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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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大荒れの予感

 
前書き
早く夏の大会を書き始めたい今日この頃|ョω・`)サキガナガイ… 

 
莉愛side

バシィッ

勢いのあるストレートを受けたミットから響く捕球音。その音は今まで見てきた先輩たちの中で間違いなく一番大きい……んだけど……

「ボール!!フォア!!」

聞き飽きたコールに私たちは思わずタメ息をついてしまった。

「うわ……押し出しだよ」
「まだ1アウトなのに……」

あまりにもわかりやすいピンチに全員がそわそわしている。マウンドにいる背番号4の優愛ちゃん先輩も、顔から血の気が引いてきているのがよくわかる。

「ピッチャー代えないのかな?」
「さすがにこれは代えるんじゃない?」

この回からマウンドに上がった優愛ちゃん先輩は球が速い。でも、ストライクとボールがハッキリしているため、バッターはほとんど打席に立っているだけで塁に出てしまっているのだ。

『9番・ライト・宮下さん』

次の打者のコールがされたのに、ベンチは動く気配がない。それどころか、ブルペンには誰も入っておらず、何も手を打っていないのが丸わかりだった。

「えぇ!?優愛さんまだ行くの!?」
「もう見てられないよぉ」

一回戦とは全く異なり点数が激しく動くこの試合。スコアボードに目をやり、私はぐったりとしたタメ息を付いた。

明宝学園 423
狛江商業 211

三回の裏の相手の攻撃の時点で9対4。打線はいつも通り好調だが、今日は投手陣が大荒れだ。

先発マウンドに上がった葉月さんはいきなり三者連続のデッドボール。そこからは腕が縮こまってしまい、甘く入ったストレートをセンター前に運ばれて2点を失ってしまう。

初回はこの2点で収まったけど、次の回もそのイメージを引きずってしまったのか二本の長打を浴びて失点。

三回は優愛ちゃん先輩がマウンドに上がったけどいきなりストレートのフォアボール。その後はエラーも重なり1アウト満塁からのフォアボールで失点。現在に至っている。

「ストライク!!バッターアウト!!」

荒れ荒れの投球でこのまま試合が壊れてしまうのかと思っていたけど、今度は一転して三球三振。葉月さんも優愛ちゃん先輩も球がとにかく速い。それがストライクにさえ入ってくれればそう簡単には打たれないんだろうけど……

「ボール!!」

全く安定しない制球力に私たち……特に瑞姫はイライラを募らせていた。
















第三者side

「ホントだ。全然東も渡辺も成長してなかったね」
「だと思ったよ。もし成長してれば、大事な初戦に二人のどちらかは使っておくからな」

スタンドで観戦しているのは東英高校のユニフォームを着ている少女たち。彼女たちは予定よりも進みが遅れているゲーム展開に、げっそりとしていた。

「どうする?アップしに行く?」
「この感じだとコールドもありえそうだし、逆に試合が伸びる可能性もあるよね」

スコア的には5点差。七回制、五回7点差コールドが採用されている女子野球であれば、この三回終了時にアップを開始しておきたい。

しかし、リードしている明宝の投手が安定していないため、次の試合開始時間が読めず彼女たちはこれからどうするべきか迷っていた。

「なんだ?お前らまだアップに行ってなかったのか?」

そこにやってくる若い男性。彼はいまだにスタンドにいる少女たちがいることに困惑している様子だった。

「マッチー、まだ試合続くかな?」
「だから先生をあだ名で呼ぶなって」

ツインテールの少女の頭を鷲掴みにする男性。見慣れた光景に他の少女たちは盛大に笑い、掴まれている少女はアワアワとしている。

「もうすぐにでも試合は終わるよ。たぶん次から明里が投げてくるよ」
「え?もう菊池を使うんですか?」

あわてふためく少女の反応に満足したのか、ニヤリと笑みを浮かべて近くのベンチへと腰掛ける男性。彼のその言葉には、全員が首を捻っていた。

「昔なら意地でも代えなかったけど、随分丸くなったからね。真田監督は」

手の内を理解しているかのような不敵な笑みを浮かべる青年。それを聞いた少女たちは何かを理解したのか、すぐに体を温めるために外へと駆けていった。
















(はぁ……またこの展開か……)

躍動感溢れる投球フォームから次々とボールを投じる少女に、ベンチに座る真田はぐったりとしていた。

(力はあるのに、優愛も葉月もフォームが安定しないんだよな……)

投球フォームが安定しなければ制球を安定させることはできない。だからこそ投手は投げ込みを行うのだが、彼女たちは本職の野手の練習に多くの時間を割くため、なかなかブルペンに入れない。結果、投手不足のこのチームではこのような荒れる試合が時折発生してしまうのだ。

(次から明里を使おう……もし掴まったら栞里か伊織で凌ぐ!!絶対陽香を今日は使わねぇ……)

明日は準々決勝が控えている。相手は格下ではあるがシード校。エースである陽香以外にそれを抑え込める投手を明宝学園は現在有していない。

「キャッチ!!スリーアウト!!チェンジ!!」

速いストレートに詰まったフライでようやくこの回の守備が終わる。控えの選手たちは試合に出ている仲間たちが気持ちを切らさないように、すぐにベンチから飛び出し、飲み物を渡したり声をかけたりと気を配っている。

「明里!!次から……あぁ……」

次からマウンドに上がる旨を伝えようとしたところで、彼はあることに気が付いた。肝心要の少女が、次打者でヘルメットとバッティング手袋をはめていることに。

「監督?」
「いや……あとで言うわ」

打席に向かう彼女に余計なことを言いたくない。しかし、一番嫌なのは彼女が塁に出て、そのまま残塁してしまうこと。そうなれば肩を作る暇がないため、もう一度優愛をマウンドに上げる選択を強いられるのだ。

「葉月!!」
「はい?」

相変わらずのマイペースな様子で準備をしている葉月を呼び寄せる。彼女はいまだにはめれていないバッティング手袋をゆっくりとはめながら、彼の元へと向かう。

「明里が塁に出たらお前でホームまで返せ。凡退してたら粘って時間稼ぎしろ」
「了解で~す」

本当にわかっているのかと思ってしまうような間の抜けた返事にイラっとしてしまう。しかし、それを必死に抑え込み、彼女を送り出す。

(あぁ……マジこの二年生軍団なんとかならねぇかな……)

チームの主力であるにも関わらず、そんな感じが全くしない選手たちにタメ息が止まらない。しかし、結果を残しているだけに、なんとも言えないことが彼のストレスを加速させていた。

(あ~あ……朝起きたら全員大谷になってねぇかなぁ……)

どこかのプロ野球のコーチのようなことを思いながら、試合の様子を見守る。その先頭打者の明里がポップフライを上げた瞬間、内心ラッキーと思ってしまった自分に、余計嫌気が差していたのは言うまでもなかった。




 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
最近のお話このチームの弱点ばっかりになってきてる……
ただこうしておかないと主人公がすぐに試合に出れるような状況にならないので……ご容赦ください。 
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