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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第七十三話

 ゴジは直接ベガパンクと会うために海軍本部の研究室に乗り込んだ。


「おい!ベガパンクはどこだ!!」


 ゴジが研究室に入るや否や機嫌さを隠すことなく、研究室全体に響き渡る声量で言い放つと、白衣を着た数十人の人間が一斉に注目して目を見開いた。


「「「“麒麟児”!?」」」


 海兵が武器開発や兵器の修理でここを訪れる事はよくあり、ポルチェの花形の手裏剣もここで作られているのだが、ゴジがここを訪れるのは初めてである。

 そんなゴジがいきなりやってきて怒ってるのだから、全員びっくりして当然であろう。


「これはこれは“麒麟児”ゴジ大佐が私に何の用だい? 私は忙しいから手短に頼むよ。」


 研究者の中でも一際大きな頭を持つ白衣を纏った痩せた中年男性が進み出て来た。

 その男は瓢箪を逆さにしたように異様に頭が大きく、身長170cmはあるだろうが、その約半分は頭が占めるというほぼ二頭身体型でそんな頭を持って短い胴や足が潰れないことが不思議なびっくり人間で、彼を一言で表すなら妖怪ぬらりひょんだろう。

 しかし、この男こそ“世界最大の頭脳を持つ男”Dr.(ドクター)・ベガパンクであり、この二つ名は彼の見た目を表す言葉だったのだ。


「お前がベガパンクか…平和主義者(パシフィスタ)について話がある。」

「おや、何だい? 意外だな。大佐も興味あったのかい? これがその設計図だよ。」


 ゴジはベガパンクから手渡された設計図をひったくるように取ると黙って読み進めていく。


「まぁ、大佐に読めるわけはないがね。あっ…安心して欲しい。ここの研究者も全て読み解ける者などいないのだがらそれが普通だよ。」


 ベガパンクが腕を組みながら、ゴジを見てニヤニヤしているのを周りの研究者達はヒヤヒヤしながら見守っていた。


「あーあ。ベガパンク博士の嫌がらせがまた始まったよ。」
 
「“麒麟児”、怒らないといいけど……。」


 設計図をゴジに渡した事はただのベガパンクの嫌がらせであり、自分の研究に文句を付けてくる輩や邪魔をしてくる輩には設計図を渡してから、『設計図を読めもしない奴が私の研究に口を出すな!私は忙しいのだ』と言い返しているのだ。


「おい!巫山戯るなよ……。なんだこの設計図は……。」


 この設計図は正真正銘ベガパンクが作った平和主義者(パシフィスタ)の設計図であるが、500年先をいく科学力を持つベガパンクの設計図を読み解ける者などいるはずもない。

 ゴジが設計図を見ながらプルプルと震えだしたのを見てベガパンクはほくそ笑む。

 
「分かったかね……設計図を読めもしないやt……」


 そう…この日までは──。


「この設計図のどこに人体実験は必要なんだよ!?」

 
 ゴジは設計図を読み進めてから、自分の『人を改造して作っている』と思って読み進めたのに全く違う事に気付いて顔を上げると同時にベガパンクを怒鳴った。


「えぇぇっ…!? た…大佐はそれが読めるのかい?」


 その設計図は一から機械を組み上げて作る物であり、人間を改造して作る物ではない。だからどこをどうみてもくまを人体実験する必要性が感じられないのだ。

 設計図通りに作れば体高7mという巨大な人型機動兵器ができるが、自立稼動に加えてビーム兵器等を搭載しているので、逆によくそのサイズに留めたモノだと感心する程である。
 

「「「はっ?」」」


 これに驚いたのは冷や汗を流して目を見開いているベカパンク、そして周りの研究者達も驚きを隠せずに開いた口が塞がらない。


「これだけ丁寧に書かれてれば読めないわけねぇだろう。ただ何箇所か気になる所はあるな。これちゃんと動かねぇだろ?」


 ベガパンクは血相を変えてゴジに詰め寄る。


「なんだと!?何処だ……何処が気になるんだ。早く私に教えたまえ!!」


 ゴジの言う通りこの設計図通りに作った平和主義者(パシフィスタ)は思ったように動かずに失敗した。

 仮にゴジが本当に設計図を読み解いた上で改善点を見出したというならベガパンクは藁にもすがる思いで聞かねばならないのだ。


「焦るなよ。机を借りるぞ。ここと…ここが…それにこの辺はあれをこうしてこうしないとダメだな。ベガパンク、お前は俺を試しているのか?」
 

 ゴジは研究所にある机に設計図を広げて、疑問に思った点を指差していく。

 ベガパンクは確かにゴジを試して嫌がらせをしたが、試す方向性が彼の思惑とまるで違う。


「ん? でも、それは…これがこうであーなるはずだろう?」


 ベガパンクはゴジの指摘した理由が分からず、ゴジが指摘した位置を食い入るように見て疑問を呈するが、ゴジはそれにも澱みなく答えていく。


「これは人型機動兵器だろう?それなら人間の体の構造上はこれはこうしてこうしないと命令がきちんと伝達されねぇし、構造上まともに動かねぇと思うぞ…いや、それならここも少し改善する必要があるな。」
 

 ゴジは言わずもがな8歳で劇薬に侵された母を治療する研究の為に人体の構造(・・・・・)に精通し、10歳で着るだけで身体能力を向上させるレイドスーツを作った天才である。

 そして、日々“神眼”で数多くの人体の構造を見通して筋肉や骨格の動かし方、神経の流れ等については世界一精通していると言っても過言ではない。

 だから、兵器としての平和主義者(パシフィスタ)ではなく、人型(・・)機動兵器としての欠陥に気付いた。

 機械の構造や兵器開発にはベガパンクに分があがるが、人体構造についてはゴジに分があるのだ。
 

「そうか!?そうだったのか…だから私の平和主義者(パシフィスタ)は動かなかったのか!?大佐は天才だよ。」


 ベガパンクは興奮しながら机に上がり目線を合わせてゴジの肩を掴んで激しく揺らす。


「いや、真の天才はこんな兵器を編み出して、この設計図を書いたお前だろう。太陽光をエネルギーに変えて動かしたり、ビームを撃ったりなんて考えもつかねぇよ。いやいや…違う。俺が言いたいのはくまの人体実験を止めろと言いにきたんだ。」

 
 ゴジはベガパンクの作った設計図に関心して素直に感想を述べてから自分の使命を思い出して、くまの実験を止めようと進言したが……。


「ん? あーもう解決したからそんなの中止だよ。私も元々乗り気じゃなかったんだよ。私は平和主義者(パシフィスタ)を作るのに忙しんだ!よければ大佐も手伝ってくれないか?」

「解決した?」


 ベガパンクの人体実験が乗り気でなかったという言葉にゴジが固まる。


「恥ずかしい話だがね…私は大佐が指摘してくれたことに気づかなかった。だから設計図通りに作っても平和主義者(パシフィスタ)がちゃんと動かなかったから失敗だと政府に報告したんだ。すると世界政府は平和主義者(パシフィスタ)と体型のよく似た男を提供するから、その体を好きに改造して実験して成果を出せと言われていたんだよ。」


 ベガパンクは不本意そうな顔を崩す事無く話す。

 彼は決してマッドサイエンティストではなく、幼い頃は寒冷地にある故郷の為に暖房を作ったり、人の為になる物を作りたいと考えている研究者である。

 しかし、かつて血統因子の研究が異端と見なされて世界政府に投獄された彼は世界政府から命令されて労役として研究所で働いているので、世界政府の命令には逆らえない。


「なるほど……平和主義者(パシフィスタ)は元々サイボーグではなく人型機動兵器。計画が頓挫したから世界政府の命令で人型機動兵器からサイボーグに切り替えようとしたのか?」
 

 ベガパンクは設計図通りに体長7mに及ぶ巨大な人型機動兵器平和主義者(パシフィスタ)を完成させたが、思うように動かなかったのでそのまま政府に報告した。


「その通りだ。人型機動兵器としてちゃんと動くならわざわざ人の体を弄り回すサイボーグを作る必要はないのさ。」


 世界政府は大海賊時代を終焉させうる可能性を秘めた平和主義者(パシフィスタ)をどうしても完成させたかったので、平和主義者パシフィスタとぼぼ同じ身長を持ち、世界政府に従順な王下七武海のくまを実験体として目を付けた。

 “暴君”くまの人体実験はベガパンクが要請したものではなく、世界政府がベガパンクの為に用意したモノであり、くまが実験体に選ばれた最たる理由は平和主義者(パシフィスタ)と身長がたまたま(・・・・)近かったからである。

 
「なるほど…。数多の兵器をこの世に生み出してきたベガパンクも人体構造には精通しきれていなかったと言うことか……。」

「あぁ。私は元々先天性心疾患の治療の為に研究していた血統因子研究が異端とされて逮捕された身だからね。そういった研究はここでさせて貰えなかったのさ。」


 ベガパンクは仕方なく生身の人間の体を少しずつ平和主義者(パシフィスタ)に改造して性能実験を繰り返しながら、設計図のミスを見つけ出して平和主義者(パシフィスタ)の完成を目指す事になったのだ。


「なんだ……血統因子の研究も医療目的だったのか。」


 ゴジはベガパンクから血統因子研究の真の目的を聞いてその研究を誤った方向に使った父が申し訳なく、天を仰いだ。


「あぁ…! 大佐が不備を指摘してくれたから人体実験はもう要らないが、是非大佐には協力して欲しいな。大佐がいれば平和主義者(パシフィスタ)は完成間違いなしだよ!!」


 どんな一流の作家でも原稿を作った際は出版会社等が添削するものだが、この設計図は書いたベカパンク以外に読み解ける者がいなかったから誰からも添削を受けられないという天才ゆえの悩みを抱えていたのだ。

 言わばベガパンクにとってゴジは初めて出会えた友であり、救世主だった。

 
「はぁ…そういう事か。今から少し街に用があるけど、それが終わったら手伝ってやるよ。」

「おぉー! 大佐、約束したからね。絶対早く戻って来てくれよ!」


 ゴジはボニーとの約束を果たす為にも完成まで見届ける必要があると考えているので、平和主義者(パシフィスタ)開発に協力するのはやぶさかでないが、まずはこの事を未だ父親を心配して泣いている心優しい女の子に伝えねばならない。


「あぁ。少し待ってろ!」

 
 ゴジは休日に父親に遊んでもらう約束をした子供のような顔を浮かべるベガパンクに苦笑してから、彼に背を向けて研究所の扉に手を掛けたその時──。

 
「待て!“麒麟児”!!」

 
 研究所の奥の扉がシュッと開いて中から身長7m弱で唾のない帽子を目深に被り、サングラスのような眼鏡を掛けて左手に聖書を持った大きなくまのような男が現れた。


「“暴君”、来ていたのか?」

 
 ゴジはくまと会うのは初めてだったが、海軍将校として王下七武海の名前、姿は把握しているので彼の正体はすぐに分かった。

 
「今日がたまたま初回の改造の日だっただけだ。それよりも何故俺を助けた?」

 
 くまは今日が初回の改造の日で、左腕を機械にされる予定で研究所のベッドで横になって待機していたので、ゴジとベガパンクの会話を全て聞いていた。

 何故ゴジが必死に自分の研究を止めようとしているのか理解出来なかったので、常に冷静な彼には珍しく慌ててゴジを呼び止めたのだ。


「お前が政府にどんな秘密を握られて、この人体実験を受け入れたのかは知らない。(海軍将校)が知らねぇって事は世界政府やセンゴクさん達しか知らされてない秘密なんだろう…だから聞く気もない。俺はただ美女にパパを助けて欲しいと頼まれただけだ。」

「なっ!たったそれだけの理由で動くのか?俺は元海賊だぞ!?」
 

 くまは娘のボニーがゴジに助けを求めたのだと分かったが、それでも何故王下七武海である自分を海兵であるゴジが助けたのかはまだ理解出来ない。

 ゴジは嘆息しながら、彼にヒントを与える。


「俺の不名誉な方の二つ名を思い出してみろ。美女に助けを求められて俺が動かねぇと思うか?それに何よりも俺は人体実験って嫌いなんだ。」

 
 くまは親バカ補正を抜きにしても亡き妻に似て美しく育ったであろう娘と“女好き”と呼ばれるゴジの異名を思い出した。

 さらにゴジが何故人体実験を許せないのか分からないが、人体実験と口にした彼から圧倒的な殺気が放たれたので彼の言葉が真実であると悟る。
 

「っ……!?そうか。」

「ところで“暴君”。ここでの用事はなくなったなら少し付き合えよ。俺は件の父親想いの美女に人体実験中止の報告に行く所なんだが、特別にその美女をお前に紹介してやってもいいぜ!」
 

 くまはさっきと打って変わって柔らかな笑顔を浮かべるゴジの顔を見て彼が“麒麟児”と呼ばれ、この海に住む全ての人に慕われる一端を見たような気がして心が暖かくなる。

 海賊になる事を決意して以来、10数年ぶりとなる娘との再会に胸を高鳴らせながら研究所の出口へ向かう彼の背を追いかけた。


「なるほど……的を射ている。」


 ゴジは研究所から出る直前に後ろを振り返り、ベガパンクに声を掛ける。


「そうだ…ベガパンク。俺も後で作りたい物があるから平和主義者(パシフィスタ)が完成したあとでちゃんと手伝えよ!」

「もちろんだとも君が作りたい物に興味はあるが、まずは平和主義者(パシフィスタ)のことよろしく頼むよ。」


 後日、ベガパンクと共に平和主義者(パシフィスタ)を完成させたゴジはこの功績をもって准将への昇進を果たした。 
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