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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第八十ニ話

 アーロンの断末魔が響き渡るとイスカの戦いを見つめていたナミの双眸からは止めどない涙が溢れ、彼女はレイジュに抱き止められたイスカに駆け寄る。


「イスカさん!!」

「大丈夫よ。重症だけどちゃんと生きているわ。“桃色毒池(ピンクオアシス)”!!」

 
 ナミはレイジュに抱き止められたイスカを見ると確かに胸が上下し、呼吸していることは分かってホッとする。彼女に抱かれるイスカの顔や体は傷だらけの満身創痍であるが、“正義”の二文字を背負う気高き背中には傷ひとつ無かった。

 桃色毒池(ピンクオアシス)とは敵をおびき寄せる香りを放ち誘われた敵を毒に犯す技であるが、レイジュは痛み止めと止血の薬を体から散布することでイスカの応急処置をしている。
 

「イスカさん…。私………う”う”ぅぅぅぅ…。」

「ナミちゃん…。」


 イスカを涙目で見つめ続けるナミにレイジュが視線を奪われていたその時、レイジュの痛み止めが効いてきたのか眠っていたイスカが覚醒する。

 
「うっ…私は───。」


 イスカの目がゆっくりと開く。


「イスカさん…!? 良かった…。」

「うっ…はぁ、はぁ…ナミちゃ…ん……?っ…!?そうだ! アーロンはどこ……!?」
 

 ナミは目覚めたイスカの顔を覗き込むと、イスカはナミの顔を見て自分が彼女の為に倒すと誓った仇敵を思い出し、慌ててレイジュから離れてサーベルを構えて周りをキョロキョロとしてアーロンを探している。


「イスカ少尉…?」

「イスカさん!?」


 イスカの突然の行動にレイジュとナミは目を丸くするとイスカ自身も崩壊したアーロンパークを見てレイジュ達を振り返る。


「アーロンはどうなったの?」


 イスカは確実にアーロンを倒せたかどうかは分からなかったから、彼女は意識を失ってなおサーベルを握り続けていた。

 しかし、そんな中、元気で明るい声が響き渡る。


「かーくん、その瓦礫の下よ!」

 
 そう…言うまでもなくソラとかーくんである。

 
「ア”ァァァーーッ!」

 
 イスカ達は倒壊したタワーに降り立つかーくんとその背に乗るソラの熱源探知を使用して大きな瓦礫を指差すとかーくんは『そこ掘れワンワン!』と言わんばかりの声を上げて嘴と鉤爪で倒壊したアーロンタワーの瓦礫を器用に押し退けながら、瓦礫の下から意識のないアーロンを嘴で咥えて引っ張り出した。
 

「はぁ…はぁ……よかった…。」


 イスカはかーくんの嘴に咥えられた意識のないアーロンを見て、勝ったのだと分かってカランと音を立ててサーベルを落とす。

 
「流石ね! 本当に凄かったわ…。」


 レイジュは緊張の糸が切れて倒れそうになるイスカを抱き留める。

 彼女の戦い方はクロオビとの戦いをみて分かるように毒を主体にしながら、優雅に戦うように見えても実際は生まれ持った強靭な肉体と運動能力そしてレイドスーツの性能に頼ったただのゴリ押しである。

 だから鍛錬で己を鍛え抜いた末に身に付けたイスカの振るう圧倒的な剣技の冴えの数々。そして、何よりも格上の敵を前に一歩も引かない彼女の気高い心に見惚れた。


「本当よ。イスカちゃんは本当に凄かったわ…。それに比べて私はダメね。戦う者の資格が足りないわ。」


 かーくんはアーロンを咥えたままイスカ達の方へ飛んで来て、意識のないアーロンを地面に転がした。

 かーくんの背にいるソラはイスカの戦いを通して、ゴジの働く海兵という仕事の大変さと誇り高い生き様に心打たれた。

 そして、たまたま力かーくんを得たから今回戦いにやって来た自分を恥じた。

 今の自分なら息子や娘達の力になれると思ったが、イスカを見ていて自分にはここまでの覚悟はないと気付かされ、本来戦士ではない自分が戦場に立つことはこれで最後になるだろうと覚悟を決めた。

 
「イスカさん……本当にありがとう! 貴女のお陰で私は───自由になれた!!」

 
 ナミは笑顔でイスカの手を固く握る。

 彼女はここにはいない海のヒーロー(ゴジ)よりも目の前で自分達を救う為に文字通り死力を尽くして戦ってくれた目の前にいるイスカこそが彼女のヒーローだった。

 
「良かった……。」

 
 ナミの笑顔を見て、彼女を助ける事が出来たと分かったイスカの双眸からも涙が溢れてナミの手を強く握り返した。

 
 ◇


 アーロンパークから聞こえる激しい戦闘の音を聞いた島の人達がアーロンパークに駆け付けると、人々は崩壊したアーロンタワーと巨大な鉄の鳥、血に倒れ伏す“ノコギリ”のアーロンを始めとした魚人海賊団を発見する。

 
「アーロンタワーが…いったい何が起こったんじゃ?」

「アーロン達が全員倒れとるぞ!」

「あれは何だ!」

「大きな鳥と人がいる。彼らがアーロンを倒してくれたのか?」


 島人が次々と集まってくる。

 そして、崩壊したアーロンパークの広場に立つ4人と1匹に気付く。何よりも倒壊したタワーの上で翼を拡げる巨大な白銀のボディを持つかーくんはこの上なく目立つのだ。


「あれはナミちゃんじゃないか?」


 集まって来た者達の一人が巨大な鳥の頭を撫でているナミの姿を発見する。

 アーロンパークから一番近い村はココヤシ村である。必然とここに一番に到着するのはココヤシ村の村人達なのだ。


「ナミぃぃぃ!!」

 
 村人達の中から薄紫色の髪を持つ気の強そうな顔立ちをした肩や腕に波のような刺青を彫っている少女が無我夢中でナミに駆け寄る。

 
「ノジコ……終わったよ……。」


 ナミはイスカの右手を宝物のように大切に両手で握り締めたまま、駆け寄って来たノジコを見上げる。ナミからノジコと呼ばれたこの少女はナミの義姉。

 ナミからアーロンとの契約を唯一打ち明けられていたたった一人の家族だった。

 だから、泣きながら笑っている義妹の顔を見て、全てを悟った彼女はその場で力なく膝を付く。


「貴女はジェルマ66(ダブルシックス)の“戦女神”ポイズンピンク?貴女達が助けてくれたの…?」


 ノジコはレイジュのポイズンピンクの服装を見て目を丸くして驚く。

 “第四勢力”ジェルマ王国。ジェルマ66(ダブルシックス)の“戦女神”ポイズンピンク。


「戦女神……」

「ジェルマだ……」


 東の海(イーストブルー)にいると噂もある彼女が助けてくれたのだとノジコだけでなく、この場に集まった全員がそう思って口々にレイジュの名前を呟いていく。
 

「皆違うの!いや、ポイズンピンク達も助けてくれたけど、アーロンを倒してくれたのはここいるイスカさんよ!」


 ナミは集まった人達にこの島を救ってくれた真の英雄の名前を必死に訴える。

 ノジコは無数の釘を打ち付けられたような無数の刺傷を刻まれて意識なく倒れるアーロンと朱色の髪を持つイスカの顔を見て正体に気付いた。
 

「イスカって……“釘打ち”のイスカ!!本部の海兵が私達を助けてくれたの!?」


 言うまでもなく、二つ名持ちの海軍本部の海兵はこの世界においては有名人である。

 海軍本部最強の剣士“桃ウサギ”ギオン少将の愛弟子にして燃えるような朱色の髪とスタイル抜群の美貌を持つ若き天才剣士“釘打ち”のイスカを知らない方がおかしい。


「はぁ、はぁ…遅くなって申し訳ありません……。もう大丈夫ですよ。」
 

 イスカはレイジュによる薬が効いているとはいえ、それでも尚、身体中が痛みで悲鳴を上げる中、ノジコ達に心配はさせまいと精一杯の笑顔を見せると、それを見たノジコの双眸から涙が溢れる。

 この島の人達が海軍本部の海兵をこの島の人達がどれ程心待ちにしていたか──そして、ボロボロのイスカの姿を見ればここで一体どれ程の激戦があったか聞くまでもない。


「「「うおおおおぉぉぉぉーー!」」」


 事実を知った人達から島中に聞こえるのではないかと思う程の歓喜の声が上がった。


「すげー! あのジェルマ66(ダブルシックス)と“釘打ち”が助けてくれたぞおおおお!!」


 風車が付いた黒い制帽を被った全身古傷だらけの茶色の海軍制服を着た老年の男が村人達に合図を送る。

 この茶色の海軍制服は駐在の制服であり、駐在は主に海軍支部のない島において海賊が攻め込んで来たことを一番近い支部に知らせる事を仕事としている。


「皆ぁ! アーロンの支配から解放されたことを島中に伝えるんだ。」

「「「おおおおおおおぉぉぉぉーーっ!!!」」」


 合図を受けて皆が村に走って行き、村人達に合図を送った島の駐在がイスカに近づいて頭を下げる。


「イスカ少尉、私は東の海(イーストブルー)海軍第16支部所属ココヤシ村駐在のゲンゾウと申す。本当になんと礼を言っていいか。」


 イスカは自分に頭を下げる駐在を見て、アーロンとの会話を思い出してレイジュに支えられたままゲンゾウに深々と頭を下げる。


「少尉殿…何を!?」


 ゲンゾウは突然自分に頭を下げたイスカに衝撃を受ける。海軍本部少尉といえば支部では大尉以上の階級と見なされ、ゲンゾウは無位無官であるので、圧倒的な上官が頭を下げていることに衝撃を受けるのは当然であろう。

 イスカはゲンゾウの傷だらけの体と、自分本部の海兵を待っていたであろう彼の気持ちを察していたたまれなくなった。ゲンゾウは自分の仕事を全うし、その身を削って耐え忍びながら救援要請をしていた事を思うといたたまれない。

 この海域を管轄する第16支部はアーロンと繋がっているのだから、いくら彼が救援を要請しても海軍本部に連絡が入ることはなかったのだ。
 

「はぁ、はぁ…我々はこの島のこと全く知りませんでした。貴方の救援要請はアーロンと繋がっていた第16支部に握り潰されていたようです。」

 
 かつて現海軍本部大将“黄猿”ボルサリーノに捕まった経験のあるアーロンは狡猾だった。

 第16支部を買収して自分の情報が海軍本部へバレないようにしていたのだ。

 ゲンゾウは悔しそうに頭を下げるイスカの様子を見て、自分の所属する第16支部から海軍本部にアーロンの情報が伝わってなかったのだと分かって深く溜息を吐く。

 
「やはりそうか。偉大なる航路(グランドライン)の海賊を海軍本部が野放しにし続けるのはおかしいと思っていたが、あそこ(第16支部)は腐っている!!では、何故イスカ少尉はアーロンのことを…?」

「そ…それは…」


 イスカもアーロンのことはレイジュに聞いて初めて知ったので言い淀んでいると、イスカの体を後ろから倒れないように支えているレイジュが話を引き継ぐ。


「私達ジェルマは“麒麟児”からもたらされた情報を元に海軍本部からアーロン討伐の依頼を受けたの。イスカ少尉は別の任務中だったけど、私達の話を聞いて手伝ってくれたのよ。まぁ、結果的には私達はたった一人でアーロンと幹部2人を倒したイスカ少尉の露払いをしただけよ。」

「なんと……本部に情報が届いていたのか!?それについ先日准将に昇進した“麒麟児”が何故この島のことを……?」


 イスカはゴジがかつて自分に支部で手を焼きそうな海賊が故郷にいるか聞いて来たことを思い出した。

 
「そういえばゴジ君は色んな海から本部に来る海兵達の話を聞いて支部の海兵では手を焼きそうな海賊の話を聞いて回っているわ。多分アーロンの事も誰かに聞いたのね。」


 ゴジはアーロンの事をあくまで噂として東の海(イーストブルー)出身のたしぎに聞き、センゴクに報告して調査したのだ。


「流石…“海軍の麒麟児”の名前は伊達ではないな。まだ20歳にもなってないのに支部の海賊まで視野を拡げているのか……。」


 ゴジは人気、実力だけではなく、頭もキレるという噂を聞いたことはあるが、ゲンゾウはレイジュの説明を聞いてゴジの慧眼に感服して開いた口が塞がらない。

 
「とりあえずイスカ少尉の治療を優先してもいいかしら? 私の()で出血と痛みは抑えているけど、ちゃんと治療しないと重症よ。」
 

 毒と薬は表裏一体。

 薬も使い方を誤れば毒となるように、毒も正しく使えば薬となる。
 

「なら、ココヤシ村の診療所を使ってくれ!」

「いえ、イスカは重症すぎる。うちの船で治療するわ。」

「はぁ…はぁ…。すみません……そろそろ限界です。」


 レイジュは肩を貸している腕をそのままイスカの後頭部に回して、反対の腕を彼女の膝裏に腕を入れて持ち上げるとそのまま宙に浮き上がる。
 

「待って!! 私も行く!!」

「あら、ナミちゃんもかーくんに乗ってく?」

「え……えぇ。またその鳥に乗るの………。うん、乗るわ!」


 ナミはイスカのサーベルを拾い上げて大事そうに抱えながら、ソラに導かれるまま意を決してトラウマを抱えるかーくんの背にふたたび乗り込んだ。 
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