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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第7節「歌姫の帰還」

 
前書き
第7節、更新!

今回たった数行の描写のためだけに、GX3話でマリアさんの回想に出てくる司法取引の書類に書かれた全文を、翻訳サイトにかけました。
内容はブログに載せてTwitterに流してますので、気になる方はそちらをご覧下さい。 

 
保護観察が終わる少し前のこと。
私を名指しに、1人の黒服がタブレットを持って面会にやってきた。

タブレットに表示された書面の一行目には、『Legal Transaction Agreement(司法取引約款)』と記されていた。

その内容は、国家安全保障局が提案する筋書きに従えば、私の基本的人権を回復するというものだ。

「私にこれ以上嘘を重ねろとッ!?」
「君の高い知名度を活かし、事態を出来るだけ穏便に終息させる為の役割を演じて欲しいと要請しているのだ」
「役割を演じる……?」
「“歌姫マリアの正体は、我ら国連所属のエージェント。聖遺物を悪用するアナキストの野望を食い止めるために、潜入捜査を行っていた”──大衆にはこれくらい分かりやすい英雄譚こそ都合がいい」

黒服は両腕を広げて笑っていた。この条件なら、私が従わざるを得ないと思っているのだろう。

「……再び、偶像を演じなければならないのか」
「偶像。そうだ、偶像(アイドル)だよ。正義の味方にしてアイドルが、世界各地でチャリティーライブを行えばプロパガンダにもなる」

次の瞬間、私と黒服を隔てる防弾ガラスが、鈍い音と共に振動した。

「冗談じゃねぇッ!テメェらの尻拭いに、マリィを利用しようって事じゃねぇかッ!」

私一人が呼び出されると知って、看守に無理を言ってついてきたツェルトが、防弾ガラスを思いっきり殴り付けた音だ。

殴ったのは生身の左腕ではなく、義手である右腕。生身に比べて痛みは無いかもしれないが、義手でも振動は伝わるはず。
それでもツェルトは、そんな素振りは一切見せずに黒服を睨み付ける。

「君にとっても悪い話じゃない筈なんだがね」

ツェルトの射抜くような鋭い視線に竦むことも無く、席から立ち上がった黒服はこちらに背を向けながら続けた。

「米国は情報隠蔽のため、エシュロンからバックトレースを行い、個人のPCを含む全てのネットワーク上から関連データを廃棄させたらしいが……」

黒服の話と共に、タブレットのページが切り替わり、3人の人物の画像と概要が表示される。

「彼女や、君と行動を共にした未成年の共犯者達にも将来がある」
「「ッ!?」」

そこに映っていたのは、私と共に監房に囚われている調と切歌。そして、おそらく学園から出てきた瞬間を離れた地点から撮影したのであろう、立花響の姿であった。

「たとえギアを失っても、君はまだ誰かの為に戦えるということだよ」
「くっ……この……ッ!」

歯を食いしばり、私の分まで怒ってくれるツェルト。こんな時まで私の事を思ってくれる彼が、心の底から頼もしい。

約款にはツェルトの処遇についても書かれていたが、自分だけが自由になる事を彼は望まなかった。

そして、私とツェルトは司法取引を受け入れ、黒服たちによる情報操作によって今の立場に置かれている。壁に囲まれた監房の中に比べれば、遥かにマシな環境だ。

それでも……そんな事が私の戦いであるものかッ!

屈するものか。こんな理不尽を受け入れるような、弱い私にはもう戻らないッ!

私は必ず自由になる……ツェルトと2人で、あの子達と共に暮らす未来を掴み取ってみせるッ!!

ff

『完全敗北。いいえ、状況はもっと悪いかもしれません……』

襲撃者、ファラの撤退から暫くして経った頃。
スコットランドヤードによって封鎖された現場では、翼がヒビの入ったギアペンダントを手に、S.O.N.G.への報告を行っていた。

クリスと同様、ギアを装着する直前まで着ていた衣服が戻っておらず、マリアの衣装から外したヴェールを胸と腰に巻いている状態である。

『ギアの解除に伴って、身に付けていた衣服が元に戻っていないのは──』
「コンバーターの損壊による機能不全……そう見て間違いないようね」
『まさか翼のシンフォギアも……?』
『……絶刀・天羽々斬が手折られたという事だ』

翼の天羽々斬と、クリスのイチイバル。この戦闘で、一度に2つのシンフォギアが破損した。

その事実は、装者である翼たちにとっても、S.O.N.G.に所属する者たちにとっても、深刻で由々しき事態であった。

「すぐに修理に取り掛かるわ」
「了子さん、あたしに出来ることは?」
「機材の搬入、手伝ってもらえるかしら?今回は、いつもメンテに使ってる分だけじゃ足りないの」
「分かった、すぐにでも運んでくるッ!」

破損したギアの修復に取りかかるべく、了子と奏は発令所から退室していく。

純の方からも先程、調、切歌と共にアドルフ博士と合流し、彼のワゴンで港へ向かっているとの連絡も入ったため、到着まではあまりかからないだろう。

「響くんの回収はどうなっている?」
『こちら翔、なんとか無事です……』

噂をすれば何とやら。翔と響も、春谷の車で本部へと戻ってくる所らしい。

『……ごめんなさい。わたしがキャロルちゃんと、きちんと話が出来ていれば……』
「話……だと?」

響からの謝罪と沈んだ声に、弦十朗は話が読めず、首を傾げるのだった。

ff

危険色のテープの向こう側に押し寄せる、野次馬の群衆。
その喧騒さえも聞こえない、現場の中心地。

そこへ現れた数台の黒い車両は、ブレーキ音を響かながら、翼と共に並ぶマリアを取り囲んだ。

現れた黒服達は一斉に、マリアへと銃口を向ける。

「状況報告は聞いている。だが、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、君の行動制限は解除されていない──これ以上の勝手は認められない」
「野郎ッ!その銃を下ろしやがれッ!」
「喚くな!大人しくしていろッ!」

後ろの方では、手錠をかけられたツェルトが黒服に押さえつけられていた。

マリアは黒服たちを、そしてツェルトの方を静かに見回すと、翼のインカムを耳から外す。
そして彼女は、周囲に聞こえる声量でハッキリと言った。

「風鳴司令──私とツェルトの、S.O.N.G.への転属を希望します」
「マリィ……」

黒服の腕を逃れようと足掻いていたツェルトが、その一言で動きを止めた。

「ギアを持たない私ですが、この状況に偶像のままではいられません。ツェルトも同じ気持ちのはずです」
「……ハハッ、やっぱりマリィは最高だな」

マリアから向けられた視線に、ツェルトはニヤリと笑って返す。



それから、マリアとツェルトのS.O.N.G.転属が決定するのに時間はかからなかった。

そして、翌日の昼過ぎには……。

「翼さーんッ!マリアさーんッ!」
「マリア姉さんッ!ツェルト義兄さんッ!」

帰国した翼たちに手を振る響。
久し振りに顔を合わせるマリアとツェルトに、思いっきり抱きつくセレナ。

それから皆、口々に4人を出迎える。

「姉さん、緒川さん、おかえり」
「おかえり、先輩」
「マリア、おかえり」
「おかえりなさいデスッ!」
「おかえりツェルト、元気してた?」

久し振りに顔を合わせた、温かい仲間たち。
その明るさに、翼は穏やかな笑みを浮かべて呟いた。

「……ただいま、みんな」

ff

その日の夕刻、S.O.N.G.本部潜水艦ノーチラスの発令所には、11名の少年少女が集合していた。

響に翼、奏、クリスの二課出身のシンフォギア装者。
マリアにセレナ、調、切歌ら、元F.I.S.の装者。
そしてRN式伴装者である翔と純、ツェルトの3人。

以上11名が揃うのは、フロンティア事変の最終局面以来である。

「シンフォギア装者勢揃い……とは言い難いかもしれないな。まずはモニターを見てくれ」
「これは?」

スクリーンに映し出されたのは、翼とクリスのペンダント。シンフォギア・システムのギアコンバーターだ。
割れてこそいないが、アルカ・ノイズに触れられた部分からヒビが入っており、傷になっている位置には『SERIOUS DAMAGE(深刻な損壊)』と表示されている。

「新型ノイズに破壊された天羽々斬とイチイバルです。コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……」
「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です」
「セレナのギアと同じ……?」

マリアはネフィリムとの戦いの後、真っ二つに折れたセレナのギアペンダントを見つめる。
翼とクリスのギアがそれと同じ状態だと言われれば、被害の大きさはよく実感出来た。

「もちろん、直るんだよな?」
「それは勿論、この天才に任せてドンと構えてなさいな~♪」

胸を叩いて笑う了子の姿に、クリスは安堵の息を漏らす。

しかし、次の一言はあまり喜ばしいものではなかった。

「ただ、それでも時間はかかるわ。アルカ・ノイズの解析と対策も加味すると……最低でも一週間って所かしらね」
「なっ!?」
「本当なら、F.I.S.から回収した予備のギアを持たせてあげたいけど、あの能力への対策を施してからじゃないと昨夜の二の舞になっちゃうわ。翼ちゃんもクリスちゃんも、暫く装者としての活動はお休みね」
「くッ……」
「マジかよ……」

SG01'とSG02'。フィーネがF.I.S.に横流ししたSG03'──もう一振りのガングニールと共に米国に渡っていた、天羽々斬とイチイバル。

ツェルトのRN式Model-GEEDに組み込まれ、運用されていたそれら二領は、現在S.O.N.G.で保管されている。

有事の際には翼、クリスに予備として与えられる予定だったが、敵がシンフォギアの防御をあっさりと突破する存在であるため、対策を施さなければその場しのぎにしかならない。

セレナは纏えるギアが破損しており、マリアも現在は装者ではない。

つまり──

「現状、伴装者である翔と純くんを除き、動ける装者は響くんただひとり──」
「……わたしだけ」
「俺と純を含めても、現状の最大戦力は3人だけ……。一方、あちらにはノイズだけじゃなく、あの人形達に加えて、奴らを率いるキャロルがいる……」

敵の全容はまだ見えていない。そこに大きな戦力差があることだけは、既に全員が身をもって知っている。

現状では対策のしようがなく、翔たちは項垂れた。

「そんなことないデスよッ!」
「わたしたちだって──」
「ダメだ」
「どうしてデスかッ!」

遠回しな戦力外通知に、切歌と調が反論する。
しかし、メディカルチェックのデータを参照した友里と藤尭からの返答は、どうしようも無い現実を突き付ける。

「LiNKERで適合係数の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか……」
「君達に合わせて調整したLiNKERがない以上、無理を強いることはできないよ」
「……どこまでもわたしたちは、役に立たないお子様なのね」

それは昨夜の戦いで、2人が実感した事だった。
自分達を気遣っての戦力外通告。わがままを言える理由では無く、2人は項垂れる。

だが、奏は納得がいかないようであった。

「ダンナ、こいつらは無理でも、あたしのLiNKERはまだ残ってるはずだろ?それでもダメだって言うのか!?」
「ダメだ!」
「どうしてだよッ!?」
「ダメなものはダメだッ!」
「2人とも、喧嘩はダメよ~?あんまり熱くならないのっ」

いつになく強い語調で、奏に向かい合う弦十朗。
歯を食いしばって視線を交わす二人の間に、了子が割って入る。

「奏ちゃん、本当は分かってるはずでしょ?」
「分かってるさ……でも、黙って見てられるかよッ!」

了子に窘められ、奏は俯きながら拳を震わせる。

「……メディカルチェックの結果が思った以上によくないのは知ってるデスよ。それでも──」
「その気持ちだけで十分だ」
「こんなことで仲間を失うのは、二度とごめんだからな」
「……」

翼から向けられた視線に、奏は握った拳をゆっくりと離す。

翼と弦十朗の脳裏に浮かんだ光景が何であるか……他でもない奏自身が、よく分かっていた。

ff

その頃、キャロルの居城ではもう一機の自動人形が動き出そうとしていた。

「いっきま~すッ!ちゅっ♪」

玉座のキャロルと、四隅の台座でポーズを決めながら直立するレイアとファラ。
彼女らに見守られる中、ガリィは赤髪を縦ロールにした少女の姿をしたオートスコアラーへと、口移しで“想い出”を供給する。

すると、赤髪のオートスコアラーの瞳が怪しく発光する。

次の瞬間、それは生命を与えられたかのように、台座へとへたりこんだ。

「……はぅぅぅぅぅぅ……」

赤髪のオートスコアラーは、腕を少し上げてはだらりと下げ、立ち上がろうとしては、まただらりとへたりこむ。
まるで、初心者が操り手となったマリオネットのようだ。

「最大戦力となるミカを動かすだけの想い出を集めるのは、存外時間がかかったようですね」
「いやですよ~、ノエルちゃん。これでもガンバったんですよ。なるべく目立たずにコトを進めるのは大変だったんですから~」
「……」
「まぁ、いいだろう。これで終末の四騎士(ナイトクォーターズ)は全機起動、計画を次の階梯に進めることができる」

玉座の肘掛けに腰掛けるキャロルに瓜二つの青年、ノエルは一瞬眉をヒクッとさせたが、キャロルの言葉を遮らぬように受け流す。

仕事を終えたガリィは自分の台座へと戻ると、バレリーナのようなポーズで直立した。

「はぅ……はぅぅぅぅぅぅ……」

だが、先程からミカが可愛らしい声で唸るばかりで、中々立ち上がらない。

「どうした、ミカ?」

キャロルの質問に、ミカは力の抜けた声で答えた。

「……お腹がすいて、動けないゾ……」
「……ガリィ」
「……あー、はいはい。ガリィのお仕事ですよね……」

彼女ら終末の四騎士(ナイトクォーターズ)のパワーソースである“想い出”。見聞によって人間の脳に蓄積される、脳内の電気信号。即ち記憶を消費して、彼女達は強力な錬金術を行使している。

4機にはそれぞれ、アルカナのスートに照らし合わせた設計思想が存在しており、ガリィには『聖杯』の力を持つ。
四大元素では『水』の属性を司り、タロットにおいては感情のゆらぎや生命の豊かさを象徴するカードだ。

そして、その機能が意味するのは、最も想い出の扱いに長けた機体であること。
採取した想い出の分配を可能としているのは、4機の中でガリィだけである。

レイアとファラは、蓄えた想い出の分配は出来ないものの、他者より強制的に想い出を採取する機能を有しており、不足しても戦場でそのまま供給できる。

しかし、ミカはそのステータスを全て戦闘に特化されており、想い出の採取機能が存在しない。そのため、ガリィにより分配されない限り、稼働に十分な想い出を得る事は不可能となっているのだ。

「……ついでにもうひと仕事、こなしてくるといい」
「そういえばマスター。エルフナインは連中に保護されたみたいですよ?」

足を止め、キャロルの方を振り返ったガリィは、含みのある笑みを向ける。

「把握している」
「そうですか」

キャロルの淡々とした返答を受け、ガリィはそれ以上は何も言わずに玉座の間を後にした。

「ところでキャロル、仕留め損ねた彼の事ですが……」
「なんだ?」
「重傷ではありますが、致命傷には至っていません。そろそろ意識が戻るのではないかと」
「そうか……」 
 

 
後書き
翔「おのれアルカ・ノイズ!絶対に許さんッ!」
響「どうしたの翔くん?」
翔「ロンドンで姉さんのギアを破壊し、裸に剥いたアルカ・ノイズがいるらしい。次出て来たら速攻で斬るッ!」
響「おぉ……いつになくお怒りのようで……」
翔「嫁入り前の姉さんや雪音先輩をよくもッ!!」
響「ところで翔くん、翼さんがそのアルカ・ノイズの姿を絵に描いてくれたんだけど」
翔「なんだとッ!?見せてくれ。その姿、しかと目に焼き付けてやるッ!」
響「それがね~……これなんだけど……」
翔「これは………………」

(翼さん(の中の人)が描いた武士ノイズの似顔絵)

翔「……姉さんの画力、小学生の頃から全く変わってない……」
響「え、やっぱり……?」
春谷「次回、騎士と学士と伴装者。第8節『エルフナイン』……そんなに酷いんですか?」
翔「もはや画伯」
春谷「えぇ……」 
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