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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第八話 “黒腕”のゼファー

 
前書き
今日2話目です。 

 
  翌日、短く刈り揃えられた紫色の髪に齢64歳とは思えない現役時代から衰え知らずの筋肉の分厚い鎧を纏った偉丈夫。元海軍本部大将ゼファーがジェルマ王国に到着した。


「ここがジェルマ王国か……本当に巨大な電伝虫の上に国があるとはな!!」


 ゼファーは妻と子を失った自分を励まそうとしてくれたジャッジを突き放したことを後悔していたが、自ら話し出すきっかけがなく、長年謝罪を出来ずにいた。


「来たか!?ゼファー!!」


 ゼファーは久しぶりに会う少しだけ老けた友の姿を見て、開口一番に頭を下げた。
 

「ジャッジ、久しぶりだな。あの時はすまなかった。お前に何を話せばいいか……分からなかった。」


 馬鹿正直に全てを話しながら頭を下げる友の姿に苦笑しながらジャッジは手を差し出す。


「お前が一番辛かったのは知っている。気にするな。ゼファーが元気そうでよかった。さぁ、我が城を案内しよう!!」
 

 長年の遺恨を一言の遣り取りで解消した二人は笑顔で固い握手を交わしてから、ゼファーは城を案内するジャッジと言葉を交わしながら親交を取り戻していると訓練所に通される。


「ゼファー、この子がゴジだ。」


 ゴジは64歳とは思えぬ鍛え抜かれた体躯と覇気を有するゼファーを見て感動しながら、腰を90度に曲げて頭を下げる。


「はじめましてヴィンスモーク・ゴジと言います。ゼファー教官、よろしくお願いします」


 一方でゼファーは中央で頭を下げる身長100メートル弱の身長しかないゴジの姿を上から下まで見て目を細める。


「ゼファーだ…話には聞いていたが、本当に子供とはな…」


 頭を下げる幼いゴジの姿を見て、海賊に殺されたかつての自分の子供と重ね、海軍への入隊を断る決心を固めてジャッジを睨むように向き直った。


「ジャッジ、この俺にガキのお守りをさせる気か?」


 元よりゼファーはゴジを連れていく気は更々なく、ジャッジに会うのが目的だった。


「俺もまだ早いかと思ったが、百聞は一見にしかず、お前が自分でゴジの実力を確めてみろ!!」


 ジャッジはゼファーの気持ちを分かった上で彼を見ながらニヤリと笑う。


「ほぅ…自分の子供に自信があるか…いいだろう。小僧、俺を認めさせてみろ!」


 ゼファーはジャッジの自信に満ち溢れた姿から、この子供にそこそこの実力があるのは間違いないが、所詮は子供と高を括っている。


「小僧じゃなく、ゴジです。ゼファー教官殿……」


 ゼファーはゴジから放たれる静かな殺気を受けて、ゴジの実力は自分の想像のはるか上、僅か10歳で並の海軍将校以上だと認識を改めて無意識に口角が上がる。


「これは中々……小僧!名前で呼んで欲しいなら俺を認めさせてみろ!!さぁ、稽古を付けてやる!!」


 ゴジは無防備に立っているようで全身に覇気を張り巡らさせているゼファーを前に獰猛な笑みを浮かべて覇気を練り上げる。


「爺さん、吠え面掻くなよ!“武装色・硬化”!!」


 ゴジは武装色の覇気に目覚めてから今日まで父に使い方を学び、数分程度であれば“硬化”を戦闘中に使えるようになっていた。
 

「ガハッハッハ!!その歳で“硬化”だと!?面白い!小僧…俺に一撃でも与えられたら認めてやる!!」


 ゼファーは武装色の覇気を纏って黒くなったゴジの両拳を見て笑いが堪えきれない。


「爺さん……行くぜ!“疾駆”!!」


 拳を構えたゴジは足元を爆発させると、その爆風に乗って真っ直ぐにゼファーに突っ込んでいく。


「その歳で武装色の覇気を使いこなすだけでなく、能力者か…なるほどジャッジが自慢するだけの事はあるか。こりゃあ……間違いなく逸材だ!!」


 ゼファーは当初の決意は何処へやら、わずか10歳で武装色の覇気を扱えるゴジが成長すればどんな海兵になるのかワクワクしながら、彼の突進を躱す。


「まだまだ!!“疾駆”!ここだぁぁぁー!!」


 ゴジは躱された瞬間に着地した地面をさらに爆発させると、そのまま自分に背を向けるゼファーに向けて拳を構える。


「ふんっ!器用な奴だ……だが、俺相手にヘタなフェイントや小細工は無意味と判断した戦闘センス。これは鍛えがいがありそうだ。」


 ゼファーは自分が勝つことを疑っていないゴジに上には上がいるという現実を教えるべく少しだけ本気を出す決意を固めて体に力を込めていく。


 ───爺さんの右足の筋肉を中心に覇気と力が籠ってる。

 ───俺の攻撃が当たる直前に死角から恐ろしく速い回し蹴りがくる。


 ゴジには筋肉の動き、重心の位置等から相手の動きを予測する観察眼が備わっている。


「甘っ!?なんだと……」


 ゼファーはゴジを蹴り飛ばすべく、ゴジの完全な死角から後ろ回し蹴りを放つも、その蹴りが空を切った事に目を見開くと、ニヤリと笑ったゴジと目が合う。


「へへっ♪その蹴りは視えてんだよ!喰らえぇぇ“火花(スパーキング)フィガー”!!」


 ゴジは低身長を活かしてゼファーの蹴りを地を這うかの如く深く腰を落として回避しながら、体重を拳に乗せた正拳突きをゼファーの軸足の向こう脛に放つ。


「ぐっ!?」


 ゴジの拳が軸足となる左膝に突き刺さると爆発が起きるが、ゼファーは左膝を襲う痛みを堪えながら空を切った右足でカカト落としを放つ。


「これで俺の勝ぢぃ……ぐべっ!?」


 カカト落としをモロに頭に受けたゴジはカエルの潰れたような呻き声と共に地面に頭をめり込ませた。


「おいっ!?ジャッジ!!この子は死角からの俺の回し蹴りを予測したぞ!!まさか見聞色の覇気も習得しているのか!?」


 ゼファーは地面に頭がめり込んだゴジを見た後で、ジャッジを見る。


「さぁ……俺は見聞色の覇気は使えないからよく分からんが、ゴジはよく未来が視えていなければ理解出来ないような動きをする。」


 ゼファーは少し赤みを帯びてヒリヒリと痛む自分の左膝を見て、笑いが抑えられない。


「ガハハハハ。本当になんて子だ。ガッハッハッハ!!」
 

 ゼファーが高笑いを上げていると、ゴジは数秒意識を失っていたがすぐに目を覚まして地面から顔面を引っこ抜くと痛む頭を抑える。


「ぶはっ!?いってえええぇぇ!!くっそ!!一撃当てた俺の勝ちが決まってたのに、このイカレ爺さんは素直に負けが認められねぇのかよ!?」


 ゴジの顔や頭には土汚れはあるも外骨格で踊れた皮膚には傷1つ見当たらなかった。


「ガハハハハ。あれ食らって意識あるのか……大した小僧……いやゴジだったな!安心しろ。この戦いは間違いなく、俺に一撃を当てたお前の勝ちだ。」


 ゼファーは爆発でスボンの左足の裾が吹き飛んで剥き出しになってる左膝をゴジに見えるように見せた。

 
「なら、なんで俺は蹴られたんだよ!めっちゃ痛てぇぞ!!」
 

 ゴジは涙目で未だに痛む頭を両手で押さえながらゼファーを睨むと、彼はそっぽを向く。


「それは……つい……」


 ゴジはゼファーの答えを聞いて、カチンと来てゼファーの胸倉を掴む。


「ついだと!?おい!!俺じゃ無けりゃ死んでるぞ!!このボケ老人!!」


 ゼファーはそんなゴジを高く抱き上げる。


「ゴジ!!俺がお前を最強のヒーローに育ててやる。」


 抱き上げられたゴジはジト目でゼファーを見下ろす。


「ヒーロー?」


 ゼファーはそんなゴジに向けて、自分の夢を託すように目を輝かせる。


「そうだ。海兵はこの海を守るヒーローだ!お前はその中でも最強のヒーローになれる!!」


 ゴジは自分より圧倒的高みにいるゼファーから食い気味にべた褒めされることに気恥しさで顔を赤らめた。


「お…おう!!」


 ゼファーはゴジを足元に下ろすと、ジャッジに向き直る。


「ジャッジ、頭でっかちのお前からこんな傑物が生まれるとはな…既にお前ではゴジには敵わんのだろ?」


 ジャッジに請われて戦い方や覇気を指南したゼファーだからこそ、ゴジとジャッジの実力差を明確に見抜けた。


「ふん、その子は頭の方もすでに俺を超えている。折を見てベガパンクにも会わせてやってくれ。あいつは今、海軍本部にいるのだろう?きっとゴジの成長に繋がる。」


 強い上に頭もいいと聞いてゼファーは一層将校としての才能をゴジに感じてニヤニヤしながら乱暴に頭を撫で回す。
 

「ほぅ…こんなに強いのに頭もいいのか?本当に海軍に入れてもいいのか?死ぬかもしれんぞ?」


 子供を失ったゼファーだからこそ、当初は息子を死地に向かわせるジャッジを止める気でいたが、海軍の教官として自分の手でゴジを最強の海兵に育てたいという相反する感情が生まれていた。


「その子は五男だ。上には四人も王子がいる。ゴジ…お前は今日からただのゴジだ。いいな?」


 ゴジはその場で片膝をつき、跪いてジャッジに臣下の礼をとり、事実上の廃嫡宣言を受け入れる。


「はい、父さん。これまで育ててもらってありがとうございます。」


 王族の務めから解き放たれるとはこういう事であるとゴジの発案で家族の皆で話し合って決めていた事である。


「なるほど…跡目争いってやつだな。王族は大変だな。こんな才能の溢れた弟がいたら上の兄は気が気じゃないか」


 ゼファーは観客席にいるゴジと同じ背格好の子供達をチラリと見て、納得する。


「そういうことだ。王位を継げないならば、この国にいないほうがこの子の為になる。もう一人もこれから別の知り合いに預けるつもりだ。」
 

 王族に兄弟が多いと跡目争いで兄弟間の殺し合いも珍しくないので、それを避けるために跡目になれない子供を廃嫡して養子に出したり、別の職業を斡旋することも珍しくない。


「王族のしきたりなんていう難しいことはよく分からんが、まぁ……ゴジのことは任せておけ!」


 ゼファーは用は済んだと振り返ることも無く訓練所から出ていくので、ゴジは慌てて彼に続くとその背にジャッジとソラが声を掛ける。


「ゼファー、俺の息子をよろしく頼むぞ!!」

「ゴジ、立派な海兵になるのよ!」


 ゼファーに気を使わせないようにこの場にはイチジ達兄姉もいるが、彼らは跡目争いをしているゴジとは仲が悪い演技をしているので、この場では言葉を交わさずに一度立ち止まって家族を振り返って挨拶を目礼だけで済ます。
 

「ゴジ、もう別れはいいのか?」


 ゼファーは目に涙を溜めて泣くのを我慢して自分に付いてきたゴジの頭を乱暴に頭を撫でる。


「爺さ……いやゼファー教官、心遣いは感謝します。でも……わがれは昨日ずば……ぜ……だ。」


 ゴジはそんなゼファーのゴツゴツとした大きく優しい手に涙が溢れる。


「なるほど……男の別れに涙は不要か……爺さんでいい。敬語もいらん。」


 ゼファーはそんな強がるゴジを見ながら、父親の代わりにはなれそうにないが、祖父代わりにはなれるのではないかとそんな事をふと考えた自分が可笑しくて少し笑ってしまう。
 
 こうしてゴジは海軍に入隊すべくジェルマ王国を後にした。 
 

 
後書き
5月4日加筆修正 
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