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物語の交差点

作者:福岡市民
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
  お泊まり会@宮内家編(渚、樹々、木陰)

‐宮内家‐




一穂「いやー、風呂上がりの一杯は最高だねえ」


夕飯と風呂を済ませた宮内家の面々。そこには渚と樹々、木陰の姿もあった。3人は今日一晩この宮内家にお世話になる。


渚「そうですねー……って一穂さんが飲んでるのビールじゃないですか。普通『風呂上がり』といえば牛乳のような…」

一穂「いーのいーの、大人の特権なんだから。細かいことは気にしなーい」

ひかげ「かず姉、飲みすぎないでよ」

一穂「分かってるって」グビグビ


そう言いながらも一穂はもう2杯目のビールを飲み干そうとしている。『大丈夫なんかな』とひかげは少し不安になった。


木陰「ひか姉さん、一穂さんってお酒強いの?」


木陰はひかげを「ひか(ねえ)さん」と呼んでいる。
れんげのひかげに対する二人称“ひか姉”に「さん」をつけたときの語感が気に入ったから、というのがその理由だった。


ひかげ「んー?それなりかな。ちなみに酔うと超めんどくさくなる」

一穂「そんなことないよ。『酒は呑んでも呑まれるな』がモットーのウチが酒に呑まれたことなんかただの一度もある訳ないってー」 アハハ


ジョッキ片手にそう一蹴する一穂。だが木陰には不思議と説得力に欠けているように見えた。


れんげ「そういえばウチ、駄菓子屋(=楓)が酔ってる姿も見たことがないん」

ひかげ「いやいや駄菓子屋は……やっぱやめとこう、駄菓子屋の沽券に関わる」

れんげ「“こけん”ってなんなん?」

ひかげ「なんでもない。聞かなかったことにしておくれ」

れんげ「?」


れんげの頭上に大きなクエスチョンマークがついたがひかげは気にしないことにした。


樹々「それにしてもこの家はずいぶん広いですね」

一穂「じいちゃんが農家やってるからねー。ウチも休みの日とかよく手伝いに行ってるよ」

渚「なるほど、れんげ君たちと初めて会ったあの田んぼは宮内家所有の田んぼだったんですね」

ひかげ「そういうこと。あっこは水生昆虫の宝庫なんだよね」

樹々「ところでひかげちゃんは地元の高校に通ってるの?この辺りに高校はなさそうな感じだけど」

ひかげ「私?私はーーー東京の高校だよ」


樹々が何気なく聞いた質問に勿体をつけてひかげが答えた。


樹々「東京!? 日本の首都の?」

ひかげ「そうだよ。つまり私は“東京都民”ってわけ」


ひかげはさりげなく「東京都民」を強調するのを忘れなかった。よっぽど自慢したいのだろう。


ひかげ(さあ驚け!驚くんだ!!)


果たして、3人の反応は三者三様だった。


樹々「東京都民!? 都会っ子なのねえ!私は福岡市の中心部に行くだけでも人の多さで頭がくらくらするのに…」

渚「東京かあ。一度でいいから東京のど真ん中でトウキョウトラカミキリやトウキョウヒメハンミョウにお目にかかりたいものだよ」

木陰「やっぱり東京のネコと福岡のネコとでは言葉って違うのかしらね」

ひかげ(反応の仕方にそれぞれの性格や思考が出ているなー。同じ人間でこうも違うのか…。)

木陰「ところでひか姉さん、さっきから気になっていたんだけどあれは何?」スッ


木陰が指さしたのは部屋の隅に置かれていた黒い板だった。不思議なことに中心部分が丸くくり抜かれている。


れんげ「それはウチが段ボールで作った最新のおもちゃなん!さすが空閑っち、目のつけどころが違うん」

木陰「おもちゃ?」

れんげ「そうなん!今そっち持って行くん!」


れんげは立ち上がり、『最新のおもちゃ』とやらを皆の前に持ってきた。


れんげ「これはウチが考えた最新のおもちゃなん!こうやって裏から顔を出して…」


そう言ってれんげは裏から顔だけ出した。


れんげ『とほほ…もういたずらはこりごりなーん……』 シュン…。


れんげ「こんな感じで遊ぶん!マンガの最後みたいな感じなん!」

渚「なるほど、ギャグ漫画のオチにありがちな終わり方だね」

木陰「いいセンスね。その感性、嫌いじゃないわよ」

樹々「難易度けっこう高そうねえ」

れんげ「これは1人でやっても2人でやっても面白いん。樹々人(じゅじゅんちゅ)もやるん!」


れんげが樹々に言った。


樹々「“樹々人”って私のこと!?」

れんげ「そうなん。“んちゅ”って響きが気に入ってるのん」

一穂(また妙なあだ名を…。)

れんげ「樹々人もこのおもちゃで遊ぶん!最大2人までなら遊べるん!!」

渚「うーん、なかなか難しそうだねえ」


困惑ぎみに渚が言った。


一穂「ところで明日は何か予定ある?もしよければ旭丘を案内したいんだけど」


一穂がそう言うと美術部の3人は顔を見合わせた。


朝霞「いいんですか!?」

一穂「そりゃもちろん。遠いから滅多にここまで来られんだろうし、何か新しい発見とか生まれるかもよ?」

れんげ「おおー!さすが姉ねぇ、発想力が違うん!!」パチパチ


真っ先に賛同したのはれんげだった。


れんげ「ウチも“()”とか“ひらたいらさん”を皆に紹介したいん!喜ぶと思うん!!」

木陰「具?」

渚「ひらたいらさん?」

れんげ「ウチの相棒なん!」

樹々「なんだかよく分からないけど楽しそうねえ」 フフッ


ただでさえ細い糸目を更に細くして樹々が笑った。


樹々「ねえ栗ちゃん、せっかくだし明日は旭丘を案内してもらおうよ。たしか夕方までに電車に乗ればいいんでしょ?」


樹々が渚に言った。


渚「うん、17時までに駅に行けば大丈夫だよ」

木陰「つまり夕方までは自由ってわけね。それならあちこち見て回れるんじゃないかしら」

渚「あとは他の人たちがなんて言うか分からないけど、多分みんな賛成してくれるんじゃないかな。夏海君とかまっ先に賛同してくれそうだねえ」

木陰「あとケイトもノリノリで乗っかってきそうね」

樹々「じゃあ決まりね!一穂さん、ぜひお願いしていいですか?」

一穂「ういー、そんじゃあいろいろプランを考えとくよ。楽しみにしといてね」

渚・樹々・木陰「ありがとうございます!」


まるで今日の夕飯のメニューを考えるようなノリで明日の予定が決定した。このノリの軽さが一穂の良さと言えよう。


一穂「さてと、そうと決まればそろそろ寝ようか」

れんげ「そうするーん!時は金なりなん。1秒たりとも無駄にはできないのん!」


れんげがそう言った直後、柱時計が鳴り0時になったことを告げた。


ひかげ「おわっ!もうこんな時間じゃん」 ビクッ


案外響いたその音に驚きながらひかげが呟いた。




ーーー()くして、また新しい一日が始まった。 
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