ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第二章 青年期
第五十七話
ザラはステューシーの襲撃から逃れる為にカウンターから1番近い裏口から外へ転げながら飛び出ると、そこには眼鏡を掛けた長い金髪の女が待ち受けていた。
「海兵!?」
ザラはその女の纏う純白の海軍コートから海兵だと悟り、臨戦体勢をとる。
「ようこそ。待ちくたびれたわよ。 バロックワークスオフィサーエージェントのミス・ダブルフィンガーさん。いやこう呼んだ方がいいかしら“毒グモ”ザラ。」
その海兵は片膝を付いてこちらを見上げるザラを見下ろしながら眼鏡をクイッと上げる。
ザラは伊達眼鏡と頭のバンダナを外しながら立ち上がると、その下に隠れていた立派な青髪のボンバーヘアが現れた。
「なるほど…まさかそこまでバロックワークスの事を調べ上げているとは貴女達のボス、“麒麟児”は若いのに優秀なのね?」
ザラは短期間に自分の正体と、幹部たちの集合場所でもあるスパイダーズカフェを突き止めた”麒麟児”の才覚を素直に賞賛する。
「ええ。“秘書”として鼻が高い限りです。」
ザラは“秘書"という言葉に目の前にいる海兵の正体を看破する。
「なるほど…貴女が“麒麟児”の美人“秘書”カリファ大尉ね…私の正体をご存知なら当然超人系悪魔の実トゲトゲの実を食べた全身トゲ人間なのもご存知よね?串刺しになりなさい!“ダブルスティンガー”!」
ザラはここから逃げて副社長ミス・オールサンデーに報告する為にも、とりあえず目の前の海兵をどうにか倒す必要があると判断し、両腕をトゲに変えて目にも止まらぬ刺突を放つ。
「ええ無論。その棘は鉄と同程度の強度があり、簡単に折れることはない。その美貌と巧みな会話術で相手の懐に入り込み情報を全て吐き出させてから始末してきた殺しのプロ。“紙絵”!」
カリファは相手の攻撃の風圧に逆らわずにゆらゆらと紙のように体を揺らしながらザラの攻撃を軽やかに躱す。
「避けられた!?」
ザラは両腕の拳を鋭利な棘に変えたままで何度もカリファを突き刺そうとするが、カリファは尚も体をヒラヒラとさせながら、攻撃を躱しつつザラの情報を話していく。
「裏の世界で恐れられた最強の女性暗殺者。狙った獲物は確実に仕留めるその周到さから付いた通り名が“毒グモ”。貴女のような裏の社会では知らぬ者のいない有名人まで部下に加えていたとは恐れ入るわ。」
自分の攻撃を余裕をもって躱していくカリファに苛立つザラは足の裏から無数の棘を出して前蹴りを放つ。
「ベラベラといい加減に黙りなさい!“スティンガーステップ”!」
「ふふっ。当たらないわよ。最強の暗殺者の実力はその程度かしら?」
カリファはCP-9の諜報員であり、海兵となる前から六式を使えるが、正体と実力を隠して入隊した。
しかし、この4年の訓練の末ようやく六式を身に付けたことになっているので、十全に力が披露できるのだ。
「ちょこまかと小癪な!これでも避けれるかしら?“シー・アーチンスティンガー”!」
ザラは頭全体を髪の毛ごとウニのように長く鋭い無数の棘に変化させて頭から真っ直ぐ突進してくる。
「そろそろ反撃させてもらうわね?“しなる指銃・鞭”!」
カリファは尚も“紙絵”を使ってヒラヒラと舞う紙のようにザラの攻撃を躱した後で鞭のように右腕をしならせながら、ザラの左足に右手の人差し指を突き刺した。
「う”っ…!?」
「あら?ごめんなさいね。突き刺すの貴女の専売特許だったかしら?ふふっ。」
カリファは指を引き抜いてザラの血が滴る右手の人差し指を彼女に見せ付けるように目の前に掲げて、妖艶に微笑んだ。
「ちっ……これならどう?“スティンガーヘッジホッグ”!」
苛立っていたザラもカリファの反撃を受けて痛みにより少し冷静になり、体を丸めて全身から棘を出して、ウニのような姿のまま高速回転しながらカリファに向けて転がりながら突撃する。
「考えたわね。確かにそれなら指銃は撃ち込めないわ。“嵐脚”!」
カリファは向かってくるザラに向けて右足を振り上げて嵐脚を放つが、高速で回転するザラのトゲに弾かれて霧散してしまった。
「無駄よ。これは鋼鉄の高度を誇る棘を全身から出して高速回転する攻防一体の技!さっさと串刺しになりなさい!」
高速回転中のザラはカリファの攻撃は見えていないが、攻撃されたことには気付いたようだ。
嵐脚を弾き飛ばした彼女は回転を緩めることなく、カリファを串刺しにせんとしてさらに突き進む。
「まさか嵐脚を弾くなんてね。でも、串刺しにはなりたくないわね。」
嵐脚が防がれても尚、余裕な表情を変えないカリファに高速回転する棘の玉が迫り、そのまま彼女の体を鋭利な棘が貫いた!
「ふふっ。“秘書”カリファ捉えたわよ!!どうやら私の勝ちのよう……なっ消えた!?」
ザラは自分の頭の棘がカリファの体を貫いたのを見て、体の回転を止めて笑いながら勝鬨を上げようととした瞬間、棘で貫いたカリファが蜃気楼のように消えた。
「“紙絵・空蝉”。残念。貴女が貫いたのは私の幻よ。“指銃”!」
「うっ……!?」
カリファは“紙絵”と“剃”を同時に行うことで自身の幻影を作りだしつつザラの後方に回り込み、影を貫かせて油断させたザラに右手の人差し指を背後から彼女の右の肩口に撃ち込んだ。
「うふふっごめんなさい。また突き刺しちゃったわ。私に勝てたと思ったかしら?」
ザラは痛みに耐えながら好機と判断し、自慢のボンバーヘアで自分の人差し指を隠しつつ、指先を後ろにいるカリファに向ける。
「”スティンガーフィンガー”!」
人差し指が瞬時に鋭利な棘となり、ボンバーヘアを突き抜けてカリファの顔に迫る。
「っ……”指銃”!?」
カリファは突如ボンバーヘアから伸びてきた鋭利な棘に対し、紙絵では間に合わないと判断し、左手の人差し指で指銃を放ち迎え撃った。
互いの人差し指がガキンッという金切り声音と共にぶつかり合った末、不意打ち気味に攻撃を受けたカリファの”指銃”が弾かれた。
「ちっ……これを防がれると思わなかったわ。」
「貴女、私が攻撃する瞬間を狙っていたのね。」
しかし、カリファは咄嗟に繰り出した指銃によりザラのスティンガーフィンガーの軌道を逸らすことには成功し、自分の顔の真横を通り過ぎた鋭利な棘を横目で見て冷や汗を流している。
「その若さで海軍本部大尉は伊達ではないってことね。いいわ。本気で潰してあげる“トゲトゲ針治療”!」
ザラは両手の人差し指で、自分の肩のツボを刺激すると、彼女の上半身の筋肉が数倍に膨れ上がって彼女が着ている服がボンっと弾け飛んで、黒いビキニのような下着が顕となる。
「ふんぬっ!!」
「はぁ……どうやら…この戦いは貴女の負けのようね。」
カリファは筋骨隆々となったザラの姿を見て心底嫌そうな顔をしながら、また不意打ちを受けぬように後ろに飛んでザラと距離を取る。
「この姿を見てまだそんなことが言えるなんて凄いわね…。」
「はぁ……ほんと見てられないわ。」
カリファはザラの全身の筋肉が膨れ上がった姿を見て呆れるような声を出すと、ザラは筋肉で大きく肥大した両腕に無数の棘を生やしてその両腕をフレイルのように振り回しながらカリファに迫る。
「スティンガーフレイル!」
ザラの筋肉は見掛け倒しではなく、鍼治療によりパンプアップされた力は成人男性の体すら易々と殴り飛ばせる力を持っている。
ザラはその太く無数に棘の生えた腕をフレイルのように振り回しながらカリファに向けて力いっぱいに叩きつけた。
「鉄塊!」
しかし、カリファはそんなザラのフレイルのように棘が生えた筋骨隆々となった腕を前にしても一切怯むことなく、武装色の覇気を覆った両腕で受け止めた。
「なっ……なんで受け止められるの!?」
ザラが驚くのも無理はない。
鋭利な棘の生えたフレイルを受け止めただけでも驚愕すべきだが、ザラが何よりも驚いたのは女性らしい曲線美を持つカリファが筋骨隆々となった自分の攻撃を一歩も動くことなく受け止めたことである。
「貴女は何か勘違いしているようですが、私は貴女の棘程度で怪我をする事もありませんし、力比べでも貴女ごときに負けるつもりはないですよ。」
しかし、カリファは超人体技六式を身に付けた超人である。女性らしいしなやかさを残した超高密度の筋肉の鎧を身につけているようなものだ。
「棘が刺さらない!?それに力で押し切れないなんて……貴女のその細い体の何処にそんな力があるというの?」
凡人、しかも女性がパンプアップしたところで六式を身に付けた超人の領域にいるカリファに勝てるはずもない。
「ふふっ。力比べがお望みのようですから少し嗜好を変えましょう。」
カリファは“鉄塊”で受け止めていたザラの腕を弾くと同時に両手で彼女の両腕の棘のない部分を掴み、力いっぱいに握り締めるとザラの腕からミシミシという悲鳴を上げ、ザラ自身も痛みで悲鳴をあげる。
「ぎゃあああああ!!い……痛いぃぃ!?は……放してぇぇぇ!!!」
カリファはなおも悲鳴をあげ続けるザラの両腕を掴んだまま、自分の右足を真上にあげた。
「お望みの力比べに乗ってあげたというのに、全く耳障りですね。“鷹爪・白雷”!」
そのままかかと落としの要領で、振り上げた足をザラの頭を目掛けて嵐脚を放つ速度で振り下ろすと、技の直撃を受けたザラは顔面から地面に叩きつけられる。
「ぐべっ!?」
カリファは地面に突っ伏しているザラの頭から足を退けながら、まだ砂に顔から埋もれたままのザラを見下ろす。
「私は女を武器にして同じ裏社会を生き抜いてきた貴女に敬意を払っていたのに、女としての美しさを捨ててそんな醜い姿で勝ちを拾おうとする貴女には心底ガッカリしたわ。」
カリファは怒りを隠すことなく、少しズレた眼鏡をクイッとあげながら、気を失ったままのザラに吐き捨てるように言い放った。
”闇の正義”を掲げて裏社会に生きるCP-9である彼女にとって、美を磨きつつ女を武器に裏社会を生き抜いてきたザラは正しく目標とすべき女性であったのだ。
「さて、流石はステューシー、もう”殺し屋”を捕らえたようね。コアラは……なるほどベンサムは中々の拳法使いのようで苦戦してるわね。それにしても普通の人間でありながら、屈強な魚人族が編み出した魚人空手の師範代とは准将の周りには本当に面白い子が集まってくるわ。」
既に戦いを終えて自分に笑顔で手を振るステューシーを一瞥した後、ベンサムと激しい攻防の真っ最中のコアラの戦いを観戦し始めた。
後書き
当然ながらカリファは能力者ではありませんよ。
原作ではナミに振り回されていい所のなかったミス・ダブルフィンガーですが、少しはカッコよく書けてますかね(*´ω`*)
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