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Fate/WizarDragonknight

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切り札

 
前書き
ほむら「フェイカーはどこ……?」
キャスター「マスター」
ほむら「どう? 見つかった?」
キャスター「どうやら私の探知魔法にかからない術式を組んでいるようです。肉眼で見つけるしか……」
ほむら「面倒ね……そもそも、道が入り組みすぎていて、筆頭候補の会場まで出られない……ぐっ」全体が揺れる
キャスター「マスター」
ほむら「急ぐわよ、キャスター」
キャスター「……ん?」
アイドル「うっ……」瓦礫の下敷き
キャスター「マスター。あれは?」
ほむら「放っておきなさい。私達には関係ないわ」
キャスター「……」
ほむら「……」アイドルの姿が、まどかと重なる
ほむら「キャスター。彼女を助けられる?」
キャスター「命令とあれば。転移」アイドルを外へ転移」
瓦礫の中「助けてくれ……!」
ほむら「……キャスター。ここの会場にいる人たちを全員、外へ連れ出すわよ」
キャスター「了解しました。マスター。救助対象者、サーチ開始」魔法陣広がっていく 

 
「遅かった!」

 逃げる人々に逆走しながら、ハルトは唇を噛む。
 すでに二体の闇のヒューマノイドは、ライブ会場を火の海に変えている。あちらこちらから瓦礫が落下し、更なる大混乱に陥れていく。
 綺麗に整頓されて並んでいたはずの客席も、瓦礫や破壊によってところどころ穴だらけ。ドームの中心に作られたステージも、あらゆるものが薙ぎ倒され、見るも無残な姿になっている。

「これ以上はさせない……! 変身!」
『ハリケーン プリーズ』

 緑の風が、走るハルトの前に魔法陣を作り上げる。
 魔法陣を潜ったハルトは、そのままウィザードに身を変えていた。
 同時に、また新たな天井の崩落が発生する。
 しかも間が悪いことに、その落下先には、逃げ遅れた人々が残っていた。

『キャモナスラッシュシェイクハンド バインド プリーズ』

 捕縛の魔法をウィザーソードガンに乗せて発砲する。すると、天井に蜘蛛の巣状に張り巡らされた網が、落下する瓦礫を支えた。

「早く逃げて!」

 風に乗り、浮遊しながらウィザードは叫ぶ。
 人々はウィザードに目もくれず、一目散に逃げていく。
 見送って安心したウィザードは、すぐ背後からの敵意を避ける。

「__________」

 振り向いた顔面に、すぐ接近するのは、無機質な顔。黒い眼差しを持つそれが、メフィストだということはさっき覚えた。

「_________!」

 メフィストの腕の鉤爪(アームドメフィスト)が、ソードガンの銀とぶつかる。空中で何度も激突を繰り返し、やがてウィザードはメフィストを蹴り離した。

「うわっとと……」

 だが、反動で着地に失敗し、躓く。
 さらに、そこへもう一体の闇のヒューマノイドの攻撃が重なる。
 ファウスト。
 ピエロのイメージを切って離せないそれはバク転を繰り返し、ウィザードの顔を蹴りつけた。

「ぐっ……! このっ!」

 負けじとウィザーソードガンで応戦するが、まるで流れるような身体能力に、ウィザードはファウストを捉えることができない。
 それどころか、彼の足技がウィザーソードガンを絡め捕り、ステージの方へ飛ばされてしまった。

「えちょっ……!」

 さらに、そこにメフィストの攻撃も加わってくる。
 ウィザードは素手で二体の攻撃をいなす。だが、風のウィザードであっても、二体の攻撃を防ぐことはできない。
 メフィストの武器、アームドメフィストがウィザードの鎧を貫く。

「っ!」

 転がったウィザードに、さらに軽やかなステップのファウストが迫る。ウィザードの顎を蹴り、さらにドロップキックで大きく後退させた。

「だったら……!」

 痛みに耐えながら、ウィザードは次の魔法を取り出す。

『チョーイイネ サンダー サイコー』

 風のウィザードの最上位魔法。雷を纏った竜巻が、二体を捉え、巻き上げていく。例え逃げ出そうとしても、雷の手が逆に彼らを引きづり入れる。

『コネクト プリーズ』
『ハリケーン スラッシュストライク』

 続けざまにコネクトから引き出したソードガンへ、ウィザードは緑の風を宿らせる。

「はああああああ!」

 風の斬撃がファウストへ跳ぶ。
逃げ場のない、空中への一撃。だが。

「っ……!」

 メフィストの腕から発射された光弾が、スラッシュストライクを打ち落とし、そのままウィザードを襲う。
 魔力制御が途切れ、竜巻が消えてしまった。

「だったら……!」

 ウィザードは次の指輪へ手を伸ばす。
 だが、それよりも先に、ファウストが接近戦を挑んできた。

「!」

 ウィザードは指輪への手を諦め、ソードガンで彼の蹴りを防ぐ。
 さらに、メフィストまで攻撃の手を加えてくる。

「……ちゃん! チノちゃん!」

 その声に、ウィザードの意識は逸れた。
 メフィストの爪をまともに受け、地面を転がった。

「今の声……まさか……!」

 すぐさま頭に最悪の状況が浮かび上がる。
 見れば、そこにはココアとモカの姿が。
 客席に落ちた瓦礫。やはり、巻き込まれた人はいた。
 瓦礫に挟まり、上半身うつ伏せになったチノの姿が、そこにはあった。

「チノちゃん……! ぐあっ!」

 しかも、その間にメフィストの攻撃は続く。接近戦によるダメージで、ウィザードは見滝原ドームの客席に叩き落とされた。

「今度は何!?」

 悲鳴となった、モカの声。起き上がったウィザードは、こちらを恐怖の眼差しで見つめるモカを発見した。

「に、逃げ……」
「こ、ココアココア! チノちゃんは私が助けるから、ココアは先に逃げて!」

 モカはそう言って、瓦礫をどけようとする。だが、いくらパン屋として鍛えているとはいえ、人間一人や二人の力では、コンクリートを動かすことは適わなかった。

「お姉ちゃん! お姉ちゃんこそ! チノちゃんは私が……!」
「いいから逃げて! もう怪物が、すぐそこにいるのよ! このままじゃ、あなたまで襲われるわ!」

 モカがウィザードを指差しながら叫んだ。
 一瞬ウィザードは、体が固まるが、即座にエメラルドの面の下で口を吊り上げる。

「……そうだよね」

 それを理解したとき、あたかも周囲の時間が止まったように感じた。
 闇の使者たちも、ココアたちも。
 誰も彼もが、静止した絵画のようで。
 ただ、ウィザードの心の中だけが響いていた。

「……見滝原に来てから忘れてたけど、これが普通だもんね……こんな仮面の中だけど、俺は結局……」
「……ハルトさん?」
「え?」

 一瞬、ココアがこっちを見つめていた気がした。
 それは、すぐにウィザードは意識を取り戻させる。

(そんなはずはない……! ココアちゃんに俺の正体が知られているわけが……!)

 そして、同時に現実の判断を急がせた。

「! 危ない!」

 ウィザードはすぐさま、ウィザーソードガンを発砲する。
 ウィザードの意思で自在に動く銃弾は、そのまま彼女たちの背後から迫るメフィストの肩に命中し、動きを防いだ。
 すると、メフィストは改めて、ウィザードへ狙いを絞る。

「……!」
「早く逃げて!」
『ランド プリーズ ド ド ド ド ド ドン ドン ド ド ドン』

 座席の中から起き上がりながら、ウィザードはエレメントを風から土へ。
 即座に、右手の指輪を切り替える。

『ドリル プリーズ』

 魔法の力で、自らの体を回転させる。まさにドリルとなり、地面へ潜る。
 そのままチノの下から、瓦礫を全て持ち上げた。

「大丈夫?」
「……!」

 モカはウィザードには目もくれず、倒れているチノを抱き寄せる。
 恐る恐るウィザードを見上げ、

「……助けて、くれたの?」

 と尋ねた。
 ウィザードは瓦礫を脇に置き、頷く。

「いいから、早く逃げて!」
「は、はい! ココア!」
「う、うん!」

 チノを背負ったモカは、ココアとともに出口へ急ぐ。
 だが。

「お姉ちゃん危ない!」

 ココアが叫ぶ。
 モカが出口に差し掛かる寸前、出口が崩落。モカの目の前で粉塵が舞い、彼女たちも閉じ込められてしまった。

「そんな……!」

 絶望的な声を上げるモカ。彼女はチノを背に回し、ウィザードたちへ向き直る。

「……っ!」

 きっとこちらを睨むモカ。彼女にとっては、きっとウィザードも闇のヒューマノイドたちも変わらないのだろう。
 そことなく寂しさを感じながら、ウィザードは彼女に背中を見せる。

「……? 助けてくれるの?」

 モカが半信半疑な声をかけてくる。
 だがウィザードは、固い声を作って言った。

「ここにいる人のことは、誰一人信用しないで下さい」
「え?」
「俺も。アイツらも。あなたは、妹さんとみんなで逃げ切ることだけを考えてください」
「……?」

 モカの言葉が無くなった。
 それを肯定と受け取った土のウィザードは、静かに二体の闇へウィザーソードガンを構える。
 やがて、二体の闇のヒューマノイドが歩み寄るが、その動きは、より深い闇の出現に阻まれた。

「やあ。苦戦しているようだね」
「トレギア……!」

 ウィザードは、トレギアを恨めしく睨む。
 だが、そんなトレギアの体に、紗夜の輪郭が浮かび上がった。

『日菜……』
「ッ!」

 まるで蜃気楼のように重なるそれは、ウィザードの動きを止めるには十分だった。

「おや? どうしたんだい? ウィザード」

 闇の二体の肩を抑えながら、トレギアがウィザードを殴りつける。

「っ!」

 痛みによって我に返り、ウィザードは即座に反応。彼の腕を払い、ソードガンでトレギアに斬りつけ___

『助けて……』

 再びウィザードの腕が止まる。
 彼女の顔がウィザーソードガンのほんのすぐ下に出現する。

「……!」
「ほらほら?」

 黒い雷が渦巻く腕が、ウィザードの面を叩き潰す。物理面に強いはずの土のウィザードにダメージを与えるそれによって、ウィザードの意識が飛びかける。

「どうした? 氷川紗夜の姿が見えて攻撃できないかい?」
「このっ……!」
『ディフェンド プリーズ』

 ダメージを受けながらも、ウィザードは防御の指輪を使う。
 接近されたトレギアとの間に現れた土壁により、ウィザードへの爪は軌道を反らした。

「卑怯者がっ!」

 激昂したウィザードは、掌底を放つ。土の壁によって紗夜の幻影を見ることなく、その体い打撃を与えた。

「……へえ? 見えないなら氷川紗夜を傷つけてもいいんだ?」
「違う!」

 ウィザードは叫びながら、ウィザーソードガンを開く。

『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』

 ウィザーソードガンが魔力詠唱を始める。
 ウィザードは、今の自分が持てる最大の魔法を選び、そこに読み込ませた。

『グラビティ プリーズ』

 最大の重力を、ウィザーソードガンの刃を支配する。黄色の魔力が、銀の刃に幾重にも重なっていく。

「紗夜さんをこれで……引き戻す!」

 ウィザードはそのまま、トレギアの肩へ斬り込む。
 重力によって、トレギアの体内は滅茶苦茶に捻じ曲がる。その中で、紗夜を引っ張り出そうとしたが。

「そんなもの……無駄だ!」

 トレギアの雷が、全てを一蹴した。
 吹き飛ばされたウィザードは、なんとか膝を折らずに立ち尽くす。

「手段がないからって、物理的に私から氷川紗夜を引っ張り出そう? そんな手段が通じる相手だと思ったのかい?」

 トレギアはほくそ笑む。

「だったら……無力を知って絶望するんだね」

 さらに発せられるトレラアルティガイザー。
 土の防壁をやすやすと破壊し、ウィザードを大きく吹き飛ばした。

「がっ!」

 トパーズの面の下で吐血するウィザード。
 せせら笑いながら、トレギアは一歩、また一歩と近づいてくる。

「諦めたまえ。今の君には、もう彼女は救えない。このままここで氷川紗夜の精神が消えていくのを見届けるがいい」
『日菜……!』

 何度も現れては消えてを繰り返す紗夜の幻影。それは、目に入るたびに、ウィザードの動きと判断を鈍らせていく。
 だが。

「きっと……まだ、可能性は……!」

___今は氷川紗夜の心は完全に封印している。彼女の意識はもうないよ___

「っ!」

 さっき、通路でトレギアはそう言った。

「もしかして……」

 一縷の望みにかけて、ウィザードはその指輪を取り出した。
 ウィザードの顔が描かれた、黄色の指輪。見滝原に来てからまだ一度も使っていないその指輪を、ウィザードはぎゅっと握りしめる。
 だが、トレギアは一切警戒の様子を見せない。

「何を企んでいるかは知らないが、君にはその手段を用いることはできないよ。このままここで潰えるのだから」

 トレギアの言葉を合図に、二体のヒューマノイドが襲ってくる。
 ウィザードは応戦するが、度重なる連戦による疲れもあり、いとも簡単に追い詰められていく。
 ファウストの光弾、メフィストの熱線。その二つにより、ウィザードの体から火花が散る。

「さあ……! 絶望しろ。そしてそのまま……消え去れ」

 トレギアが再び、トレラアルティガイザーの発射体勢に入る。
 もうダメだ、とウィザードが面の下の目を閉じた時。

「まだだ! 俺たちは諦めない! この戦いを、終わらせるまでは!」

 突然割り込んできた、強い声。
 同時に、散らばったガラスの破片より、それは飛び出した。
 巨大な銀の機械。前輪に一つ、後輪に二つのタイヤを持った巨大なバイクで、それは三体の闇のヒューマノイドを跳ね飛ばし、ウィザードの前に止まる。

「え?」

 いきなりの世界観に似合わないマシンの登場に、ウィザードは言葉を失う。
 やがて、そのマシンが開く。
 ガラス製のキャノピーが持ち上がっていき、その内側より赤が現れる。
 見覚えのある鉄仮面。龍騎の姿がそこにはあった。

「ミラーワールドから探し回ったぜ。大丈夫か? ハルト」
「あ、うん……」

 ウィザードへ手を差し伸べる龍騎。ウィザードは頷いて、その手を取った。

「ライダー……とんだ邪魔をしてくれる……!」
「へへっ! どんなもんだい!」

 龍騎は鼻をこすりながら肩を鳴らす。

「お前みたいな悪い奴はな! 徹底的に懲らしめてやんなきゃダメなんだよ!」
「わ、悪い奴って……」

 ぐうの音も出ないほどの正直な感想に、ウィザードは脱力した。

「でも、アイツの中には紗夜さんが」
「分かってる! 何とか助けるんだろ? 方法はまだ分からないけど、とにかく探す!」

 龍騎はそう言って、ベルトのカードデッキからカードを引き抜いた。
 赤い背景に、刀身が曲がった剣が描かれたそのカードを、左手の龍召機甲ドラグバイザーへ装填する。

『ソードベント』

 焼け落ちる会場に響く龍の咆哮。
 天空を舞うドラグレッダーの尾が、光を帯びて同じ形の剣として龍騎の手に収まる。
 龍騎はその剣、ドラグセイバーをトレギアたちに向けた。

「それに、お前だったらもう、なんかアイデアあるんじゃねえの?」
「!」

 その言葉にウィザードは口を噤んだ。
 龍騎は続ける。

「っしゃあ! お前が動くための隙ぐらい、俺が作ってやる! だからハルト、お前は、自分を信じろ!」

 龍騎はそう言って、一人、三体の敵へ走っていった。 
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