ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第二章 青年期
第七十五話
海軍本部第07部隊ジェガート第一部隊所属、海軍本部少尉“釘打ち”のイスカは自身の二つ名の代名詞とも言える高速の刺突技で、偉大なる航路において数千万ベリーを超える海賊達と渡り合ってきた彼女にとって東の海の海賊等何人に囲まれても脅威とはならない。
「安心なさい。一応急所は外してるわ。」
リロブはようやくイスカの正体には気付いたが、何故東の海に居るのかが理解出来ない。
「な……なんで本部の海兵が……この海に?」
一重に海軍と言っても、偉大なる航路を守る海軍本部の海兵とその他の海の海兵では実力に大きな開きがあり、本部の海兵が大物海賊が闊歩する偉大なる航路から出る事は滅多にない。
「あんたには関係ないわ。」
リロブの質問を一蹴したイスカを遥か上空から1人と1匹(機)が見ていた。
イスカは自然系悪魔の実、メラメラの実の能力者が誕生したという話を聞き、東の海へやってきた。
「東の海の海賊なんて所詮はこんなものよね?こんな穏やかな海にあのメラメラの実があったなんて…。」
メラメラの実はその名の通り火を操る能力であり、これが一般人に向けられる前に必ず自分が捕らえるという固い意思を持ち、イスカは静かに闘志を燃やす。
かつて故郷を火の海で焼かれた過去を持つ彼女にとって火を扱う海賊の拿捕こそが彼女が海兵となった理由であり、彼女の掲げる絶対的正義なのである。
「スペード海賊団船長”火拳”ポートガス・D・エースだけは必ず私が捕らえるわ!」
しかし、イスカはその思いとは裏腹に”炎”に対するトラウマを植え付けられて戦場においても火を見る度に体が震えて動かなくなり、仲間にも迷惑をかけ続けた結果、未だに彼女の階級は少尉のままである。
彼女の“釘打ち”と称される連続の突き技、さらに”月歩”こそ使えないまでも“剃”を応用した船のマストからマストへ飛び越える空中戦の技量からすれば、明らかに実力と階級が見合っていないのはその為である。
「凄い…。何者なのあの子?」
かーくんに乗るソラは全速力で船に近づいて行くと、その場では自分の予想とは180度違う光景が広がっており、海賊に襲われている女性が海賊達をあっという間に倒していたのを見て、ソラは間の抜けた声を出した。
「ア”っ? ア”ァァーっ!!!」
しかし、かーくんはイスカの姿を見て喜色を帯びた声色で一際大きく鳴くと、イスカもその声に気付き空を見上げる。
「えっ…!? この鳴き声はまさかっ!?」
聞き覚えのある懐かしい鳴き声と白銀に輝く鳥の姿を見たイスカは途端に笑顔になり、“剃”を使いながら船のマストや帆を足場に空に向けて駆け上がる。
「えっ…さっきまでそこにいたのに……?」
ソラの目には先程まで甲板にいたイスカが瞬間移動で目の前に現れたように映るも、彼女が“剃”の動きを見切れるはずもない。
「ア”ア"ァーー♪」
かーくんはイスカの姿をはっきりと見ると、さらに嬉しそうな声を上げて速度を上げる。
「っ…!?やっぱり…かーくん!?」
イスカはマストの一番上に立って空から降りてきたかーくんを見て目を丸くしている。
彼女達はとある理由で顔見知りだった。
「ア"ァーー♪ ア”ア”ァーー♪♪」
かーくんは久しぶりに会った目の前の彼女を見て興奮して大きく嘶いた後、マストの上に着地して撫でて欲しそうに頭を突き出した。
「かーくん、甘えん坊なのは変わらないわね。」
彼女はやれやれといった顔をしながら、かーくんの頭を優しく撫でる。
「貴女、かーくんを知ってるの?それにこの娘、よく見たら海兵さんね?」
ソラはコックピットからゴーグルを外して立ち上がりながらイスカを見ると、目の前の少女が着る白いコートは海軍将校の証たる海軍コートであることに気付いて目を丸くする。
「かーくんに乗ってるってことは、貴女がもしかしてゴジ君のお母さんですか?はじめまして、私は海軍本部少尉イスカと言います。」
イスカはソラに気付いてサーベルを腰の鞘に納めながら頭を下げた。
ゴジはかーくんをソラの元へ送る前にジェガートの訓練所で調教していたので、イスカを始めジェガートの全員がかーくんを知っているのだ。
カモメという生き物は外敵から身を守る為に群れで行動する生き物であり、かーくんにとってゴジは群れのボス。ジェガートは群れの仲間達であり、かーくんもジェガートの仲間達によく懐き、人懐っこい性格のかーくんはジェガートでも大人気だった。
「あら、ゴジを知ってるのね?確かに私はヴィンスモーク・ソラ、ゴジの母親よ。もしかしてジェガートの方かしら?」
「はい。私はギオンさんの部隊ですけど、息子さんにもよくしていただいてます。」
ソラは丁寧に頭を下げるイスカを見て、ゴジを知るイスカに大興奮している。
「イスカちゃ…」
「お母さん! 見つけたわよ!!」
ソラはかーくんの背中から降りてイスカの名前を呼びながら近寄ろうとした時、遥か上空から自分を呼ぶ声に反応して振り向いた。
「あら? レイジュじゃない…どうしたの?まだお昼じゃないわよ。」
ソラは自分の目の前に文字通り飛んで来たレイジュの登場に目を丸くするが、まだ昼にもなっていないので、迎えに来た理由が分からなかった。
「どうしたのじゃないわよ……本当にもう…。」
レイジュは無事そうなソラを見てホッとしている。
全速力で空を駆けてようやくソラに追い付いたレイジュが見た光景は、ソラがかーくんと2人?で海賊船に向かう姿だから慌てたが、海兵と一緒にいる事に気付いてホッとしていた。
「それよりも聞いてよレイジュ! この人、イスカ少尉って言うんだけど、ゴジと一緒に働いてるんだって!?」
ソラは興奮してイスカを指差すが、イスカ程の海兵を知らない方がこの世界で暮らす者にとって少ないだろう。
「はっ?イスカ少尉って、まさか”釘打ち”のイスカ!?そんな有名人がなんで東の海にいるのよ?」
凶悪な海賊に怯える人達にとって海軍はまさに希望。その中でも二つ名持ちの海兵ともなれば有名人であり、その上イスカ程の美貌があれば知らない者の方が少ない。
「イスカ少尉、はじめまして私はレイジュ。ゴジの姉よ。」
レイジュも目の前にいる海兵がゴジの先輩と知って興奮して、イスカの右側に回って彼女の右手を取る。
イスカは面倒なのが一人増えたと思いながらレイジュにも挨拶を返す。
「よろしくお願いします。貴女が噂の”戦女神”ポイズンピンクですね。色違いのお母様の衣装デザインはもしかして海の戦士ソラですか?」
イスカはレイジュの服装を見て、“第四勢力”と呼ばれるジェルマ王国のポイズンピンクだと気付いたが、レイジュと色違いの白色の衣装を着るソラのことは知らなかった。
「イスカちゃん、正解よ!ゴジが私の分も作ってくれたのよ。すごいでしょう?」
ソラはレイドスーツがイスカによく見えるように両手を広げるが、イスカはその布面積の少なさに引き気味である。
「水着みたいね。えっ……そのレイドスーツってゴジ君が作ったの?」
しかし、イスカは何よりもそのレイドスーツの製作者を聞いて驚いていた。
「ちょっとお母さん!!」
レイジュはイスカな反応を見て、慌ててソラを注意するが、ソラはは詰め寄ってくるレイジュに対して、舌をペロッと出して反省の意を示す。
「あっ…これって秘密だっけ?」
腰に当てるだけで一瞬で着用出来る上、着るだけで超人的な能力を手に入れ、空や海を自由に飛び回ることの出来るレイドスーツは門外不出。製作者すら完全極秘の情報である。
「ええぇぇーーっ!! レイドスーツを作ったのってゴジ君!?ちょっと…待って……彼がウチへ来たのに10歳くらいでジェルマ66が活躍を始めたのも同時期だったわよね……」
ジェガートの一員であるイスカはゴジがヴィンスモーク家の王子でジェルマ66のパーフェクトゴールドであることは知っているが、ゴジがジェルマ66が着るレイドスーツを作った事は知らなかった。
そしてゴジが海軍に入った時期とジェルマ66が”悪政王”アバロ・ピサロからロジア王国を救った時期を考えると、レイドスーツを作ったゴジが幼すぎる事に驚いている。
「もうお母さんは…はぁ〜そうなの。ゴジは10歳でレイドスーツを完成させた天才よ。でも、これは秘密なのよ。黙っててくれないかしら?」
レイジュはイスカの顔の前で両掌を合わせて拝むように目を閉じる。
「私もゴジ君の不利になるようなこと言うつもりないから安心して。でも、納得したわ。だから、あの天才科学者ベガパンクと意気投合できるのね。」
イスカはレイジュの提案を首を縦に振って了承し、海軍本部基地でベガパンクと笑い合いながら怪しい研究を行った末、平和主義者を完成させて大佐に昇進後、僅か数ヶ月で准将に昇進した事を思い出した。
「イスカちゃんは何故ここにいるの? もしかしてゴジも来てるの?」
ソラはイスカが居ることでゴジも居るかもしれないと興奮していた。サンジに会えた翌日にゴジにも会えるかもしれないとワクワクしているのだ。
「お母さん、ゴジはアラバスタ王国に行くって言ったでしょ?」
「その通り。話した通り私はゴジ君の第二部隊とは別の第一部隊所属なの。私は少し気になる海賊がこの海に現れたって聞いて様子を見に来ただけです。」
「もしかしてその海賊って“ノコギリ”のアーロンのこと?」
レイジュはイスカの正義もトラウマも知らないので、海軍本部から連絡を受けていたコノミ諸島を支配する魚人海賊団の船長“ノコギリ”のアーロンがイスカの気になる海賊かと思ったのだ。
「えっ? アーロン?」
対するイスカは“ノコギリ”のアーロンも魚人海賊団の事も知る由のないことだったので、小首を傾げる。
「あら違うのね。私達は海軍本部から要請連絡を受けて、長年コノミ諸島を支配して島の人達を苦しめている魚人海賊団を捕らえに行くところなの。」
ソラの話を聞いたイスカは真剣な顔でサーベルを鞘ごと左手に持って決意を固める。
「なるほど。私も一人の海兵としてその話を聞いた以上引けない。私も同行させてください!!」
レイジュはイスカの提案を笑顔で受け入れた。
「あら、それは助かるわ…。魚人海賊団へ攻め込む時にイスカ少尉はお母さんとかーくんに乗ってくれるかしら?コノミ諸島へ船で行くと海中から沈められちゃうらしいから空から攻めるつもりなのよ。」
レイジュは身振り手振りを交えながらイスカに説明した。
イスカ程の海兵がいれば母の護衛を任せられる上、海兵であるイスカがいれば魚人海賊団を滅ぼした後の後始末を任せられるから有難かった。
「分かったわ。おまかせあれ!!」
イスカは海兵らしく微笑みながら右手をピンと伸ばして斜めに額に当て、ビシッと敬礼する。
◇
イスカが拿捕したリロブ海賊団を東の海の海軍支部に引渡した後で、レイジュとソラはイスカを連れて戦艦“女神”に戻って一息ついていた。
「あと2、3日でコノミ諸島へ着くはず……あら、ゴジの電伝虫が鳴いてるわ!」
レイジュの持つゴジのような髪型をした電伝虫がジリリリ……と鳴いてるのを見て、イスカとソラは同時に叫ぶ。
「「私のことは秘密にして(下さい)ね。」」
レイジュの発言に息の合った返事を返したイスカとソラは顔を見合わせて苦笑いし合う。
「「あははは…。」」
どうやら…ソラとイスカは各々理由があってゴジにここに居ることがバレるのは嫌なようである。
「へっ…?」
レイジュは2人の反応が理解出来ずに、間の抜けた声を出して目を丸くする。
「だってぇ…ゴジに言ったら絶対ダメって言うもの。私だってかーくんがいれば戦えるわよ!ねぇ〜かーくん♪」
「ア”ァーア♪」
ソラはそう言って、任せろと言わんばかりのドヤ顔をしているかーくんの頭を撫でている。
「ゴジ君は私がジェガートから離れてここ東の海にいるのを知らないんです。彼はアラバスタ王国で凄い大物を追っているから余計な心配をさせたくないわ。」
イスカは、ゴジがバロックワークスなる組織を探っている事を知っている。
場合によっては王下七武海クロコダイルと敵対する可能性すらある事を知り、自分が所属する第一部隊はそのバックアップする為に待機しているはずである。
しかし、イスカはそれが全て分かった上で自分の正義を優先してここへ来ているのだ。
「はぁ…分かったわよ。」
レイジュは2人の理由を聞いて、イスカの理由はまだ理解出来るが、我が母の理由は単純にゴジに怒られるのが嫌だという子供のようなわがままだと知って呆れる。
しかし、何だかんだ母に弱いレイジュは受け入れてアラバスタ王国上陸前に連絡してきたゴジに2人のことを伝えなかった。
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