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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第七十話

 ソラは酷く申しわけなさそうな顔をするゼフを見て薄く笑った後でロジア王国を救ったあの日見た数十枚の写真を取り出す。


「うふふっ。それはこれを見たからですよ。」

「これは…写真?」


 ソラが差し出した写真の数々は客に扮したジェルマ王国の工作員の隠し撮りの物だが、幼いサンジが必死で鍋を振るったり、仲間のコックと取っ組み合いの喧嘩したり、ゼフと顔を突き合わせていがみ合ったりしている姿が写っている。

 そして、その写真に写るサンジの顔は生き生きとして楽しそうなモノばかりだった。


「息子がこんなに楽しそうにしている姿を見て、勝手は承知の上でそのまま預けさせてもらいました。ご挨拶が遅れたことは本当に申し訳ありません。」


 ソラは立ち上がって深く頭を下げた。

 
「あ〜いや。俺もサンジと過して毎日楽しかった。心遣い感謝する。サンジには俺の全てを教えてある。」


 ゼフは王妃に頭を下げられて、タジタジになりながらも、自分にサンジを育てさせてくれた感謝の気持ちを吐露する。


「はい。全て知ってます。あんな立派に育てて下さって心から感謝しております。」


 ソラは再度深く頭を下げる。

 ジェルマ王国は定期的に工作員を客として来店させてサンジの様子を探っており、料理だけでなく、恐竜時代から決まっている鉄則である“女は蹴っちゃならねぇ”わや“赫足”と謳われた彼の蹴り技までもサンジが身につけているのを知っている。


「サンジはもう料理人として一人前だ。何処でもやって行ける。アイツを連れて帰るのか?」

 
 ゼフは自分に頭を下げ続けるソラの頭の旋毛を見ながら、腰の低い王妃もいるもんだと思いながら一番気になっていることを投げ掛けると、ソラは頭を上げてゼフを見る。


「いえ、あの子がそれを望まないでしょう。知ってますか?あの子にはここを継いで、世界一のレストランにするという新たな夢があるみたいなんです。」

「まぁ、アイツはウチの副料理長だから、順当にいけば当然、次期料理長はサンジだな。」


 ソラは息子の夢が叶うことを聞いて嬉しそうにしている。


「まぁ…それは良かった♪」


 ゼフはそんなソラに言わなくてはならないことがあった。少し顔を顰めながら彼女に文句を言われる事を承知でそれを告げる。


「でも、俺はサンジにここを継がせる気はねぇぞ。」


 ゼフの話を聞いたソラは、ついさっき愛する息子の夢を聞き、それが叶わぬ夢と知って何故か納得いったと顔をしながら微笑む。

 何よりもゼフがサンジことを想って、息子を本当の夢に導こうとしてくれようとしてくれている事に気づいて嬉しくなった。


「うふふっ…やっぱりあの子の夢は別にあるのですね…。」
 

 ゼフは思っていたソラの反応と違うことに驚きながらも、やはり母親とは凄いものだと感嘆する。
 

「気付いてたのか? 流石は母親と言ったところか…。」

 
 ソラはサンジが自分に語った夢は彼の願いであって本当の夢ではない事になんとなく気付いていた。

 気付いた理由なんて説明することは出来ない。

 だだサンジの語る夢を聞きながら、これは息子の本当の夢ではないと直感しただけである。
 

「オーナーゼフ、良ければあの子の本当の夢を教えてくれますか?」

「王妃様はオールブルーって知ってるか?」

「オールブルー?それがあの子の夢?」


 ゼフは一呼吸おいてから、かつては自分が夢見たオールブルーについて説明する。


「あぁ。オールブルーってのは東の海(イーストブルー)西の海(ウエストブルー)南の海(サウスブルー)北の海(ノースブルー)と分かれている世界中の海の魚が一箇所に集まっている海の事で、海のコックの楽園なのさ。」

 
 サンジの夢を語るゼフの顔は、他人の夢を語る人の顔ではなく、自分の夢を語る人のそれ…。

 だからソラは彼の表情からある事に気付く。


「まさか…その夢は……オーナーの?」

「そうだ…俺の夢だった。そんな海が本当にあるのかどうかすら分からないが、でも俺は偉大なる航路(グランドライン)でその可能性を見た。サンジは俺と同じ夢を持っていたから助けて全てを教えたのさ。俺は自分が叶えられなかった夢をあの子に託した。でも、サンジは優しすぎる。俺自身があの子の夢の足枷になるとは思いもしなかった。」
 

 心の内を語ったゼフは寂しそうな顔をする。

 全ては将来偉大なる航路(グランドライン)に挑んで、オールブルーを見つけるというサンジの夢ためにゼフはサンジに料理、戦う術、航海術全てを教えてきた。

 しかし、サンジは自分の予想の斜め上を行き、高齢の自分を心配してオールブルーの夢を諦めようとしているのだ。

 
「あの子らしいですね…でも、あの子がここにいたいという気持ちは本物だと思っています。だから私はあの子を連れて帰りません。」


 ソラはいつも自分を心配してくれたサンジを思い出して、本当に優しい子供だと誇りに思いながら、ゼフの気持ちを察して寂しそうな顔をする。

 そして、愛する息子の気持ちを考えながら、ゼフに自分の意思をハッキリと伝える。


「本当にいいのか? 俺はサンジを預けてもいいと思える奴が現れた時、俺はあの子の背を押すぞ。例えそれが海賊であろうともな。」
 

 ゼフはサンジから聞いて海軍本部准将 “麒麟児”ゴジが実弟である事を知っているし、ジェルマ王国が海賊狩りとして名を馳せている事も知っている上でソラにサンジを海賊にする可能性も示唆する。
 

「はい。よろしくお願いいたします。」


 ソラはゼフの思いにも気付いており、息子を本当に愛してくれているゼフに深い感謝を込めて、深く深く頭を下げる。


「あんたも変わってるな。」


 息子を海賊にするかもしれないと言っているのに、自分に頭を下げる母親を見て呆れながらもゼフは頬を緩ませる。


「そういえば…息子を育ててもらったお礼を…「止めてくれ」…えっ?」


 ゼフはソラの顔の正面に掌を向けて、彼女の言葉を遮った。

 ソラはゼフの為に多額の謝礼金を用意していた。それこそこのバラティエをもう1隻買ってもお釣りがくるほどの額である。

 これまで息子を育ててもらい、これからも彼が旅立つその日まで面倒を見て貰うのだから母親としては当然の義務である。


「礼ならもう貰いすぎなくらいもらっている。サンジと出会ってこれまで過ごした日々が俺にとっても何よりの礼だ。あの子が旅立つその日までは精々、礼を貰い続けるさ。」
 

 ゼフの言葉を聞いて、ソラは涙を流しながら本当に嬉しそうにする。


「本当に…貴方にサンジを育ててもらってよかった。」


 ソラとゼフは最後に笑顔で互いに固く握手を交わしてから、揃って部屋を出た。

 そこに居るのは大国の王妃と元海賊ではなく、一人の息子を愛する母と養父の姿だった。
 

 ◇

 
 ソラとゼフが部屋を出る直前に、扉の前から音もなく立ち去って甲板に逃げた二つの影があった。


「あんたの育てのお父さんは本当にいい人ね…?」

「あぁ…クソジジイは俺の憧れの人だ。」


 サンジとレイジュである。2人は今、海を見ながら甲板に並んで座っている。

 サンジは自分の母とクソジジイ(大恩人)が二人で何を話しているのか気になって聞いていたら、二人の話を聞いて声を殺して滝のような涙を流していた。

 ゼフとサンジは互いを「クソジジイ」・「チビナス」と呼び、名前で呼んだことはなく、顔を会わせばいつも喧嘩ばかりだったが、サンジもそんな日々の思い出がゼフ同様に自分の中で宝物のように輝いているのだ。


「オールブルー…見つかるといいわね?」

「グズっ…絶対に見つけるさ…うぅぅ……。」


 サンジは体育座りをして海を見ながらオールブルーに思い馳せていると、レイジュが笑顔で自分の顔を覗き込む。


「ねぇ…サンジ。私が手伝ってあげようか?」

「う……はっ…!?」


 サンジはレイジュの甘い誘惑を受けて、彼女の顔を見ながら反射的に「うん」と言おうとした自分に気付いて、慌てて両手で自分の両頬をパンッと叩いて気合いを入れる。

 
「きゃっ…! いきなりどうしたの……?」


 レイジュはそんなサンジの様子にビクッとする。

 サンジはあの日イチジ達が自分の夢を叶える為に父に進言してくれた言葉を思い出していた。


『父上、王には王たる条理があるのならば俺達は王族としての勤めを果たしてみせます。しかし、どうかサンジとゴジの夢は叶えさせてあげて下さい。』


 ヴィンスモーク家(家族)には王族としての責務がある。

 自分は家族の優しさでその役目を放棄することを許された人間。自分と同じ立場であるゴジは自分自身の力で“麒麟児”と呼ばれ史上最年少の海軍本部准将となり、今でも多くの人を助け続けている。

 “王道”を歩む家族と“仁道”を歩むゴジ。彼等の生き方を誇りに思うからこそ、彼らの歩む道を自分のワガママで妨げるわけにはいかない。そんな誇り高い家族に送り出された自分は胸を張って彼らに顔向け出来るように自分自身の力で『本物の夢』を叶えなくてはない。

 サンジは慌てて涙を袖で拭ってから、タバコを取り出し、火をつけて一息吸って心を落ち着かせる。
 

「ふぅ〜…。ありがとうレイジュ。でも、これはクソジジイと俺の夢だから、俺が自分の力で叶えなくちゃならねぇんだ!」


 そして何よりもゼフ(大恩人)が自分に料理以外のことも教えてくれたのは、サンジが自分自身で『本物の夢』を掴める力を付けさせる為であることを思い出した。

 サンジは自分を想って愛してくれている家族達の為に一度は諦め掛けた『幻の海オールブルーを見つける』という『本物の夢』を再び夢見る事を決意した。


「そう…。強くなったわね。サンジ。」


 レイジュはもう自分に頼ってくれない弟に一抹の寂しさを感じながらも、弟の確かな成長を感じて、弟の頭を優しく撫でた。 
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