ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第二章 青年期
第五十六話
ステューシー達がエルマル西方にあるスパイダースカフェの付近に辿り着いた頃には、彼女達はゴジとクロコダイルとの戦いの余波を感じ取っていた。
「ねぇカリファさん凄かったよね。あの巨大な砂の手とすっごい爆音。」
彼女達にはレインベースのある北方で起きた先の戦いが、スナスナの実の能力者であるクロコダイルと爆発の能力を持つゴジが戦っていること等考えなくとも分かる。
「えぇ。間違いなく准将とクロコダイルが戦っているのでしょうね。」
先頭をいくステューシーに、追随する形になるカリファとコアラはレイベースの方向に見えた天まで届く砂の手と爆音を聞き、後ろをチラチラと振り返りながら話している。
「でも、もう砂嵐も消えたし、音が収まったよね。ねぇゴジ君、勝ったかな?」
「あらコアラは准将が負けるとでも思ってるのかしら?」
「そんなのゴジ君が勝つに決まってるじゃん!そういうカリファさんだって爆発が起きる度に心配そうに後ろを振り返ってたよね!」
「き……気のせいです。わ……私は准将の勝利を信じていま……」
間もなくスパイダーズカフェに到着しようとしているのに、ゴジとクロコダイルの戦闘に気が散ってる二人にステューシーが激をとばす。
「二人ともいい加減にしなさい!!ゴジ君が王下七武海如きに負けるはずないって知ってるでしょう?私達は私達に与えられた任務をしっかりとこなすわよ。スパイダーズカフェにいる私達の目標は三名。カリファ、中にいるバロックワークスの幹部の情報を話しなさい!」
こちらの別働隊は自然と第二部隊副隊長であるステューシーが指揮する形になり、作戦前にたるんでいる二人を指導し、諭していく。
カリファは指名を受けて事前にステューシーから教えられていたターゲット三人の情報を話していく。
「はい!まずここスパイダーズカフェの店主ポーラのコードネームはミス・ダブルフィンガーですが、ポーラも偽名で本名は“毒グモ”のザラ 3500万ベリー。彼女とペアの男がコードネームMr.1、本名は“殺し屋”ダス・ボーネス7500万ベリー。そして、コードネームMr.2ボン・クレー、本名は“荒野”のベンサム3200万ベリーの三人です。」
カリファが淀みなく答えて終わると、ステューシーは次にコアラに指示を出す。
「ありがとうカリファ。では次にコアラ、今回の作戦を説明しなさい。」
「は……はい!えっと、まずステューシーさんが正面から店内に入って攻撃を仕掛けて敵を分断した後、ステューシーさんがダス。カリファさんがザラ。私がベンサムをそれぞれ相手して捕らえるんだよね?」
コアラもステューシーの指示を受けて、事前に伝えられた作戦を淀みなく答えると、作戦内容を把握している部下達に向けてステューシーは満足そうに頷いて作戦決行の指示を出す。
「一応ちゃんと頭には入ってるのね。後詰と敵の援軍に備えてスパイダースカフェ付近をCP-1で固めているから仮にターゲット以外の雑魚が逃げ出した場合はほっといていいわ。ゴジ君は必ず勝ってる。だから私達は全力で幹部達を捕らえるわよ。それでは二人はスパイダースカフェの裏口と窓際にそれぞれ配置しなさい。」
「「はっ!」」
ステューシーはカリファとコアラが“剃”で移動したのを見送ってから、自分達をここまで送ってくれた三匹のカルガモに礼を告げる。
「まったく……あの子達、浮ついちゃって仕方ないわね。カルガモちゃん達ここまで送ってくれてありがとね。」
「「「クエっ!」」」
カルガモ達は器用に翼で敬礼し、戦闘の邪魔にならぬようなその場から全速力で立ち去っていった。
「さて、行こうかしら。」
ステューシーはカルガモ達を見送ってからスパイダースカフェの入口にあるウエスタンドアまで“剃”で移動して扉をゆっくりと開けて中に入る。
◇
ウエスタンドアとは西部劇に出てくるBARなどで使われているドアで、両扉が真ん中から前後に開き、手を放すと勝手に閉まるドアのことである。
「あら……いらっしゃい。ごめんなさいね。今日は貸切なのよ。」
ステューシーの来店に気付いたバーカウンターの中いる青髪のボンバーヘアの上にカラフルなバンダナを巻き、茶色の縁のある眼鏡を掛けた黒のタンクトップに紺のジーンズというラフな格好の20代の若い女性店主が声を掛ける。
「そう…今、お客さんは二人しかいないのね?」
「ええ。二人とも私の連れで今日は彼らの貸切なのよ。悪いわね。」
店内に居たのは、カウンター席に座る胸に大きく“壱”と刺青を入れた上半身裸の坊主の大柄な男と演劇のドレスのような格好をしている横に座る男と同じくらいの身長のある大柄なオカマだった。
「なら好都合ね。“嵐脚”!」
ステューシーは大柄な坊主の男をダズ・ボーネスと見抜いて、彼目掛けて片足を上げて嵐脚を放つ。
「敵っ…!?」
「ジョーダンじゃなーいわよー!」
ステューシーの攻撃に気付いた店主の女性は裏口から飛び出て、オカマは窓を蹴り破って店外に逃げる。
「ふぅ……斬人!」
しかし、扇状の鎌風が迫るボーネスはその場に立ち上がって、全身を刃物の硬度に変化させると、左肩から右脇に掛けて嵐脚を受けるもまるで鉄の塊に当たったようにガキンと音を立てる。
「何者だ?いや、お……お前はまさか”歓楽街の女王”ステューシー!?」
ボーネスはステューシーの攻撃は意にも返さずに受け切ったにも関わらず、同じ裏社会を生き抜いてきた者としてかつて裏社会を統べるトップの一人であったステューシーの正体を知って腰を抜かす。
ステューシーはそんなボーネスを見て微笑みながら、海軍コートを取り出して肩に羽織る。
「流石は裏社会きっての”殺し屋”。私を知っているのね?その通りだけど今の私は海兵よ。“殺し屋”ダズ・ボーネス。貴方を捕らえに来たわ!」
ボーネスは超人系 悪魔の実 スパスパの実の能力者で全身を刃物に変えることが出来る刃人間であり、この能力により、西の海では暗殺者として活躍して”殺し屋”の異名を持っている。
ステューシーがボーネスに向けて指を差しながら告げると、ボーネスは落ち着く為に深く息を吐く。
「はぁ……どうやら、”歓楽街の女王”が実は世界政府の潜入捜査員だったという噂は本当だったか。」
「ふふっ。ここでは手狭だから外へ行きましょうか?」
ステューシーは無防備にもボーネスに背を向けてウエスタンドアを開けて外に出る。
「ちっ…!この俺に背を向けて歩くとはな。流石に裏社会でその名を轟かせた女だけはある。」
ボーネスは敵である自分に背を向けるという挑発的なステューシー行為に苛立ちを覚えながら、彼女の後に続いて店の外に出るとそのままステューシーと対峙する。
店を出たボーネスが周りを見渡すと、ミス・ダブルフィンガーとMr.2もそれぞれ女海兵と対峙しているを確認した。
「なるほど…各個撃破という訳か?この俺の正体に気付いた上で1VS1。しかも無手とはな……。見たところ指揮官のようだが部下が心配じゃないのか?」
通常海軍が犯罪組織のアジトに乗り込むならば、数を揃えて包囲するのが常であるので、今回の対応は通常のそれではない。
「二人とも強いから問題ないわ。それよりも自分の心配をしたらどうなの。“殺し屋”さん?」
「ふん…ではその綺麗な顔を切り刻んでやろう……いくぞ女海兵!“微塵速力斬”!」
ボーネスは足をスケート靴のような刃物に変化させて、地面を滑るようにステューシーへ突進し、その勢いを乗せて刃物に変えた両手で斬撃を繰り出そうと両手を振り上げる。
「飛ぶ指銃・三撥!」
ステューシーは冷静に見聞色の覇気を使ってボーネスの動きを見切りながら、右手の人差し指でスピードで放つ突きにより空気を弾丸のように三発をボーネスのスケート靴のような足裏の刃物に向けて放つことで彼の進む方向を強制的に変化させる。
「ちっ…姑息な…“滅裂斬”!」
「鉄塊・空木!」
自分の進行方向を変化させられていることに気付いたボーネスは足を元に戻してその場で飛び上がって、ステューシー目掛けて刃物に変化させた両腕を大の字に振り上げて外側から内側へ振り抜く。
しかし、ボーネスの刃物に変化した両腕がステューシーの両肩に当たった瞬間、その刃が彼女に届くこともなく、逆に技の衝撃がボーネスの体を駆け巡って両腕から血が吹き出る。
「ぐわああああああ…!な…何をしたああああ!?」
「うふふっ…六式は武器を持った相手や悪魔の実の能力者を相手にする為に編み出された超人体技よ。全身が刃物になれるだけで勝てる程甘くないわよ。」
ステューシーは万人を魅了するようにボーネスに微笑んだ。
”鉄塊・空木”とは相手の攻撃に合わせて発動し、相手の手足や武器を破壊するカウンター技であり、鋼鉄を超える強度の鉄塊で体を守りつつ、ボーネスの技の衝撃をそのままボーネスに跳ね返したのだ。
「くそっ…!?この俺に斬れぬものなどない!発泡雛菊斬!」
ボーネスは突進しながら両手首を合わせ、両手の指先から掌までを刃物に変えてかめ〇め波を繰り出すように斬撃を放とうとするので、ステューシーは相手に合わせて同じ手の形を取って武装色の覇気を纏って両手を黒く硬化させてボーネスの技に応じる。
「あら?私と手を繋ぎたいのかしら。高くつくわよ”鉄塊・十指銃”!」
ボーネスとステューシーの互いの両掌が激しくぶつかり合う。
「ぐわああああああぁぁぁー!」
「貴方の指で払ってもらうわね。ふふっ。」
ボーネスは信じられないといった呆然とした表情で、その場で膝まづいて10本の指を全て失って血が溢れ出る両掌を眺めている。
「なんで俺の指の方が砕けるんだぁぁぁ……!」
ぶつかり合いの末、覇気を纏っていないボーネスの鉄の強度を持つ両手の10本の指は、ステューシーの10本の指から放たれる武装色の覇気を纏った指銃の威力により粉々に砕かれた。
「なるほど…やはり貴方は悪魔の実の能力を過信しすぎるタイプの人間のようね…?そういう相手ほど六式使いには殺りやすい相手はいないわよ…ふふっ」
ステューシーは両手を武装色の覇気を纏って黒くさせたままボーネスに語り掛けると、彼は怯えた表情で座ったまま後ろに後ずさっていく。
ボーネスは鋼鉄の強度を誇る刃物の体を持って無敵の強さを振りかざしていたのだ。
「止めろ…止めてくれ……殺さないでくれ。」
ボーネスは鋼鉄の体に生身で挑んだ上に完膚なきまでに破壊せしめたステューシーへの恐怖で腰が抜けて立つことが出来ない。
スパスパの実の能力で常に優位に立って命を奪ってきた彼にとって劣勢立たされるのは初めての経験だった。
「貴方はこれまでそう言った人達をどうしてきたのかしらね?」
ステューシーはそう言いながら“剃”を使って一瞬でボーネスの背後に回り込むと、両手の拳を上下に重ねて彼の背中に薄く当てる。
「何処だ…あの女は何処に行った……“斬人”あぁ!」
ボーネスはステューシーを見失って彼女を探すべく恐怖に駆られた目で必死に探し回るが、背中にいるステューシーを発見する事が出来ない。
彼に出来るのはただ自分の能力で体を鉄に変えて防御力を固めるだけであるが、これからステューシーが繰り出そうとする技には意味をなさない。
「六式奥義 六王銃!」
「ぐはっ…!?」
ボーネスは背中に添えられたステューシーの拳から武装色の覇気による衝撃を直接体の中に送り込まれて、体を鉄に変えようととも全く意味を無さず、大きく吐血して前のめりに倒れた。
「ふふっ…安心しなさい。ゴジ君には殺さずに捕らえるように言われてるから、私は貴方を殺さないわ。」
ステューシーは気を失って倒れ伏したボーネスにしっかりと海楼石の手錠を掛けて捕縛してから彼の上に腰掛ける。
「さて、あの子たちはどうなってるかしら?」
一足先に戦いを終えたステューシーは優雅に足を組みながら部下達の戦いを見守ることとした。
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