ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第二章 青年期
第四十二話
ここは偉大なる航路を航海をしている一隻の海軍船の船長室である。
歳の頃は成人に差し掛かるかどうか、黒髪短髪を逆立たせ、整った顔立ちにクルクル眉毛が特徴であるこの若き海軍本部将校が船長の椅子に腰掛けて頬杖を付き居眠りをしながら、子供時代の懐かしい思い出を夢に見ている。
「隊長…。隊長ぉっ!准将、起きてください。」
「すぅ……すぅ……。」
一人の若い女性海兵が優しく声を掛けて覚醒を促すも規則正しい寝息を立てて、まるで覚醒する気配はない。
その女性海兵はあどけない顔で寝ているジェガート第二部隊隊長である彼の顔を覗き見る。
───私ではどんなに頑張っても無防備この子に傷一つ付けれないのよね。
完全に無防備で寝入っている彼だが、侮ることなかれ生まれつき外骨格と呼ばれる鉄のような硬度を誇る皮膚を持つ為、このまま大砲を打ち込まれても傷一つ付けられないのだ。
「ゴジ准将、いつまで寝てるの!さっさと起きなさい!」
そんな彼の耳元に口を近付けて大声で、覚醒を促さそうとする伝令である彼女の声で彼はようやく目を開けて意識を取り戻した。
「ん〜ん?……あぁ…寝てた。カリファか…おはよう。」
ゴジは若干12歳の若さで海兵になって以来、功績を重ね続けてわずか4年で准将に上り詰め、ステューシーに変わって今や第二部隊の隊長となっていた。
ステューシーは大佐に昇進して第二部隊の副隊長に、そして、カリファも大尉まで昇進して隊長伝令となっていた。
「おはようではありません。もう昼になります、それに既にアラバスタ王国の領海に入っています。しっかりして下さい!」
カリファは矢継ぎ早に捲し立て後、名前を呼ばれてことを思い出した彼女は眼鏡をクイッとあげながらビシッと言い放つ。
「それと…准将、セクハラです!」
ゴジは先程まで自分とカリファがジェガートへ入隊したばかりの頃の夢を見ていたので会った時と全く変わらず、いや…さらに美しくなったカリファを見て苦笑する。
「相変わらず手厳しいなぁ…名前を呼んだだけだろ…?ふわぁ〜あ……」
「お疲れのようですね。また徹夜ですか?」
カリファはここ最近まともに休んでない様子のゴジを心配する。
「あぁ……中々考えが纏まらなくてな。」
「例のバロックワークスですか?」
ゴジはアラバスタ王国に観光で来ているわけではなく、闇の組織バロックワークスの捜査に来ており、今後の捜査方針について頭を悩ませていた。
「あぁ。バロックワークスはダンスパウダーを使って何をしようとしているんだとな。」
ゴジは先月ダンスパウダーの製造工場を摘発した時、多くのダンスパウダーがこの国へ流れていることを知り、さらにその製造工場はバロックワークスという組織が営んでいることが分かったが、ステューシーに確認するもCP-0すら把握していない闇の組織であることも分かった。
「アラバスタ王国のレインベースと呼ばれる都市には王下七武海“砂漠の王”サー・クロコダイルが滞在しておりますね。」
「それが特に頭を悩ませてる問題なんだよ。」
「どういうことでしょう?」
「“雨を呼ぶ粉”ダンスパウダー、人工的に雨を降らす悪魔の粉。この粉がアラバスタ王国へ流れ始めたのが王下七武海”砂漠の王“サー・クロコダイルがアラバスタ王国へ来た直後からだ。」
「っ……!」
カリファの息を飲む声に気にすることなく、ゴジはさらにつづける。
「それにクロコダイルがこの国に来て以来、王都アルヴァーナとクロコダイルが滞在しているレインベース以外は降水量が激減し、逆にこの二都市だけは毎年、例年以上の雨が降っている。」
ダンスパウダーは霧状の煙を発生させて、空に立ち上らせることで空にある氷点下の雲の氷粒の成長を促し、雨を降らせる。
「准将……それはまさか……!?」
「あぁ。ダンスパウダーを使って王都とレインベースに雨を降らせている可能性が高い。そして俺はこの一件にアラバスタ王家とクロコダイルが関わってるとみている。」
ダンスパウダーを使用すると風下にある場所は雨が降らなくなるため、別名“雨を奪う粉”と呼ばれており、世界政府ではダンスパウダーの製造及び所持を禁止しているのだ。
「ゴジ君……だから貴方は自分が来ることを大々的にアラバスタ王国に向けて公表し、王家とのアポを取るように私に指示したのですか?」
カリファは驚き過ぎて仕事中であるにも関わらず、ゴジを准将ではなく、君付で呼ぶほどに取り乱している。
ゴジは直接会って真偽を確かめる為にカリファを通じてアラバスタ王家に面会の約束を取っていた。
「そうだよ。先に言うと危険だってカリファは絶対止めるだろうからな。黙ってて悪かったな。」
「ごくっ……それを今ここで話すということは、もう止めても聞く気はないのですね?」
「そうだ。あとクロコダイルにも視察だと言って面会の予約も取ってくれ。」
海軍将校が王下七武海への牽制と労いを兼ねて面会を求めることはよくあることである。
「わかり……ました。」
カリファは口角を上げる不敵な笑みを浮かべて自分を見上げるゴジを見て息を飲み、冷や汗を流す。
───たったこれだけの情報からそこまで読み取みとる洞察力と自ら敵地に飛び込む胆力……。これが“麒麟児”!!
カリファが呆気に取られている中、眠気を覚ます為に立ち上がったゴジはカリファを見て、子供の時と比べて自分の身長が随分と伸びたなと改めて気付く。
「くくっ…」
「ん?どうしたんですか?いきなり笑ってまだ何か?本当に気持ち悪いですよ?」
ゴジは不機嫌さを隠さずに自分に詰め寄るカリファを窘める。
「いつにも増して辛辣だな。さっき居眠りしてる間に俺達が海軍へ入隊したばかりの頃の夢を見てたから、あの時に比べてデカくなったけどさ。カリファの方がまだ少し背が高いなと思っただけだよ。」
ゴジの身長は成長期も相まって毎年伸びているが、夢の中では見上げていたカリファも目線を少し上げるだけで済む事に自分の成長を実感していた。
ちなみにゴジは16歳になって身長も伸びて175cmあるが、身長185cmのカリファにも、身長179cmのステューシーにも未だに及ばない。
「セクハラです!」
「あぁ!そうだな……女性に向けて背が高いって言うのは確かにセクハラかもな!わはははっ!」
女性に対して身長が高いと言ってしまったのだから、これはセクハラと呼ばれても仕方ないとゴジは笑っているが、カリファはそんなゴジを見て類希な洞察力を持ちながら、年相応に女性よりも身長が低いことを気にする苦笑しながらもここへ来た要件を思い出して居住まいを正す。
「准将、新しい海軍コートです。」
「あ〜また身長伸びたからな。流石カリファだ。いつもありがとう。」
「いえ、秘書として当然です。」
カリファはゴジからのお礼に顔を少し赤らめながらも、眼鏡をクイッとあげてクールに言い放つ。
カリファの服装はゴジが子供の頃に「秘書にしてやる」と言ったことを意識してか、一目で秘書と分かるような黒いタイトなスーツに黒いミニスカートと黒い網タイツに黒のピンヒールという出で立ちに高級なレディースコート風に改造された白い海軍コートに袖を通して羽織っている。
「支給品のスーツも一回り大きいサイズを手配しておきました。」
「助かるよ。このスーツもちょうどキツくなってきたところだったんだ。」
将校の証である海軍コートは白色で背中の「正義」の二文字は見えるならば、ある程度の改造は許可されているが、成長期のゴジは身長が伸びる度、毎年のように新しく支給してもらっているので、黒いシャツに支給品の将校が着る白いスーツ上下の上にスタンダードな海軍コートに袖を通さず羽織るという在りきりな格好をしている。
理由は定かではないが、この海軍コートは袖を通して着るよりも袖を通さず肩に羽織る方が海軍ではスタンダードで、ステューシーやヒナも同様に袖を通さず肩に羽織っている。
「ふふっ…准将、ではこのまま王都アルヴァーナに向かいますのでそろそろ準備して下さい。あっ……上陸前にレイジュ様に連絡されますか?」
ようやく自分のペースを取り戻す事の出来たカリファは機嫌を直していつものクールな出来る女に戻って、伝令としての仕事をこなしていく。
「そうだな。連絡しとこうかな?」
カリファはゴジが言い終わる前に一匹の電伝虫を差し出す。
「准将…レイジュ様の電伝虫です。」
ゴジは一般公表こそしてないが、ジェガートの仲間達には自分がジェルマ王国の王子であることは伝えてある。
「ありがとう。あと、婆さんにも…」
カリファはゴジが答える前にゴジの言いたい事ことを察して答える。
「おつるさんには間もなくアラバスタ王国へ到着することは連絡しております。准将はお休みだったので、先に連絡しておきました。」
「流石カリファだ。では、上陸前に作戦を伝えるからステューシーとヒナと彼女の将校三人を呼んできてくれるかい?」
ジェガート第二部隊には5人の将校がいる。
ゴジ、カリファ、ステューシー、ヒナ。そしてあと一人は入隊して僅か2年で少尉となった海兵がいるのだ。
「はい。分かりました。」
そう言って頭を下げてからカリファはゴジに指示された三人を呼びに行く為、退出した。
「闇の組織バロックワークスか。クロコダイルはどう考えても無関係とは思えない。貴様はアラバスタ王国を巻き込んで一体何をしようとしているんだ?」
ゴジはこの一件にクロコダイルが関わって何か大きな事をしでかそうとしている気がしてこの国の行く末を憂い、必ずこの一件を解決させる決意を固めた。
後書き
あまり上手ではないですが、イラストでゴジ君青年バージョン公開中です。
扉絵を差し替え予定です。
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