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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第七十九話

 かーくんがモームの水弾を飛び回って避けている最中、地上ではチュウを心配して介抱するアーロンを横目に6本の腕それぞれに刀を持った蛸の魚人ハチが怒りの形相で剣を構える。

 
「よくも俺の仲間(チュウ)を斬ってくれたな。切り刻んでやるぞ。“蛸足奇剣”!」


 ハチは軟体である腕で6本の刀を続けざまに振り回し、多彩な角度からチュウを蜂の巣にしたイスカに襲いかかった。


「蛸?6本の刀とは厄介な……。“釘打ち”!」
 

 イスカは冷静に蛸の魚人による6本の刀による猛攻を必殺の連続突きで迎え撃つと、刺突技である釘打ちをハチから繰り出される六刀に正確にぶつけることでハチの猛攻を捌ききった。
 

「にゅ〜…なんで剣を1本しか持ってねぇのに俺の刀が当たらねぇんだ?」

 
 例え六刀の猛攻であろうとも“釘打ち”と称されるイスカの剣速を持ってすれば相殺して捌くことは容易であり、彼女のその身には傷一つつかず、それどころか彼女は反撃の機会を狙ってた。

 
「簡単な話よ。軽すぎるの…あんたの刀は──“指裂滅爪(しざめっそう)”!」


 イスカは六刀によるハチの攻撃を掻い潜りながら、6本の刀を持つそれぞれ手の人差し指にほぼ同時にサーベルの切っ先を突き刺した。


「いっでええぇぇぇっ!」


 ハチは痛みで刀を全て手放して怪我をした6本の人差し指を下に向けてブラブラとさせながら傷口を涙目で見ている。

 ちなみにトンカチで釘を打ち付けた際に誤って指を打ち付けて起こる怪我のことを“指挫滅創”と言う。慣れない人は釘をペンチなどで持ってから釘を打つと安全なので参考にして欲しい。
 

「うるさい。大の大人がこの程度で喚くな。ナミちゃんはもっと痛かったのよ。」


 イスカは長年心を痛め続けて泣いていたナミを思うと、この程度の怪我で喚き散らす魚人に対して怒りが湧く。


「にゅ〜…ナミがどうした?ナミはどこか…怪我したのか??」
 

 ハチは自分の仲間である測量士ナミの怪我をあっけらかんとした様子で心配するも、こう見えて彼は本当にナミを心配していた。

 彼はアーロンという男が好きで魚人海賊団に入ったが、魚人至上主義者ではなく、魚人と人間との関係については種族に分け隔てなく仲良く出来れば一番いいと真に思っている。


「ヘラヘラと……その態度があの子を傷付けてきたのよ。」


 ハチはナミの怪我について思い当たらず、六本の腕を器用に組んで首を捻っている。

 ハチの本心を知らないイスカはその態度に右手で持つサーベルがカタカタと音を鳴らして震える程に怒っていた。


「にゅ〜?何を言ってんだおめぇ?俺達はナミの母親は殺したけど、仲間であるナミを傷付けたことはねぇぞ?」


 イスカはハチの言葉に衝撃を受けた。


「え……ナミちゃんのお母さんを殺した?」

「そうだぞ。この島へ来た日にな。可哀想だったが、金がねぇから仕方なく殺したんだ。」


 ハチは腕を組んだまま少し悲しむように語ると、アーロンが引き継ぐ。


「俺の支配下では金のねぇ奴は死ぬのさ。そういえばナミの母親も海兵だったらしいが、俺達には手も足も出ない所詮は下等生物、ナミの目の前でみせしめとして殺してやったんだよ。シャーハッハッハ!!」


 イスカは力なくサーベルを下ろして、地面を見つめながら振り絞るように高笑いを続けるアーロンに尋ねる。


「アーロン……あんたは目の前で母親を殺した子に海図を書かせてたの?」

「そうさ。ナミが一億ベリーで故郷の村を買い戻すまで魚人海賊団に入り、海図を書き続けるっていう俺達との契約だからな。母親を殺した俺を前にしてもいつもヘラヘラ笑ってやがる。女海兵、あの女に何を吹き込まれたか知らねぇが、ナミは魔女だぞ?」


 頭をあげたイスカは怒りの形相で右手を突き出すようにしてサーベルの切っ先をアーロンに向ける。

 イスカは両親を海賊の放った火事に巻き込まれて失い、その時自分を救ってくれた海兵のようになりたくて、火を扱う海賊を根絶やしにする事を生き甲斐に剣を振るってきた。


 ──なんて強い娘なの……。


 しかし、ナミは故郷である村を買い戻す為に母親の仇である海賊団に入り、仇を前にしても弱みを見せぬよう決して泣かない事を決めて海図を書き続けた(戦い続けた)ことに気付いた。

 その幼い少女の決意を知ったイスカは涙が溢れ、胸が張り裂けそうになる。


「黙れぇ!!アーロン!!あんただけは許さない!!!」

「ふんっ……忠告はしたぞ?馬鹿な女だ。」

「おっと……アーロンさんはやらせねぇぞ!」


 イスカが今にもアーロンに斬り掛かろうとしたその時、彼女の目の前に地面に落ちた6本の刀を拾ったハチが立ち塞がった。


「タコ、死にたくなかったらどきなさい!!」

「おまえ、この俺様を魚人島で一人を除けばNo.1の剣豪“六刀流のハチ”と知っているのかァ!?」

 
 溢れる涙を拭うことなく、怒りに燃え続けるイスカは不思議な感覚に陥っていた。


 ──体の芯が熱い。


 彼女は自分の中でふつふつと湧き上がっていく怒り()を感じながらハチを睨み付ける。


「知らないし、興味もないわ。今の私は加減が出来そうにない。邪魔するなら殺すわよ。」

「そういや…おめェは俺の刀を軽いと言ったが、この刀は一本300キロもあるんだ。それに俺は手が怪我をしていようと掌が吸盤だから重さ300キロの刀でも、ほらこの通り持てるんだ。そして、俺は蛸だから全身が筋肉。多少の怪我でも別の筋肉で補えるからそんな攻撃は意味がねぇんだぞ。」

 
 指を斬られたまま刀を握っても普通ならば元のように件は振るえないが、軟体動物であるハチは先程と全く変わらない剣速で六刀を振り回して元気アピールする。


「なら、死んでも恨むんじゃないわよ。」


 イスカは動じずに左半身に構えて左手を開いて前に出し、深く腰を落としてサーベルの切っ先をハチに向けたままサーベルを持つ右腕を後ろ下げた。


「下等種族の女の分際でよく吠える…。俺達魚人は魚の持つ特性と海での呼吸能力を身につけた“人間の進化系”。『万物の霊長』は 魚人なんだよ!!」


 ハチとイスカの戦いを見守っていたアーロンは口角を上げて、両手を天に広げて高らかに叫ぶ。
 

「アーロンさん!コイツを俺が倒すところ見ててくれ!」

「ハチ、人間が魚人に逆らうってのは “自然の摂理”に逆らうも同然だとコイツに叩き込んでやれ!」

「おう!」


 ハチは自分の指を斬ったイスカを見据えて背中越しにアーロンと話をしながら、六刀の切先を全てを胸の中心の一点に集める。

 イスカはアーロンを倒す障害であるハチを排除する為に全身の力を漲らせていく。

 
「鉄の鳥はモームがやるだろう。それにジェルマだろうと女ごときにクロオビが遅れをとることはねぇだろう。」


 アーロンはちらりと周囲を見渡し、クロオビは既にレイジュと対峙し、かーくんは魚人海賊団のペットの海獣モームと戦っているのを確認した。

 彼自身は魚人海賊団同胞達を倒したかーくんと“戦女神”ポイズンピンク、そして、チュウを倒したイスカを自分の手で殺したい程憎み発狂しそうになっているのだが、ハチ、クロオビという頼れる魚人海賊団の幹部達と魚人島から連れてきた海獣モームという仲間を信じて、船長としてドンと構えている。


「にゅ〜お前……もしかしてビビってるのか?可哀想だけどアーロンさんに言われたからな。俺の必殺技で痛みもなくトドメを刺してやるぅ!」


 ハチがイスカをビビっていると判断した理由はイスカは尚も涙を流しながらサーベルを構えたままその切っ先はカタカタと震えていたからだ。


「ふぅ〜…そうね。」


 もちろん恐怖からではなく全てアーロンに対する怒りとナミを想ってのことであるが、イスカはそれをハチに指摘されたことで、ハッとなって冷静さを取り戻す為に深く息を吐き、左腕で涙を拭う。


 ──落ち着け…私。


 感情に任せた雑な剣で本来の力は出せずに負けるようなことがあっては、ナミに合わせる顔がない。


「新春“蛸壺の構え”!」


 ハチは6本の刀の切っ先を合わせたままイスカ目掛けて真っ直ぐに突進する。

 ハチの刺突技だけでも壁を突き抜ける程の威力があり、刀で防御出来るモノではなく仮に防御出来たとしても、次の技“新・春・蛸・開げ体懐(しんしゅんたこあげたいかい)”という中心に集めた6本の切っ先を同時に開くことで相手の刀による防御をこじ開ける技に繋がる為、防御は意味を成さない攻防一体の技である。

 さらに全身筋力の軟体の動物の肉体を活かして、相手の動きに合わせて刺突の向きを自在に変えることも出来るので、この技は放てば最後防ぐことも、避けることも出来ないという脅威の技であるが、心を落ち着かせたイスカにはハチの技がよく見える。

 
 ──熱くなるのは私の悪い癖ね…でも、いつもより視野が広い、体の芯から力も湧き続けている。


 イスカは壁抜けに使った“自在錐”とは別に攻撃用の刺突技を3種類持っている。

 1つは彼女の代名詞ともなっている速さと手数を極限まで追求した“釘打ち”。2つ目は武器を持つ指を突き刺して武器を使用不能にする“指裂滅爪”。

 そして、最後の技は威力を極限まで追求し、サーベルの切っ先に力の全てを一点に集中させて放つこの技───。


「その自慢の剣ごと貫くわ!”五寸釘”!!」
 

 イスカは地面を蹴ると同時にサーベルを力のかぎり前に突き出す。


 ───狙いは六刀の中心!!


 釘の中で一番大きく太い世界最大の釘である“五寸釘”、その名を冠するイスカによる渾身の突き技が寸分違わずハチの持つ六刀の切っ先の中心に突き刺さる。
 

「いっけええええ!!」


 イスカの魂の叫び声と共にサーベルの切っ先はバキィーンという音と共にハチの六刀を粉々に砕き、剣の勢いは衰えることなく、その切っ先が真っ直ぐに彼の胸に吸い込まれる。


「グハッ……!?」


 技の威力はそれだけでは止まらず、イスカはハチは胸をサーベルで貫いたままアーロンの脇を駆け抜けて、ハチを胸に五寸釘を打ち込まれた藁人形の如くアーロンタワーの白壁に打ち付けた。


「人の忠告を聞かないあんたが悪いのよ。」


 イスカは確実にハチの心臓を刺し貫いた手応えに若干の嫌悪感を抱きながらも、サーベルをハチの胸から引き抜くと同時に血糊を振り払うと、そのままアーロンを迎え撃つ為に後ろを振り向く。

 磔の釘を抜かれたハチはそのまま力なく前のめりに倒れ伏した。 
 

 
後書き
今更ですが、イスカはnovelAの登場キャラで、時系列的にはエースに会う直前となります。

ただ設定や技、強さはオリジナル要素を含みますのでご了承ください。

イスカの必殺技のモチーフはもちろん某剣客マンガの”悪・即・斬”を掲げるあの人です。 
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