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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第十六話

 
前書き
ゼファー達の訓練船を襲った海賊とその能力は作者の推察によるものです。まずご容赦下さい。 

 
 一人ルーキーが乗る海賊船が訓練航海中の海軍船を視界に捉えた。


「母ーたん。母ーたん。あの船に“黒腕”のゼファーがいるだど?」

「そうだよ。ウィーブル、ゼファーを倒してあんたが白ひげの息子だって世界に解らせておやり!」


 “白ひげ”とは現在最強の海賊と呼ばれる四皇、白ひげ海賊団船長エドワード・ニューゲートのことである。


「おでは白しげの息子だどぉぉぉぉ!!」


 海軍船を狙う海賊は多くはないが、稀にいてそれは報復目的や略奪目的そして、もう一つは名の知れた海兵を倒して自分の名を挙げようと企む者らがいる。

 ゴジ達の乗る訓練船はかつて最強の海兵と呼ばれたゼファーを討ち取って名をあげようとするこの海賊の標的にされたのだった。


 ◇


 ゴジはゼファーやアイン達から船の扱いや航海術を学んで順調に数週間の航海訓練を終えたある日の夜のこと…相部屋のアインと部屋で休んでいると、突然の衝撃と爆発音で叩き起されることになる。

 

「敵襲!敵襲!海賊だぁーっ!」

 

 船を襲う爆音と衝撃と共に今日の見張り番であるビンズの叫び声が響き渡る。

 これがベテランの海兵であれば、攻撃される前に気付いて敵襲を知らせたはずだが、攻撃を受けるまで気づかなかったのは眠気と戦いながら盲目的に見張りをしていたビンズの落ち度であるが、経験のない彼を責めることは出来ないほどに、闇夜に紛れた鮮やかな奇襲攻撃であった。


「ちっ…あの船は不味い!?野郎共撤退準備だ。今すぐに後方に設置されている避難船に乗り込めぇぇーーっ!」
 

 ゼファーは船室の窓が見える海賊船に張られた四皇白ひげ海賊団の海賊旗とよく似た白い三日月の髭をたくわえたドクロマークを見て、慌てて訓練生達に撤退を命じてあの海賊団の狙いは自分だと分かって、訓練生達に撤退を命じながら一人甲板へ走る。


「「「うわあああぁぁぁぁ!?」」」

「ちっ!俺を倒して泊を付けようってか?もう乗り込んできやがったか。せっかちな野郎だぜ!」


 ゼファーの指示が訓練船に響き渡ると同時にドンという何か大きな物が船に落ちて来たような衝撃で船が一度大きく揺れて新兵達が慌てる中で、ゼファーは一人冷や汗を流しながら海賊船からこの船に飛び上がって乗り込んできた一人の大柄の海賊を不敵な笑みを浮かべて睨む。
 

「敵が乗り込んできたんだ。アイン姉ちゃん、俺は甲板に行くよ。」

「私も行くわ!」
 

 船の揺れたことから敵が乗り込んで来た事を悟ったゴジと新兵達のまとめ役であるアインはゼファーを手伝う気で甲板に向かって走る。

 ゴジとアインは甲板の裏に回って避難船を準備しようとしている訓練生達とは逆走して甲板に出ると、ゼファーが一人で白い三日月のをたくわえた体長が10メートル以上はあろうかという巨大な牛の化け物と対峙している所だった。



 ◇



 ゼファーは甲板に出てきたゴジ達に気付いて声を張り上げる。


「お前ら!甲板に来るなぁ!早く逃げろ!」



 ゼファーはこの化け物の狙いが自分だと知っているが、同時にこの化け物が部下達にも容赦なく、手を出してくる阿呆だと知っているのだ。 

 巨大な牛の化け物はゼファーの隙を付いて手に持った巨大な薙刀を横薙ぎに振る。
 

「ぐはっ…!?」

 
 ゼファーは巨大な薙刀を自慢の武装色の覇気を纏った両手の黒腕で受け止めるが、威力を殺し切れずに弾き飛ばされて甲板の手摺りにめり込むようにぶつかった。


「おで、敵つぶす。」


 そして、次の標的(ゴジとアイン)目掛けて薙刀を上段に振り上げて振り下ろす。

 この化け物の一連の攻撃はガタイに似合わずに恐ろしく速いが、ゴジにはなんとか筋肉の動きを観察していたことから化け物の動きが見えていたが、アインは攻撃への反応が完全に遅れていた。
 

「アイン姉ちゃん!?」


 ゴジはアインを連れて避けられる攻撃ではないと見抜き、彼女を助ける為に彼女に体当たりして甲板に叩き付けた。


「きゃっ…!?」
 

 ゴジはアインを突き飛ばした後、アインを守る為に両手に武装色の覇気を纏って黒腕となった両手を頭の上でクロスして構える。

 
 

 ───確実に俺よりも強大な武装色の覇気を纏っているあの薙刀を果たして、俺の怪力と武装色の覇気、そして外骨格で受け切れるか…



 

 ゴジは振り降される薙刀の刃と背中で震えているアインを見て覚悟を決める。


 

 ───否…死んでも受け止めてみせる!

 


 ゴジが受け止めきれなければ、甲板に倒れ伏すアインに化け物の刃は届くため、死んでも必ず自分が受け止めると決意したゴジは血統因子の操作で得た持てる限りの怪力を解放して腕の筋肉を膨れ上がらせる。

 しかし、その刃がゴジに届くことはなかった……何故なら、化け物の薙刀の刃が自分を襲う直前にゴジの前に大きな背中が割って入ったからだ。
 

「爺さん…」


 その背中は自分がその強さに人柄に憧れ、祖父と慕っている男の大きな背中…



 
 ガァン!




 同じ薙刀でも横薙ぎに振るうのと、上から叩き付けるとのでは威力は段違いになるが、闇夜を割る轟音が響き渡り、ゼファーは化け物から繰り出されるその薙刀をその身で受け止めた。

 
「流石……爺さんだな。へへっ……ありがとう。」
 

 ゴジはゼファーがウィーブルの薙刀を自慢の“黒腕”で受け止めた事に気づき、その背中に礼を言う。


「先生ぇぇぇぇー!?」


 しかし、アインの悲鳴のようなゼファーを呼ぶ声と自分に降りかかる生暖かい赤い血に気づき、ゼファーの姿をよく見たゴジは自分の目を疑った。


「えっ…………!?う…嘘だろ…?」


 ゴジの目に映ったのは、能力者相手でも一歩も引かずに海軍大将すら稽古と称してボコボコにしてきた男の右腕が薙刀の刃で斬られて宙を舞い、薙刀の刃を残る左腕と右肩口に深々と突き刺さった一目で瀕死と分かる体でその場で立ち続けるゼファーの姿だったのだ。

 

「はぁ、はぁ…良かった。間に合ったか。は…早く逃げろ…」

「爺さん…でも…腕が…」

 

 ゼファーは化け物の薙刀をその身で受け止めながら、後ろにいるゴジを振り返ると、ゼファーはその目を丸くしてゴジ達四人(・・)に傷一つないことを確認して嬉しそうに微笑みかけた。 

 今の彼の目にはゴジとアインだけではなく、走馬灯の如く妻と子供の姿が見えてた。


 ───これでもう心残りはねぇ。


 ゼファーもすぐに二人の姿は幻だと分かったが、妻子を失ったあの日から自分の中にいる二人が笑ってくれたことはなく、例え幻覚であってもやっとあの日守れなかった妻子を助ける事が出来たのだ。

 さらにその二人が自分を見て笑ってくれたことでようやく自分自身の心が救われた気がした。
 

「はぁ、はぁ…腕の一本や二本なんか安いもんだ。俺は…やっと…家族を守れたんだ…」
 

 ───お前達、俺を迎えに来てくれたのか?…長く待たせたな。
 

「嫌だ…爺さん。俺も一緒に…」
 

 ゼファーはゴジの声を聞いてハッとなり、まだ自分には自分を先生と慕い、さらに自分を爺さんと慕う家族達(・・・)が残っていることを思い出した。

 

「うおおおおおぉぉーっ!」
 
 

 ゼファーは残る力を振り絞って右足に覇気を纏って巨体を持つ化け物を蹴り飛ばした。

  

 ───俺はまだ死ねない…ゴジ達をここから逃がすまでは倒れるわけにはいかねぇんだよ!!

  

 過去の呪縛から解放されて死兵となったゼファーの覇気と力は全盛期のモノと見間違う程に漲っている。

 

「アイン!さっさとこのバカを連れて脱出しろ!!」

「はい!行くよ…ゴジ君!」

 

 アインは涙目でゴジを抱えて連れていこうとするが、ゴジはアインに抱かれながらも抜け出そうと必死に暴れるが、アインとてゼファーがその身を犠牲にしてゴジや自分達を助けようとしていることは分かっているので必死だ。


「ダメよ。私と逃げなきゃ……ゴジ君……私たちは足でまといなのよ。」


 それに何よりも自分達がここにいてはゼファーが十全に戦えない。

 今も自分が来なければゼファーは右腕を失うことはなかったかもしれないのだから、足でまといにしかならない自分達に出来る事は後顧の憂いなくゼファーが化け物と戦える環境を作ることだけである。
 

「おい!冗談言うなよ!俺と爺さんでアイツを倒して皆で帰るんだよ…なぁ爺さん!?」

「こいつは動物(ゾオン)系幻獣種 ウシウシの実 モデル ミノタウロスの能力者、エドワード・ウィーブルだ。お前達が逃げる時間くらいは稼いでやる!アイン、ゴジを連れて行けぇ。俺の最後の命令だ…必ず全員生きて海軍本部へ戻れぇぇーーっ!」

 

 武装色の覇気はウィーブルに比べてゼファーに分があるが、動物(ゾオン)系の悪魔の実は野生の強靭な力を得ることが出来る。

 特にミノタウロスといえばその粗暴さと力を神々に恐れられて迷宮の奥深くに閉じ込められた半神半獣の化け物で、数ある動物(ゾオン)系悪魔の実の能力の中でも最上位の力を持つのだ。


「はい!」

「ちょ…待って…アイン姉ちゃん、爺さんが…」

「ダメよ!ぜんぜいのだめにも早くここをばなれるのよ!」


 ゼファーの最後の言葉を胸にアインは泣きながらゴジを抱きかかえて甲板の裏にある避難船へ走っていく。
 

「おで…強い!!母ーたん言ってた…全員…殺す!!」


 ウィーブルは自身の頭から生えている牛の角を前に突き出して両手を地面に付け、陸上のリレー選手のクラウチングスタートのような構えを取る。


「“牛鬼打進(ぎゅうきだしん)”!!」


 ウィーブルは対峙するゼファー、そしてこの場から立ち去ろうとするアインとゴジ諸共轢き殺す為、闘牛が突進するかの如くゼファーに向けて走り出した。


「残念、ここは通行止めだよ。牛野郎ぉぉぉ!」


 ゼファーは両手を広げ、ゴジ達の為を逃がすためにウィーブルの巨体を受け止めるべく全身に覇気を漲らせる。

 ゴジはアインに抱えられながら、家族のために戦うゼファーの大きな背中とゼファーの命を刈り取らんとする巨牛の化け物が突進する様を呆然と見ていた。 
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