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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第1話 もう一つの物語の始まり

 
前書き
黒銀勇美が主人公なのは前章までで、この章からは別の人物となります。
その事を踏まえてご覧ください。 

 
 綿月依姫の元に就き、幻想郷で着実に成長を遂げていき、遂には何かと月と因縁のあった嫦娥との決着を着けて彼女を幻想郷に招き入れる事まで成し遂げた少女、黒銀勇美。
 そんな彼女には、今までの話にも何度か出ていた通り、妹がいたのである。ここからの物語はその妹にスポットを当てられていく事になる。
 時は、勇美が幻想郷へと招かれて現世から姿を消した所へと遡る。

◇ ◇ ◇

「お姉ちゃん……どこにいるの……?」
 そう困惑の様子を言葉に滲ませながら自分の住む町の周辺を探すのは、黒銀勇美の妹の黒銀楓であった。
 その顔つきや背丈は勇美の双子の妹であるが故に瓜二つであった。だが、ショートヘアにしている姉に対して、楓はツインテールにしている。
 自分の姉が行方を眩ませたら、当然心配して探しに行くものであろう。それは、勇美の妹の楓とて同じであった。
 楓は本心から勇美の事を気遣って探しているのである。それは純粋に勇美の事を思っての事なのだ。
 だが、二人の母親は違っていた。彼女は妹よりも成績で劣る勇美を役立たずの烙印を押していたのである。つまり、勇美の事を一人の人間として、ましてや我が子として真っ当な愛を抱いてはいなかったのだ。
 それでいて、母親は勇美が自分の元から去った事が断じて許せないでいた。その矛盾するかのような心情の正体は以下の通りである。
 言うなれば、母親にとって自分の娘達は我が子という独立した個ではなく、自分を構成する一部という感覚なのであった。だから、勇美に対しては『自分の認めるに足りるような人間になるように努力しなさい』という上から目線のエゴの元に──言ってしまえば支配下に置いていたという事である。
 だから、楓は勇美を捜索する中で、非常に重苦しい気持ちが胸の中に渦巻いているのだった。
 ここまで母親の特徴を挙げれば、彼女がいかにプライドが高い人種か分かってもらえるかも知れない。故に、そんな彼女が我が娘が自分の元から行方を眩ませていたという事実を許せる筈がないというものであろう。
 要は勇美には自分の顔に泥を塗られたという考えしか抱かないのである。なので、もし勇美を見つけて再び自分の元へと連れ戻そうものなら、その後の勇美への接し方というものは──想像に難くないだろう。
 だから、その事を思うと楓は気が重いのであった。例え勇美を見付け出しても災難は決して避ける事など出来そうもないからである。
 だが、そんな最中、楓は疑問を頭の中に抱いていたのだった。
「お姉ちゃん……どうして……?」
 その楓の疑問の理由はこうである。『どうして何も言わずにいなくなってしまったのか』という事だ。
 確かに勇美は母親から苛烈な仕打ちを受けていた。だが、楓は勇美が根は真面目で、かつ忍耐強い性格をしていた事を良く知っていたのである。
 そんな彼女が何も言わずに逃げ出す事などするだろうかと。
 そして何より、勇美は妹たる楓の事を、肉親で唯一心を許していたのだった。そんな彼女がその楓にさえも一言も言わずにどこかへ行ってしまう等とは、何かがおかしいと楓は感じる所なのであった。
 その事から考えられる事は、勇美が何らかの事件に巻き込まれた可能性というものであろう。そう思い至った楓は、いよいよを以て、警察へと連絡をしようかと、そう考える所なのだった。
「一先ず、家に戻って……それからおまわりさんに相談した方がいいよね……」
 そう決心して楓は帰路に着くべく踵を返そうとした……そこで彼女は異変に気付いた。
 そこは誰もいない空き地であったのだ。故に誰かがいつ土地を購入してもよいように草の刈り込まれた物以外に何もそこにはない筈なのである。
 だが、今こうして楓の目の前にはそれ以外の物が見えているのであった。
 それは、紫色の空間の裂け目であった。しかも、中には目のような物が蠢いているではないか。
 楓はサイコパスという人種に分類されるような母親から気に入られている程の存在なのである。故に、何かと優秀な少女なのであった。
 その為、彼女はその優れた感性で以て、直感したのであった──お姉ちゃんがいなくなったのと『これ』は絶対に関係している、と。
 そういう考えに至った彼女は迷う事なく行動するのであった。あろう事か、彼女はその裂け目へと歩を進めていったのである。
 そのような未知の存在に不用意に向かっていくのははっきり言って無謀と言える事だろう。
 だが、その背景にはやはり母親の存在があったのだった。母親に辛く当たられる勇美は勿論、そのような仕打ちを受ける勇美を見続けて来た楓にとっても精神を疲弊させるには十分な内容だったのである。
 故に、楓もまた追い詰められていたのだった──あの母親なんかをこの場に連れて来て一緒に勇美を探す等という事は苦痛でしかないと感じるまでに至っていたのだった。
 その為、楓は軽率な行動に出るに至ってしまったという事である。
「この中に入れば……いいんだよね?」
 そう言い聞かせるようにして呟く楓。それは、もしかしたらそう自分を奮い立たせる為の言い訳染みた行為であったのかも知れない。
 そして、感性に優れた楓は、この紫の超常の産物をどう扱えば良いか直感で感じ取る事が出来たのである。後はそれに従うのみであろう。
 そう、彼女は迷う事なくその空間の裂け目へとその身を預けたのであった。
 そして、とうとうその未知の領域に身を預けた楓の視界は一気に劇的な変化を迎えたのである。
 先程の場所からでも確認出来た紫色の斑模様の空間。それが辺り一面を支配しているのだった。
 明らかに現実世界にあるような産物ではないだろう。だが、不思議と楓はそれに対して恐怖を感じる事はなかったのだった。
 それは、この空間からは得体の知れなさは感じられはすれど、人間的な悪意のようなものは全く無縁なのであったのだから。
 楓は自分の母親から、そういった人間特有の歪んだ感性というものを嫌という程、その身で味わって今まで生きてきたのだ。それ故に対比と言うべきか、この空間からはどこか奥ゆかしさすら認識出来る程であったのだった。
 そして、彼女の足元にはご丁寧に何かのエネルギーで創られているかのような白い半透明の床が存在していたのだった。
 それを見て、彼女は感じるのだった──きっと、この先に愛しの姉はいるだろうと。
 その楓の読みは的を得ていたのだった。何せ、彼女の姉の勇美も、この空間によって導かれていったのだから。
「待っていてね、お姉ちゃん!」
 そうと決まれば話は早いのである。楓は意を決してこの非現実な道をその身で進んで行こうと決心するのであった。
 そして、その想いを彼女は実行に移していった。そこに全く迷いはなかったのである。
 だが、この空間の事を詳しく知る者がいれば彼女を止めていただろう。──何故なら、この空間には普段は目に掛ける事の無いような、デジタル数字やら時計のような物やらが所々に浮かんでいたのだから。
 しかし、当然楓はこの空間に来るのは初めてであるが故に、その変化に気付く事は出来なかったのであった。
 果たして、これから楓を迎えるものは一体何であろうか?

◇ ◇ ◇

 その異変に、この空間の管理者と言える存在の『妖怪』、八雲紫が察知して駆けつけてきたのであった。
 だが、一足遅かったようである。もう、この異常事態を起こした空間の中にある道をその者は進んでしまっていったのだから。
「まさか、スキマの中が『あの時』と同じ事態になっているとはね……」
 そう八雲紫は普段の飄々とした振る舞いから一変して、彼女らしくなく少し慌てた様子でそう呟いたのだった。
 しかし、彼女は妖怪の賢者と呼ばれる知性溢れる存在なのだ。故に、普段のだらしない生活からは想像し難い所ではあるが、基本的に沈着冷静なのである。
 故に、彼女はすぐに落ち着き払ってこう言った。
「でも、あの子の向かった先は……。取り敢えず、暫くは『あの者』に任せれば問題はないって所かしら?」
 そう意味ありげな事を呟くと、紫は彼女の能力で空間にそれと同じような裂け目を生み出して、元の場所へと戻っていったのだった。 
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