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Fate/WizarDragonknight

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最良のサーヴァント セイバー

 見滝原、その誰も寄り付かなくなった教会。

『わざわざ来てもらって悪かったね』

 そう言ったのは、教壇の上に立つ白い影。
 白い体と桃色の目。全く表情がないそれは、その瞳にハルトを映した。

『まさか、監督役が接触するよりも先にマスターとサーヴァントが現れるなんて思わなかったんだ。それもまさか、最良のセイバーだなんて』
「……」

 ハルトは、腕を組んだまま動かなかった。
 今朝、突如としてハルト、そして今隣にいる可奈美の頭に響いたものと同一の声。渋々ながらも、ハルトと可奈美は参加者である美炎、煉獄を連れてくることになったのだ。

『今回は、モノクマもコエムシも不在でね。僕が、君の監督役を務めさせてもらうよ。安桜美炎』
「あ、ど、どうも初めまして」

 言われて、美炎は慌てて頭を下げる。
 それを見たキュゥべえは、平坦な声色のまま、『うん』と頷いた。

『では改めて。僕はキュゥべえ。この聖杯戦争の監督役の一人だ』
「か、監督役?」
「なるほど! 君が監督役なのか!」

 突然の大声に、可奈美と美炎が驚く。

「れ、煉獄さん!」
「いきなりビックリした!」
「監督役! 聖杯戦争において、参加者を監視している役目を負っているのだな!」

 その大声に文句を言おうかと思ったが、やめた。

『そうだね。他にも、参加者を見出したり、脱落者の保護や戦いの隠蔽もしているよ』

 保護。隠蔽。

「どっちも出来てないだろ……」

 だが、キュゥべえはハルトの言葉を無視し、美炎へその長い尾を握手のように差し出した。
 握り返そうとする美炎の前に、ハルトが立ちふさがる。

「ちょっと待ってよキュゥべえ。俺たちが来たのは、美炎ちゃんの参加を……」
『聖杯戦争にそんな甘さが通じないことは、君が一番よく理解しているはずだよ。ウィザード』

 冷徹に。そして、淡々と。
 聖杯戦争の監督役のキュゥべえは告げた。

『知っての通り。この見滝原に置いて、魔力に秀でる人物のうち一部が、ランダムに魔術師に選ばれる。それがマスターであり、サーヴァントを召喚する令呪が与えられる。それは、僕たち監督役にも予測はできない。先天的な能力のこともあれば、後天的な発生だってある。君だって、まだ僕たちが接触していないマスターに出会ったじゃないか』
「……紗夜さんのことか」
『そう。まあ、彼女は前々からコエムシが見出そうとはしていたみたいだけどね。実際に接触そのものはしていなかったみたいだけど』

 キュゥべえは『きゅっぷい』と首を鳴らす。
 そんな監督役へ、可奈美も頼んだ。

「お願い! 美炎ちゃんは今、聖杯戦争に参加するわけにはいかないの! いつこの町を出ないといけないか、分からないから!」
『ならば簡単だよ。君が、短期間で勝ち残ればいい』

 当たり前のように、キュゥべえは断言した。

『他全てのマスター、サーヴァントを倒せば、君は見滝原を出られる。君の願いは……君とともにいる荒魂を助けたい、だね。いいよ。聖杯の力があれば、あの荒魂を……そうだな……人間にしてあげてもいいよ?』
「ッ‼」

 一瞬、ハルトの顔が歪む。
 だが、すぐに美炎の「そ、そんなことできるの!?」という声に上書きされた。

『できるよ。君は、その願いで聖杯を満たせばいい。聖杯は、君の願いを満たせられるからこそ、参加者に君を選んだんだ』

 無情に、キュゥべえは続ける。

「で、でもさ! そんな、戦ってまで叶えたい願いなんて……私にはないし」

『願いがないのに、聖杯に選ばれるなんてありえないよ』

「ッ!」

 ハルトは、右腕をぎゅっと握った。

『君が大切にしている荒魂を、聖杯は救える。そのために、戦えばいいさ。そして……』

 ようやくキュゥべえは、美炎の後ろに並ぶ煉獄を見つめる。
 ぴょんと跳び、美炎の足元を歩いて近づいていく。

「セイバーのサーヴァント……此度の聖杯戦争では、ずいぶんと召喚が遅れたね」
「俺が言うのも何だが! 仕方あるまい!」

 煉獄ははっきりと物申した。

「監督役! 君との会話の前に、マスターに一つ! 確認を取っておきたい!」
「え? わ、わたし?」

 美炎が驚いて自分を指差す。
 煉獄は続けた。

「安桜少女! 君が、あの少女を守りたいという気持ちは理解した! そして、そのために戦う力も持っているのも事実だろう! その上で問う! 君は、この聖杯戦争、他の参加者をその剣で斬ることができるのか!?」

 大声の後で流れた、水で割ったような沈黙。
 その中で、美炎は答えた。

「わたしは、難しいことはよくわからない。でも……いくらコヒメのためでも、他の人に御刀を向けることなんてできないよ」

 美炎は、腰に付けている御刀、加州清光を見下ろした。
 赤い鞘に収まっているそれは、先端が欠けている。彼女本人から聞いた話では、その破片は美炎の母親に刺さり、美炎の出産とともに消滅したらしいが、詳しくは知らない。

「上手く言えないけど……それじゃあ、コヒメが管理局に捕まらなくたって、絶対に笑顔でいられなくなる。わたしも、加州清光も、そんな結末望んでない!」

 美炎は、「むしろ……」と御刀を抜く。
 抜刀の音とともに、切っ先のない加州清光が、埃をかぶったステンドグラスの光を反射する。

「わたしは戦うよ! 皆の笑顔のために! 参加者の誰かとじゃない……聖杯戦争そのものと!」
「良く言った!」

 美炎の発言に、煉獄は大声で言った。

「俺も、この聖杯戦争には賛同できん! 監督役殿! 我々は、この戦いには、むしろ反対させてもらう!」
『……ウィザードたちといる時点で、まあこうなるだろうなとは思っていたよ』

 キュゥべえはため息交じりに言った。……本当にため息なのか、それを模しただけなのかは定かではないが。

『まあいいさ。どちらにしろ君たちは、この聖杯戦争からは逃げられない。君たちがどう動くのか、見せてもらうよ』

 キュゥべえの、仮面のような目が煉獄を見つめる。
 煉獄は、全く動じることなく宣言した。

「ならばしかと目撃することだ! この戦い、お前たちの思い通りにはならないことを!」
『へえ……』

 この時、初めて。
 キュゥべえの目が、細まった気がした。

「……それで、これでアンタからの用事は終わりでいいよね?」

 しばらく火花が散ったのを見届けたハルトは、沈黙を破った。
 キュゥべえはハルトへ首を回し、頷く。

「……可奈美ちゃん、美炎ちゃん、煉獄さん。帰るよ」
「う、うん」
「うむ!」

 全員の賛同を得て、ハルトを戦闘に教会の出口へ向かう。
 出口まで続く、赤い廊下。
 ハルト達が半分ほどの位置に着いた時、教会の扉が開いた。

「Hello. Master」

 その声とともに、入口には、ハルトたちが見慣れない青年の姿があった。
 黒いノースリーブのシャツを着た彼。ご機嫌に口笛を鳴らしながら、手に持った白い携帯電話を手玉に、悠々と歩いてくる。

「I finished my job which was orderd by Koemushi. ……Where is he?」
『彼は今別件だよ』
「……誰?」

 ハルトは、青年の顔を見ながらキュゥべえへ尋ねた。
 キュゥべえは『きゅっぷい』と背伸びしながら答える。

『コエムシが呼んだ処刑人だよ。君たちの他にも、聖杯戦争に参加しない参加者はいるんだ』
「……処刑人!」

 ハルトと可奈美は、同時に身構える。
 すると、青年は嬉々とした表情を見せた。

「Hey! How come! Are you also the participants? So shall I destroy all of you?」

 彼はそう言いながら、手にした白い携帯電話を開いた。ポチポチとボタンを操作しているようだが、ハルトの位置からは見えない。
 ただ、携帯電話を胸元で握った彼の顔が、勝気に笑んだということだけははっきりした。

『今その必要はないよ。僕はどちらかというと、処刑人は必要ないと考えているんだ。彼らもまた、聖杯戦争の運営には必要だよ』
「Oh……」

 キュゥべえの仲裁に、処刑人は残念そうに項垂れる。
 ハルトはキュゥべえへ振り返った。

「もしかして……その、俺たち以外の参加者って……」
『安心したまえ。君たちがあずかり知らぬ参加者だよ。どうやら、始末してきたようだね』
「Of course. I do whatever got ordered. So why don’t you order me to destroy them?」
『僕は、彼らのような戦いを止める者たちもいていいのではと考えている。そもそも、君を呼んだのはコエムシだから、彼に直接言いたまえ。それとウィザード。ここでの戦いは、認められないからね』

 キュゥべえの指摘に、ハルトはドライバーオンの指輪をホルスターに戻した。

「Ok. So this time, I don’t care you. Just leave here」

 処刑人はそう言って、廊下から重心をずらす。
 ハルトは可奈美、美炎、煉獄と顔を合わせ、頷きあう。
 そのまま、何事もなく廊下を通過。処刑人の前を通り過ぎ、そのまま外へ出た。
 だが去り際、処刑人はハルト達へはっきりと告げた。

「Remember me. Taking care all of you is part of my job. Let me see you again」 
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