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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第8節「エルフナイン」

 
前書き
第8節!タイトル通り、フナちゃんからのお話だよ!

翔くんの神話関連用語解説もあるので、お楽しみに! 

 
S.O.N.G.本部内の一部屋。事件関係者の保護、及び軟禁用に用意された小部屋では、エルフナインがキャロル達に狙われていた事情の説明を行っていた。

「ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました。ある時、その装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止するために逃げ出してきたのです」
「世界をバラバラにとは、穏やかじゃないな……」

キャロルの計画を聞いた雪音先輩の顔が、険しいものになる。

「それを可能とするのが錬金術です。ノイズのレシピを元に作られたアルカ・ノイズを見れば分かるように、シンフォギアを始めとする、万物を分解する力は既にあり──その力を世界規模に拡大するのが、建造途中の巨大装置『チフォージュ・シャトー』になります」
「フランス元帥、ジル・ド・レェの城の名前を冠する終末装置とは、まさに背徳的なネーミングだ」
「翔くん、ジル・ド・レェって誰?」
「フランスの百年戦争で活躍した軍人だ。後で説明する」

俺はその名前だけでピンと来たが、何人かは首を傾げている。
特に暁の口からは「ちふぉーじゅ……ちふぉーでゅ……チーズフォンデュの事デスかね?」などと小声で呟いているのが聞こえた。

響共々、事情説明の後で世界史の復習がてら説明するか……。

「装置の建造に携わっていたということは、君もまた錬金術師なのか?」

まず、姉さんが質問する。

「はい。ですが、キャロルのように総ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的のために作られたにすぎません」
「作られた?」

今度は響が首を傾げる。
この子、今、作られたって言ったか?

「装置の建造に必要な最低限の錬金知識をインストールされただけなのです」
「…………インストールと言ったわね?」

更にはマリアさんも首を傾げた。
ひょっとしてこの子、キャロルのクローン……いや、ホムンクルスなのか?

「必要な情報を知識として脳に転送、複写することです」
「つまるところ、自分のクローンに最低限の知識だけ与えて労働力にした、って事だろ?」
「おおー、ツェルトの説明、すっごく分かりやすいデース」
「ツェルト義兄さん、理解できるんですか!?」
「アメコミでも似たような事やってる組織があったんだよ」

ツェルトもどうやら話に追いつけているらしい。純の方は……顔から察するに、ツェルトの説明で納得した感じだな。

「なら、君はキャロル達の計画について、全て把握しているのかい?」
「残念ながらボクにインストールされた知識に、計画の詳細はありません。ですが、世界解剖の装置チフォージュ・シャトーが完成間近だということはわかりますッ!お願いです、力を貸してくださいッ!そのためにボクはドヴェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのですッ!」
「ドヴェルグ=ダインの遺産?」

なっ……ドヴェルグ=ダインだとぉ!?

「ちょっと待て……ドヴェルグ=ダインといえば、確かあの『魔剣』を作ったドワーフ・ダインの事だ……。つまりそれは──北欧神話に登場する血濡れの魔剣、ダインスレイフなのか!?」

保護された時から、エルフナインがずっと大事そうに抱えていた匣。
匣の側面には網目のような文様が、そして模様の中心には、北欧のルーン文字が幾つも刻まれた、3つのダイヤルロックが設置されていた。

ルーンとは、北欧神話に登場する神秘の文字だ。文字の一つ一つに、それぞれ名前と意味があり、呪文の代わりに文字を刻むだけで、その文字に込められた力を発揮するらしい。

と言っても、実際には日常の中でも使われており、ルーン文字で記された書簡や荷札なども多数残されているらしい。
最近の研究によると、ラテン文字の普及によって旧来から使われていた文字であるルーン文字が廃れてしまい、その後、いかにもそれらが神秘的に感じられるようになった時代から、「呪術や儀式に使われた文字」だと言われるようになった……と言われている。

現代でも占い用のルーン石や、アクセサリーに刻むなどして用いられているが、
この匣に刻まれているのは……おそらく本物なのだろう。

錬金術師が目の前に現れ、錬金術をこの目で見た。何より、匣を調べた了子さんの解析によると、匣は異端技術によって多重封印(ルマルシャン)されているらしい。
封印に使われているパズルを解かなければ、如何なる方法を以てしても破壊できないという結果がでたそうだ。

そこまで厳重な構造で封印されている、ということは、この匣の中にあるのは非常に強力、あるいは相当に危険な遺産だということ。

そしてそれらの情報と、遺産に付けられた名前から推察すれば、答えは自ずと見えてくる。

エルフナインは頷きながらダイヤルを合わせ、匣の中からルーンが刻まれた黒い欠片を取り出す。

「はい。アルカ・ノイズに……、錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物──『魔剣ダインスレイフ』の欠片です」

炭のような深い黒と、赤黒いルーンの羅列。
シンフォギアを破壊され、絶望する俺達に掲示された希望は、血を啜るまで元の鞘には収まらない、呪いの魔剣の力だった。



事情説明の後、装者達は発令所に集められていた。
スクリーンに映されているのは、エルフナインの各種身体データだ。

「エルフナインちゃんの検査結果です」
「念の為に彼女の……ええ、彼女のメディカルチェックを行ったところ……」
「身体機能や健康面に以上はなく、また、インプラントや、後催眠といった怪しいところは見られなかったのですが……」
「……ですが?」

何やら歯切れの悪い藤尭、珍しく言い淀んでいる友里に、響を始め、装者達は首を傾げる。

「彼女、エルフナインちゃんに性別はなく、本人曰く、自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくはないと──」
『あ、怪しすぎる(デース)ッ……!』

装者と伴装者一同は、声を揃えて突っ込むのだった。

それと、エルフナインの肉体をくまなく調べたい、と研究者としての学術的探究心を暴走させかけた了子は、奏に引っ張られていったとか。

ff

翌日、響と翔はいつものように、未来や弓美ら三人娘、そして純や紅介らUFZと共に下校していた。
クリスと2人で下校しているイメージが強い純だが、互いにクラスメイトとの時間も大事にしているため、一緒に下校するのは週2と決めているらしい。

(ホムンクルス──性別はないって、エルフナインちゃんの体ってどうなってるのかな……?)
「──わたし的には、ツイてるとかツイてないとかは、あんまり関係ないと思うんだけど……」
「ええええええええええッ!?」
「うおおおおッ!?どうした響!?」

突然大声を出す響に、翔は思わず耳を押さえながら振り向く。

「ビッキー、何をそんなに驚いてるの……?」

創世たちも首を傾げており、なにより響が驚く理由となった発言をした未来も、不思議そうな顔をしている。

「だ?だ、だって、ナニがドコについてるのかなんて、そんな……」
「ぶふぉあッ!?お、おいおいおい響、女の子が気安くそんな事言うんじゃない!!」

顔を真っ赤にしながら、どんどん声が尻すぼみになっていく響。彼女の言わんとする事に気付いた翔が吹き出し、慌てて詰め寄る。

「ああ!ひょっとして立花、今俺達がナニについて話していると──「「兄弟必殺・ジャンクロスボンバーッ!!」」がはっ!?」
「紅介……君ってやつは……」
「今のは最低だよね……」

気付いた紅介の口は大野兄弟が一瞬で塞ぎ、純と恭一郎はその様子を見て呆れていた。

「ツイてるツイてない、確率のお話です。今日の授業の」
「まーたぼんやりしてたんでしょ?」

詩織が話題を確認し、弓美が呆れた顔で見つめる。
幸い男子以外で、響の聞き間違いに気付いている者はいなかった。

「あ、あはは、そうだったよね~」
「……この頃、ずっとそんな感じ」

上の空な響の様子に、未来は不満げな表情で響を見つめる。

「……ごめん、色々あってさ……」
「……気にしているのか?」
「……少し、ね……」

響は昨日の夜、マリアに言われた事を思い出していた。

ff

エルフナインからの事情説明、そして発令所での報告を終えた後、二課の装者達は部屋に集まっていた。

調と切歌、セレナらは、ツェルトと共にトレーニングルームである。

「こいつが、ロンドンで天羽々斬を壊したアルカ・ノイズ……」
「ああ。我ながら上手く描けたと思う」
「一体どんなアルカ・ノイズだったんですか?」

翼からスケッチブックを受け取り、描かれたものを見るクリスと純。

そこにあったのは……小学生が描いたような、とても拙い侍の絵であった。
どこからどう見ても、アルカ・ノイズの姿ではないと断言出来る。

「あ、アバンギャルドが過ぎるだろッ!?現代美術の方面でも世界進出するつもりかッ!?」
「つ、翼さんは独特な感性をお持ちのようで……」

クリスの鋭いツッコミと、純の何とも言えない苦笑いが、弟である翔からの「もはや画伯」という評を裏付けていた。

そんな中、マリアと奏は厳しい顔をしていた。

「問題は、アルカ・ノイズを使役する錬金術師と戦えるシンフォギア装者が、ただの一人だという事実よ」
「翔と純がいるとしても、RN式にはまだ時間制限がある。頼りきることは出来ない」
「それでも、僕にはアキレウスのスピードが。翔には遠距離攻撃の手段があります」
「要はあの白い解剖器官に触れなければいいんだろ?なら、時間制限以内に倒せない相手でもないさ。……問題はあの自動人形、オートスコアラーだな」

翔も、純も、各々エルフナインから得たアルカ・ノイズの情報を元に、今の状態でも戦えるよう対策を練っている。

だが、響は浮かない顔をしていた。

「戦わずに分かり合う事は、出来ないのでしょうか……」

そう言って俯く響。
マリアは響へと、厳しい表情を向ける。

「逃げているの?」
「逃げているつもりじゃありませんッ!だけど適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷付ける事が……すごく嫌なんです」

立ち上がって反論する響。
だが、その表情には迷いと、どこか怯えているような色が見て取れた。

そんな響を真っ直ぐに見据えて、マリアはハッキリと告げる。

「それは、力を持つ者の傲慢だッ!」
「まあ落ち着きなよ、マリア」

奏はマリアの肩にポン、と手を置く。

「奏さん……」
「でも、そうだね……」

奏なら自分の肩を持ってくれる。
そう期待した響に対して、奏が投げかけた言葉は──他の誰よりも厳しかった。

「戦う理由を失ったやつに、あたしの槍を振るう資格はないよ」

ff

(わたしは……そんなつもりじゃないのに……)
「……」

黙って俯きながら歩く響。
その顔を見つめながら、翔は響の隣に寄り添うように歩いていた。

「きゃあああああッ!」

その時、詩織の悲鳴が耳を突く。

「何──……ああッ!?」

道の先を見ると、そこには……

髪の毛が白くなり、生気を吸われたように干からびた肌で累々と横たわる人々の姿。

そして、木陰に持たれて待ちぼうけている、青いメイド服の少女人形……ガリィ・トゥーマーンの姿があった。

「聖杯に想い出は満たされて……、生贄の少女が現れる」
「キャロルちゃんの仲間……だよね?」
「そしてあなたの戦うべき敵……」
「違うよッ!わたしは人助けがしたいんだッ!戦いたくなんかないッ!」
「……ちッ!」

響の言葉に舌打ちすると、ガリィは懐からジェムを取り出す。

地面に撒かれ、砕けたその中から現れたのは、10体のアルカ・ノイズだった。

「そんな……ッ!」
「きゃああああああああッ!?」
「の、ノイズじゃねぇか!?」
「これが翔たちの言っていた……」
「新種のノイズ……ッ!」

少年少女が悲鳴を上げる。
外部協力者としてある程度小耳に挟んでいたとはいえ、また間近でノイズを見る事になるとは夢にも思っていなかっただろう。

「あなたみたいに面倒くさいのを戦わせる方法は、よ~く知ってるの」
「こいつ、性格悪ッ!」
「あたしらの状況も良くないってッ!」
「このままじゃ……」
「頭の中のお花畑を踏み躙ってあげる」

ガリィが指を鳴らすと、アルカ・ノイズ達は響らへと向かって歩き始める。
あっという間にアルカ・ノイズは、一同の周囲を取り囲んだ。

翔は学校鞄を恭一郎に手渡すと、トランクを開き、RN式用プロテクターを装着する。
純も流星に鞄を渡し、翔に続いた。

「やらせるかッ!転調・コード生弓矢ッ!」
「転調・コードアキレウスッ!」

眩き光と共に、一瞬で装着が完了する。

友人たちを守るため、響も自身のペンダントを取り出すと、精鋭を口ずさみ──

「ぁ──……、…………かはッ」
「響……?」
「……げほっ、げほっ………………唄えない」

喉がかすれたような声で、響はそう呟いた。

「いい加減、観念しなよ」

ガリィは怪訝そうな表情で響を睨む。

だが、やがてその言葉が嘘ではないと全員が悟った。

「……聖詠が、胸に浮かばない」
「響……まさかッ!?」
「ガングニールが、応えてくれないんだッ!」 
 

 
後書き
了子「錬金術で作られた人造人間、ホムンクルスですって!この目で本物を見られるなんて、思ってもみなかったわ!是非とも調べさせてちょうだい!!」
奏「ちょっと待ちなよ了子さん!今のアンタ怖いって!」
了子「だってぇ~、無性別のヒト型生命なんて人間じゃ絶対に有り得ないじゃないの!学術的興味が溢れてくるのよ~。ちょっとだけで良いから調べさせて欲しいわ~♪」
奏「目がヤベぇんだって!アンタの事だからやましい事は一切しないだろうけど、流石に今の了子さんじゃ会わせられねぇよ!もう少し落ち着いてから出直してくれ!!」
了子「次回、騎士と学士と伴装者。第9節『ガングニール、再び』。来週も、サービスサービスぅ!」
奏「そのセリフは予告のBGM変わっちまうだろッ!」 
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