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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第六十三話

 つるはゴジからの電伝虫が鳴くとすぐに受話器をとった。


『おっ……婆さん、早いな。もしかして連絡来るの待ってたか?』


 ゴジはクロコダイルとの待ち合わせ場所に行く前にカリファを通じてつるには連絡を入れており、つるはゴジからの連絡を待っていたのだが、本人に言われると少し恥ずかしい。


『五月蝿いよ。それだけ元気って事は無事に終わったんだね。ゴジ…怪我はないかい。』

『はははっ!俺が怪我するわけないだろう。クロコダイルも確保して無傷でピンピンしてるよっ!』

『そうかい。それは流石だねぇ…』


 つるはゴジに怪我無いことにホッとしながらも、王下七武海相手に無傷で勝利を納めた事には呆れる他ない。


『で、二つ程頼みたいことがある。』

『そっちが本題だね…言ってみな。』

『まぁな。一つ目はクロコダイルとバロックワークスの幹部”三名”の護送だ。俺達はまだバロックワークの残党狩りでこの国に残るから護送船の手配を頼みたい。』

『大丈夫。それなら連絡を受けた時点で、既にギオンがそっちに向かってるよ。三日後には着くはずだよ。』

 
 つるはゴジからクロコダイルをこれから拿捕すると連絡を受けた時点でギオンに指示を出していた。

 既に必要なくなったが、王下七武海率いる組織との激突にギオンの力が必要になるかもしれないという判断からである。


『流石、婆さんだな。』

『あんたの事だから、もう一つはニコ・ロビン絡みだね?』

『っ…!?よく分かったな。』


 つるは受話器越しにも、ゴジが息を飲む声が聞こえて、自分の読みが正しい事を悟る。


 ──分からないわけないだろう。


 ロビンのことをゴジに伝えた日から、優しい彼がロビンを救うために面倒事を押し付けてくるだろうと覚悟していた。


『ニコ・ロビンをどうする気だい?』

『婆さん。俺はアラバスタ王国乗っ取りを企てたクロコダイルに対する証言及びクロコダイルが組織する犯罪組織バロックワークスの残党狩りに際して、彼とビジネスパートナーであり、バロックワークス副社長でもあるニコ・ロビンに対して司法取引を申し込むつもりだ。』


 司法取引とは、罪の減刑等の処分上の利益と引換えに捜査あるいは裁判に協力することを指し、コアラの母親等が海軍にフィッシャー・タイガーの情報を提供して、コアラが奴隷から開放されたことも司法取引に当たる。

 ゴジはこれをロビンに適用しようと考えた。

 バロックワークスの徹底した秘密主義のお陰で、社員は未だに社長であるクロコダイルや幹部のMr.1ペア、Mr.2が逮捕された事すら知らないはずである。

 日々、社長であるクロコダイルに変わって、いつも司令を出していた副社長であるロビンの協力があればバロックワークスを完全に壊滅出来るから司法取引の相手として一番相応しい相手である。
 

『なるほど、考えたね。でも、ニコ・ロビンに多額の懸賞金が掛けられている理由は話しただろう?』


 もちろんゴジは気付いている。

 ロビンが、ハグワール・D・サウロ中将の罪を着せられて懸賞金を掛けられた理由は世界政府が隠蔽している真実の歴史が記載された"歴史の本文(ポーネグリフ)"を読み解けるからである。

 そう…彼女はただ人には読めない文字が読める。それだけで咎人にされたのだ。
 

『あぁ。五老星の爺様達だろ?そっちも考えはあるから2日だけ時間をくれ。爺様達を納得させる方法は考えてある。』

『っ…!?ふぅ〜…全くどんな考えか知らないけど、どうせろくでもないんだろうね。そしてその交渉は私に任せる気だろ?本当にババア使いの荒い孫だね!』


 つるはこれから自分がしなくてはならないセンゴクや五老星に対する説得交渉を想像すると、文句の一つも言いたくなるものだ。


『はははっ!ありがとう婆さん。苦労を掛けるな。帰ったらまた背中を流してやるよ…愛してるぜ!』


 ゴジが「愛してる」の言葉を使う時は大体面倒事を押し付ける時で、愛の囁きとは裏腹に一切譲歩しないという意志を示す時に使われる。

 そして、これはゴジが真に信頼している相手にのみ伝える言葉であることもつるはよく知っている。


『はぁ…はいはい。分かったよ…何とかすればいいんだろう……。』

『はははっ!任せたぜ。』


 つるは既に通話の切れた受話器を置いて一呼吸つく。

 いつもこうやってゴジから面倒事を押し付けられているので、彼への対応が甘すぎる事は分かっている。

 彼は正直海軍としては止めて欲しい事も平気で頼んでくるが、常に“絶対的正義”に基づく行動である為ついつい面倒事を引き受けてしまう。

 ゴジとの通話を終えたつるはその足でセンゴクの待つ元帥室に向かう。
 

「センゴク、邪魔するよ。」

「おつるちゃんどうしたんだい?またゴジか?」


 最近はつるが元帥室に訪れる用事の8割はゴジ関連なので、センゴクは今回もゴジが何か面倒事を持って来たのだと確信している。


「よく分かってるじゃないか。」


 つるが来た理由はまさしくそれなので否定出来ずに苦笑いを浮かべると、センゴクはそれを見て深いため息を吐く。


「はぁ〜…ついこの間、アラバスタ王国に行くと発表したときも騒ぎになったな。で、あのバカは今度は何を仕出かした?」
 

 ゴジが独自にコブラ王と面会許可を取って、アラバスタ王国へ向けてマリンフォードを発った後、センゴクは報道対応や世界政府加盟国であるアラバスタ王国へのゴジの来訪を世界政府へ報告したりと大騒ぎだった。

 ゴジは頭もキレるし、実力もあるが、前しか見えないのが玉に(きず)であり、たいていの報告はいつも事後となって対応に追われる。しかし、ソツのない捜査と最上の結果を持ってくるので評価せざる得ないが、三大将に並ぶ実力を持つと言われる彼が未だに(・・・)准将の地位にいるのは、報告の遅れや身勝手とも取れる行動により評価を下げざる得ない為である。
 

「ゴジ率いるジェガート第二部隊がダンスパウダー使用の疑いで王下七武海クロコダイルとその一味を拿捕したよ。」


 ガタッと音を立てて、センゴクは慌てた様子で立ち上がった。


「なんだと!おつるちゃん、ゴジがアラバスタ王国でバロックワークスなる組織を探っていたのは報告が来てるが……まさか…!?」

「そう。そのバロックワークスを立ち上げたのが、王下七武海クロコダイル。ダンスパウダーを載せてアラバスタ王国近郊を航海していた人工降雨船にクロコダイルと共に恩赦を受けた部下もいたから間違いないよ。ちゃんと乗組員も船も確保してる。それにゴジが組織壊滅の為、司法取引を持ち掛ているクロコダイルのビジネスパートナーがいるよ。そのビジネスパートナーの話ではクロコダイルはアラバスタ王国の乗っ取りを企んでいたようだから証人としての価値があり、残党狩りに際しても力を借りるそうだよ。」


 センゴクはつるの話を聞いて、思案しながらゆっくりと席に座り直す。

 ダンスパウダーの使用の証拠と世界政府加盟国の一つアラバスタ王国への乗っ取り容疑とその証人の存在。十分過ぎる証拠は確かに揃っていた。


「そうか…流石はゴジだな。捜査に抜かりはないようだ。確かにそれだけの証拠が揃っていればクロコダイルの王下七武海剥奪は免れないだろう。それで…ゴジがその恩赦を与えるビジネスパートナーとは誰だ?私の記憶ではゴジが司法取引を持ち掛けるのは初めてのはずだ。」
 

 センゴクは自分の教え子であるゴジの抜かりのない捜査に満足しながら、ゴジが司法取引を持ち掛けた相手が気になった。

 幹部を捕えた時に恩赦を与える代わりに船長の居場所を吐かせる等、司法取引自体はかなり頻繁に行われているが、ゴジが司法取引により恩赦を与えるのは今回が初めてであり 、王下七武海のクロコダイル程の男がビジネスパートナーに選ぶ人間だから大物であることに違いないので余計に気になると同時に嫌な予感がしてならない。
 

「あんたもよく知る。"悪魔の子"ニコ・ロビンだよ。」

「なっ……!?くそっ!あのクソガキめえええ!?なんでそんな大事な事をいつも、いつも後で報告してくるんだぁ!うっ…い…胃が痛い。」
 

 センゴクは持病の胃潰瘍により腹を押さえて蹲り、引き出しから薬を取り出して数粒を一気に口に放り込む。

 ロビンは世界政府から必ず始末するか逮捕しろと言われている女性でセンゴクとも関係のある女性だった。


「しかしね…センゴク。クロコダイル程の大物を尻尾を掴む為に司法取引を持ち掛けるのは悪い判断じゃないよ。」

「そんなことは言われなくても分かっている!!しかし、相手が相手だ。世界政府が危険視するニコ・ロビンを易々と野に放つわけにはいかない。」


 センゴクは今度は頭を抱えている。

 かつてオハラにバスターコールを掛けた時、当時大将であった自分がCP-9(シーピーナイン)長官に預けたゴールデン電伝虫によって発動されたものだから、当然、世界政府がどれ程オハラを危険視していたか承知しているのだ。


「ゴジが言うには五老星を納得させる為に2日だけ時間が欲しいらしいよ。」

「あのクソガキのやる事だ。どうせろくなことじゃないんだろう……嫌な予感しかない。はぁ、ゴジの準備が整い次第報告に行くとしよう。全く……五老星がなんと言うか……。」


 センゴクもつると全く同じゴジの考える事はろくでもない事と思いながらも、つる同様に何だかんだ何とかなるのだろうと確信する程度にはゴジを信頼していた。

 つるはセンゴクの説得に時間がかかると思っていたのに、あっさり承諾した事に拍子抜けする。


「センゴクえらくあっさり引き下がるね。」

「ふんっ……どうせ何を言っても手遅れなのだ。我々で五老星を説得するしかあるまい。」


 センゴクはゴジへの暴言や態度とは裏腹にどこか憑き物が落ちたような顔をしている。


 ──ニコ・ロビンの事実を知ってなお、正義に絶望せずに正義に従ってニコ・ロビンを救うか……本当に強い子だ。


 センゴク自身もオハラの悲劇で正義に悩んだ一人だった。

 世界政府主導によるオハラに対するバスターコールで多くの民間人を虐殺して、唯一の生存者である8歳の少女に無実の罪を着せて咎人にした事を心のどこかで悔い、自分が咎人にした少女を自分の正義に殉じてゴジが救おうとしている事に運命を感じている。


我々(・・)ね……あたしもしっかり頭数に入ってるだね。」

「当たり前だ。ゴジはおつるちゃんの部隊なんだから、引き摺ってでも連れていくよ。」


 つるは元々五老星への説得に付いて行く気だったから特に問題はないが、とうとう王下七武海の悪事を未然に防いだゴジの成長を振り返ってしみじみ思う。


「ふぅ……子供の成長は早いもんだね。」

「全くだ。おつるちゃん、あのバカによくやったと伝えてくれ。」


 センゴクは話は終わりだという態度でつるに背を向けてそう言い放つ。

 つるはセンゴクのゴジを労う言葉がアラバスタ王国を救ってクロコダイルを拿捕したことを指すのか、冤罪を擦り付けられたニコ・ロビンを助けようとしている事を指すのかはたまた両方か分からかないが、一つだけ確かなことがある。


「センゴク、あんたが直接伝えてやればいいのに、あんたも難儀な性格だね。ふふっ……」


 それは人を褒める事が苦手で憎まれ口ばかり叩くセンゴクの性格である。


「うるさいっ!早くゴジに伝えてやれ。」

「はいはい。」


 そう言って元帥室を後にしたつるは自分の執務室に帰る道中、海軍本部の女性風呂ではじめてゴジと出会った日の事を思い返していた。


『あんたが、ゴジだね?なんで子供がここにいるだい?』

『おっ……!?海軍本部には美人なお姉さんだけじゃなくて婆さんもいるのか?俺が背中流してやるからおいでよ。』


 女性風呂に入っている子供を注意しようとしたのに彼の優しい笑顔に毒気を抜かれたものだ。


 ──あれからもう6年。全く…ゴジと出会ってから、今日まで退屈した試しがないよ。 
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