ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第二章 青年期
第五十二話
ゴジはクロコダイルと面会をする為、部下を連れずに一人で王都アルバーナからサンドラ川を隔てて西に位置するレインベースに向かっていた。
いや正確には一人と一匹である。
「あちぃ〜な。それにしても超カルガモ部隊だったか。君が来てくれて本当に助かったよ。」
ゴジは自分を乗せて河を横断し、砂漠を駆けてくれたカウボーイハットとサングラスを掛けたキザなカルガモに礼を言う。
「クエ(キラッ)!」
ゴジは知らないが、彼の名前は見た目通りカウボーイという。カウボーイはゴジが宮殿を出た事に気付いてすぐに後を追い掛けた。
『クエェェクエ(キラッ)!』
『乗れって?』
『クエ(キラッ)!』
そして、ゴジに追い付くと何も聞かずに自分の背に乗るように促し、ゴジがレインベースに行きたいと聞くや否や、砂漠を走り、河を泳いでゴジを無事ここまで運んできたのだ。
超カルガモ部隊は飼い主であるビビからゴジが困った時は、必ず彼の力になるように言い聞かせられていたので、カウボーイはその指示に従っている。
「あれがレインベースか……けど街に入る必要はなさそうだよ。なぁ……サー・クロコダイル?」
「クハハハハ!」
砂漠を歩くゴジの周りに広がるのは周りにへだてる物がない砂の世界であり、ようやく目的地であるレインベースが見えた。
しかし、ゴジは見聞色の覇気で待ち人が向こうから訪ねてきたことを知り、何も無い時折砂埃が舞う虚空に声を掛けるとクロコダイルの哄笑が響き渡る。
「ク、ク、ク……クエェェ(キラッ)!」
ゴジは突如響き渡る笑い声に怯えるカウボーイの首元を優しく撫でながら、その背から降りる。
「大丈夫。落ち着いてくれ。ここまで運んでくれてありがとう。アルバーナに帰っていいよ。」
「クエ(キラッ)!」
カウボーイは背中から降りたゴジの指示を聞いて、翼でキザったらしくサムズアップを決めてから持ち前の脚力で後方に走り去って行った。ゴジを送って来た時よりも明らかに速く走っているのはきっと気の所為である。
アラバスタ王国に生息するカルガモは人並みの知能を持ち、人によく懐き、温和で臆病な性格の動物である。
「いい加減姿を見せてくれないか?そちらから会いに来てくれたんだろう?」
ゴジが言い終わった直後、彼の目の前で舞っていた砂塵が晴れた瞬間に、黒いボンテージとミニスカートの上から白いシックなコートを着た“悪魔の子”ニコ・ロビンと黒い上下スーツの上から緑色のコートを羽織ったサー・クロコダイルの二人が現れた。
「はじめましてゴジ准将、そして、ようこそアラバスタ王国へ。」
「クハハハハハ!」
ロビンは姿勢を正してゴジに対して深く頭を下げて、クロコダイルは立ったまま不敵な笑みを浮かべている。
「“悪魔の子“ニコ・ロビンと“砂漠の王”サー・クロコダイルだな?はじめましてだって何を言う?君とはこの国へ来て直ぐに顔を会わせただろう?」
ゴジはコアラの尾行がバレた事を知ってるので正直に話すと、ロビンは頭を少し傾けてながら微笑む。
「ええ。流石は“麒麟児”さんね。一目見ただけで私に気付くなんてね。」
「よく言うよ。君は俺の“女好き”を知って接触しようとしたのだろう?俺の大切な部下を無事に返してくれてありがとう。」
「あの赤いスキュレットの女の子、“海拳”ね。可愛い女の子に危ない事を命じるなんて酷い男ね?」
ゴジはコアラを無傷で返してくれた事に礼を述べると、ロビンは微笑んだまま軽い皮肉で返す。
クロコダイルは葉巻を吸いながらゴジに話し掛けた。
「お前が“麒麟児”か…なるほど噂通り若いな。」
「はじめまして。サー・クロコダイル、海軍本部准将のゴジだ。」
「で、この俺に何の用だ?招集の話は受けてねぇぞ?」
クロコダイルの言う招集とは王下七武海は世界政府から海賊および未開の地に対する海賊行為が特別に許されている代わりに緊急事態時には海軍本部や世界政府の為に力を貸すことが義務付けられており、その際に海軍本部から王下七武海宛に送られる要請のことを言う。
緊急時には海軍将校が迎えに来ることもある。
「いや、今からお前の化けの皮を剥がしてやろうと思ってな!なぁ…Mr.0。」
ゴジがクロコダイルをMr.0と呼んで指差すが、クロコダイルは余裕そうにニヤケている。
クロコダイルは現在の王下七武海の最古参で、王下七武海制度が出来た当初からいる大海賊であり、過去にも数々の悪事を企んでいたが、足が付くような真似はしない程に慎重な男だった。
彼は自分がMr.0だという証拠は何一つ残していないのだ。
「クハハハハ!Mr.0?何の事だ…海軍?俺はクロコダイルだぜ…」
ゴジとクロコダイルが睨み合っている中で、タイミング良くゴジの持つ携帯電伝虫がけたたましく鳴き、ゴジは受話器を取る。
『もしもし、ゴジ君?』
『ステューシーか?いいタイミングだ。報告をしてくれ』
ゴジは話の内容をクロコダイルにも聞こえるように受話器を向ける。
『バロックワークスの構成員は総勢1000人。幹部は社長であるMr.0とペアを組むミス・オールサンデーから直接指令を受けるオフィサーエージェント、フロンティアエージェントと呼ばれる12人と1匹の男性社員、および彼らとペアを組む女性エージェントから成るわ。ここまではミキータからの情報通りね。で、ここからが新しい情報よ。ゴジ君の読み通りミス・オールサンデーの正体は“悪魔の子”ニコ・ロビンで間違いないわ。」
諜報技術に関してCP-0出身のステューシーの右に出るものはおらず、さらにCP-1も動員してバロックワークスを調べて上げたのだから成果が出ないはずはない。
『さらに、ゴジ君が王宮で捕まえた男の正体はMr.6。この男を拷問してバロックワークスの幹部達のアジトが分かったの。場所はエルマルの西方に位置するスパイダーズカフェ。今そこにいるのはコードネームMr.1、ミス・ダブルフィンガー、Mr.2ボン・クレーというバロックワークス幹部のトップ三人。コアラとカリファの二人と合流して三人で彼らの拿捕に向かっているわ!』
『よし、そちらは任せるぞ。』
『ええ!』
ゴジは電伝虫の通話を切ってクロコダイルを見ると、クロコダイルはバロックワークスのことをここまで調べたあげたゴジを賞賛する。
「クハハハハ!流石に頭も切れるじゃねぇか?だが、まだ甘いなぁ!バロックワークスとやらの副社長がここにいるニコ・ロビンと判明し、そしてそのアジトが分かった所でそれがどうした?この俺になんの関係がある?」
ゴジ達の得た情報はあくまでクロコダイルの隣いるビジネスパートナーであるニコ・ロビンがバロックワークスの副社長と判明したので、当然Mr.0の正体はクロコダイルだろうという状況証拠である。
クロコダイルはバロックワークスの存在が露見することを見越して自分と繋がる一切の証拠を残していないので、未だにMr.0とクロコダイルを結び付ける決定的な証拠がないことに気付いているのだ。
「なるほど……部下は所詮捨て駒。これくらいでは動じないか?」
海軍とはこの世界における警察であり、海賊を拿捕する以外の犯罪行為を検挙する場合は証拠裁判主義を原則としている為、クロコダイルの言い分は正しい。
クロコダイルは王下七武海。王下七武海は海賊であって海賊ではなく、彼らの称号を剥奪するには相応の証拠を用意した上で判断しなくてはならない。
「だが、そうだな。俺も王下七武海の一人として自分の仕事をするとしよう…」
クロコダイルはそう言いながら下卑た笑みで隣にいるロビンを見つめる。
ゴジはクロコダイルの動きをで見聞色の覇気で予知し、クロコダイルがやろうとしていた事にいち早く気付いた。
「電光石火!」
ゴジが電気能力と“剃”を合わせてた超高速移動で体を低くしながら、ロビンの腹に右肩でタックルように突っ込み、彼女の膝裏と背中に両腕を回す事で彼女を抱きかかえてクロコダイルの傍を駆け抜けた。
「っ…!?ゴジ准将……えっ?クロコダイル……貴方何をしてるの……?」
ロビンはクロコダイルが左手の金色のフックを外して先程まで自分がいた場所をフックで突き刺しているのを、ゴジに抱えられたまま彼の背中に見てしまった。
さらにクロコダイルのフックの刀身に複数の穴が空いており、その穴からは毒の滴が滴り落ちている。
──クロコダイルがロビンを背中からフックで突き刺す。
ゴジはこの光景を未来視して、慌ててロビンに駆け寄って彼女を助けたのだ。
「なんの真似だ…“麒麟児”?」
「それは俺のセリフだ。なんの真似だ?何故ニコ・ロビンを捕らえるのではなく、殺そうとした?」
「何を怒っている?俺は海軍の手を煩わさぬようにただ王下七武海の一人として犯罪組織バロックワークスの社長であるニコ・ロビンを殺してやろうと思っただけだぜ!」
クロコダイルはニコ・ロビンのことをバロックワークスの副社長ではなく、あえて社長と呼んだ。
「「なっ…社長!?」」
「クハハハハ!」
ニヤリと笑ったクロコダイルを見て、ゴジとロビンは唖然とする。
「そういうことか……この外道が!!」
さらにクロコダイルがこれまで一切表に出ずに、ロビンに直接的な指揮や運営を一任していたのはバロックワークスの存在が世界政府にバレた時に、全ての罪をロビンに押し付けて殺すつもりだったことにゴジとロビンは気付いてしまった。
死人に口なし、クロコダイルがMr.0と知っているのはロビンだけであり、彼女さえ殺してしまえば自分の正体は永遠に露見しないのだ。
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