ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第一章 少年期
第十話 秘蔵っ子
訓練の後、アインは約束通りゼファーとの訓練でボロボロになったゴジを連れて海軍本部にある女風呂に向かっている。
「あのジジイ、少しは手加減ってもんを……」
アインの横を歩くゴジは最後にぶん殴られた頬を擦っている。
「でも、ゴジ君ほんとに凄いわ……ゼファー先生の動きについていけるだけで凄いことよってあれ?」
アインはそんなゴジの頭を撫でようと手を伸ばすが、空を切る。
「それとこれとは…って着いた!!アイン姉ちゃん早く早く!!」
ゴジは女と書かれた赤い暖簾を見つけて鼻息荒く興奮して疲れも吹っ飛んだように暖簾の手前までダッシュして後ろを振り返ってアインを急かしていた。
「あらあら、はしゃいじゃって可愛い。」
アインはそんなゴジを見ながら、お風呂にはしゃぐ年相応の反応(勘違い)をしているゴジを見て微笑ましく思っているが、当然ヴィンスモーク家の血を受け継ぐゴジが何に興奮しているのか。
◇
風呂で汗を流している女海兵達がアインと共に入口から入ってくる男の子に気付く。
「あれ?子供?」
「なんでここに子供が?」
「あら?でも可愛い子ね……」
言わずもがなである。
「初めまして、ゼファー教官のところで厄介になるゴジです。」
ゴジは背筋を伸ばして頭を下げると、女海兵達から黄色い歓声が上がる。
「「「可愛いぃぃ♪」」」
元々娯楽の少なく、訓練漬けの彼女達にとってゴジという子供の存在は癒しであった。
「ここは天国だああぁぁぁ。海軍本部に来れてよかった。」
ゴジは月刊『海軍』でも特集されていた美人な女海兵達の一糸まとわぬ姿に興奮してそのまま倒れてしまった。
「あ〜⸝⸝⸝美女が沢山……美女が沢山……たくさ……⸝⸝⸝」
アインはゴジの異変に気付いて慌てて抱き留める。
「えっ!?ゴジ君大丈夫?もう逆上せちゃったの!?」
「なら、脱衣所で寝かしとけば大丈夫じゃない?」
アインは慌ててゆでダコのように顔を真っ赤にさせて逆上せたゴジを風呂から脱衣所に運び、横に寝かせる。
「ん?アイン。その子だれ?」
風呂場の暖簾を潜った一人の女海兵が逆上せたゴジを脱衣所の椅子に寝かせて、団扇を葵でいるアインに気付いて声を掛けた。
「ヒナさん!この子はゼファー先生が連れてきた……」
海軍本部中尉“黒檻”という異名を持つピンクプロンドの長い髪と切れ長の力強い瞳と分厚い唇が特徴のヒナは海軍本部でもちきりの噂の正体だと見抜く。
「あぁ……訓練生をボコボコにしたっていう噂のゼファー先生の秘蔵っ子ね……ヒナ確信!!」
アインはヒナの言葉で昼間の訓練を思い出して乾いた笑いを浮かべる。
「あははっ……やっぱりもう噂になってるんですね……えぇ。その噂は本当のことで皆を一瞬で倒しちゃったんです。」
ヒナはゴジの頬に軽くキスをしてから服を脱いで浴室に入って行った。
「へぇ〜、私、強い子は好きよ。またいずれ話す機会もあるでしょ。またねゴジ君♪チュッ♪」
普段のゴジなら飛んで喜ぶシュチュエーションだが、気を失ってる彼は貴重な機会を失った。
◇
数日後ゴジがマリンフォードに来てから数週間が経ったある日の訓練所ではいつもの如くゼファーとゴジが戦っていた。
「くそ!爺さんもっかいだ!」
ゼファーに投げ飛ばされたゴジがすぐに立ち上がる。
「ゴジ、目に頼りすぎるな。攻撃が来ることを感じりゃ攻撃なんて簡単に避けれんだよ。」
ゼファーはどうにかゴジに見聞色の覇気について目覚めさせようとしているが、如何せん上手くいきそうにない。
「そんなんで分かりゃ苦労しねぇよ!?」
訓練生ではゴジの相手を務めれないことをゴジ自身が証明したため、ゴジとゼファーとのマンツーマンの訓練は既に日課になりつつあった。
「ゼファー先生、私とも一手訓練をお願いします。」
海軍コートを靡かせた一人の将校が訓練場に姿を現す。
「お前はシュウか……最近中尉に昇進したそうだな。いいだろう。鈍ってないか確かめてやる。」
白い布で鼻から下を覆い、海軍の帽子を目深に被った海軍本部中尉シュウはゼファーに頭を下げる。
「はっ!ありがとうございます。」
シュウは背中に『正義』の二文字の書かれたコートを脱いで戦う準備を始めるので、ゴジはゼファーに
「爺さん、俺は見てていい?」
ゴジがゼファーに鍛えてもらっている間にも、ゼファーに鍛え直してもらう為に多くの将校達が彼を尋ねてくるので、ゼファーが海兵達にどれだけ慕われているのかがよく分かる。
「そうだな。シュウは悪魔の実の能力者だからな。いい経験になるだろう。」
その度にゴジは見取り稽古をして、ゼファーの戦い方を学んでいた。
◇
シュウとゼファーの戦いは、正直戦いにならなかった。
「ぐはっ!」
悪魔の実の能力を使おうとしたシュウに対して、瞬間移動のような抜き足で距離を詰めたゼファーは黒腕の右拳でただ殴り飛ばした。
「ダメだダメだダメだ。貴様は悪魔の実の能力に頼りすぎている!」
シュウは触れたものを何でも錆びさせてしまう[[rb:超人 > パラミシア]]系悪魔の実サビサビの能力者で若くして海軍本部中尉の地位に付いた新進気鋭の有望株であるが、ゼファーの前では形無しである。
「やっぱり爺さんはすげーな。」
ゴジはゼファーが悪魔の実の能力者である将校達を相手に能力に頼りすぎると言いながら彼らをいつも圧倒している姿に憧れた。
「当面はジェルマの能力は封印して地力を上げていくか。」
自分は能力頼りの男にはなりたくないと思い、訓練において血統因子で得た能力を使わずに自分の覇気や体を鍛えてゼファーに一人前の海兵と認められるまでは能力は使わないと決心する。
◇
訓練場に海軍本部いや世界でも有名な2人の男が姿を現した。
「ゼファー!ゼファーどこだ!?」
「ん?この声はセンゴクか……まったく騒がしい。ゴジ、シュウを任せた!」
ゼファーの声が聞こえたゴジはそれを見ながら偉い大物が来たなと思いながらも言われた通りにシュウを肩に担ぐとそのまま医務室に運ぼうとその体を持ち上げながら、来客をチラリと見ると、目に飛び込んできた光景に驚愕が隠せない。
「センゴク元帥にクザン大将ね……トップ2がどうしてこんなとこに何の用だろ……ってかどういう状況だ?」
海軍本部のトップ元帥とその直属の地位にある大将のボサボサの黒髪で3メートル近い身長のあるいかにもやる気無さそうな顔をしている海軍本部に三人しかいない大将の一人クザン。
「あのぐうたらオヤジは本当に大将なんだろうか?」
海軍本部を代表する三大将の一人がセンゴク元帥に首根っこを掴まれた状態で引き摺られてきた光景にゴジは驚いていた。
「ゼファー!このバカを鍛え直してくれ!」
優秀ながらも“だらけきった正義”を掲げるマヌケ者であるクザンが超絶真面目人間であるセンゴクに怒られる理由等想像に容易い。
「げっ…俺ぁ〜新兵じゃねぇんだから、センゴクさん勘弁して下さいよぉ〜」
勿論、新兵時代にクザンを鍛えたゼファーも当然センゴクを怒らせた原因に検討が付いている。
「あぁ…クザンか…お前どうせまた書類仕事サボって遊んでたんだろ?そうだ。ゴジ!丁度いい相手が来たぞ!」
ゴジはシュウを連れて訓練場を出ようとした所でゼファーに呼び止められる。
「はっ?爺さん!俺は爺さんが気絶させたこのおっちゃんを医務室に連れてくとこなんだけど?」
ゴジは抱えているシュウを高々と上げて抗議の声をあげるが、ゼファーが聞くはずもない。
「シュウはのびてるだけだ。そこら辺に寝かしとけばじきに目覚める。クザン、このゴジと戦って勝つことが出来れば訓練は免除してやろう。」
クザンはこんな見た目でも変わり者の多い海軍本部において数少ない常識人であり、訓練免除を餌にされたところで、流石に10歳程度のガキと戦えと言われて断ろうとする。
「はっ?だからそのガキと戦えっての?冗談キツいよ先生。そいつ10歳くらいだろ?見習いですらないじゃん?」
「よし、もじゃもじゃ!!よく言った!」
ゴジはクザンが断ったのをいい事にシュウを地面に下ろした後、胸を張る。
「もじゃもじゃって……人が気にしてるとこをサラリと言うの止めてよね。」
クザンは自分のコンプレックスをあけすけに言い放つゴジを白い目で見ながら鍛えられた体と身に纏う覇気を見て目を細める。
「ほぉ…その子が噂のゼファーが拾ってきた子か?ゼファーが自慢するその子の実力を見たかった所だ!面白い、クザンやれ!」
センゴクの耳にもゴジの噂は届いており、実際に目の当たりにしてその強さを試したくなった。
「ちょ…ちょっとセンゴクさんまで…ほら、そのガキもすっごい嫌そうな顔してるでじょ?」
ゼファーとセンゴクが乗り気である以上は対戦相手であるゴジが納得していないことがクザンにとっては最後の砦となっている。
クザンとてゼファーの秘蔵っ子と呼ばれているゴジの強さは気になるが、流石に自分が子供と戦うのは勘弁したいのだ。
「ゴジ、少し耳を貸せ。」
ゼファーはゴジに近付いて彼のやる気を出させる為に取っておきの情報を耳打ちする。
「爺さん、なんだよ?何を言われても俺の気持ちは変わら……えっ…ヒナ嬢が本部に帰ってるって本当なの!?」
月刊『海軍』の人気コーナー”女海兵特集”で何度も特集されている“黒檻”のヒナはゴジの一番のお気に入りであり、ゴジの初恋の人と呼んでも差し支えない。
「ん?確かにヒナなら、昨日、任務を終えて帰港している。」
ゴジが本部に来た当初、ヒナは遠征に出ていたのでまだ会えてないが、センゴクも肯定して事でゴジの目が光り輝く。
「ガハハハ!やる気出たな?ゴジ、あの馬鹿の鼻っ柱折ってやれ!」
「任せろ!俺があのモジャモジャぶっ飛ばしてやるよ!約束は守れよ!!」
ゴジは勢いよく立ち上がって笑顔でクザンの元へ走っていく。
「その意気だ!絶対に勝てよマセカギ!」
クザンは的確にゴジのやる気スイッチを押したゼファーを見て、もう逃げられないと困った顔をする。
「おいおい…マジで?ガキ…お前も怪我したくなけりゃ…」
「うっせー!モジャモジャ、ぶっ飛ばしてやるよ!」
クザンは自分の良心がボロボロと剥がれる気がして首を傾けてボキボキと骨を鳴らす。
「はぁ〜これは…大人に対する口の利き方がなっちゃないね。こりゃ、ちょっと教育の必要がありそうだこと。」
クザンは二回りくらい歳が違うゴジの挑発に諦めたように両手を広げて顔を左右に振るも、ゴジとの戦いは避けられないものとなった事を悟り、溜息を吐いた。
後書き
5月6日加筆修正
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