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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第三十四話

 イルカが船と並走するように泳いでいるのは船が起こす波に乗ることで推進力を得て楽をしながら泳げるからだと言われているのはご存知だろうか?


「おー!イルカがいっぱい集まってきたぞ!」

「あら、ほんと可愛いですね。」

「はぁ……。」


 海軍船と併走して泳いでいるイルカを見てはしゃいでいるゴジとカリファを見てヒナが肩を落している。

 カリファはイルカ達が「ピューピュー」と会話しながら楽しそうに泳いでいる姿を見る振りをしながら、ゴジやヒナに気づかれないように、こちらの様子を伺うステューシーと目線(アイサイン)を交わしていた。


『ここまでは予定通りよ。』

『流石はCP-9(シーピーナイン)。やるじゃない?』
 

 カリファはただの新兵ではない。

 ステューシーは元CP-0(シーピーゼロ)ということでセンゴクやゴジに警戒されているため、世界政府直轄のサイファーポールの中でも世界政府へ非協力的な市民に対する暗殺すらも許可され、“闇の正義”を掲げる「世界政府直下暗躍諜報機関“サイファーポールNo.9”」、通称CP-9(シーピーナイン)の諜報員であるカリファが送り込まれた。

 CP-9はその任務の都合上、他のサイファーポールと違って同じ世界政府の組織である海軍にも存在そのものが秘匿とされており、カリファという諜報員が存在することすらサイファーポールの中でもCP-0(シーピーゼロ)や「総監」しか知り得ないのだ。


『こんな子がルッチを超える逸材とはね。』


 ロブ・ルッチはカリファのいたCP-9(シーピーナイン)に所属し、互いに切磋琢磨して六式を習得したので、彼の強さは誰よりも知っているのだ。


『五老星からお墨付きよ。しっかりやりなさい。』
 
『言われなくても分かってるわよ。』


 五老星はステューシーの極秘任務が"智将"センゴクや"大参謀"つるに見抜かれる事を想定し、ステューシーを隠れ蓑としてカリファを正規ルートで海軍に入隊させて、気の許し易い同期生としてゴジに近付いて彼の手網を握りつつ、もし世界政府へ危害が及ぶような行為をしようとするようならば暗殺するように指示を出していた。

 五老星の目論見は達成し、ステューシーを警戒する海軍の上層部はカリファには全くのノーマークだった。

 ゴジは同じ部隊に配属された新兵同士で、しかもとびきりの美女であるカリファによく懐いて気を許しており、彼女の押しに弱い性格もゴジに好かれる為の演技である。


「おっと、危ないな。いい加減あの婆さんを児童虐待で訴えてやろうかな。カリッ…もぐもぐ…」


 ゴジは突然背後から後頭部目掛けて飛んでくるナッツを振り向き様に掴んで、小言を言いながらそれを口に入れた。


「流石ね。ゴジ君、気を抜いててもちゃんと見聞色の覇気が使えてるじゃない?」


 ゴジに向けて親指で弾くようにしてナッツを投げたのはステューシーだった。

 ただのナッツと侮ることなかれ……指銃の応用技に空気を弾いて弾丸の如く飛ばす”指銃・(ばち)”という技がある。

 ステューシーはこの技を使ってナッツを投げているので、ゴジが軽くキャッチした先程のナッツは弾丸とほぼ同じ速度だったりする。


「まぁね。ホントにステューシーと婆さんのお陰だけどね。」
  

 ステューシーはゴジの見聞色の覇気の鍛錬の一環として、つるから隙あらばゴジに不意打ちをするよう指示されている。
 

「はぁ…私なんてまだ見聞色の覇気なんてまだまだよ。ゴジ君を見てると自信無くすわ。ヒナ落胆。」


 実力差を感じて落胆するヒナとは別に平静を装い表情を変えないカリファだが、彼女はゴジがナッツを掴んで食べた(・・・)ことに衝撃を受けていた。


 ───なるほど……これは確かに逸材ね。


 普通弾丸の速度で投げられたナッツをただ掴むことが既に異常であるが、仮に掴めたとしてもナッツはその衝撃で粉々に砕けるはずである。

 ゴジは死角から弾丸の如く放たれたナッツをただ掴むだけでなく、砕けないように衝撃を逃がしながら完璧に掴んでみせたことでゴジの実力を評価した。


「私はゴジ君が偉くなったら、ゴジ君の伝令にしてもらおうかしら…?」


 カリファの提案にゴジは嬉しそうに笑顔を浮かべて彼女の手を取る。


「カリファは仕事が出来る女っぽいから伝令というよりも秘書っぽいな!よし、俺が偉くなったらカリファを秘書にしてやるよ。」
 

 カリファは自分に与えられた任務の重要性をしっかりと理解し、これを達成する為にはゴジの伝令になるのが一番だと考えていた。

 海軍における隊長付き伝令とは一般企業における秘書に近い役職でゴジの言うことも的外れではなく、隊長付き伝令は本部から隊長宛に指示される任務の受理から隊長から発せられる任務を末端まで伝える役目までをこなす為、ゴジの手網を握るにはうってつけの役職であるのだ。


「こほんっ…では、社長。今日の午前中の予定は甲板掃除、その後は昼食の下拵えとなっております。」


カリファはゴジの要望に応えて、美しく礼をする秘書のような所作でゴジに今日の仕事内容を伝えるとゴジもそれに乗っかる。


「よし、では掃除道具の場所まで案内してくれたまえ。」

「既にこちらに用意しております。社長お気に入りの新品のブラシです。」


 新兵の午前中の日課は毎日の炎天下の中での甲板掃除と昼食の下拵えであり、ゴジは常備されているデッキブラシの中でも一番新品の綺麗なブラシがお気に入りでカリファは既にそれを準備していた。

 
「流石だな。カリファ!さぁ、早速仕事に取り掛かろうか。」

「はい。お供します。」

「はあぁぁ〜…」
 

 新兵組のカリファとゴジの芝居めいたやり取りの後、デッキブラシ片手に真面目に甲板掃除を始めた二人を見て、ヒナは安堵の深いため息を吐くと、他の海兵達は一喜一憂する彼女を微笑ましく観察していた。


「「「ふふっ……。」」」


 二人とも口数は多いが、任された仕事はキッチリこなすので、ヒナも本気で注意する事は出来ずにゴジにいつも体良くあしらわれている。
 

「そういえば俺、二人のことステューシーとヒナさんって呼んでるけど、正式に海兵になったからちゃんと階級付けて呼んだほうがいいのかな?」

 
 ゴジはシャカシャカと甲板を洗うデッキブラシを動かしながら、ヒナと少し離れた所にいるステューシーに問いかけると彼女達は呆れた顔でやれやれといった風に首を横に振る。


「なんだか今更ね…今まで通りでいいわよ。」

「私も今更階級で呼ばれたら、なんかあるのかと思って気色悪いわ、ヒナ悪寒。」


 ヒナとステューシーの回答を聞いたゴジは胸を撫で下ろした。

 
「呼び方を変えるの面倒だから良かった。よく考えたら婆さんも婆さんって呼んでるし。」

「いや、おつるさんをそう呼べるのはゴジ君だけよ。」

 
 あっけらかんというゴジにヒナが心底呆れたように言うと話を聞いていた海兵達は全員が首を縦に振っている。

 “大参謀”と呼ばれ、数々の戦場を渡り歩いた伝説の女海兵とも呼べる海軍本部中将つるを婆さんと呼べる海兵は世界広しといえど、ゴジだけであろう。


 ◇
 

 こうしてゴジの海兵としての処女航海は順調に進んでいた。

 ゴジ達は順調に航海を続けていると、本日の見張り番のカリファがある海賊船を発見する。

 その船が掲げる長鼻の髑髏に交差した三日月の刀身を象った二本のカトラスの海賊旗(ジョリー・ロジャー)を見てカリファが叫ぶ。

 
「海賊船が近づいて来ます…あの海賊旗は、“若月狩(みかづきが)り”カタリーナ・デボンです!」

「みかづきがり?まぁ、いいや。俺の初仕事だ。さぁ早速捕まえに行こうぜ!」

「「「なっ…!?」」」
 

 カリファの声を聞いた第二部隊の面々は全員顔を青くしているが、ゴジは海兵としての初仕事であり、海軍だから見つけた海賊を捕まえればいいじゃないかと思っている。

 
「ヒナさん、みかづきがりって?」


 ゴジは周りの反応を見て仲間達が怯えているような気がして教育係のヒナに尋ねた。


「“若月狩(みかづきが)り”カタリーナ・デボン、2億5000万ベリーの賞金首よ…」

「なるほど…かなり大物だね。」
 

 ゴジはヒナの説明を聞いて、2億5000万ベリーの大物賞金首の海賊だと知って仲間達の反応を納得するが、ヒナの説明はまだ終わらない。
 

「問題はそこじゃないのよ…“若月狩(みかづきが)り”は美に異常な執着を持ち、世界中の美女を殺してその首をコレクションしているという最低最悪の女海賊よ。あの女が降りたった島の若い女性は皆殺されて、彼女が去った後は首がない若い女性の遺体が散乱しているの。世界中の女性に恐れられる海賊よ。」

「それってまさか…!?」


 ゴジはハッとなって“若月狩(みかづきが)り”の狙いに気付いて、美しい女海兵揃いの第二部隊の仲間達を見渡す。

 
「どうやら…私達は光栄にも“若月狩(みかづきが)り”の標的に選ばれたようね。」
 

 部隊を率いるステューシーは緊張した空気を払うために溜息混じりに少し茶化したようにいうが、重い空気を払うことは出来ない。

 ステューシーは部隊の全員を顔を見渡してから透き通る声で指示を出す。


「ヒナ…船を任せるわ。ゴジ君は私と“月歩”で若月狩(みかづきが)りの船に突っ込むわよ!」


 カリファが素早くカタリーナ海賊団を発見したおかげで互いの船は大砲も届かない程の距離がある。

 ステューシーは怯える仲間は足でまといにしかならないと判断して、まだ距離がある内にゴジと相手の船に乗り込んで、カタリーナ・デボンを叩いた方がいいと冷静に判断を下した。


「おぅ!」


 ゴジは仲間達の怯える姿を見て己を鼓舞する。

 デボンはその残虐性だけでなく、見聞色の覇気と武装色の覇気の二つの覇気を扱える剣士として実力も評価されて2億5000万ベリーの懸賞金が掛けられている為、逆に乗り込まれれば多くの部下が戦闘に巻き込まれしまう。


「カリファも船を頼むぜ!」

「ゴジ君は大丈夫ですか?」

「うん。俺は強いからアイツをぶっ飛ばしてみんなを守るよ。」


 CP-9であるカリファも“月歩”は勿論使えるが、彼女はサイファーポールの身分を隠しているので、サイファーポールの扱う超人体技六式を披露する訳にはいかないので、彼女は実力を隠したままなのだ。


「いくわよ。」
 
「あぁ…。ステューシー、俺は先に行くぜ!」
 

 ゴジは声を掛けたステューシーをおいて、たった一人で”月歩”で空を蹴って海賊船に向かうので、ステューシーが慌てて”月歩”で彼を追い掛ける。
 

「っ……!?どうしたのよ…ちょっと待ちなさい!ゴジ君!?」


 ステューシーは空を駆けながら背中越しにゴジに声を掛けるも、彼は一切止まる様子はなく、背中越しにも彼の闘志がメラメラと燃えいる事を感じている。


「俺の夢をぶち壊そうとするアイツだけは許さねぇ!」


 今のゴジにはステューシーの美声すら聞こえていない。

 ゴジは敵船を見据えながら、夢の職場と仲間達を守る為に今燃えていた。 
 

 
後書き
カリファさん好きですw 
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