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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第五十九話

 ステューシー達がスパイダースカフェの制圧をしている中、ロビンの死を乞う願いはゴジには届かない。


「俺は君を殺さない。」


 ゴジはロビンの顔に片膝をついて優しく手を伸ばし、人差し指で彼女の目に溢れた涙を掬う。


「そう…。いいの……それが貴方の正義だものね。」


 ロビンはゴジのアラバスタ王国来訪を知ってから、彼の事を調べあげたので、自分の願いは届かない事を分かっていた。


 《Side ロビン》


 Mr.0の指示で私はあらゆる手段で海軍本部の誇る若きエース、海軍本部第07部隊ジェガート第二部隊長“麒麟児”ゴジ准将について調べあげた。

 調べれば調べるほどよく分かったのは“若月狩(みかづきが)り”カタリーナ・デボンの拿捕から始まる“麒麟児”の名に恥じない積み上げられた英雄譚の数々。


「“罪を憎んで人を憎まず”よく知ってるわ。貴方は絶対に海賊を殺さない。罪を償わせる為に確実に拿捕するのよね。」


 この人が若くして准将の地位にいるのは伊達でも酔狂でもないと思い知らされた。


「ロビンちゃんみたいな美女が俺の事を知ってくれてるなんて嬉しいな。」


 当然、この人が女にだらしない事も知っているが、彼の高潔な意思と正義の元にこの海を守ってきたことを知った私はただの夢見る少女のようにすぐに彼の虜になった。

 アルバーナでのゴジ准将のアラバスタ王国来訪の式典の現場にいたことを彼はバロックワークスの任務と勘違いしているようだけれど、私はあそこに集まったアラバスタ王国民と同様にただ貴方の姿を一目見ようと会いに行っただけなのよ。

 だから社交辞令と分かっていても、面と向かって彼に美人と言われると顔がニヤけてしまうのは仕方ないわよね。


「うふふっ。私は貴方の“ファン”だから何でも知ってるのよ。」


 元の海軍本部大将“黒腕”のゼファーに拾われてから全てを叩き込まれて力を付け、彼と生活を共にする内にかつて最強と呼ばれたこの男の掲げた“体現する正義”を背負い、海軍の掲げる絶対的の正義の体現者としてその身を削って数多くの人を救ってきた。

 そして彼はこの海で暮らす者にとっては知らぬ者のいない偉大なる航路(グランドライン)の絶対守護者にして正義のヒーローとなった。

 並の海賊達は彼を恐れてひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を目指すことを諦め、年々偉大なる航路(グランドライン)に入る海賊が激減しているという。


「それは嬉しいな。ロビンちゃん、よく聞いてほしい。俺は君を捕まえるつもりもないんだ。」


 今、“麒麟児”さんが何を言ったのか分からない。

『私を捕まえるつもりがない』と聞こえた気がしたけど聞き間違えに違いない。


「えっ…?」

 
 “麒麟児”さんは私に優しい笑顔を受けてながら、海軍将校の証たる海軍コートを羽織った直後、その場で左膝、右膝の順で地面に跪いて、そのまま両手を地面につく。


「ちょ…ちょっと何を!?」


 私は彼が何をしようとしてるのか気付いたが、それをする意味が分からずに困惑する。

 何よりもこの人にそんな真似をさせたくないと願うが、願いは届くとこなくそのまま私に対して深々と頭を下げて額を地面に下げた。

 驚愕する私の目に飛び込んできたのは地に伏した『正義』の二文字。
 

「今まで本当に申し訳なかった。」

「っ……!?」

 
 両手と両膝を地につけたまま頭を地に付けたこの姿勢は座礼の最敬礼に類似する。特に世界貴族を見た場合には恭儉の意を示すため、道を開けて平伏するのが世界の常識。

 それ以外にも"深い謝罪"や請願の意を表す場合に行われるこの姿勢は土下座とそう呼ばれる。

 
「な……なんでっ!?なんで私を救ってくれた貴方が頭を下げるのよ!!」


 突如、困惑よりもそれを超える激しい怒りが私を支配した。

 クロコダイルから私を救ってくれたこの人が私に頭を下げる理由が分からない。

 
「ロビンちゃん。俺達海軍、いや世界政府はかつて何の罪も無い君の故郷オハラの民と家族を虐殺し、生き残った無実の君を咎人にした。本当に申し訳ない!」


 一度頭を上げた”麒麟児”さんは謝罪理由を告げた後、また深々と頭を下げた。

 雷が落ちる程の衝撃とはこのような場面で使うのだろう……彼の謝罪を聞いた私の目から大粒の涙が溢れでて、体の力が抜けてその場に力なく膝から崩れ落ちる。


「“麒麟児”さん……あなた……“あの悪夢”を聞いたのね?」

「全て聞いた。俺達は取り返しのつかない事をしたんだ。俺一人が頭を下げる程度で解決できる問題じゃないのは分かってるけど……オハラの真実を知って何もしないのは俺の正義が許さない。」


 そうか……この人はオハラの悪夢を知って、これまで自分の体現してきた正義に反すると知って頭を下げてるのね。

 でも、違う。
 

「ぐず…止めてよ……うぅぅ…私を罪人にしたのも、オハラを滅ぼしたのもあなたじゃない!!」


 涙がとめどなく溢れ出てくる。


 「だって……あの悪夢があった日、あなたまだ海兵どころか……生まれてすらいないじゃない……うぅぅぅ……。」


 17年前にオハラがバスターコールにかけられたときにゴジは海兵でもないし、現在16歳である彼は生まれてすらいないのに、海軍が起こした過去の罪を悔いて、海軍将校として自分に頭を下げている光景にただ涙が止まらない。


「俺は君の過去を知ってから、初めて海軍将校である事を恥じた…。」

 
 海軍を代表する海軍将校として私に謝る為にこの人はさっき海軍コートをわざわざ羽織ったのね。

 でも、違うの……私は知っている。

 誰よりも海兵としてまっすぐに生きているこの人だけにはあの悪夢の責任を背負わせたくない。


「ううぅぅ…止めて…貴方はあの時の海兵達とは違う…数多くの人を救ってきた英雄じゃない……。」

「俺は英雄なんかじゃない…君達を……オハラを救えなかった…。」


 あぁ……やっぱり貴方はまた(・・)涙を流すのね。


「くずっ…ううぅぅぅ…そうやっていつも救えなかった命を惜しんで苦しんでいる貴方が頭を下げないでよ…」


 私がこの人を調べていて一番印象に残ったのは、海賊に滅ぼされた村を訪れて涙を流しながら手を合わせている“麒麟児”さんの写真付きの新聞記事。

 記事にはこう書かれていた。

 ”記者が海賊に滅ぼされた村を取材中に、たまたま村を訪れたゴジ大佐を写真に収めたところ、彼は私に気付くことはなく、亡くなった村人達に向かって手を合わせて『もっと早く俺が来ていたら貴方達は死ぬ事はなかった…本当に申し訳ない。いくら海賊を捕らえてももう貴方達は…帰って来ない。』と言いながら何度も涙を流して謝り続けていた。”

 この記事を読んだ時、彼は輝かしい功績の数々の裏で救えなかった命を悔やんでいる優しい男である事も知った。影響を受けたのは私だけではない。

 元々カタリーナ・デボンの拿捕とその端正なルックスで若い女性ファンの多かった彼の優しさが垣間見れたこの記事により、彼が老若男女全ての人に受け入れられ、彼の人気を不動のものとした報道と言われている。

 もし、あの悪夢の日に彼が海軍にいれてくれたら、オハラも滅びなかったのではないかと頭をよぎったほどである。

 
 「っ……!?クロコダイル……?」


 顔を上げた私の目に飛び込んできたのはクロコダイルが倒れ伏したまま“麒麟児”さんを睨み付け、左腕を砂に変えて毒の滴る凶刃が真っ直ぐにオハラの為に涙を流してくれる無防備な彼の背中に向かっているのが見えた。
 
 私はこの人の前に立って、彼を守るように両手を広げた。考えるより先に体が動いた。


「危ない!?」

 
 この人だけは死なせない。死なせてはならない。

 海軍本部准将という立場で、自分(罪人)に頭を下げること等あってはならない。仮にさっきの光景が世に出れば世界政府を揺るがす大問題になっていた可能性もある。

 頭のキレる彼がそれを分からないはずはない。それでも過去の悲劇を知り、海軍や政府が間違っていると声を上げてくれる海兵がサウロ以外にもいてくれるなら、今後自分のような子供が一人でもいなくなる。

 この人を守れるなら私の命の一つや二つ惜しくはない…。

 
「うっ……!あ…あぁ……ふふっ……。」

 
 私は自分の胸を刺し貫くフックと唖然とした顔をするクロコダイルを見て薄く笑う。


「ミス・オールサンデー何をしている?千載一遇のチャンスを棒に振りやがって!?」


 私はクロコダイルの攻撃が自分の胸を刺し貫いた瞬間に間に合ってよかったと心の底から思えた。

 8歳で故郷を失い、家族を仲間を失って賞金首になり、海軍や世界政府に追われる日々を過ごしてきた私にとって死は最も恐ろしいはずだったのに、何故か今はとても誇らしい。


「ざ…残念ね…Mr.0…。私……彼のファンなの…」


 だから、私は最後に悔しがるクロコダイルに向けてざまぁみろと思いながら笑ってやった。

 全身の力が抜けて後ろに倒れゆく私の体が誰かに優しく抱き止められたのが分かる。誰かじゃないわ。私を抱きとめてくれたのが誰かなんてもう分かっている。


「ロビンちゃん!?なんで俺を庇って……」


 あぁ……貴方に泣かれるのは辛いけど、一人孤独に死んでいく事を覚悟していた私の死に貴方が涙してくれるのは嬉しいわね。

 私は目から大粒の涙を流している彼の涙を拭うために……いや正直に言うわ。ただ最後に彼に触れたいが為に右手を彼の顔に伸ばす。

 私の愛しいヒーロー。


 《Side ロビンend》



 ゴジが顔を上げて背後を振り返ると同時に自分の顔に飛び散る暖かい赤い液体と彼女の背中から飛び出る血塗れのフックを見て状況を瞬時に悟り、倒れゆくロビンを抱きとめた。


「ロビンちゃん!?なんで俺を庇って……」


 ゴジはロビンに対して真摯に全力で謝罪していた故に普段隙なく張り巡らせている見聞色の覇気で周りに一切注意を払っていなかったので、クロコダイルの攻撃に気づかなかった。

 自分を庇って重傷を負ったロビンを見て、自分の不甲斐なさに涙が溢れる。

 そこが彼の美徳でもあり、弱点でもあるのかもしれない。


「ゴホッゴホッ……うふふっ。ヒーローに……涙は似合わないわよ……」

 
 ロビンはゴジを見上げながら、右手を伸ばして彼の目から溢れる涙を拭って心配させないように精一杯の笑顔を作った。 

 立ち上がろうとしているクロコダイルは砂に変えた左腕を手元に戻すため、ロビンの体から強引にフックを引き抜く。
 

「うっ…!?」


 フックが強引に引き抜かれたことより、ロビンの傷口から血が溢れ出す。


「ロビンちゃん!?」


 クロコダイルは死にかけのロビンに掛かりきりで隙だらけゴジを殺すために地面に右手を付く。
 

砂漠の向日葵(デザート・ジラソーレ)!」


 クロコダイルは右手で砂漠の地下水脈を刺激し、ゴジとロビンの足元に蟻地獄のようなすり鉢状の穴の中心に砂が吸い込まれていく巨大な流砂を作り出した。


「なっ……これは流砂か!?」

「はぁ……はぁ……流砂を知っているのか。そうだ。墓標のいらねぇ砂漠の便利な棺桶さ。これにはサソリの毒が塗ってあると聞いてるはずだ。まもなく死にゆく優秀なパートナーだったニコ・ロビンへの手向けだ。クハハハハ!」


 ゴジはクロコダイルに言われてサソリの毒を思い出して慌ててロビンの顔色を観察すると毒が回り始めた様子で顔色が紫色に変わっていた。

 
「そうだった。毒!?ロビンちゃん、先に謝っとくよ!!」

「えっ……んっ……んん”っ!!?」


 クロコダイルは流砂に巻き込まれて沈みゆくゴジとロビンを見ながら、息も絶え絶えにゆっくりと立ち上がりながら高笑いする中、ゴジはクロコダイルの姿を見る事もなく困惑するロビンの唇に自分の唇を重ねた。 
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