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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第3話 隻腕の仙人と今の現状

 14歳の少女とは思えないような意外な奮闘により、凶暴な野生動物を三匹も撃退してみせた楓。
 彼女がそれを成し遂げて一息ついている所に、何者かが現れて声を掛けたのだった。
「誰ですか?」
 突然背後から声を掛けられて何者なのか楓が振り返ってその者の姿を確認すると。
 その者の容姿は、まず髪は赤と桃色の中間といった代物であった。それを所謂『お団子ヘアー』にして左右に纏め上げている。
 それだけならば差して特徴的であるとは言えないだろう。だが、その者の他の要素が『特徴だらけ』とでも言うべきであったのである。
 まずは服装である。中華風の出で立ちで、白い上半身の服に、下半身は緑色のロングスカートを履いていた。だが、一番特筆すべきは胸の部分に派手な薔薇の刺繍が施されている所に尽きるだろう。
 加えて、袖はまるで漫画に登場するかのような野性的な格闘家や肉体派が着るようなもののようにザクザクと山切りにされていたのであった。
 更に、左手には囚人が着けるかのような黒色の手枷とおぼしきような物が備え着けられていたのだった。
 だが、その者の一番の特徴……それは何と言っても右腕であろう。
 その者の右腕は、第二関節よりもやや上の方から、すっぽりと包帯で包み込まれていたのであった。
 それを見た瞬間、楓はいち早くこう察したのである。
(……この人、右腕が無くなってるんだ……?)
 その事を感性の優れた彼女はすぐに理解する事となったのだった。
 そして、何らかの力で包帯を固定して腕の代わりにしている事も把握したのだ。
 楓はその事実に対して別段驚く事はなかったのである。何故なら、自分や姉である勇美自身、普通の人にはない特殊な能力を持っていたからである。
 故に、楓はそういった事情に事前知識というものがあったのである。だから彼女はそれをすんなりと受け入れる事が出来たのだ。
 だが、そのような特殊な人物はこの現代にはそうそう存在する事はないのである。その事から楓は、今いる場所が現代のような普通の領域ではない事を感じ取るに至ったのである。
 これは小説でよくある異世界へと踏み込んでしまうという展開だろうか。そう姉と同じく読書好きな楓はそのような結論を仮定の段階で打ち出して置く事にしたのだった。
 そして、彼女はこう考えを巡らせた。そのような小説で主人公が最初にする事は、その世界の住人へとアプローチを行い、異世界の現状や文化を把握するというものだと。
 そこで、楓が次に出る事は決まっていたのだった。
「始めまして、あなたはこの世界の住人ですか? あ、私は黒銀楓と言います」
 それが最善の行動であろう。その世界の住人にそこの文化などを聞く、これが楓が導き出した答えであった。
 そして、人にものを聞く時は自分から名乗る事も大事な礼儀である事も彼女は忘れてはいなかったのである。
 その丁寧な対応に、隻腕の者は感心しながら聞いていた。今の若者にもこういう律儀な者がいるとは世の中捨てたものじゃないと思うのだった。
 だが、徐々に彼女は驚愕する事となっていった。それは他でもない、今の少女の容姿、そしてまごう事なく彼女が『黒銀』の性を名乗った事にあった。
(まさか……、こんな事があるなんてね……)
 そう隻腕の者は驚きと感慨深さに胸の内を支配される所であった。この外界の常識が通用しない幻想郷にあっても、そのような事が起こるのだと、改めて思い知らされるのだ。
「あの……どうなされましたか?」
 だが、こうしてずっと思考にふけながら立ち往生している訳にもいかないだろう。現に、目の前の少女は彼女の態度に疑問を持ちながら聞いてきているのだ。
 なので、彼女は意を決して話を切り出そうと思うに至ったのだった──これから問題が山積みになるだろう事を考慮しても。
「ええ、ごめんなさいね。少々考え事をしていて」
 まずは、そう切り出しを見計らって慣らし運転のような感覚で呼吸を整える事にする。そして、まずは自分も相手に乗っ取って礼儀で以って返す事にしたのだった。
「私は『茨木華扇』。仙人などというものをやっている者です」
 まずは自己紹介である。相手が名乗った以上、自分も名乗っておかなければ失礼に値するだろう。
 その対応を見て、目の前の少女、楓も気を良くする所なのであった。
「よろしくね、華扇さん♪」
 そう言って楓は屈託の無い笑顔ではにかんで見せたのだった。その笑みには全く混じり気のない純粋な一品であった。
 それを見れば華扇とて悪い気はしないというものである。故に彼女もそれに返す所なのである。
「こちらこそよろしくね、楓さん」
 ここに、異なる世界の住人同士の友情めいたものが芽生える事となったのであった。その事に華扇は新鮮なものを感じていた。
 だが、いつまでもここでそうしている訳にもいかないだろう。故に、華扇は楓にこう提案するのであった。
「取り敢えず楓さん、私の庵に来なさい。ここは先程のように妖怪が出るから人間が出歩くには少々危険だからね」
 それが、まず当面の問題であろう。確かに楓は先程人間の少女らしからぬ戦闘能力で以って獰猛な獣──即ち妖怪を撃退しはしたのであるが。
 基本的に人間は妖怪の食料なのである。そんな人間が長い事妖怪の領域で過ごす等とは、『どうぞ襲って下さい』と言っているようなものなのだ。
 対して、華扇のその提案に楓は否定する要因はなかったのだ。寧ろ、異世界の住人の案内の元に身を委ねる事は小説の中では常套手段というものなのであった。
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます、華扇さん」
「決まりね、それじゃあこれから案内するから、はぐれないようにね」
 ここに、両者の方針は一致したのだった。華扇とてそれが現状でベストな対応だと思う所なのであった。──何せ、楓には現状をじっくりと説明していく為に余裕を持てる場所が必要だからなのだ。
 こうして、華扇の案内の元に楓は彼女の庵へと歩を進めて行く事となったのだった。

◇ ◇ ◇

「ここよ」
 とうとう目的の場所に着いた華扇は、楓にそこを紹介したのである。
「わあ、立派な所ですね」
 それが楓の嘘偽りない本心からの感想であった。
 華扇に案内された庵は、決して豪華ではないものの、荘厳であり堅実な造りの住まいであり、簡素というような安っぽさとは無縁のしっかりした佇まいであったのである。
 そう楓に言われて、華扇も悪い気はしない所なのであった。
「ありがとう、それじゃああがっていいわよ」
「それでは、お言葉に甘えさせて頂きますね♪」
 異世界に迷い込んだと思ったら、そこの住人からおもてなしを受ける事になったのだ。それによる楓の気分の高揚というものは一入であろう。
 そして、華扇に案内されるがままに、楓は庵の中を歩いていったのであった。
 その内部構造は、古き良き日本の家屋といった所であった。決して楓が住み慣れた二階建てではないものの、それが苦にならない程の快適さがそこにはあったのだ。
 その情景を楽しみながら、楓は華扇の案内である一室に連れられて来たのであった。
 そこは茶の間であろう。楓がそう思っていると、華扇は口を開いた。
「ちょっと待っていてね。今お茶を用意するから」
 そう言って華扇は恐らく台所のある方へと向かっていった。
 言われるがままに、楓はそのちゃぶ台の前へと腰を降ろす。
「ふう~、何だか田舎へ里帰りした時のような気持ちですね~♪」
 楓はそう呟きながら、今の状況を満喫する事としたのだった。
 そう、まずは心と体にゆとりというものが必要であろう。でなければ、これから勇美の捜索に至るまでに身が持たないというものなのだから。
 楓がそう想いを馳せている所へ、華扇が煎れ立てのお茶をお盆に乗せて戻ってきた。
「お待たせ」
「あ、ありがとうございます」
 その華扇の気配りに感謝しつつ、楓はそれをありがたく受け取る所であった。そして、二人とも席に着いた所で、そのお茶を一緒に飲むのであった。
「あ、美味しいですね、このお茶」
「お褒めに預かり光栄ね。私は仙人故に薬草とかの知識も身に着けているから、お茶の煎れ方もそれなりに自身がある所なのよ」
 こうして話も弾んできたようである。なので、これを期に華扇は今必要な事を一気に話してしまおうと算段を着け、そして踏み切った。
「楓さん、一息ついた所で今のあなたの現状を説明しておかなくてはならないわ」
「私の……ですか?」
 それは必然だろうと楓は思う所であった。彼女とて、ここが現代日本とは別の世界である事は重々承知なのであったのだから。恐らくその事を言われるのだろうと、楓は堂々と胸を張って華扇の話を聞く姿勢を見せていた。
 だが、華扇の口から放たれた真実は、少々予想の上を行く内容であったのだった。
「ここは、『幻想郷』という現代日本から隔離された世界──それも、あなたにとっては『十年後』の世界になるわね……」
「──!?」 
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