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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第六十九話

 しかし、皆の期待する喧嘩はソラの悲痛な声が店内に響き渡ると唐突に終わりを迎えることになる。


うちの子(サンジ)はもしかして…皆と仲良くないのかしら……?」


 両手を胸の前で組んで祈りを捧げるような格好で、悲痛な声をあげるソラを見たサンジとコック達は顔を見合わせた後、全員で肩を組んで仲良しアピールする。
 

「「「ボク達はサンジ君とは大の仲良しです!!」」」


 ソラは笑顔で肩を組むサンジとコック達の姿を見て、花が咲いたような笑顔になる。


「そうなの?よかったわ。皆さんこれからもうちの息子と仲良くしてくださいね。」

「「「勿論です!お母様!!」」」


 サンジはコック達がまたデレデレした顔で揃って答えるのを見て、仲間達にボソッと悪態を吐く。


「てめぇら後で覚えてやがれ!」

 
 サンジは仲間達の元を離れて、自分の席に戻って再び料理を食べ始めると、料理人達も厨房に戻っていく。


「あの荒くれのコック達を一声掛けるだけで黙らせた。」

「天使だ!」

「すげぇえええ!!」


 客達は期待していたコックたちのマジ喧嘩が起こらずに意気消沈するかと思いきや、荒くれのコックたちの喧嘩を止めた天使の登場に盛り上がっていた。

 この出来事は荒くれのコックたちを止める“バラティエの天使”事件として噂になっていったとか……


 ◇



 周りの喧騒など無視してサンジは席に戻ると残った料理を食べながら、レイジュやソラと互いが会えなかった日々の思い出を埋めるように多くの話をしていくとその中でサンジは自分の夢を語る。


「母さん…俺、料理の腕凄く上達しただろ?俺の料理でジジイが作ったこの店を世界一のレストランにしてみせるよ!!」


 彼が料理人を志したのはあの日、病床の母が自分の料理を美味しいと言ってくれたから、そしてあの嵐の日に自分の命を救って料理を教えてくれたゼフに心から感謝している。

 だからゼフの作ったこの店を継いで世界一のレストランにしたいというのはサンジの心からの願いである。


「そうね。本当に美味しかったわ。」

「だろ?自分でも渾身の出来だったと思うんだ!」


 サンジは今日の料理は自身の最高傑作だという自負もあるし、自分の作った冷めた料理を食べてそれは確信に変わっていた。
 

「でも、私が食べた中では二番目ね…うふふっ。」

「二番目だとっ!?母さん、一番は誰が作ったどんな料理なんだ!?」


 ソラの言葉に何故一番ではないのかとサンジは食い気味に問い詰める。

 何よりも自分の最高傑作よりもうまい料理があるならそれを超えて母に一番美味しかったと言ってもらいたい。


「サンジは忘れちゃったかしらね。一番はあなたが私の為に作ってくれたあの日のカレーよ。あれよりも美味しい料理なんて考えられないわ。」


 ソラはサンジの初めて作った料理を今まで一度たりとも忘れた事はない。

 それはサンジも同様であり、母の理由を聞いたサンジは幼い頃に劇薬の影響で床に伏しているソラの為に初めて包丁を握り、キッチンを借りて料理をして作ったカレーを思い出して天を見上げて目頭を押さえる。


「そ…そうか……。ぐずっ…お…俺もまだまだだな。いつかあの料理を超える物を作ってみせるよ!」


 あんなものは今のサンジにしたら食材への冒涜でしかなく、料理なんて呼べる代物ではない。

 魚は内蔵やウコロすら取らず、野菜も皮も剥かずに全てぶつ切りにして、カレーのスパイスすら分からないから色んな香辛料を沢山入れただけ、恐らく食材も全て半ナマだったはずのただの生ゴミ同然の品だが、母がすごく美味しそうに食べてくれていたからサンジは料理人になりたいと思ったのだ。

 ソラのサンジ二人だけの大切な思い出であり、サンジは自分が料理人になりたいと思った思い出を母が覚えていてくれてことが何よりも嬉しかった。
 

「うふふっ…頑張りなさい。そういえば今度ゴジも長期の休暇が取れたらサンジの料理を食べに来たいって言ってたわ。その時には家族全員で食べに来るわね。」


 サンジは“麒麟児”と呼ばれる自慢の弟の姿を思い出す。

 昔から、心を封じられていた兄弟達や心を閉ざしていた父から虐められる自分を助け、母や姉、兄弟達を治療し、父の心を開かせた自分達の家族の英雄(ヒーロー)は、今や世界に住む全ての人の正義のヒーローとなっているのだ。


「それは本当に楽しみだ。何時でも来いって言っといてよ。」

「あの子は本当に忙しいからね…今度はアラバスタ王国へ行くって言ってたわ。」


 ゴジは海軍へ入隊してから、まともに自分の休暇をとっていない。

 正確には休暇をとっても全て訓練や捜査に当てているから、ジェルマ王国にも帰っていないし、仕事以外でマリンフォードから出る事すらない。


「それ今日の新聞で見たよ。あぁ……ビビ王女、一目でいいから会ってみたい!」


 サンジはアラバスタ王国と聞いて、空色の髪を持つ国一番と噂される美人王女の名前を口にしながら思いを馳せて体をクネクネさせる。

「あんたは相変わらずね。まぁゴジも鼻の下伸ばしてなけりゃいいけど……。」

「ふふっ。ゴジは年下には興味無いから多分大丈夫よ。」


 レイジュはサンジの姿に呆れながらも、ビビ王女と会ったゴジもサンジと同じような反応をしないか不安になるが、ソラがそれを一蹴した。

 
「もぐもぐ…ごくっ。それにしても“麒麟児”なんて大層な名前だが、ゴジにはそんな名前すら霞んで見えるな。」

「えぇ。ホントね。」


 サンジとレイジュは自慢の弟の姿を思い浮かべるが、母にとっては等しく愛する子供達である。
 

「うふふっ…。私にとっては全員あなた達全員が自慢の子供達よ。」


 こうして海上レストランバラティエでサンジ達は家族3人再会して短くも充実した時を過ごしていく中でレイジュがある疑問をサンジにぶつける。


「そうだ。サンジ一つ聞きたかったのよ。あなたなんであの嵐の夜にレイドスーツを使わなかったの?」


 レイジュはポイズンピンクとして活躍している為にゴジの作ったレイドスーツの性能をよく理解している。

 レイドスーツさえあれば嵐の海を加速装置で泳ぐ事も出来るし、さらに浮遊装置でまず海に落ちることもなかったはすなのだ。

 
「俺達料理人(コック)は、客に料理を食べさせるのが仕事だ。でもそれは徹底した衛生管理の求められる職場だから、メスキートの爺さんに『厨房に余計な物を一切持ち込むな』って言われてたから、あの日見習いとして厨房に入ってた俺はレイドスーツを持ってなかったんだ。」


 嵐の海に飲まれた日もサンジは客船オービット号の厨房で働いていた為、レイドスーツを始めとした一切の所持品を持っておらず、海へ投げ出される直前に「オールブルーを見つける」と語ったサンジを助ける為に海へ飛び込んだゼフによりからくも一命を取り留めた。

 サンジが乗っていた客船オービット号やゼフが率いていたクック海賊団の海賊船はそのまま嵐の海に飲まれて、メスキートも帰らぬ人となり、この嵐で奇跡的に生き残ったのはサンジとゼフの2人だけである。


「だから、せっかくゴジに作ってもらったのに俺はあの日にレイドスーツを無くしちまったんだが、二人も知っての通りクソジジイに助けられて料理人になれた。だからこの恩は俺の一生を賭けて返すって決めてるんだ。」


 この2人も何も無い無人島に流れ着いてほぼ何も食わずのまま85日という日々を過ごし、ゼフの「海にレストランがあったらいい」という夢をサンジも手伝う事を決めて今日に至る。


「そうだったのね。オーナーゼフいい人ね。」

「でも、メスキートさん惜しい人を亡くしたわ……」


 レイジュとソラはサンジの話を聞いて、サンジの2人への深い感謝の気持ちが痛いほど伝わってきた。

 亡きメスキートの教えもサンジの中でしっかりと生きている。有事に備えて厨房に武器を隠しているコック達が巨大なスプーンや牛刀といった調理道具や食器を武器として使うのは『厨房に余計な物を持ち込むな』という副料理長サンジの命令に従っているからだ。


「俺は料理人としての技術はクソジジイに教わったけど、料理人としての信条はメスキートの爺さんに学んだ。どちらが欠けても今の俺じゃねぇ!」

「ふふっ。そうね。」


 ソラとレイジュは笑顔で語るサンジを見て微笑む。

 サンジはヘビースモーカーの愛煙者であるが、厨房にはタバコも持ち込んでいないし、料理中はタバコすら持ち込まないようにしているほどである。


 ◇
 

 帰り際、ソラとレイジュの元へゼフが来て彼はソラと二人で話したいと提案する。ソラもこれを快諾して今は客室で二人で話すこととなった。


「すまね…いや、すみません…お手間…おてまだまをとらせ…」

「うふふっオーナーゼフ。敬語も前置きも結構ですよ。話しやすい話し方でお願い致します。」


 ゼフが頑張って馴れない敬語を使っている(全く使えていない)のが、おかしくてソラは笑いを噛み殺しながら助け舟を出す。


「っ…。すまねぇ王妃様。敬語なんて生まれて使った事ねぇから苦手なんだ。俺の経歴も調べてるんだろう?」

「“赫足”のゼフ。クック海賊団の船長として偉大なる航路(グランドライン)を1年間航海し、無傷での生還を果たした大海賊でコックとして船長を務めた無類の海賊。さらにコックであるが故に料理をする大切な手を傷つけないように戦闘において一切両手を使わなかったことで有名で、その強靭な脚力と鋭い蹴りは岩をも砕き、鋼鉄にすら足形を残すことが出来たという。そして“赫足”の異名は敵を蹴り倒した時に返り血を浴びて赤く染まった貴方の靴のことでしたよね?」
 

 ゼフはサンジからジェルマ王国の王子である事は聞いていた。

 サンジの姉レイジュが初めてこの店に来店した日から自分の素性がジェルマ王国に全てバレているのは承知していたが、疑問は一つ。


「よく調べてるな。まぁ…俺はそんな大層なもんじゃねぇ…所詮は偉大なる航路(グランドライン)に挑んだ落ち武者の一人。だが、それを知っていて何故サンジを俺に預けたままにしていた?」


 ゼフが知りたかったのは元海賊である自分に愛する息子であり、一国の王子でもあるサンジを預けたままにしていた理由である。

 ゼフは今日の食事風景を見ている限り、彼等が本当に仲のいい家族である事はすぐに分かった。普通であれば自分のような大悪党の元から、愛する息子をすぐに取り返しに来るはずなのだ。

 結果、荒くれ者のである海のコック達に囲まれて育ったサンジは王子とは無縁の海の男に育ってしまったのが、ゼフは申し訳なく思っていた。 
 

 
後書き
この物語のサンジは信条に従って調理中の喫煙はしません。というかよく考えたらそれが普通ですよね(笑) 
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