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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘と提督とスイーツと・74

 
前書き
ここからは作者が選んだ娘の話が続きます(EXを除く)。 

 
    ~比叡・カレーパン~

「いっただっきまーす♪」

「おう、好きなだけ食え」

 今回のチケット当選者は、ウチの嫁さん・金剛の妹でありながら、俺の嫁でもある比叡だ。……改めて文字にすると背徳感がすげぇな。倫理観仕事しろ。

 まぁいいや、リクエストはカレーパン。それも、山程食べたいってんで比叡の目の前にはこんがりきつね色の山が出来ている。

「いや~、ホントに山の様なカレーパンを食べられるとは!比叡、感激です!」

 口の端に食べかすを付けながら、満面の笑みを浮かべる比叡。女子らしからぬ大口を開けてガブリとかじりつくその様は、比較的お淑やかな姉妹に比べるといい歳した大人のレディとは程遠い。が、何故だか比叡だとそれが絵になるんだよな。不思議なもんだ。

「そうかそうか、だがカレーパンは揚げ物だからな?食い過ぎには気を付けろ」

 カレーパンの元祖には諸説あるが、大体今から100年くらい前に誕生したと言われている。当時人気の高かった洋食のカレーとカツレツから閃いた説や、カレーサンドイッチから派生した説、クリームパンの元祖でも有名な中〇屋がインド人から教わったインドカレーから作った説など様々だが、その頃からドーナツ生地でカレーを包み、衣を付けて揚げるスタイルは殆ど変わっていないらしい。

「わかってますよぅ。ちゃんと食べたら運動してますから」

「ならいい。何しろ俺はーー」

「『肉感的なオンナは嫌いじゃないが、デブは好かん』でしょ?」

「解ってるならいいさ。しっかし、お前ホントにカレー好きな?」

「勿論!お姉さまの得意料理ですから。それに、提督が私と一緒に作ってくれた料理もカレーなんですよ。覚えてます?」

 ん?そんな事あったか?あんまり記憶に無いんだが……

「もう、忘れちゃったんですか?私がまだお料理下手っぴだった頃ですよぉ」

「あぁ、あったなぁそんな事」

 あんまり昔の事なんで忘れてたわ。




 あれは、そう。ウチのやり方が随分と浸透し始めて、俺が本土の連中に『昼行灯』なんて陰口を叩かれ始めた頃だ。

「おい比叡、お前が両脇に抱えてる物は何だ?」

「え、見て判らないんですか?司令。スイカとメロンですよ」

「……それを持って何処に行くつもりだ?」

「もっちろん!烹炊所ですけど?」

「そうか。そのスイカとメロンを切るための包丁を借りに行くんだよな?そうだよな?」

「違います、司令」

「ならどうする気だ」

「ふっふっふ、司令。私、比叡は聞いてしまったのですよ。カレーの隠し味にはフルーツを使う事があると!」

「確かにな。リンゴやバナナなんてのはよく聞く隠し味だ。それで?」

「更に更に!カレーには季節の物を取り入れて美味しく作る事ができるとも聞きました!」

「そうだな、確かに夏野菜を入れたり旬のシーフードを入れたカレーなんかは美味い。……つまり?」

「だから比叡は閃いたのです!メロンとスイカを入れれば、まだ見ぬ『比叡特製カレー』の可能性が……!」

「はい、ギルティ」

「あ痛ぁ!?」

 ゴン、と音がする位強めに比叡の頭にチョップをかます。痛みの余りにスイカとメロンを落とすかとも思ったが、落とさなかったのは褒めてやろう。

「あいたたたぁ……何するんですか司令!?頭がへこんじゃったらどうするんですか!」

「うるさいこのおバカ。あのなぁ比叡、カレーに何でもかんでも突っ込もうとするのは止めろ」

「ほぇ?何でですか?」

 比叡はきょとん、とした顔で首を傾げている。その顔のアホっぽさと来たら、こいつ何も考えてないんじゃ?と疑いたくなる。

「確かにカレーは色んな食材に合う。一見合いそうにない食材でも合う、不思議な料理だ」

「その通りですよ、司令!カレーはどんな物でも合うんです!だからこそ色んな食材を入れて美味しくしようと比叡は努力を」

「でもな?どうやっても合わない物もある」

「まさか、そんな事ありませんよ!」

「……じゃあお前、カレーにきゅうり入れられるか?」

 メロンもスイカも、元を正せばきゅうりと同じウリ科の植物だ。甘味なんかの差はあるが、近い所はある。

「きゅ、きゅうりですか」

「そうだ、流石にきゅうりは合わんだろ?だからその親戚のスイカやメロンだってーー」

「その発想はありませんでした!」

「……はっ?」

「成る程、きゅうり!まだ試した事はありませんでした!是非試してみます!」

「だからやめいっちゅーに」

 再び比叡の頭にチョップ。流石に2連発は効いたのか、蹲る比叡。あ、スイカとメロン手放して頭抑えとる。でも優しく置いたのは評価出来る。

「とりあえず、執務室に来い」

「な、何でですか」

「俺がカレー作りを教えてやる」

「あ、ちょっと!」

 蹲っていた比叡の手を掴み、執務室に引っ張っていった。そこでカレーを作らせてみたが、実は手際は悪くなく、むしろ上手い方だった。話を聞けば、比叡がお召し艦ならぬ汚飯艦、なんて陰口を叩かれる様な酷い料理の原因は無理にオリジナリティを出そうとして変な食材をぶちこみまくり、結果としてあのトンデモ料理が完成していたらしい。なので俺は奇をてらわず、『普通に』作る様に指導した。それでも数年掛かったが、今ではウチの比叡は新入りの娘達からは『料理上手のカッコいいお姉さん』と認識されていたりする。当時を知る奴等は苦笑いしているが。





「お姉さまに教わったカレーも好きですけど、提督に教わったカレーが、比叡は一番好きなんですよ」

「って言ってもなぁ。俺がお前に教えたのって所謂『家庭のカレー』だぞ?その辺の普通のカレーと変わらんぞ」

 ウチのカレーは普通も普通。ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎに、その日安かった肉と市販のカレールーだ。工夫してる所と言えば、玉ねぎを具として食べる分と先に炒める分に分けて、先に炒める分はすりおろすかみじん切りにする事。後は最低でも2種類以上の辛さの違うカレールーを混ぜて使う事位か。カレールーをミックスして使うと、それぞれスパイスの配合が違うから簡単に味が複雑になって深みが出るんだ。

「それでも、提督のカレーが私にとっては世界一のカレーなんです!」

「さよか」

 そこまで褒められると、悪い気はしない。

「そういえば提督、何で比叡にお料理教えてくれたんです?」

「あ~、それはだな……金剛に泣き付かれてな」

 実をいうと比叡に料理を教えてくれと金剛に頼まれたのだ。当時比叡は新しいカレーが出来る度に姉妹に振る舞っていたらしく、食べる度に体調不良になっていた妹達を見るのが辛い、と助けを求めて来たんだよ。まぁ、自分よりも妹が苦しんでるのを見るのが辛い、っていう辺りが金剛らしいっちゃらしいが。

「む~……」

「どうした?膨れっ面で」

「なんか結局、お姉さまと提督のノロケ話になってません?」

「しかたねぇだろ?事実なんだし」

「比叡だって、お姉さまに負けない位提督の事好きなのに……」

「あんまり俺を取り合って姉妹喧嘩はしてほしくねぇんだがな」

 俺もなるべく嫁艦には公平に接しようとしてはいるが、やっぱり金剛は俺が惚れた唯一のオンナだからな。どうしても多少は優遇してしまう所はある。比叡はその直ぐ下の妹だから、身近にいる分余計に差を感じるし、嫉妬してしまうんだろうな。

「比叡」

「……なんですか」

「今度、カレーご馳走してやるよ」

「そんなので機嫌直してあげませんからね」

「じゃあ食わんのか?」

「……たべます」

 結局食うんかい。だが、そんなちょっぴりアホの娘で素直な比叡が一番可愛らしく見えるんだよな。思わず頭を撫でてしまう。

「……えへへ///」

 比叡も満更ではないらしく、頬を赤らめて大人しく撫でられている。

「ちょっろいなぁ」

「ちょっと!?」 
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