟に察した。
「あ、ごめんなさい。何か踏み入ってはいけない事を聞いてしまって……」
 すぐさまに楓は慌てながら華扇を気遣い、そう弁明をする。
 だが、華扇が張り詰めたのは一瞬であり、彼女は首を横に振るとやんわりとした態度でこう楓に言うのであった。
「いいのよ楓さん。あなたがそう知りたがる事は全く恥じる必要はないわ。でも、出来ればその事には余り触れないでくれると嬉しいわね」
 でなければ私は仙人をやるには至っていないから。そう言って華扇はこの話題から切り上げる事にしたのだった。 
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