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物語の交差点

作者:福岡市民
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
  世紀の一戦

蛍「・・・。」

朝霞「・・・。」


机を挟んで蛍と朝霞が対峙する。
その他のメンバーは2人を囲むように座っていた。


なっつん「夏の暑さにも負けぬ熱き闘いが始まろうとしています。皆さまこんにちは。本日はここ、越谷家の居間より一条蛍選手と神谷朝霞選手の腕相撲対決の模様を私、越谷夏海が麻生夏海さんの解説とともにお送りいたします。麻生さん、よろしくお願いいたします」

なっちゃん「え?……あ、ああ。よろしくお願いします」


その輪の外側にはなっつんとなっちゃんが座っている。二人は実況と解説という位置づけでどこからか持ち出した椅子に座っていた。


なっつん「さて、ここからはフランクにいきましょう……こほん。なっちゃん、ズバリどっちが勝つと思う!?」

なっちゃん「さあ…?やってみな分からんばってん、いくら蛍ちゃんが強いとはいえ相手は高校生。しかも美術部一の力持ちの神谷先輩やけんさすがに蛍ちゃんの負けやない?」

なっつん「お、身内びいきですか?まあいうてウチも身内びいきでほたるんが勝つとみてるけどね。なにせ腕相撲に自信があるウチを瞬殺したんだもん。あの瞬発的なパワーはいくら朝霞ちゃんでも敵わないと思うよ?」

朝霞(小学生が相手ですか。これは負けたら大恥かきますね…。)

蛍(みんなが見ている前で負けたら恥ずかしいよね…。)

朝霞&蛍「「絶対に負けられない!!」」


2人の声は意外と響いた。


なっつん「お、臨戦態勢って感じだね!それじゃあ始めようか。両者、腕の力を抜いてー?」


組んだ手の上になっつんが両手を置き、2人が脱力しているのを確かめた。


なっつん「では参りましょう。レディ……ゴー!!」


なっつんが掛け声をかけると同時に2人は力を入れ、そして膠着状態になった。


渚「すごい、小学生が高校生と互角に渡りあっているよ!」

れんげ「ほたるん頑張るのーん!」

葉月「神谷先輩、頑張ってください!」

朝霞「くぅ……!」

蛍「ふっ……!」


両者とも一歩も退かず、歯を食いしばり顔を真っ赤にしている。


なっつん「これはいい勝負になりそうだ!こんな試合、今まで見たことないぞー!」


なっつんが興奮気味に叫んだ。


なっちゃん「いやー、蛍ちゃんも強いとは聞いとったけどここまでとは!恐れ入ったばい」


なっちゃんが感心したように言った。


朝霞&蛍「・・・!」ググググ


試合開始から40秒ほど経ったものの依然として膠着状態が続いている。
さらに20秒が経ち、ここでようやく均衡が破れた。


このみ「あれ、蛍ちゃんが押されてる?」


蛍が徐々に朝霞に押されはじめ、とたんに蛍への声援が大きくなった。


一穂「ほたるん、ファイトー!」

ひかげ「負けたら分校代表の名が泣くぞー!」

なっつん「頑張れほたるん、ウチを倒したときの“ぱにぃっ!”を思い出すんだ!」


のんのん勢の声援も虚しく、どんどん蛍の腕が倒されていく。
『これは朝霞の勝ちだろう。』
この時点ではほとんどの人がそう思っていた。


朝霞(蛍ちゃんなかなか手強かったけどここまでくれば安心かな。よし、あと一息…!)

蛍(うう、朝霞さん強い…!必死に頑張ったけどやっぱり高校生に勝つなんて無理があるよね……。)


蛍がチラッと朝霞を見やると視界の端に小鞠が見えた。


小鞠「頑張れ、蛍…!」ジワッ


小鞠は涙目で蛍をじっと見つめている。その瞬間、蛍の頭はショートした。


蛍(こここ……小鞠センパイが見てる小鞠センパイが見てる小鞠センパイが見てる小鞠センパイが見てる………!?)


蛍「う…うあー!」グイッ!

朝霞「あっ!?」


なっつん「おっと、ここで急にほたるんが盛り返してきたぞー!?」

なっちゃん「火事場の馬鹿力ってやつやね」

木陰「すごい、一気に形勢が逆転したわ」

樹々「蛍ちゃんにはあんな力があったのねー!」

ケイト「神谷センパイ、Fightデース!」

空:神谷先輩、頑張って。


いきなり窮地に立たされた朝霞。


朝霞(くっ、なんのこれしき!)グググ…。


腕が机に着く寸前のところで反撃を試みるも叶わなかった。


朝霞「もう……ダメ!」


ぱたん!


試合開始から3分あまり。ついに朝霞が力尽きた。


なっつん「勝負あり!激戦を制したのはなんと小学5年生の一条蛍!歴史的瞬間を我々は目撃しました!!」

朝霞「蛍ちゃん、強かったですよ」ハアハア

蛍「朝霞さんも流石です。“美術部一の力持ち”なだけありますね」ハアハア


両者は息を切らしながら健闘を讃えあった。


なっちゃん「互いの健闘を讃え合う…美しか光景やね」

なっつん「うん。スポーツは時として友情を育み、絆をより強固なものにするんだと改めてそう思うよ」


なっつんは再び解説者モードに戻っていた。


このみ「放送席!放送席!」


2人の夏海はこのみに目を向けた。
いつの間にかお玉を持ったこのみが蛍の横に立っている。


なっつん「あ、ヒーローインタビューですね。このみちゃん、お願いします」

このみ「はい!見事に下克上を果たした一条蛍選手です。おめでとうございます!!」

蛍「あ、ありがとうございます」

このみ「対戦した神谷選手、なかなか手強かったんじゃないですか?」

蛍「そうですね…対戦前は善戦するんじゃないかと思っていたんですけど、いざ対戦してみると思ったより強くてびっくりしました」

このみ「私たちもハラハラして見ていました。前半はお互いの力が拮抗していましたね」

蛍「はい、そこはもう意地と意地のぶつかり合いです」

このみ「やがて神谷選手が優勢になってきました。このときの心境は?」

蛍「“なんとかしなきゃ!”と必死でした」

このみ「しかしあるときを境に一気に盛り返してそのまま奇跡の逆転勝利。あの背景には何があったんでしょう?」

蛍「ふと顔を上げたとき、視界の端に小鞠センパイが見えたんです。涙目で『頑張って!』って言ってて…。それが力になって気づいたら勝っていました」

このみ「すると大逆転劇の立役者は小鞠ちゃんだったってことですか?」

蛍「そうですね。えへへ…///」チラッ


小鞠を見て照れる蛍。


一穂「へえ、こまちゃんなかなかやるねえ」

小鞠「あれは蛍が勝手に私の声援を力にしたというか…。わ、私は関係ないもん!」カァァ


それにつられてか小鞠も赤面した。


このみ「どうでしょう、このまま腕相撲の世界大会目指してもいいんじゃないですか?」

蛍「え!? えーと…。ま、まあ考えておきます」

このみ「そうですか、では今後の活躍も期待しています。本日はおめでとうございました!」

蛍「ありがとうございます!」

このみ「以上、一条蛍選手でした。放送席どうぞ」

なっつん「ありがとうございました。なっつん、まさかの姉ちゃんが勝利の女神だったとは思ってもいなかったね」

なっちゃん「うん、蛍ちゃんはよっぽど小鞠ちゃんば好いとうっちゃね」

なっつん「水筒?茶?」

なっちゃん「ああ、『好いとう』っていうのは好きって意味なんよ」

なっつん「あー、たしかにそれは一理あるかもねえ」ニヤニヤ

蛍&小鞠「「ない(です)!!」」


なっつんがからかうと蛍と小鞠は顔を真っ赤にしながら反論した。


ケイト「ホーソン席!ホーソン席!」


ケイトが放送席に呼びかける声が聞こえる。ちなみに「ホーソン」とは人の名前だ。


なっちゃん「ケイト、ホーソンやらどこにもおらんと」

ケイト「夏海は面白味がナイデスネー」チッ

なっちゃん「えっ!?」

なっつん「わお、辛辣!」

ケイト「ソレはサテオキ、敗れた神谷センパイの談話デス」

なっつん「はい、どうぞ」

ケイト「『小学生が相手だと油断していました。前半で善戦したときあと一押しできなかったのがとても残念です。最後に圧倒的な力を見せつけた蛍ちゃんの粘り勝ち…敵ながら天晴れとしか言いようがありません。参りました。』とのコトデース。以上!」

なっつん「ありがとうございました。やっぱり朝霞ちゃんは油断していたんだね」

なっちゃん「まあそうやろね。まさか5歳以上離れとう相手に負けるやら普通は思わんもん」

なっつん「とはいえ、朝霞ちゃんもさすが高校生という貫禄を見せてくれました。次回があれば期待したいところです」

なっつん「さて、放送時間も残り少なくなってきました。麻生さん、勝負を振り返っていかがでしたか?」

なっちゃん「はい、まさか小学生が高校生ば圧倒するとは思わんやったですけど本当に白熱したいい勝負やったと思います。神谷先輩にはぜひ雪辱を果たしてほしかですね」

なっつん「ですね!次に期待しましょう。大接戦となった腕相撲大会は一条蛍選手の大逆転勝利という結末で幕を閉じました。それではこの辺で越谷家の居間からお別れします。麻生夏海さん、ありがとうございました」

なっちゃん「はい、ありがとうございました」




ーーー2人の夏海が椅子と机を片付けに行く。
()くして、白熱した腕相撲大会は終幕を迎えたのだった。 
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