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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第八十一話

 アーロンはイスカの後ろに下がったレイジュを見ながら内心ホッとしている自分に苛立っていた。


 ──くそっ!!


 クロオビの仇をとりたいのにレイジュを見た瞬間にアーロンの誇りである魚の本能が、『レイジュ()は危険だから近づくな!!』と彼に訴えかけていた。
 

「女海兵。チュウとハチを殺ったてめェは許さねェ!!てめェを殺してからあの忌々しい毒女も殺してやる!!」


 アーロンの海王類と同じ黒目が縦に長細くなったのは仲間を倒された怒りよりも、下等生物のはずのレイジュに怖気付く自分自身への怒りの方が強いのかもしれない。


「シャアアアッ!」

 
 アーロンはサーベルを前に出して構えるイスカへ躍り掛かり、丸太のように太い両腕を振るってイスカを鷲掴みにしようする。

 イスカは“剃”と体捌きで、冷静にアーロンの怒涛の攻撃を掻い潜りながら、アーロンの背中に回り込む。
 

「釘打ち!!」

「グオォォ…ッ!?そんな攻撃がオレに効くかああああ!!」


 イスカの高速の連続突きがアーロンの背中を穿つと 、彼は前に二、三歩たたらを踏みながらも後ろにいるイスカ目掛けて裏拳の要領で腕を振る。


「なっ…!?キャアァァ……。」


 釘打ちを放っていたイスカは自分の顔を目掛けて迫りくるアーロンの腕に気づき、強引にサーベルを入れて盾にするが、威力を殺し切れずに殴り飛ばされてそのままアーロンタワーに衝突する。
 

「カハッ……。」

 
 イスカが叩きつけられたアーロンタワーの壁には彼女を中心として蜘蛛の巣状に亀裂が走り、イスカの肺の空気が全て吐き出された。

 海の生態系の頂点に位置する鮫の魚人の膂力は他の魚人を圧倒する。


「な…なんで……。」


 イスカはタワーにぶつけた頭からも血が流れ出しており、頭から流れ出た血が彼女の顔を赤く染めていく。

 彼女は薄れそうな意識を繋ぎ止めながら、その場に立ってサーベルを構える。


「なっ…!?」


 そして、自分の“釘打ち”が直撃したことで服が裂けて剥き出しとなったアーロンの無傷(・・)の背中を見て、目を見開きながら驚愕を受けた。


「鮫肌…。鮫の魚人である俺の体は剣なんざ通さなねェ。理解したか?これこそが“人間の進化系”である魚人の“力”だ。」


 アーロンは薄ら笑いながらイスカを見据え、腰を深く落として彼女に鋭く尖った頑丈な鼻で狙いを定める。そして、そのまま地を蹴ってイスカに襲い掛かる。


「“鮫・ON・Darts(シャーク・オン・ダーツ)”!」

「くっ…キャアアアッ!?」


 未だダメージの抜け切らないイスカは”剃”で避けることが出来ずにサーベルを盾にしてアーロンの体を受け流そうとする。

 サーベルの刃でアーロンの鼻を受け流すも、アーロンの巨体を完全には受け流すことが出来ずにアーロンの肩が彼女の体に当たって弾き飛ばされた。
 

「ぐはっ…!?ごふっ…はぁ、はぁ…。」


 イスカは地面を転がりながら、すぐに立ち上がってサーベルを構えるが、アーロンの攻撃で内蔵を痛めたのかその口からは黒ずんだ血が垂れている。

 しかし、壮絶な訓練の末”釘打ち”と称される剣技を身に付けたイスカだが、彼女の持ち味は速さであり、単純な力は成人男性よりは強い程度しかない。

 アーロンの体重は200キロを優に超え、身長は250センチを超える巨体で、イスカは直撃を避けるのが精一杯でまたアーロンの体の何処が当たりイスカは弾き飛ばされたが、立ち上がった彼女の目はまだ死んでない。


「シャーハッハッハッハー!何時まで持つか見物だな!“鮫・ON・Darts(シャーク・オン・ダーツ)”!」


 アーロンはそんなイスカの目を見据えて、笑いながら鼻で狙いを定めて腰を落としてから地を蹴ってまたその身を巨大なダーツに見立ててイスカに向けて飛んでいく。


「ぐあぁぁっ!」

「シャーハッハッハッハー!…まだまだいくぞおおおおっ!」

「ぐっ…!?」


 アーロンは宣言通りに何度もイスカが力尽きるまで、彼女を目掛けて体をダーツのようにして攻撃を繰り出す。

 イスカはアーロンの攻撃を受け流す度に弾き飛ばされて体の至る所が腫れて血が噴き出しているが、彼女は何度弾き飛ばされても直ぐに立ち上がってサーベルを構えていた。

 
 ◇
 

 レイジュの酔い覚ましの薬で目を覚ましたナミはイスカとアーロンの戦いを見守っていたが、アーロンの攻撃で弾き飛ばされ続けるイスカを見てとうとう目を逸らす。


「ナミちゃん、目を逸らしちゃダメよ!」

「っ…!?」
 

 そんなナミをレイジュが強い声で叱責する。イスカは他ならぬナミの為にボロボロになって剣を構えているのだから、彼女が目を逸らしてはならない。


「レイジュ、イスカちゃんを助けてあげて!?」

 
 壁に打ち付けられて、とうとう起き上がらなくなったイスカにトドメを刺そうとするアーロンの姿を見て、ソラはレイジュに助けに行くように訴える。


「行けるなら行ってるわよ!!でも…イスカ少尉はまだ諦めてないもの……。」


 レイジュが指差したその先には、決して“悪”に屈せずにフラフラの体で血反吐を吐きながらも何とか立ち上がる“正義”がいた。


「「なっ…!?」」

「“正義”が“悪”に屈することは許されない。これが長年に渡って世界を守り続けてきた真の海兵の姿よ。私がここで助けに入ったら彼女の正義を否定してまうことになる…。」
 

 レイジュは両手を固く握り締めてずっと耐えているのだ。

 そして、イスカがサーベルを構えることが出来なくなったら、直ぐに助けに入れるように加速装置を吹かし続けているが、どんなにボロボロになっても立ち上がる彼女の正義を穢すような真似はレイジュには出来なかった。

 
「イスカさん…。」

 
 ナミは目に浮かんだ涙を拭って両手を顔の前で組んで彼女の勝利を祈ってイスカを見つめている。


「大丈夫……イスカ少尉は勝つわ。」

 ──イスカ少尉、気付いて!!貴女は勝てる力に目覚めてる。


 レイジュはイスカの内から湧き上がっている彼女の燃えるような髪色のごとき赤いオーラを見て勝利を核心していた。
 

 《Side イスカ》
 

 左腕はもう感覚すらないし、どす黒く腫れているから間違いなく折れてる。肋も何本かいって内蔵も痛めてるわね。

 頭から流れる血が目に入って視界が赤い……。
 

「てめェらはどうせナミの差し金だろう。同じ海軍でも利口な海兵と馬鹿な海兵がいるようだな。」


 哀れむような顔で私を見ているアーロンは何が言いたいの?


「はぁ…はぁ…何のこと?」


 私は肩で息をしながらアーロンを睨みつけて聞き返した。
 

「この海域を管轄する第16支部のネズミ大佐とは懇意にしてるって言ってるのさ…シャーハッハッハッハ!」

「えっ…!?」


 一般人を守る為に海賊と戦う海軍が海賊と懇意にしているなんて……絶望感に苛まれた私は”正義”は”悪”に屈しないという気力のみで立ち続けていたのに全身の力が抜けてサーベルを下ろして棒立ちになってしまった。


「てめェらもバカな奴らだ。あの女は悪女だぞ?何故そんな女を助ける?」


 とうとう膝を付きそうになった時、アーロンの言葉で自分が何のためにアーロンを討とうとしていたのか思い出して踏みとどまった。


『私が必ずアーロンを倒すわ!』


 そうだ……私はあの子に約束したのよ。


「巫山戯るな!あんたにあの子の何が分かるのよ!!あんた達と笑ったその何倍も泣いてるのよ!あの子の戦いをバカにするんじゃないわよ!!そんな子が私が来たことで助かると安堵してようやく泣けたの……こんな怪我、あの子の痛みに比べれば──へのカッパ!!」
 

 ナミちゃんの泣き顔を思い出した私は己の奥からふつふつと湧き上がる力を感じながらゆっくりと八相に構える。


「女海兵、遺言はそれでいいな?“鮫・ON・Darts(シャーク・オン・ダーツ)”」


 でも、不思議な感覚。

 何故かアーロンの攻撃がどこに来るか分かる気がする。


「はぁ……はぁ……左後ろに大きく一歩下がる…?」


 私はアーロンが地面を踏み切った直後に自分の口に出した通り左後ろに大きく一歩ズレる。

 アーロンの巨体は私の予想通りの軌道でそのままアーロンパークに突き刺さった。


「ちっ……まだ避ける体力が残ってたのか……」

「はぁ……はぁ……合ってた。これがまさか……」


 見聞色の覇気。

 今まで訓練しても全然目覚める気配がなかったのにこんなタイミングで目覚めるなんて。それに体力は既に限界を超えているのにこの体の奥からふつふつと湧き上がってくる力はもしかして……


「なら、そろそろ一思いに殺してやろう。」


 アーロンはアーロンタワーに突き刺さった鼻を抜くと、右手で壁をぶち破って刃がノコギリのようになっている2mを超える大剣を壁を壊しながら引っ張り出した。


「大剣?」

「キリバチ。女海兵…てめェはよく耐えた。褒美にこれで真っ二つにしてやるよ!死ねぇぇ“キリバチ大回転スラローム”!!」


 アーロンはキリバチと呼ぶ大剣の柄を両手で持って、体を軸に大剣をタイヤのホイールのように縦に回転し、地面を抉りながら私に目掛けて突進する。

 あのキリバチという大剣は私の剣では受け流せないし、避けても起動を変えて向かってくるわね。

 でも負ける気がしない。


『イスカちゃんはもう切っ掛けさえあれば、武装色の覇気、見聞色の覇気どっちも目覚めるはずだよ。』

『イスカさん、覇気は怒りや極限状態の中で目覚めることがある。目覚めた時の為に扱い方だけでも覚えとくといいよ。』

 
 アーロンの凶刃を前にギオンさんとゴジ君に言われた事を思い出していた。この体から湧き上がるこの力が武装色の覇気なのかしら?

 そういえば蛸の魚人に放った“五寸釘”も今までにない威力だった。あの時にはアーロン達に対する怒りで既に武装色の覇気に目覚めてたのかもしれない。

 前にギオンさんの使う黒刀に憧れて武装色の覇気について聞いたことがあった。


『ギオンさん、武装色の覇気とはいつも使っている黒刀の事ですか?』

『あれはまた特別。刀を体の一部として覇気を刀身に凝縮する流桜(りゅうおう)、つまり武装色の覇気の応用技さ。』


 覇気の使い方は知らなくても、剣の扱いならば体が覚えている。

 剣は体の一部。言うまでもないわこの剣は共に多くの戦場を切り抜けてきた唯一無二の相棒にして体の一つ。
 
 体から湧き上がる力の全てを剣に込める。


 《Side イスカend》


 イスカはアーロンの凶刃迫る中、一瞬だけ目を閉じて精神を集中して湧き上がる力を全て刀身に注いで、“心”と“体”を一つにして目を見開く。

 全てを数多の戦場を駆け抜けてきた自分の代名詞ともなっている“想い”が今放たれる。


「釘打ちぃぃぃいいいい!!」


 イスカから放たれた無数の“黒い”釘のような連続突きがアーロンのキリバチに当たった瞬間にバキバキ…バキバキと音を立てて無数の“黒い釘”がキリバチの刃を穿つ。


「なっ…!?」


 自慢のキリバチの刃がイスカの放つ”黒い釘”により粉々に砕け散っていく。


「うおおおおおお!!」


 キリバチの刃を全て穿った無数の“黒い釘”の勢いは留まることを知らずにイスカの雄叫びと共に次の標的に向かっていく。

 “黒い釘”の一本がアーロンの体に吸い込まれると、硬い鮫肌を何の障害もなく突き抜ける。
 

「ウガアアアアアアアッ!!!」


 最初の一本を皮切りに無数の“黒い釘”のようなイスカの連続突きを受けたアーロンの体は全身に穴だらけで血に染りながら最後は、そのままアーロンタワーまで弾き飛ばされた。

 その衝撃ですでに崩壊寸前であったアーロンタワーが崩壊して、降り注ぐ瓦礫がアーロンを飲み込んでいく。


「はぁ…はぁ……ナミちゃ……。」


 満身創痍で全て力を出し尽くしたイスカは意識を失ってそのまま前のめりに倒れようとする。
 

「お疲れ様…イスカ少尉。見事な“正義”だったわ!」

 
 イスカは意識を失って倒れる寸前にレイジュに抱き止められたが、意識を失ってもなお彼女の手には漆黒から白銀の色を取り戻したサーベルが固く握られていた。 
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