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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第八話

 
前書き
今日2話目です。 

 
  翌日、短く刈り揃えられた紫色の髪に現役時代から衰え知らずの筋肉の分厚い鎧を纏った偉丈夫。元海軍本部大将ゼファーがジェルマ王国に到着した。

 ゼファーは、妻と子を失った自分を励まそうとしてくれた友ジャッジを突き放したことを後悔していたが、自ら話し出すきっかけがなく、長年謝罪を出来ずにいた。

 その為、久しぶりにジャッジの方から連絡が来たのが嬉しく、すぐに休暇を取って飛んで来たのだ。
 

「ジャッジ、久しぶりだな。あの時はすまなかったな。」


 開口一番頭を下げる友に苦笑しながらジャッジは手を差し出す。


「気にするな。ゼファーも元気そうでよかった。さぁ、城を案内しよう」
 

 長年の遺恨を一言の遣り取りで解消した二人は笑顔で固い握手を交わしてから、ジャッジがゼファーに城を案内する。

 その後、執務室に通されたゼファーは部屋で待っていたゴジと顔を合わせる。

 

「ゴジ。この男が今は教官として新米海兵に覇気や戦い方を教えている"黒腕"のゼファーだ。この男にお前を預けることにした」

「ゼファーだ…話には聞いていたが、本当に子供とはな…」

「はじめましてヴィンスモーク・ゴジと言います。ゼファー教官、よろしくお願いします」

 

 ゴジは60歳とは思えぬ鍛え抜かれた体躯と覇気を有するゼファーを見て感動しているが、対するゼファーはジャッジに会う為にこの国へ来たものの、彼の息子を預かることに関しては断固として断るつもりでいた。

 頭を下げる幼いゴジの姿を見て、海賊に殺された自分の子供と重ねてより断る決心を固めてジャッジを睨むように向き直った。

 

「ジャッジ、この俺にガキのお守りをさせる気か?」

「俺もまだ早いかと思ったが、百聞は一見にしかず、お前が自分でゴジの実力を確めてみろ」

「ほぅ…自分の子供に自信があるか…いいだろう。小僧、俺を認めさせてみろ!」

 

 ゼファーはジャッジの自信に満ち溢れた姿から、この子供にそこそこの実力があるのは間違いないが、所詮は子供と高を括っている。

 

「小僧じゃなく、ゴジです」

「名前で呼んで欲しいなら俺を認めさせてみろ! 小僧」

 

 無言でこっちを睨むゴジの殺気を受けてゼファーは、ゴジの実力は自分の想像のはるか上、僅か10歳で並の海軍将校以上だと認識を改めて、驚愕と共にジャッジを一目見てから改めてゴジに向き直ると無意識に口角が上がる。


「なるほど……ただの親バカじゃねぇってことか……。」


 ゴジとゼファーは訓練所に移動し、家族が客席で見守る中、訓練所の中央で対峙した。

 

「来い!小僧…俺に一撃でも与えられたら認めてやる」

「爺さん、吠え面掻くなよ!」

 

 ゴジは武装色の覇気を両手に纏って黒くなった両手の拳を固める。

 ゴジは武装色の覇気を覚えてから父ジャッジの指導の元で鍛錬に励み数分程度であれば“硬化”を戦闘中に使えるようになっていた。


「その歳で武装色の覇気、しかも“硬化”を使いこなすか…なるほど、ジャッジが自慢するだけの事はあるか。」


 ゼファーは当初の決意は何処へやら……この時点で勝負の結果が自分の勝ちであっても、わずか10歳で武装色の覇気を扱えるゴジを預かる決意を固め、この子が成長してどんな海兵になるのかワクワクしていた。

 しかし、自分が勝つことを疑っていないゴジに上には上がいるという現実を教えるべく一撃で彼の意識を削ぐつもりでゼファーはゴジが自分の間合いに入った瞬間に死角から無拍子の回し蹴りで蹴り飛ばすつもりでゴジの出方を待った。


「爺さん……行くぜ!」


 そう言うとゴジは真っ直ぐにゼファーに突っ込んでいく。


「俺相手に真っ直ぐ突っ込んでくるとはやはり青い……しかし、俺相手にヘタなフェイントや小細工は無意味と判断した戦闘センス。これは鍛えがいがありそうだ。」


 対するゴジはゼファーに迫りながらも、自分の動きに対するゼファーの反応を彼の筋肉等の動きから“予測”していく。

 幼い頃から母を治す為に人体構造を熟知しているゴジだからこそ筋肉の動き、重心の位置等から相手の動きを予測する観察眼が備わっていた。


 ───爺さんの右足の筋肉を中心に覇気と力が籠ってる。

 ───俺の攻撃が当たる直前に死角から恐ろしく速い回し蹴りがくる。


 ゼファーの攻撃を予測したゴジは誘いに気づかない振りをしてそのままゼファーの顔を殴ろうとしながら寸での所で、ゴジはゼファーの蹴りを地を這うかの如く深く腰を落として回避しながら正拳突きをゼファーの軸足の向こう脛に放つ。


 ───なっ!?俺の回し蹴りを予測しただと……まさか見聞色の覇気の才能もあるのか!


「ぐへっ!?」


 ゴジはカエルの潰れたような呻き声と共にゼファーのかかと落としが頭に当たり、地面に頭をめり込ませていた。

 ゼファーはゴジの反撃に対応する為にとっさに回し蹴りを途中で止めて彼の頭にかかと落としを喰らわせたのただが、少しだけ痛む自分の左膝に笑いが抑えられない。


「ガハハハハ。なんて子だ。ほんとにこの俺に一撃あてるとは……でも咄嗟のことで手加減なかった。おい、小僧生きてるか?」
 

 ゴジの武装色の覇気を纏った渾身の拳はゼファーのかかと落としが決まる寸前軸足である左膝に届いていたのだが、回し蹴りを避けられると予測していなかったゼファーはとっさに回し蹴りを止めてかかと落としに移行したので手加減はできなかったので、地面に顔面がめり込んでいるゴジを見て生死が不安になる。


「ぶはっ!?いってえええぇぇ!!!くっそ子供にガチのかかと落とし喰らわせやがってイカレこの爺さんめ……。」


 ゴジは数秒意識を失っていたがすぐに目を覚まして地面から顔面を引っこ抜くと、土汚れはあるも外骨格で踊れた皮膚には傷1つ見当たらなかった。


「ガハハハハ。しかもあれ食らって意識あるのか……大した子だ。小僧……いやゴジだったな!安心しろ。この戦いはお前の勝ちだ。」


 ゼファーはスボンの裾を捲って少し赤くなっている左膝をゴジに見えるように見せた。

 相打ちのルールを明確にしてない以上は相打ちであっても自分に一撃当てたゴジの勝ちであると認めたのだ。
 
 
「頭をぶち蹴られて勝ちって言われてもな……まぁいずれ強くなったら爺さんをぶっ飛ばしてやるよ。」
 

 ゴジは涙目で未だに痛む頭を両手で押さえてながら、ゼファーを睨んだ。


「隙をつかれたくらいでお前程度の覇気で俺を倒せるわけねぇが、俺の動きを見切ったその目…そしてそれを利用して反撃した判断力と運動神経、瞬発力…まさしく天賦の才だな。俺がお前を最強の海兵に育ててやる。」

「あ…ありがとう」


 ゼファーはゴジの頭を強引に撫でると、自分より圧倒的高みにいるゼファーから食い気味にべた褒めされることに気恥しさで顔を赤らめた。


「ジャッジ、頭でっかちのお前からこんな傑物が生まれるとはな…既にお前ではゴジには敵わんのだろ? 約束通り、俺がゴジを預かってやる。」

「ふん、その子は頭の方もすでに俺を超えている。折を見てベガパンクにも会わせてやってくれ。海軍本部にいるのだろう?きっとゴジの成長に繋がる。」

 

 強い上に頭もいいと聞き、ゼファーは一層将校としての才能をゴジに感じて嬉しそうに見つめる。

 対するゴジは強引に頭を撫でるゼファーに食ってかかろうかともと考えたが、祖父がいればこんな感じなのかと考えながらゼファーのされるがままとなっている。

 

「ほぅ…こんなに強いのに頭もいいのか?本当に海軍に入れても?死ぬかもしれんぞ」

 

 ゼファーがゴジを預かることを断ろうとした理由はこれだった。

 子供を失ったゼファーだからこそ、友の息子を死地に向かわせる事を止める気でいたが、海軍の教官として自分の手でゴジを最強の海兵に育てたいという相反する感情が生まれていた。

 

「その子は五男だ。上には四人も王子がいる。ゴジ…お前は今日からただのゴジだ。いいな?」

「はい、父さん。これまで育ててもらってありがとうございます。」


 ゴジはその場で片膝をつき、跪いてジャッジに臣下の礼をとり、事実上の廃嫡宣言を受け入れる。

 王族の務めから解き放たれるとはこういう事であると予めヴィンスモーク家の皆で話し合って決めていた事である。


「なるほど…跡目争いってやつか、王族は大変だな。こんな才能の溢れた弟がいたら上の兄は気が気じゃないか」

「そういうことだ。王位を継げないならば、この国にいないほうがこの子の為になる。」
 

 王族に兄弟が多いと跡目争いで兄弟間の殺し合いも珍しくないので、それを避けるために跡目になれない子供を廃嫡して養子に出したり、別の職業を斡旋することも珍しくない。


「お前達が親子の縁を切ると言えば反対もするが、お前達の関係を見るにそうではないようだ。王族のことはよく分からんが、まぁ……任せておけ!お前の子だということも公言しないことを約束する。ゴジは俺が最強の海兵にしてやるよ」


 サンジも同じ名目で料理修行に出る予定であり、ジャッジがジェルマ王国の国王と知るゼファーは彼らが親子の縁まで切るつもりでないようなので彼らの王族事情を受け入れた。
 

「ゼファー、俺の息子をよろしく頼むぞ」

「ゴジ、立派な海兵になるのよ」


 ゼファーは用は済んだと振り返ることも無く訓練所から出ていくので、ゴジは慌てて彼に続く。

 ゼファーに気を使わせないように、この場にはイチジ達兄姉もいるが、彼らは跡目争いをしているゴジとは仲が悪い演技をしているので、この場では言葉を交わさずに一度立ち止まって家族を振り返って挨拶を目礼だけで済ます。
 

「もういいのか?」

「爺さ……いやゼファー教官、心遣いは感謝します。でも……わがれは昨日ずば……せま……じだ。」

「ふっ、爺さんでいい。敬語もいらん。」
 

 ゼファーは目に涙を溜めて泣くのを我慢して自分に付いてきたゴジの頭を乱暴に頭を撫でると、ゴジはゼファーのゴツゴツとした大きく優しい手に涙が溢れる。

 こうしてゴジは海軍に入隊すべくジェルマ王国を後にした。 
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