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歪んだ世界の中で

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第十九話 初詣その十一

 その彼女が出した答えはだ。これだった。
「どっちも止めるわ」
「そうされますか」
「友井君が行きたいのなら一緒に行くけれど」
「僕はどちらもいいです」
「そう。じゃあ他の出店回りましょう」
「どういったお店を回られますか?」
「もう適当にね」
 色々な店をだ。そうしたいというのだ。
「そうしない?」
「わかりました。それではその様に」
「クレープとか林檎飴も食べたいからね」
 甘いものもだというのだ。
「だからね」
「はい、そういうことで」
 真人は笑顔で鈴の言葉に応えた。そうして。
 希望もだ。千春とこう話すのだった。
「そうしたお店は」
「千春はちょっと」
「嫌なんだ」
「今は気分じゃないの」
 そうしたお化け屋敷だの何だのに行くことはだというのだ。
「とてもね。だからね」
「わかったよ。それじゃあね」
「うん、他のお店に行こう」
「じゃあ何処がいいかな」
「お菓子にしよう」
 鈴と同じくだ。そうした店にしたいというのだ。
「何でもいいけれど」
「そうだね。じゃあ何がいいかな」
「鯛焼きはどうかな」
 出店の定番だ。中に餡子が入っている。
「それがほら」
「あっ、あそこだね」
 丁度目の前にその鯛焼きの店があった。千春もその店に気付いた。
 それでだ。こう千春も言うのだった。
「じゃあ行こう、あのお店にね」
「うん。それじゃあね」
「では僕も」
「私もね」
 真人も鈴も鯛焼きを食べようと言う。そしてだった。
 四人で鯛焼きを買った。そして食べてみる。小麦粉を焼いたものとその中の餡子の二つを食べてからだ。千春はにこりと笑ってこう言った。
「この味がいいのよね」
「鯛焼きも好きだったんだ」
「昔からある食べ物だけれどね」 
 だがそれでもだというのだ。
「昔のままの味で。それでいて今は昔よりもね」
「美味しいんだね」
「鯛焼き大好きなの」
 実際にそうだとだ。千春は言う。
「だから有り難う。それとね」
「それと?」
「鯛焼きの後はね」
 鯛焼きを食べながらはしゃいでいた。そのうえでの言葉だった。
「クレープも林檎飴も食べよう」
「とにかく食べられるものはなんだ」
「そう。食べてそれでね」
 満足してだ。それからだというのだ。
「神戸に帰ろう」
「そうしようか。何か大阪にいても」
「楽しい?」
「楽しいよ。千春ちゃんと一緒だからね」
 こう言ってだ。真人達と共にだ。
 初詣を楽しみそれから神戸に帰った。初詣もまた希望達にとって最高の思い出になった。彼等は一年のはじめから幸せを感じていたのだった。
 だがその幸せが何時まで続くかというと誰にもわからなかった。そして不幸が来るかどうかということもだ。希望も千春も知らないことだった。


第十九話   完


                  2012・5・28 
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