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畠山皇国賛号事件の怪

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畠山皇国賛号事件の怪

畠山皇国賛号事件を知っていますか。復元したゼロ戦から生きた日本兵が飛び出して見学者を滅多切りにした事件です。あれは戦後の暗黒史として闇に葬られことになっていますが未だに根に持っている関係者は多いですね。私もテレビ茅ケ崎の木曜ソロモンにゲストコメンテーターとして呼ばれたので鮮明に覚えていますよ。その頃のテレビ局はお金持ちでね。専用機をチャーターしてミンダナオ島までロケしたんですよ。もちろんファーストクラスです。VIP待遇で降り立ったその晩の惨劇ですもんね。とても肝を冷やしましたよ。ミンダナオ島民俗博物館が落成して畠山皇国賛号のお披露目が血染めになっちゃいましてね。まさかまさかの刃傷沙汰です。だってピカピカのゼロ戦に白亜の殿堂でしょ?煌煌とライトアップされて警備員もフル装備ですよ。その夜は疲れていて空港からホテルへ直行する予定でした。
急に運転手が「ぜひ見てほしいものがある。大統領の命令です」って言うもんだから反対方向へ行きましたよ。
そしてなぜかピカピカのゼロ戦が、こぉーぱかっと割れてね。血だるまの日本兵が鬼の形相でこちらを仁王立ちしてまして、案内嬢を袈裟切りにしたんですよ。悲鳴を上げる間もなくバッタリとね。警備員が銃で応戦したんです。そしてらスゥ―といなくなってね。「お話はだいたいわかりました。若埼菊五郎大佐の亡霊は今も生きているんですね」
その後、この方が私の前には現れました。
お話の内容はさて置き…
実話を元に作り出された筋書きにより、日本と平和を保っていく中で、とある物語は終わりを迎えるのですね。
彼が「死ね死ね死ねやーい死ね」と叫びますね。そしてさらに私に刺さるのです。「もう一度お前になりたいよ」

えげつないですよね。映画で観てるのと同じじゃないですか。

「このお話の冒頭で日本と戦争が始まるんですね…」
「これは歴史の流れ。日本の歴史に終止符を打つ為に作りだされたものだ。そしてその歴史の流れは今も続いている、もしそれが終わったらそこはどうなるんだろう、もう一度始めてみないか。その時代を生きる私はもう居るもんではないか…最後に一つだけ伝えておく、もし戦争をするのならもうお前は私を失わなくてはならない」
そして最後は誰か一人が手打ちをして、この話は終わりますね。

ただ私が、彼の気持ちとか言っていた意味がよくわからないんですが
「お話の内容はさて置き、今はどこまでが本当なんでしょう。お話の通りだとしたら…あの人は今、戦争に加担していませんか?」
その問いに私の答えは出ません



私は… 私は、ただの人間だと思っています。
この物語は、誰かが物語っているのでしょう。
私の人生は終わったときに終わった。
しかし彼は、私を忘れない。
私はただ生きる事に楽しみを持って
死にながら生きていくことのみ考えているのでした。


「でも、あの戦争から80年近く経とうとしている、もう本当のことをかたってもいいんじゃないですか」
湘南ライブストリーミング社(旧テレビ茅ケ崎)のスタッフは粘った。元コメンテーターの口は重い。木曜ソロモンが放送事故で死人を出して打ち切りになった。テレビ茅ケ崎も経営悪化で停波した。放送史ではそのように説明されている。ワイヤーケーブルが切れてゼロ戦がコンパニオン一名が下敷きになったという目撃証言もあるがそれは事実の半分だと小指達也は確信している。
ミンダナオ島の独立派は民族学博物館の建設に猛反対していた。フィリピン軍による実効支配が明文化されるからだ。軍は建設予定地周辺から武装勢力を強制排除し島民を建設作業に駆り立てた。
それもどこまで本当かわからない。日本人の現地取材は厳しく制限されていて地元の情報通を雇って撮らせたり買い取った証言で達也の見解が成り立っている。
それでもだ。
それでも若埼菊五郎大佐がどこかで生きていて日本刀は振り回さずともワイヤーを狙撃したのだと思いたい。
「小指さん。本当に日本兵が今でも生きていると信じていますか?」
「ええ!」
ふっと元コメンテーターは笑った。
「よしましょうや。たとえ私が真実を知っていて日本軍の亡霊にお墨付きを与えたからと言ってそれがどうなるんです?戦後憲法や駐留米軍が幻のように消えてなくなると思いますか?」
結果論を先に出されて小指は怒った。
「そんな小学生の作文を聴きに来たんじゃない。俺は真実を知りたいんだ。それを視聴者に伝え世に知らしむる。良い悪いは受け手が決めることだ」
「若いな…」
元コメンテーターは力なく笑った。
「どうしようたってどうにもならないこともあるし、どうしようもないこともある」
「しかし! 戦争の亡霊が!!」
「亡霊はどっちだろうね。恨めしい恨めしい。済んだことはどうにもならないのに未練がましく化けてでる。例えば殺人事件の被害者が真犯人を告げに来る。それで…それでどうなる?」
「犯人が罰を受けて事件解決だろうが!」
「年寄りを怒らせるのもいい加減にしろ!犯人が捕まっても死んだ本人に何がしてやれる?」
「弔ってやることだ。花を手向けて冥福を祈る!それで充分だろうが!」
「だから、小指さん。それはもうさんざんやりつくされているんだよ。君はそれ以上の何を求める。しつこくでくどくてめめしくってみれんがましい。亡霊は我々なんだよ!」
「…」


 
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