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物語の交差点

作者:福岡市民
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
  奇妙な縁(えにし)

ほのか「ここは…」

渚「トンネルだね」


ハンミョウに誘われるがままついてきた一行。導かれた先は古びたトンネルの前だった。


蛍(あっ、ここ…。引っ越してきて間もないころ小鞠センパイと来たなあ。)


蛍は以前、小鞠とこのトンネルへ来たことがあった。


小鞠(そういえばいつか東京から来た大人のお姉さんと一緒にここへ来たなあ。あのときのお姉さん…結局誰だったんだろ?)


しかし、蛍が余りに大人びた格好をしていたこともあって小鞠は最後まで蛍だと気づかなかった。そのため、小鞠にとってこの場所は『東京から来た大人のお姉さんと来た場所』という認識になっていた。
トンネルはまるでこの世とあの世を結ぶ黄泉比良坂(よもつひらさか)のごとき佇まいで気味が悪かった。


なっつん「しっかしいつ来ても薄気味悪いなー。この前までは辛うじて点いてたライト、もう完全に切れてんじゃん」

一穂「地元民しか使わないトンネルだからねー。ある程度はしょうがないんじゃない?」

木陰(このトンネル、いかにもって感じね…。)


冷気を放ち、油断すると吸い込まれてしまいそうな暗闇が広がるトンネルを前に怖気付く木陰。
しかしそんなことなどお構いなしにのんのん勢は進み続ける。


木陰「……まさかこのトンネルを通るんですか?」

一穂「空閑っちどうしたのん?」


一穂が足を止め、木陰に向き合った。


木陰「だってこのトンネル……」

なっちゃん「ああ。空閑先輩は幽霊とか苦手やけん、きっとここば通るとがえずか(怖い)とですよ」

れんげ「なるほど…そういうことならとっておきの歌があるん!」

樹々「歌…?」

れんげ「そうなん。歌うたって歩けば元気でるん」

朝霞「歌ですかー」

れんげ「歌ですん」スゥー


そして息を大きく吸ってれんげが元気よく歌い出した。


れんげ『♪やーっぶれかっぶれのヤーブ医者が〜』

れんげ『♪タケやぶの中へすったこらさ〜』


れんげの歌声は狭いトンネルの中で幾重(いくえ)にもこだました。


れんげ『♪やっぶからぼーにすったこらさー』

れんげ『♪やっぶれたラブレター持ってすったこらさ〜』

ひかげ(この歌、何回聴いてもひどい歌詞だな…。)


れんげは自作の「ヤブ医者の歌」を2回ほど繰り返した。


れんげ「この歌を歌っていれば怖くなくなるん!」


れんげがそう木陰へ言ったとき、一行はすでにトンネルの中間地点にさしかかっていた。


木陰「言われてみれば確かに怖さは薄れたかも…。同じ闇でも今は美術室の暗幕の中にいるような心地よい感じの闇ね」

ケイト「破レたラブレター…。オーウ、れんげの言葉選びのセンスは素晴しーデース!」


れんげの歌で木陰は平常心を取り戻し、そしてケイトは歌の歌詞に感動しきりであった。


葉月「あ、出口が見えてきましたね」


そうこうしているうちに長いトンネルもようやく終わりが見えてきた。
ーーーだが。


ひかげ「あれ?人影が見える」

小鞠「え!?」ドキーン!!


なんと、トンネルの出口付近に幼い女の子のシルエットが見えるではないか!


小鞠「ももも、もしかして幽霊!?」ブルブル

木陰「あわあわあわ…」ガクガク


先ほど取り戻した平常心はどこへやら。小鞠と木陰は完全に顔色を失っている。


蛍「センパイ落ち着いてください!木陰さんも気を確かに!」

れんげ「こまちゃんも空閑っちも筋金入りの怖がりなのん。どうせあの人影は生きた人間のものに決まってるん」スタスタ


しかしれんげは意も介さず歩み続け、トンネルを抜けた。
やがてーーー


れんげ「しおりちゃんなん!」

しおり「やっぱりれんげちゃんだー!」


トンネルの出口に立っていたのは村の駐在所に勤務する若井巡査部長の娘、しおりだった。れんげとは迷子になっていたところを助けてもらって以来の付き合いである。


なっつん「お、しおりちゃんじゃん」

ひかげ「おー、久しぶり」

しおり「コスモスデカのお姉ちゃんだー!」


また、しおりはなっつんやひかげともごっこ遊びを通して面識があった。


小鞠「はー、やっと抜けられたー!」

木陰「ああ、外の光が懐かしいわ…」

空(暑い…。)

ケイト「OH! ヒカリが目を刺しマース!」

蛍「目が暗闇に慣れてたから眩しいですね」

樹々「そうねえ」

一穂「まあじきに慣れるよ」


そこへ後続のメンバーがぞろぞろとトンネルを抜け出してきた。


なっちゃん「あれ?女の子がおるばい」

葉月「あら、本当ね」

しおり「私しおりー」

渚「へー、君がれんげ君と哲学的な議論をしていたっていう」

朝霞「噂のしおりちゃんですかー」

れんげ「そうなん!しおりちゃんはウチとよく話しが合うん!」

ほのか「そうなんだー」

しおり「れんげちゃんはいろいろ相手したり話しを聞いてくれる頼もしいお姉ちゃんだよー」ニパッ

れんげ「おお…」キラキラ

ほのか「れんげちゃん、頼られてるね!」

れんげ「ウチ、頼られてるーん!」ウオー!


しおりの一言にれんげは感激しているようだった。


ほのか「ところでしおりちゃんはここで何しているの?」

しおり「パパにお金もらったからお菓子買いに来たのー!」


ほのかの問いにしおりは元気よく答えた。


蛍「そういえばあのトンネルは駄菓子屋さんへ行く近道でしたね」


トンネルを抜けた先は件の駄菓子屋「かが屋」の目の前だった。


なっつん「そうなんだ。ウチらも駄菓子屋に行くからしおりちゃんも一緒に行こうよ」

しおり「うん!」


皆で連れ立って目の前のかが屋まで歩く。


れんげ「にゃんぱすー」ガラガラ


店の扉をれんげが勢いよく開けると、そこには見慣れぬお客が楓と話しをしていた。


楓「おー、いらっしゃい」

?「ありゃ、いっぱい人が来ちゃったねえ。じゃあ(りん)、チャマ、行こうかー」

凛?「そうだねえ。これ以上長居すると皆さんに迷惑かかっちゃうし。それではこれにてさようならー」

チャマ?「だからカンナさん、私はチャマじゃなくて石川(いしかわ)ほのかですって!」

カンナ?「え、“チャマ”じゃないのん?」

ほのか?「だーかーらー!凛ちゃんも何とか言ってよー!」

凛?「だって仕方ないじゃん、姉々(ねえねえ)が名前を覚える気ないんだもん。めんどくさいしもうチャマでよくない?」

ほのか?「よくない!私はほのかだよぅ!」

カンナ?「まーまー、どっちでもいいじゃない。あ、皆さんどうぞごゆっくりー」ペコッ

一穂「あ、ご丁寧にどうもー」ペコッ

楓「毎度ありー」


「カンナ」と呼ばれていた人が皆に会釈したので一穂が代表して会釈を返した。
3人はそのまま一行の脇を通り抜け、外に停めていた軽トラに乗って去っていった。


楓「珍しいな、どうしたんだ(みんな)して」

一穂「楓、今の人たちは?」

楓「あー、新垣(あらがき)さんって言ったかな…別の地区の人みたいで。何かの用事でたまたまこっちに来ていたみたいですね」

なっつん「うん、それはいいんだけどさ…」


珍しくなっつんが神妙な顔をしている。


楓「どうした?」

なっつん「あの3人、かず姉とれんちょんとほたるんにどこか雰囲気とか容姿が似てなかった?」

れんげ「そういえばそうなん。あの凛って人、ウチみたいに『姉々』って言ってたのん」

ほのか「『チャマ』って呼ばれていた人は私と同じ名前みたいだったし!」

一穂「うーん…よく見てなかったけど確かにあの子、容姿もほのかちんそっくりだったような気がするねえ」

蛍「何ですかそれ!?怖いですよぅ!」

小鞠「ま、まさかかず姉たちの生霊…?」

木陰「それともドッペルゲンガーかしら…?」

一穂「えっ、ウチ死ぬのん!?」


謎が謎を呼び、カオスな雰囲気になってきている。
しばらく静観していた楓だが、このいつ終わるとも知れぬ議論に終止符を打つべくこう結論づけた。


楓「まあセンパイ、たぶんアレですよ。他人の空似ってやつですよ」


その言葉を聞いたとたん、皆の動きがピタッと止まった。


小鞠「だよね、良かったー!」

木陰「そうよ、お化けなんているはずないもの。あんなのは全てまやかしよ」


騒ぎが沈静化し、落ち着きを取り戻した一同。


楓(私もあの3人に初めて会ったとき、センパイ達のドッペルゲンガーかと思ったことは黙っておくか・・・。)



トンネルの先で出会った奇妙な(えにし)
ーーー真相は藪の中である。 
 

 
後書き
解説:先客として登場した新垣かんな、新垣凛、石川ほのかはのんのんびよりの原型となった読切作品「とことこ」の登場人物。それぞれ一穂、れんげ、蛍のモデルであることが原作者から公表されている。 
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