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パラジクロル床の間海峡諸島の閃光

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野生のスリッパはどんな愛も知っている

パラジクロル床の間海峡に春が来た。一触即発の春だ。束の間の栄光を夢見る凱旋将軍は王国の目と鼻の先にあり目の上のたん瘤であるパラジクロル床の間海峡諸島の奪取を企む。しかしそこは絶滅危惧種の天然スリッパの繁殖地でありおいそれとは手が出せない。迂闊に侵略すれば国際世論が黙っていないだろう。しかし野生の王国であることを逆手にとって隣国のナツメヤシ帝国が着々と秘密基地を建設していた。現場は虐げられた人々が奴隷の如くこき使われている。命からがら脱走して来た茶瓶仮面は匿名を条件に惨状を語った。凱旋将軍は茶瓶仮面の亡骸をパラジクロル床の間諸島に葬ってやろうと誓い、全軍出撃を命じるのだった。いっぽう野生スリッパの保存活動に命を捧げる少女ボサノバはフィアンセである茶瓶仮面を心配していた。突然の失踪に潜む帝国の陰謀。そして


帝国を襲う危険な野生スリッパを探し出している茶瓶仮面の正体。ボサノバはすんでに謎をすり替えた。
一方、大きな海に浮かぶ浮島であるパラジクロル床の間諸島は、王国が開発した人工衛星に搭載された、かつてないほど大きな人工衛星を見る事が出来た。その物体はパラジクロル床の間諸島を完全に覆うほど大きく、更にはその船は一基もあって、まるで船の内部を覗き見ている気分だった。パラジクロル床の間諸島から現れる影。それは人だった。しかも一人ではない。沢山いた。船から数え切れない数の人が飛び出して来て、パラジクロル床の間諸島に降り立つ。誰もがこの奇妙な形の島を見たらなんだってこと思うだろう。だが人々は思わず、これほどの大きさを見るとは思わなかったということだ。
その人々の間では謎が解け続けている。何も知らない。何が起こったのかもわかっていない。誰もがパラジクロル床の間に降り立つと共に「今、王国は人類を守るべく戦争を起こしてしまった。それと同時に人類を救うべく、今ある技術を駆使して戦争を起こした」と言った。もちろん人々はそんな話を信じ切っているから聞く耳をひかなかった。そしていつの間にか皆が黙ってしまった。皆がその場を去った事によって島の存在が隠されてしまった事に人々は愕然としていた。
そして何を思ったのか一人の青年が口を開いた。
「僕が、君たちを、人類を、救うには。一体何をすればいい。何なら、君たちが住まうあの大きな島を、私たちが支配している国を、滅ぼしてしまうのか」
青年のその言葉を受けて、人々はその不思議な世界に興味が沸いた。人々の興味や想像力の限界が近づいたと悟った人々は彼に同調的だと、そしてその疑問と、その質問は次の世代へと受け継がれてゆった。
そして青年のその言葉を受けてその頃には、この世と違う世界ではなく、それよりも更に遠い、宇宙的にも大きな場所に、人類を導く光の神、人類の母「星の番人」そのものが誕生していたのだ。
茶瓶仮面は死んだ。そう、確かに肉体は滅んだが彼女の崇高な魂は絶滅危惧種の守護神に昇華していた。もうお分かりだろう。星の番人とは茶瓶仮面そのものだ。彼女はボサノバの彼氏に扮して地上に生を受けた。喪失する痛みを忘れてしまった人類に寂寞と空疎と虚無を再教育することで瞬間瞬間の希少価値を改めて認識させる。そこまでは陳腐なテーゼだ。かけがえのない命、しかし生存に搾取と捕食は不可欠。この二律背反の苦渋が生命サイクルを循環させてきた。必然の円環は強烈な呪縛でもある。
大宇宙の意思は人類をくびきから解放し進化の螺旋に頼らぬ階層へ導くために茶瓶仮面の茶番劇を設定した。卒業の儀式を司る法具が野生のスリッパだ。履物という緩衝材を人類と原罪の間に敷くことで人はあらゆる世界の煩悩から解放される。それは全人類の意識を神の視座に置くことにつながる。知性を持つ生き物はどうあがこうが生存欲求と知的好奇心の両立から離れられない。元来、知恵と研ぎ澄まされた狩猟能力だからだ。食物連鎖の頂点に君臨することを知的進化の長期目標だった。
更なる向上を求められたらもう創造主のポジションしかないではないか。しかし神聖なる神も感情的に振舞わねば善悪を采配出来ない。なぜなら道徳も倫理もしょせんは圧倒的立場を正当化する口実にすぎないからだ。そこで人類の総意は閃いたのだ。被造物を養分にすればよい。支配する側の特権だ。結論に達した瞬間、パラジクロル床の間海峡諸島が閃光に見舞われた、
人間はこの事象に固有名詞をつけている。ビッグバン。
宇宙の再起動に人類の総意は便乗した。天地創造をハックすることによって人類は合法的に神の座を得た。
それから数百億年が過ぎた。パラジクロル床の間海峡に春がくる。

 
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