| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/WizarDragonknight

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

氷結の魔人

 水と火の斬撃が、折れることのない槍とぶつかる。

「……!」

 顔を強張らせるスイムスイムは、槍を振り回しながら、地面に潜る。

「また潜った……!」
「こういうの、本当にどこから出てくるか分かんねえんだよな……!」

 ウィザードと龍騎は背中を合わせる。
 すぐに地面から襲ってくるスイムスイム。二人はそれぞれ剣を受け流し、その攻撃を反らしていく。

「氷が解けてるなら……」

 ウィザードはスイムスイムの斬撃を躱し、指輪を使う。

『コネクト プリーズ』

 空間湾曲の魔法。落ちているリキッドの指輪を拾い上げ、ハンドオーサーを操作する。

『ルパッチマジックタッチ ゴー ルパッチマジックタッチ ゴー』
「っ!」

 入ってくるスイムスイムの刃を堪えながら、ウィザードは魔法を発動させた。

『リキッド プリーズ』

 液体となったウィザードは、そのままスイムスイムへ斬り込む。
 今度は、しっかりと命中。彼女は痛みに怯みだす。

「よし……同じ液体同士なら、戦える!」

 スイムスイムは、また潜って攻撃してくる。
 ウィザードはそれに対し、固体であることを放棄した体で斬り結ぶ。

「っしゃあ! だったら俺も!」

 龍騎は近くに落ちている鏡の破片へ飛び込む。
 鏡の世界を行き交う特性を持つ龍騎。スイムスイムの液状、飛び出す能力に対し、鏡を出たり入ったりすることで、攻撃を回避し、逆に攻撃を当てていく。
 やがて、ウィザード、龍騎、スイムスイムの三人は、鏡と地面を目まぐるしい速度で行き来して激突することとなった。
 何度も火花を散らす、鏡と液体の戦士たち。
 やがて、戦いに傾きが生じだす。

「くっ……」

 先に地面を転がったのは、スイムスイム。
 ウィザードは液状を解除し、ミラーワールドから出てきた龍騎も並び立つ。
 旗色が悪くなってきたスイムスイムは、少しずつ後ずさり始める。
 やがて、勝てないと悟ったのか、スイムスイムはウィザードたちへ背を向けて逃げ出した。

「待って!」

 ウィザードと龍騎は、彼女を追いかけようとする。
 倉庫の中を巡り、通路を曲がり。

「どこだ!?」
「分かんねえよ!」

 埃だらけの部屋を通過し、賞味期限の切れた食料棚をひっくり返し。
 いつしかウィザードと龍騎の変身は切れ、ハルトと真司に戻っていた。
 そのままスイムスイムの姿を探し、そこに白い姿はあった。

「お待ちしていましたよ」

 確かに、白い人物。
だが、スク水の少女ではなく、男性であった。
 白いコートに身を包んだ人物。倒れた棚に腰を下ろし、ゆったりと爪をやすりで研いでいる。

「……?」

 全く見覚えのない人物の登場に、ハルトは立ち止まった。
 一方真司は、そのまま突っ切ろうと足を止めずに走る。

「少々お待ちください。……ライダーのサーヴァント」

 ライダー。そしてサーヴァント。
 普通の人ならば間違いなく口にすることのない言葉に、ハルトと真司は凍り付く。

「ようやくこちらを向いてくれましたね」
「……誰だ?」

 ハルトと真司は、それぞれ警戒を向ける。
 白い青年は、肩を鳴らし、ポケットに手を突っ込む。
 気取ったように顔を上げ、ゆったりと息を吐いた。

「この二人でよろしいですか? コエムシ」
『ああ。いいぜ』

 脳に直接響いてくる、苛立たせる声。
 それは、青年の隣にふわりと浮かぶ。風船のような体のそれは、浮かぶ頭に小さな胴体がぶら下がっているという形だった。遊園地のマスコットのような愛らしい顔付きをしているが、ニタリと笑む口元が、その外見を真逆のイメージに染め上げていた。

「アイツは……!」
「コエムシ!」

 聖杯戦争の監督役、コエムシ。
 これまで何度かハルトたちの前に姿を現した監督役の一人。コエムシは、まったく動かない外見のまま、平坦な目をこちらに向けた。

『よお。松菜ハルト。久しぶり。元気?』
「お前にはもう会いたくなかったよ」
『いきなりなご挨拶だなオイ』

 コエムシは不満げに体を揺らした。

『聖杯戦争の参加者が、サーヴァントなしのマスターを守ってあーだこーだやってんじゃねえよ』
「マスターって……」
「紗夜さんのこと」

 ハルトは、真司を納得させた。

「って、この前のあの子、マスターだったのか!?」
「そうだけど……言ってなかった?」
「聞いてねえよ!」
『お前らうるせえよ! 話し進まねえからこっちに注目しやがれ! ったく、戦わねえクソ参加者の対応を任せられるこっちの身にもなりやがれ!』

 体を何度も揺らすコエムシ。

『そんなルール違反ばっかりしやがるクソ野郎どものために、今回は信用できる処刑人を用意してやったぜ』
「信用していただけるとは。光栄ですね」

 白い男が鼻を鳴らす。
 だが、それはハルトにとっては最悪の報せであった。

「処刑人……! こんな時に……ッ!」

 ハルトは苦虫を噛み潰した。
 コエムシは続ける。

『今回はこれまでみてえなナヨナヨした処刑人じゃねえ。徹底的にてめえらを八つ裂きにできる人材を選んでやったぜ!』

 コエムシはそう言いながら、白い男へ顔を向ける。

『おい。分かってるよな? さっき言ったこと』
「ええ。彼らを葬れば、生き返れるのですよね?」
『ああ。間違っても、敵に同情とかしねえよな?』
「まさか。しませんよ」

 白い男は微笑しながらハルトたちに歩み寄る。
 そして。ハルトたちが身構えるとともに、彼は行動に移す。

「レイキバット」

 彼は叫ぶ。すると、どこからともなく白いものが飛来してきた。

『行こうか。華麗に激しく』

 そういうそれは、白いコウモリだった。
 白い大きな顔と赤い目。だが、胴体はない。顔に直接小さな翼と足がある、デフォルメされたような姿。それは、彼の腰に逆さ向き収まると、その目を赤く発光させる。

「変身」
『変身』

 その掛け声とともに、ベルトから雪の結晶の形をしたホログラフが現れる。それは、白い男と重なるとともに粉々に砕け、雪となり振り始める。
 そして、その雪の中、彼の姿もまた変わっていた。
 白いもふもふとした毛皮を全身から生やした者。両肩からは黄色い爪が角のように突き出ており、両腕にはそれを封印するように何重にも鎖が巻かれている。
 そして彼はその青い目を、ハルトたちへ向けた。

『さあ、やれ! レイ!』

 レイ。
 そんな名前の氷の魔人は、言葉も少なく襲い掛かってきた。
 変身する間もなく、ハルトと真司はその剛腕に首を絞められる。
 悲鳴を上げる間もなく、二人の体はそのまま壁に押し付けられる。壁を容易く破りながら、レイは二人を転がす。
 固いコンクリートの上を転がったハルトと真司。だが、生身であっても、レイは容赦しない。

「残念ですが……」

 屋内の空間に吹雪を巻き起こしながら近づいてくるレイ。白いはずの彼の体は、より純白なる雪景色によって黒い影にも見えた。

「あなた方は、ここで倒れていただきましょう」

 丁寧な口ぶりだが、その言葉の裏にある残虐性は隠せていない。
 ハルトはドライバーオンを、真司はカードデッキを使ってベルトをそれぞれ出現させた。
 だが、変身するよりも先に、レイが襲い掛かる。
 真司は転がり、ハルトは蹴りでレイのパンチを相殺する。

「逃がしませんよ。レイキバット」
『俺に任せなァ……』

 レイのベルトのコウモリがベルトから外れる。そのまま、レイキバットなるコウモリは、レイから離れていく真司の先回りをした。

「うわっ! なんだコイツ!」
『凍えるぜ』

 レイキバットの口から、冷気が放たれている。それは、真司を後ずさらせ、強制的にレイの射程圏内に入れていく。

「真司! 仕方ない……!」
『コネクト プリーズ』

 変身よりも現在の防衛が優先。
 そう判断したハルトは、コネクトの魔法で、ウィザーソードガンを取り出す。トリガー部分で銃を回転させながら、レイとレイキバットへ発砲した。
 銀の弾丸は、氷の生命体たちに命中することはなかったが、真司からレイキバットを引き離すことには成功した。

『ぬぅ……』
「レイキバット」

 レイの号令により、レイキバットが本来の位置であるベルトに収まる。
 ようやく隙ができた。
 改めてウィザードへ変身を試みようと、ハルトはルビーの指輪へ手を伸ばすが、それよりも先にレイが迫る。

「やばい!」
「変身!」

 だが、それよりも先に、真司がハルトの前に割り入り、変身する。無数の鏡像と炎とともに、その姿が龍騎へと変わる。
 同時に、レイの拳が龍騎の装甲を穿つ。
 龍騎も負けじと腕を掴み、レイを押し返す。

「真司!」
「先に行けハルト! こんなところで二人とも足止め食らうわけにはいかねえ!」
「あ、ああ!」

 頷いたハルトは、スイムスイムの後を追って走りだす。

「させませんよ」

 レイはそう告げながら、龍騎を突き飛ばし、生身のハルトを狙う。
 だが、その腕は龍騎によって掴み、避けられる。
 レイの腕がコンクリートを砕き、破片が散る。

「行け! ハルト!」
「ありがとう!」

 ハルトは礼を言って、スイムスイムが泳ぎ去っていった方向へ走り去る。



 龍騎を振り払ったレイは、しばらくハルトが去っていった方を見つめていた。

「まさか、逃がしてしまうとは……」
「へへっ、悪いな。しばらくの間は俺が相手してやるから、許してくれよな」

 龍騎が鼻をこすりながら言う。

「まあいいでしょう。先にあなたを八つ裂きにすれば済む話です」
「させねえよ。お前の戦いも、俺が止めてやる!」

 龍騎はそう言って、ファイティングポーズを取る。

「出来ますかね……? あなたに」

 レイはどこからともなくフエッスルを取り出す。それを迷いなく、ベルトのコウモリに噛ませた。

『ウェイク アップ』

 コウモリがそう告げると、レイの両腕の鎖が弾け飛ぶ。
 そして、解放された腕からは、凶悪な鉤爪が伸びた。

「なんか……氷といい、東條の奴を思い出すな」

 レイは鉤爪を構え、龍騎に踊りかかる。

『ソードベント』

 鉤爪の攻撃を避けながら、龍騎はカードを左手のドラグバイザーに装填する。
 召喚された青龍刀で、さらに追撃を行うレイの攻撃を捌く。
 さらに、切り上げによってレイの鉤爪を流し、開いた隙にドラグバイザーがついた左手で殴る。

「ぐっ……!」

 レイも思わぬ反撃に驚いたのか、地面を転がる。

「まさか、反撃してくるとは思いませんでしたよ」
「だったら、もう戦うのは止めろ! これ以上戦う必要なんてない!」
「そうはいかないんですよ……私を葬ってくれた人への報復のためにも、新しい命が必要なんです」
「新しい命……」

 そのワードを、龍騎は反芻した。
 レイは、口から白い粉雪を吐き出す。
 それは、周囲の景色を白く染め上げ、室内を雪山に変えていく。

「これは……」

 龍騎は、倉庫の景色に言葉を失った。真っ白な景色の中で、龍騎はドラグセイバーを構える。
 そして。

「ぐあっ!」

 龍騎の背中から火花が散る。切り裂かれた痛みを理解したのは、龍騎の鎧が雪の上に擦りついてからだった。

「アイツ、もしかして雪の中から……!」

 だが、その姿を視認することができない。一撃、また一撃とレイの爪を食らうたびに、龍騎の体がどんどん負傷していく。

「どうすれば……っ!」

 その時、龍騎の動きが止まる。顔を上げ。

「おや? 諦めましたか?」

 吹雪の中から、レイの声が聞こえてくる。

「……」

 龍騎はそれに応えず、こっそりとベルトからカードを引き抜いた。それを静かにドラグバイザーに装填する。
 だが、レイは構わずに続けた。

「では、このまま消えていただきましょう」

 やがて、吹雪が色濃くなる。生身ならば凍死する温度だが、龍騎は動かなかった。

「さようなら」

 そう、レイの声が告げる。
 同時に、龍騎はドラグバイザーを動かした。

『アドベント』

 吹雪より、灼熱の龍がその姿を現わす。
 ドラグレッダーは龍騎を中心にとぐろを巻き、そのままレイから龍騎を防御する。

「なに……!?」

 弾かれたのであろうレイが舌打ちする。
 さらに、龍騎はドラグレッダーへ命令する。

「頼むぜドラグレッダー! この吹雪を焼き払ってくれ!」

 無双龍は咆哮で応える。
 火炎を吐き、雪景色を赤く染め上げていく。
 氷は急上昇した温度により蒸発し、屋内に水蒸気が立ち込めていく。

「まさか……」
「へっへ~ん。どんなもんだ!」

 これでレイの姿がハッキリした。龍騎は得意げに指をさす。

「お前の姿が見えねえなら、全部防御しちまえばいいって思ったぜ、コイツ(ドラグレッダー)なら可能だからな!」
「ですが、だからと言って貴方が優位に立った訳ではありません」
「どうかな? こう見えても俺、結構やるんだぜ?」

 龍騎はそう言いながら、カードを引き出す。

『ストライクベント』

 召喚されたドラグクロー。さらに、ドラグレッダーもまた、咆哮とともに攻撃の体勢に入る。

「はああ……」

 ドラグクローを構え、その口元に炎が溜まっていく。
 一方、レイもまた、その口に冷気を宿らしていく。
 そして。

 互いに吐き出された炎と氷がぶつかる。
 激しい温度差同士が、密閉された空間を満たしていく。
 やがて、激しい気流とともに爆発した。
 蒸気で視界が無くなる中、さらに氷結の爪が龍騎へ向かう。

「また来る……ッ!」

 ドラグクローに炎が溜まる。
 同時に、蒸気の中から、レイの影が龍騎へ迫る。
 再び。
 熱気と冷気が、今度は至近距離で激突した。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧