ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第一章 少年期
第七話 元海軍大将
サンジとゴジの夢が叶えることを約束した数日後、ジャッジは玉座に腰掛けて一人悩んでいた。
「どうしたらいい。この国の為……そして子供達の為に俺は何をしてやれるのだ。」
悩みの種はジェルマ王国の今後について…真の意味で家族となれた今のジャッジは他国の戦争にもう自分の愛する子供達を介入させたくないので、今は戦争屋としての仕事は全て断り、他国に武器のみを売っている状態である。
「父さん。俺に案があるんだ。」
それでも他国と比べても国民の少ないこの国だからこそ何とか国としてやっていける収入は確保出来ているが心許なく、憂いていると何も無い部屋の隅からゴジが突然現れてジャッジは目を見開く。
「なっ…!?ゴジ。聞いていたのか?そうか……ステルスブラックの透明化能力……」
ゴジは申し訳なさそうな顔をしながら、盗み聞きしていた訳を話す。
「ごめん。母さんも姉さんも兄さん達も皆心配してるんだ。」
家族達は悩んでいる父に気づいていたので、ゴジが父の悩みを探る為に透明化能力を使って父の執務屋に潜んで彼の一人言を聞いていたのだ。
「そうか…心配を掛けたな。それで、お前の言う案とはなんだ?」
ジャッジは家族に心配を掛けたことを反省すると、家族の治療を成功させ、レイドスーツをも完成させた頭脳を持つゴジが考える案が気になった。
「この大海賊時代を利用するんだよ。山のようにいる海賊たちに苦しめられている国は沢山ある。そんな国を助けてジェルマ王国が後ろ盾になるのはどうだろう?」
この大海賊時代、残念ながら海賊に支配されて苦しんでいる国も多い。
ゴジが考えた作戦とはそんな海賊達に苦しめられている国を助けて、クローン兵の兵力と労働力を提供することで、その国をジェルマが支援し、ジェルマの領地とすることで平和的にジェルマ王国の領地を増やしていくものだ。
「お前はソラ達を治療しながらそんなことをずっと考えていたのか?」
ゴジは大切な家族が住むジェルマ王国の今後についてもちゃんと考えていた…もちろんその計画の前提は父を排除することだったが、本当の父の想いを知った今となっては自分が温めていた作戦を話し聞かせた。
「うん。昔のようなやり方で国を支配してもまたジェルマは滅ぶからね。海賊に支配された国や島を守る為にジェルマの領地すれば、皆喜ぶでしょう?」
ジャッジはジェルマ王国の国民をどう助ければいいかを考えている中、世界に目を向けていたゴジに驚愕する。
「お前は…いや、なんでもない。悩みは晴れた。ゴジありがとう。」
ゴジはジャッジが何を言いかけたのか疑問に思ったが、自分の案が採用されて嬉しそうに笑った。
「あの子は元より、この国程度に治まる器ではないか……」
ジャッジは部屋から出ていくゴジを見送りながら、ゴジに対して『お前が王になればいい国になりそうだ』と言おうとした事を思い出して苦笑した。
◇
ジェルマ王国としての方針が決まってしばらくして、家族揃っての夕食中にジャッジが話を切り出した。
「サンジ、お前の修行先が決まった。」
「本当に?」
サンジが食べかけていたスープから口を離して、嬉しそうな顔をして父を見つめた。
「あぁ。私の友人のメスキートに預けることにする。」
「まぁ、懐かしいわね。あなたと毎年食べていたあの人の料理すごく美味しかったわね。」
メスキートは東の海でも一・二の腕を持つというレストランのオーナーである。
ジャッジとソラが新婚旅行で訪れてから彼の料理を気に入り、ソラが倒れるまでは毎年の結婚記念日には東の海にある彼の店を訪れて料理を食べて親交を深めていた。
「すでにメスキートにはサンジを預けることに了承を貰っている。」
北の海と東の海は赤い土の大陸で区切られており、船での行き来きは通常であれば不可能であるが、ジェルマ王国の船は巨大電伝虫の上に乗っており、この電伝虫は天にそびえる赤い土の大陸の壁をも悠々と登ってしまう。
「東の海……。」
さらに理由は不明だが、海王類はこの巨大電伝虫を恐れる為、凪の帯と呼ばれる偉大なる航路を挟む超大型の海王類の巣ですら航海可能であり、偉大なる航路を南北に横断して南の海にも行く事ができるから実質ジェルマ王国に行けない海はない。
「この国も東の海に向かって進めている。サンジ、後はお前の気持ち次第だ。」
しかし、この船以外では北の海と東の海との行き来は実質不可能である事が分かった上でサンジは力強く父を見つめてしっかりと頷く。
「うん。ありがとうお父さん。立派な料理人になるよ!!」
ジャッジもサンジの揺るぎない覚悟を受け止めて和やかな家族の団欒の後、ジャッジは少し言いづらそうにゴジの方を向いた。
「楽しみにしている。次にゴジ。」
「急な話だが、明日お前を預ける男がこの船にやって来る。」
「「「えっ…!?」」」
家族は皆、父の急な話に騒然となるが、彼は頭を抱えるように軽く下げてから、すぐに頭をあげてゴジに向き直る。
「元海軍大将で今は海兵の訓練教官をしている忙しい男なのだが、昨日連絡を取ると近くにいるから明日の朝イチでこの国へ来ると言ってきた。」
ゴジはサンジを見送った後で単身海軍本部に入隊する気でいたが、ジャッジはベガパンクの元で研究していた時に知り合った男に大切な我が子を預けるつもりで連絡を取っていた。
「元……海軍大将…!?父さんはなんでそんな人と知り合いなんだ?」
海軍大将とは海軍将校の中でも、トップの元帥に次ぐ階級にあるモノで、北の海にいて易々と知り合えるものではない。
「あれは俺がMARSに入ったばかりの頃の話だ。」
ジャッジは家族達に彼との出会いを話し始めた。
◇
《十数年前、偉大なる航路のとある島》
ベガパンクがいずれ血統因子を発見して世界を震撼させるより少し前、まだ世界政府から認知されていない“MARS”と呼ばれる研究所でジャッジが働いている時に、海軍本部大将“黒腕”のゼファーがこの研究所を尋ねて来た。
「何?ベガパンク、海軍大将が俺に何の用だ?」
この“MARS”の代表であるベガパンクがジャッジに来客を告げに現れた。
「私に聞かれても困る。だが、どうしても君に会いたいそうだ。応接室にいるから行ってくるといい。私も研究で忙しい。もう少しで生命の設計図を見付けられそうなんだ……ジャッジ、客人の相手は任せたよ。」
ジャッジは意味が分からずに頭を捻りながら応接室に向かうと、そこに居たのは紫色の短髪を坂立たせ、筋骨隆々の体に海軍将校の証である背中にと書かれた正義の純白のコートを纏った中年の男がいた。
「“黒腕”のゼファー!?」
ジャッジはゼファーとは面識はないが、新聞にもよく載っている世界で一番有名なこの海兵を知らないはずはなかった。
「おう!!あんたがジェルマ王国の王子ジャッジか?」
ジャッジはこの時の目を輝かやかせた子供のような顔を浮かべたゼファーの顔を今でも鮮明に覚えている。
「そうだが、この俺に何の用だ?」
ゼファーは幼い頃、ダンボールで作った仮面と武器を持った正義のヒーロー“ゼット”として遊んでいたことがあり、そのゼットとよく似ている“海の戦士ソラ”に運命を感じた。
「実は俺は“海の戦士ソラ”の大ファンなんだ。もちろん敵役であるジェルマ66も大好きでな。一目本物に会いたかったんだ。」
海の戦士ソラは海軍の活躍がモデルであるが、ジェルマ66はジェルマ王国がモデルと知り、その王子が務めているベガパンクの研究所を休暇で訪れたのだ。
「変わった海兵だな……」
この出会いを切っ掛けにジャッジとゼファーとの交友はゼファーが任務で家を空けている間に妻と子を海賊に殺されて失意の内に大将を降りるまで続き、ジャッジの武装色の覇気もゼファーから教わったものだ。
◇
ジャッジはゼファーとの出会いを話した後、彼について自分の事のように楽しそうに話す。
「ゴジ、ゼファーは海賊であろうと決して人殺しをしない海兵だった。殺さずに捕らえて罪を償わせるという海軍の正義を信じ、誰よりも真っ直ぐに貫いた男だった……」
ゴジはゼファーという海兵に興味が湧く中で、ジャッジが寂しそうに言葉を過去形で終わらせた事に首を捻る。
「だった?」
最後にゼファーに訪れた悲劇について話す。
「ゼファーは捕らえた海賊の残党達の報復に遭い、留守中に愛する妻子を惨殺されたのだ。奴は妻子の死に責任を感じて自分の正義を疑い大将の座を降りた。俺はあの事件の後にゼファーにすぐに連絡したが、連絡は付かず、俺も王位を継いだばかりで奴の元に駆け付ける事すら出来なかった。」
ジャッジは当時を思い出して力になれなかった自分を悔いており、そんな悲痛な顔を浮かべる父を見ながら家族を殺されたゼファーのことを想いヴィンスモーク家の面々は目に涙を浮かべている。
「あなた……。」
当時のジャッジはジェルマ国王の王位を継いだばかりで国を離れる訳にはいかずにゼファー元へ行けなかったことを未だに悔やんでいた。
「だが、ゼファーは新兵教官として海軍にそのまま残り、後輩の育成に専念しているそうだ。今では“全ての海軍将校を育てた男”と呼ばれている。俺が知る最高の海兵だ。ゴジにはピッタリだろう。」
「父さん、ありがとう。」
ゴジはジャッジから話を聞いて明日から世話になる予定のゼファーという男がどんな人物なのか楽しみにしていた。
後書き
5月4日加筆修正
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