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Fate/WizarDragonknight

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フルールドラパン

「さあ! 私の可愛い妹たち! この町を案内してあげる!」

 テンションが高いココアは、三人の新しい少女たちを連れて見滝原西の木組みの街を闊歩していた。
 美炎、清香、そして美炎と繋いだ手を片時も離さないコヒメ。
 そして、ココアに両肩を掴まれているチノを、可奈美は隣から眺めていた。

「ココアちゃん、とっても嬉しそうだね。妹が増えて嬉しそう」
「ココアさんは、年下の女の子だったら誰でもいいんです。私だって……」
「あれ? チノちゃん?」

 俯くチノの顔を、可奈美は覗き込んだ。
 すると、自らの発言を理解したチノは、可奈美から顔を反らした。

「な、何でもありません。何でもありませんから……!」
「ええ?」

 顔を赤くするチノがおかしく、可奈美はクスクスと笑っていた。
 一方、チノから手を放したココアは、丁度後ろの三人へ笑顔を見せた。

「どこに行きたい? それとも、お茶にする?」
「お茶……あの、もしかして美味しいカフェとかありますか?」

 ココアの言葉に、真っ先に顔を輝かせる清香。
 彼女の質問に、ココアは「お姉ちゃんに任せなさい!」と答えた。

「この近くだったら、私の友達がいるオシャレなお店があるよ!」

 ココアはキラキラとした笑顔で、近くのお店へ導いた。
 モダンな雰囲気を醸し出すお店。無数の窓から見える店内は、繁盛しているようにも見える。

「あそこって確か……」
「可奈美、知ってるの?」
「うん。以前クリスマスの時に来た子が、あそこで働いているって言っていたような……」

 可奈美が考えている間に、ココアが店の門戸を叩いた。

「六人分空いてる? ありがとう! みんな! ここに入っていこう!」

 ココアの掛け声で、午前はそこでゆっくりすることになった。
 戸を潜ったと同時に、まったりとしたハーブの香りが、可奈美の鼻を挿す。

「うわあ……すごいいいところだね」

 思わず可奈美がそんな感想を漏らすほど、店内は美しかった。
 シックな白い壁と、統一された緑の色合いが、見るだけで心を穏やかにしてくれる。深呼吸するだけで、何らかの効能が肺から全身に行き渡るようだった。

「えっとここは……」

 可奈美は改めて入口から店名の看板を見上げる。
 記されている英名を読もうとするも、

「えっと……何?」

 読めない。

「ココアちゃんココアちゃん! ここ、何て名前の……」

 可奈美はココアに尋ねようとする。だが、すでに店内で彼女は店員の一人を掴まえて話し込んでいた。
 金髪の店員。お嬢様を思わせる風貌の彼女は、ココアのハイテンションぶりに最低限の対応のみで会話を成立させている。以前クリスマスパーティの時にも会った彼女は、間違いなくココアの友人だった。
 こちらを見てくれないココア。だが、こういう時のココアの惹きつけ方を、可奈美は心得ていた。

「お姉ちゃ~ん! 助けて!」
「はあああああい♡」

 お姉ちゃんの一言で、ココアは凄まじい笑顔でこちらに飛んできた。その勢いに、ココアの友人が驚いて「ギャアアアア!」と悲鳴を上げた。

「お姉ちゃん、ここ、何て読むの?」
「うふふ。可奈美ちゃん。ここは……」
「フルールドラパンへようこそ、お客様」

 ココアの解説を、金髪の店員が奪っていった。
 ニッコリとした営業スマイルの店員。まさにメイドといった白黒の衣装に身を包んだ彼女は、慣れた手つきで可奈美を店内へ案内した。

「こちらは初めてですか?」
「はい! ココアちゃんの……お姉ちゃんの紹介です!」
「お姉ちゃん……」

 すると、店員は呆れた表情をココアへ向けた。

「ココア……アンタ、この子にまでお姉ちゃんって呼ばせてるの?」
「えへへ……」
「褒めてない!」

 店員がココアへツッコミを入れる。
 そんなやり取りを続けている二人だが、可奈美の目線はやがて店員の頭部に移っていく。

「ねえっ! そのヘッドドレス可愛い!」
「ああ、これですか? これは店長の趣味で……」

 可奈美の目線は、次に店員の顔に降りていく。
 やはり、お嬢様のような金髪。人形のような可愛らしさに、可奈美は思わず持って帰ってしまいたいという衝動に駆られた。

「ねえ、確か前クリスマスの時に会ったことあるよね? 私、衛藤可奈美。前は自己紹介できなかったよね」

 すると、店員は足を止め、目を細めて可奈美を見つめた。

「ああ! ケーキをものすっごく大胆に切ろうとした人!」
「ああ……そういえば、そんなこともあったっけ……?」

 可奈美は少し遠い目をしながら呟いた。
 店員は咳払いをして、

「ああ、そうそう。自己紹介だったわね。桐間紗路(きりまシャロ)よ。これからいろいろあると思うけど、よろしくね」
「うん!」

 今度は営業スマイルではない笑顔を見せた、シャロ。
 彼女はそのまま、可奈美を店内へ案内していく。
 そのまま後に続く、美炎、コヒメ。ココアに続いて、座席に付いた。

「あ、あの……っ!」

 遅れて席に座った清香が、目をキラキラとさせながら、シャロへ近づいた。

「ここって、もしかしてあのハーブの取扱数が日本有数のあのフルールドラパンですか!? 見滝原って名前を聞いた時から一度来てみたいと思っていたんです!」
「近い近いですお客様!」

 これまでの会話からは想像できないほど饒舌になる清香。彼女はそのまま、ぐいぐいとシャロへ顔を近づけていく。
 そのまま、清香がシャロへ詰め入るのを横目に、可奈美はココアがコヒメを隣に座らせて抱き着いているのを眺めていた。

「チノちゃんも来られればよかったのになあ……」
「それは仕方ないよ。チノちゃんとハルトさんが今日店番してくれたから、私達もこっちに来れたんだから」
「そうだね……それじゃあ、コヒメちゃんは何にする?」

 ココアはコヒメにべったりと顔を寄せながら尋ねた。
 コヒメはココアと反対側に座る美炎の腕にしがみつきながら、メニューを眺めていた。

「うーん……分かんない……みほのは?」
「え?」

 美炎は苦笑いを浮かべながら、メニューを見下ろす。彼女もまた、メニューを見ても目を白黒させていた。

「あ、あははは……可奈美は?」
「わ、こっち?」

 突然話を振られたことに対し、可奈美もまた笑ってごまかすことになる。

「私がこういうこと詳しいと思う?」
「思えない」
「良かったら、僕が教えてあげようか?」

 突然、可奈美の背後から声がかけられた。
 驚いた可奈美は、背後から肩に顎を乗せた人物に跳び上がる。
 振り返れば、オシャレな恰好をした青年が、「フフフ」とほほ笑んでいた。

「店員さんも忙しいみたいだし、常連の僕がイロイロ教えてあげるよ」

 黒い帽子と、緑と茶色のストールが印象的な茶髪の青年。彼は「ハロー」と可奈美、美炎、コヒメ、そしてココアへ挨拶した。

「あ、お客さん」

 ようやく清香を落ち着かせたシャロが、青年へ「大丈夫ですよ」と声をかけた。

「私が説明しますから。お客様はどうぞ、お戻りください」
「いいからいいから。シャロちゃん。僕もこの可愛い子たちとお喋りしたいし」

 青年はそう言いながら、可奈美の隣に腰を下ろす。

「君たちも、同席していいよね?」
「どうぞどうぞ!」

 ココアが喜んで青年を迎え入れた。

「君たち、若いねえ。中学生くらい?」
「え? その……」
「私高校生だよ!」

 中学生認定されたココアお姉ちゃん(高校生)が涙目で訴える。
 すると、シャロが青年へ耳打ちした。

「ココア、私と同い年なんですよ」
「そうなんだ! ふふ、シャロちゃんって高校生なんだ」
「お客様!?」

 シャロが甲高い悲鳴を上げた。
 青年はまた独特な笑い方をしながら、向かい席のコヒメを見つめる。

「君、可愛いね。誰の妹さん?」
「……」

 すると、コヒメはまた美炎の後ろに隠れた。

「あ~、ほらコヒメ。挨拶しよう?」

 美炎がそう促すが、コヒメはより一層美炎の腕に身を埋めてしまう。
 青年は「あ~あ」と首を振り、

「フラれちゃった。恥ずかしがり屋さんなのかな?」
「そんなことないはずだけど……コヒメ?」

 美炎がコヒメの背中をさすっている。やがて美炎の前に押し出された彼女だが、じっとコヒメは青年の顔を見上げている。

「あれれ? どうしたの? 僕の顔に何かついているかな?」

 青年はクスクスと笑いながら、コヒメを見つめ返す。
 だが、コヒメはじっと青年の顔を凝視して離さない。
 やがて、コヒメはその小さな口を動かした。

「お兄さんも……ちょっと変わってる」
「……?」

 青年のニコニコ笑顔が、少し凍り付いた。
 可奈美には、何となくそう見えた。



「コヒメ、ダメだよあんなこと言っちゃ」

 フルールドラパンから出た美炎は、コヒメにそう注意した。
 あの後、青年と少しお茶の時間を過ごしたが、その間もコヒメはずっと青年を見つめていた。幸い彼も気を悪くした様子はなかったが、ずっと見つめているのはあまり褒められた行動ではない。

「まあまあほのちゃん。コヒメちゃんも、そういうことはいけないって分かってくれたよね?」

 清香が、注意する美炎を仲裁した。
 彼女たちを見ていると、まるで家族連れみたいだなと可奈美が思っていると、ココアが「それじゃあ!」と元気よく三人へ声をかけた。

「まだまだ見滝原には、面白いところが一杯あるよ! 次はどこに行こっか?」

 ココアの提案に、美炎は回答に悩んでいる様子だった。
 一方、清香は即答で「それでしたら! こことここと、あとこのファッションショップにも行きたいです!」と雑誌のページを指差していた。

「いいよ! お姉ちゃんに任せなさい! コヒメちゃんはどこかある?」

 ココアの質問に、コヒメは答えなかった。
 彼女はむしろ、道にある一か所を凝視していた。

「あそこって確か……」

 大通りから脇道に反れた、日陰のような場所。
 その場所は、可奈美にも見覚えがある場所だった。

「神社だったよね。とっても狭い神社」
「お!? 神社巡りだね! コヒメちゃんも随分と渋い趣味してるね!」

 ココアはニコニコと答えた。

「よし! それじゃあ、行こっか!」

 結局、その神社にみんなで訪れることになった。
 一か所だけ丘になっている神社。社のから続く階段から、本堂に通じている。

「ここの神社、あんまり来たことなかったなあ。ここって結構大きい神社だったよね」
「そうだよ。でも、前に来た時も、結構小さかったから、あんまり私も印象に残ってないの」

 ココアの案内で、可奈美達は神社の社へ足を踏み入れる。

「あ、ちょっと待って」

 だが、後ろの方でコヒメと手を繋いでいる美炎が、ココアと可奈美を呼び止めた。

「二人とも。神社に入るときは、社の中心は通っちゃダメだよ」
「「何で?」」
「社の真ん中は、神様の通り道だから。わたしたちは、こっち」

 美炎は、お辞儀をして、社の端に立つ。
 可奈美とココアは顔を見合わせて、「ほうほう」と美炎に続いた。

「何か、とっても新鮮だね!」
「うん! そういえば、美炎ちゃんの実家って、神社なんだよね」
「そうだよ。結構巫女服で掃除とかもやってたよ」
「巫女さんだ~!」

 ココアがそう言って、最初に社を潜った。

「それじゃあ、早く行こう! コヒメちゃんのお待ちかね、神社巡りだよ!」

 だが。
 ココアは気付かなかった。
 可奈美、美炎、コヒメ、清香。
 四人が社を潜った途端、その姿が消失したことに。
 まるで彼女たちだけが、社の先が別であるかのように。

「……あれ?」

 突然の消滅に、ココアは振り返って言葉を失う。

「可奈美ちゃん? 美炎ちゃん? 清香ちゃん? コヒメちゃん?」

 四人の名前を次々に出しても、返事はない。
 やがて、社を出たり入ったりを繰り返しながら、ココアはずっと彼女たちの名前を呼びかけ続けるのだった。 
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