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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第八十話

 イスカに胸を穿たれて地面に倒れ伏したハチを見たアーロンは、油断なく剣を構えるイスカを無視してすぐにハチに駆け寄る。


「ハチぃぃぃいいい!?」

「に”ゅ〜…。」


 胸を貫かれ、壁に磔にされた状態でもハチはまだ生きていた。

 なぜなら、蛸は心臓が3つもあると言われる程に生命力が強く仮に大動脈を傷付けられても自己止血すら可能であり、ハチもその特性を持つ蛸の魚人故に心臓を貫かれてなお生きていたのだ。


「に”ゅ〜…おで……ア”ーロンざん……」

「ハチ。もう喋るな!いくらお前でも傷が開く…」


 アーロンは魚人同胞には優しい男であり、目の前の敵よりも仲間の命を優先する程である。はるばる偉大なる航路(グランドライン)の魚人島から自分に付き従ってきたハチ達を心から愛しているのだ。


「アーロン…あなた……。」


 イスカは敵である自分に無防備に背を向けて仲間(ハチ)の介抱をするアーロンを斬る気にはなれずその様子をただ黙って見ていることしか出来なかった。

 アーロンが抱きかかえているハチを地面にゆっくりと寝かせようとした時、巨大な鉄の鳥かーくんの天を引き裂くような嘶きとモームの断末魔のような嘆き声と共にアーロンパークが眩い光に包まれた。


「ア”ーア”ーア”ア”ァァァーーッ!!」

「モ”オ”オ”オ”ォォォーーッ!」


 光が晴れてアーロンは声のした入江の方を見ると、モームの全身が黒焦げになって海へ沈んでいく所だった…。

 
「ア”ア”ァァァーーッ!」

「なんだ!?何が……なっ……モームぅぅぅ!?」


 そう……かーくんがモームを倒したビームの光だった。

 アーロンは下っ端の同胞達に続いて、幹部のチュウやハチ、海獣モームといった仲間達が次々と目の前で倒されていく様に怒りで我を忘れそうになっている。

 そんな彼に追い討ちを掛ける悲鳴が響き渡る。


「ウギャアアアアア…!!!」

「クロオビいいいい!?」
 

 最後に残った同胞の姿を見たアーロンは唖然となる。

 クロオビは全身が焼けただれて、焦点の合わない目で腕を無我夢中に振り回して何も無い空間を必死で攻撃しながらも、全身の痛みに悶えていたのだ。

 正直本当にクロオビなのかと問われれば“多分”としか言いのようない無惨な姿である。


「ふふっ…」

 
 そんなクロオビの様子を微笑みながら見ているレイジュをアーロンが睨み付ける。


「女……てめぇ、クロオビに何しやがった……。」


 クロオビに起こった悲劇を振り返ってみよう。


 ◇


 かーくんがモームと、イスカがハチとそれぞれ戦いを始めた時、足首まである後髪を三つ編みにした髪型をした両腕に盾のような突起が飛び出でいるエイの魚人クロオビがレイジュに迫る。
 

「お前達はやり過ぎだ…“魚人空手 腕刀斬(わんとうぎ)り”」

 
 クロオビは、レイジュとの間合いを詰めると右腕に生えた盾のような突起を水平に振るうことでレイジュの首を掻っ切ろうとするが、レイジュはガシッと首に当たる直前で左手でその突起を掴み取った。


「魚人空手?ゴジが物凄い拳法を覚えたって興奮してたけど、この程度なのかしら?」


 レイジュは海流や大気中に含まれる水をも自在に操る魚人空手を習った事をゴジが自慢していた事を思い出した。


「受け止めただと…!?」


 クロオビは自分の技をレイジュに真正面から受け止められた事に驚愕する。


「貴方は…この盾でかーくんの銃弾や私の毒矢を防いだのね?」

「このヒレは鉄以上の硬度を誇る自慢の……なっ…!?」


 クロオビはレイジュの左手に掴まれたままの自分の右腕のヒレを見て驚愕する。


「ふふっ…。」


 レイジュに掴まれている自慢のヒレがジュウジュウと音を立てて、煙を上げながら融解しているのだ。

 レイジュは掌から強酸の毒を出して盾を溶かしていた。

 
「止めろおおおお!離せ!“魚人空手 上段爆掌(じょうだんばくしょう)”!」


 クロオビはレイジュと距離を取るために彼女を突き飛ばす為にレイジュの顔面目掛けて左手で掌底を繰り出す。

 その掌底は真っ直ぐにレイジュの顔面に直撃し、ゴンと大きな音を立てるも外骨格を有するレイジュはビクとせずに微笑んだままである。


「あらあら…そんな攻撃じゃ、私には痛くも痒くもないわ。早くしないとその自慢のヒレが溶けちゃうわよ……ふふっ…」

「離せ!離せ!“魚人空手 千枚瓦正拳”、くそぉ……“千枚瓦正拳”!」


 クロオビは腰をどっしりと落としてレイジュに対して真っ直ぐに正拳突きを連続で繰り出すも、彼女はビクともせずに右手のヒレを掴んだまま微笑みを浮かべている。


「うふふっ…。」

「ば…化け物がああああ…離せええええ!“魚人空手 千枚上段蹴り”!」


 クロオビはレイジュの頭に蹴りを繰り出すが、彼女はなおもビクともしない。

 この2つの技はクロオビの一番威力のある拳と蹴り技だったが、レイジュの外骨格とレイドスーツにより底上げされた防御力を突破出来なかった。


「お……俺のヒ……ヒレがああああ!?」

「あら…残念……。自慢のヒレが片方無くなったちゃったわよ……ふふっ!」


 クロオビはレイジュに自慢の必殺技が全く効かず、さらに自分の右腕のヒレが全て溶けて無くなったのを見て、レイジュに対する恐怖で腰を抜かしてしまう。

 唯一の救いはヒレには痛覚がなかったことだろうが、染み付いた恐怖は拭えない。


「ヒイイイィィィ…ッ!た…助けて…くれ…いや、助けてくださ……」


 クロオビはハチとは違ってアーロンと同じく“種族主義者”であり、魚人を『最上の種族』。人間を『下等種族』と信じている男であるが、そんな男がレイジュを前に腰を抜かして座り込み、恥も外聞も無く涙を流しながら下等種族の女(レイジュ)に命乞いをしていた。


「あらあら……泣いちゃって可哀想……」


 レイジュはそんなクロオビに近付いて、膝立ちになると慈愛に満ちた顔で彼の頭を胸元へ抱き寄せてギュッと抱き締めながら頭を撫でる。


「は…はなじでぐれええええ…!」


 クロオビはレイジュの腕の中でもがくも、力でも彼女に敵わずに腕を振り解けない。


「よしよし…泣かなくていいのよ……今…天国を見せてあげるわ…。“桃色抱擁(ピンクヘヴン)”!」

「や…やめて……嫌だああぁぁぁ………ぶくぶく…。」


 クロオビはレイジュに抱き締められたまま、レイジュの全身から放出されたピンクの液体に2人が包まれて、クロオビの悲鳴もピンクの液体に包まれてかき消されていく───。

 数秒後に2人を包んでいたピンクの液体が霧散すると、そこに現れたのは全身焼けただれたクロオビとそんな彼からゆっくりと離れる無傷のレイジュだった。

 強酸性のピンクの液体の中で全身を焼かれる痛みに喘ごうとも顔を豊満なレイジュの胸に押し付けられていた為に叫ぶ事も出来ず、レイジュの怪力で抱き締められているため逃げることすら叶わなかった。


「ウギャアアア…!!!」

「女……てめぇ、クロオビに何しやがった……。」


 こうして冒頭に戻るのだ。


「ふふっ……ただ天国を見せてあげただけよ……。アーロン、あなたにも見せてあげましょうか?」


 遊女のようにアーロンを誘っているレイジュに解放されたクロオビはようやく泣き叫びながら、思う存分痛みに悶えることを許される。


「あ”づい……う”み……あ”……あ”あ”……」


 彼は一刻も早く全身に付いた酸を取り除き、焼けた体を冷やす為に冷たい海へ向かってヨタヨタと歩いていく。


「あら、その焼けただれた体で海へ入る気なの?あまりオススメはしないわよ?」

「待て!クロオビ……!?」


 それを見たレイジュは楽しそうに妖艶に微笑むが、アーロンもこれから起こる悲劇に気付いて大声で止めようとする。


「う”みぃぃぃいいいい!!」


 全身が焼けるような痛みに支配されるクロオビは痛みから解放される為、冷たい海へ飛び込んだ。

 傷口に塩を塗るという言葉がある。全身の皮膚や肉が焼けただれた状態で塩水の海へ入るとどうなるか───


「ギャアアアアア!?」


 クロオビのこの世の終わりのような断末魔を聞いてアーロンはすぐに海へ飛び込み、全身の傷口に塩水が染みることで想像を絶する痛みによって気を失い、溺れかけていたクロオビを抱えて陸へ飛びあがった。


「あなたイスカ少尉に言ってたわね?海で呼吸出来る魚人は人間の進化系だって──魚人が海で溺れてちゃ世話ないわね?」

「このクソアマが……」


 今のクロオビにとって海は地獄そのものだった。

 アーロンは海王類が激怒したようなぎょろりとした目をレイジュに向けてキツく睨んだ。


「シャアァーーッ!」

 
 アーロンは入江の海水を掌で掬って、それをレイジュに向かって投げる。一見水掛け遊びのような攻撃も、アーロンの力を以てすれば、その水の威力は散弾銃の弾丸程の威力を持つ。


「あら…貴方は、あの人と違って私と距離を取るのね?嫌われちゃったわ、しくしく……。」

 
 レイジュはわざとらしく悲しそうな表情の演技をしながら、両手で顔を覆って泣き真似する。

 アーロンは一番重症のクロオビを倒したレイジュに対する怒りに燃え上がりながらも、野生の勘でレイジュに近付くのはマズいと気付いていた。


 ──あの女だけはヤバい。


 動物は基本的に毒のある生物には近付かないという本能が備わっており、鮫は毒のある魚を本能的に見分けて食べる事はない。

 レイジュ()を前にして彼が誇りとする鮫としての本能が『絶対に近づくな!』と警告を出しているのだ。


「釘打ち!」


 サーベルを突き出したイスカがレイジュの前に躍り出ながらレイジュに降り掛かる水の散弾をサーベルによる連続突きで水を全て霧散させた。

 
「イスカ少尉?」

「レイジュさん…この男は私に譲って下さい。」


 レイジュは突然目の前に現れたイスカに目を丸くして驚くも、自分を振り返ることもなく静かな怒りを秘めた彼女の声と背中に刻まれた“正義”の二文字を見て微笑む。


「あれ?ナミちゃん寝てるの?こんなに顔を汚しちゃて可愛い顔が台無しよ……」


 レイジュはかーくんの背中からソラに抱えられるように降ろされて、涙やら鼻水やからで無惨な顔になった顔をハンカチで拭かれているナミを見つめる。

 ナミは寝てるわけでなく、かーくんの背に揺られて酔って失神して白目を向いているのだが、同じくかーくんと楽しく飛び回るソラが気づくわけもなかった。

 
「あの娘の為ね?」


 イスカはチラッとナミを見てから、レイジュに軽く頷いた後でアーロンを見据えながらサーベルを構える。


「はい。この“正義”かけて必ず勝つと約束しました。」

「そう…なら貴女に任せるわ……。あの女の子は何があっても守ってあげるから全力で倒してきなさい。」

「ありがとう……レイジュさん。」


 餅は餅屋。海賊には海兵。

 海兵が正義の名のもとに勝利を約束したのだから、レイジュにもう言うことはない。

 レイジュは浮遊装置を使ってかーくんの傍まで移動した。


「レイジュ?」


 ソラは2人の話は聞こえなかったので、アーロンから離れて此方に飛んできたレイジュを訝しむ。


「ナミちゃん早く起きて!イスカ少尉を見てあげて。」


 レイジュはナミの頭を撫でながら、もう片方の手から酔い止め効果のある薬を揮発させてナミに嗅がせて覚醒を促していく。

 イスカがナミの為に戦いを志願したのだから、ナミにはイスカの戦いを見届ける義務があり、何よりも見守ってあげて欲しいと思ったから──。 
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