| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

歪んだ世界の中で

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十九話 初詣その六

 そしてその暑さについてだ。彼もこう言うのだった。
「この暑さもまたね」
「いいの?」
「だってさ。お正月って冬じゃない」
 暦では新春と言うがだ。新暦となっている今では皆こう捉えている。
「その冬でもね。暖房を入れた訳じゃないのに」
「暑いことがなのね」
「そう。人がいて暖かいっていうのはね」
「それがいいのね、希望は」
「うん。人って暖かいんだね」
 集れば暑い位にまでだ。そうだというのだ。
「それって面白いよね」
「そうだよね。いいよね」
「うん。だから」
 いいとだ。希望は言うのだった。
 そして隣にいる真人と鈴にもだ。笑顔で言うのだった。
「じゃあ今から、暑いけれどね」
「はい、住吉大社に」
「今から行こうね」
「そうしよう」
 二人にも笑顔で告げて。そのうえでだった。
 四人で駅を出て神社に向かう。八条鉄道の住吉駅から住吉大社まですぐだ。だがそれでもだった。
 人があまりにも多いので中々進めない。しかし神社は見えていた。
 その神社の中、少し見えるそこを見てだ。真人が笑顔で言った。
「お店が凄いですね」
「うん。入り口から見えるのだけでもね」
「凄い数ですね」
「しかも色々な種類のものが売ってるね」
「流石は住吉ですね」
 真人は出店を見ても幸せを感じていた。
「本当に」
「そうだね。住吉大社ってだけはあるよね」
「そう思います。それで参拝の前後に」
 行く前だけではなかった。それからもだった。
「何を買われますか?」
「そう言われると色々だね」
 出店の数も種類も多い。それではだった。
「一つに絞れないよ」
「多過ぎてですか」
「お金はあるから」
「僕もです」
 出店で買うだ。それだけのものはあるというのだ。
「だからね」
「何でも買えばいいですね」
「そう思うよ。それじゃあね」
「はい、入りましょう」
 何はともあれそれからだった。四人で神社の中に入りまずはだった。
 たこ焼きにお好み焼き、それと焼きそばを買った。そうしたものを食べながら進む。そうして。
 四人はある橋の前に出た。その橋はというと。
 丸い、アーチ状だが普通のアーチではない。
 橋の長さ自体は短くそのうえ盛り上がっている。まるで小山の様に。
 その木の橋を見てだ。真人が笑みで言った。
「たいこ橋も久し振りですね」
「そうだね。見るのも」
「渡るとしたら」
「それも久し振りになるね」
「やっぱり渡りますよね」
 真人は笑みで希望に顔を向けて尋ねた。
「そうされますよね」
「うん、勿論だよ」
「では行きますか」
「住吉に来たらね。やっぱりね」
「あの橋を渡らないとはじまりませんね」
「何かね。来た気がしないよ」
 住吉にだ。そこまでのものだというのだ。
「渡る必要がなくてもそれでもね」
「そうですよ。まさにあの橋を渡ってこそ」
「住吉に来たってことだからね」
 希望は真人と話す。そうしてだった。
 二人で、当然千春と鈴も連れてそのうえでだ。
 四人で渡る。橋は急斜面で足をかけるところもある。そのかける場所に足をかけながらだった。千春は一歩ずつあがりながらだ。こう希望に言うのだった。
「千春も前ね」
「この橋渡ったことがあるんだ」
「うん。けれどその時はね」
「その時はっていうと?」
「あの書いてあるのはなかったよ」
 下に見える川端康成の文章を指し示しての言葉だ。あまり知られている様だが川端は大阪出身なのだ。笹川良一とは小学校で同じクラスだったことがある。
 その川端の文章を指差しながらだ。千春は言うのである。
「あれはね」
「川端康成のあれ?」
「そう。あれはね」
「あれっ、何でかな」
 千春にそう言われてだ。希望はというと。
 首を捻りそのうえでだ。こう言うのだった。
「川端康成って確か」
「昭和四十七年に死んでいますね」
「七十歳位で死んでるよね」
 希望は真人に尋ねた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧