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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第五話

 ゴジはそれから2年の歳月を掛けて両親、兄姉達のレイドスーツを完成させ、この日父ジャッジに彼専用のレイドスーツを渡すために彼の執務室に来ていた。 


「流石は俺の子だ。わずか2年で完成させるとはな…。」

「はい。これが約束のレイドスーツです。」


 ゴジはジャッジに”J”と書かれたグレーの缶を渡すと、ジャッジはそれを受け取り自分の下腹部に押し当てると、缶を中心として発せられた銀色の眩い光が体全体を包む。


「これは父さんの血統因子に作用して発動するように設計してあるので、他の人は使えません。」


 光が晴れるとグレーの服にオレンジ色のマントを纏ったジェルマ66(ダブルシックス)総帥ガルーダの姿となり、彼の要望に合わせた巨大な槍もジャッジの右手に握られていた。 

 彼はレイドスーツの性能を確かめるようにその場で手を開いたり、閉じたりした後でゴジに向き直る。


「なるほど……身体能力も普段とは比べ物にならんほど上がっているな。」

「それだけではありません。物語に沿った浮遊装置と加速装置を兼ね備えた靴に銃弾をも通さぬ服。そして追加として襟を伸ばして口を覆うことで水中でも呼吸が出来るようにしてあります。」

「なっ……!?」


 ジェルマの科学力を総動員しても、わずか2年足らずで創作物のレイドスーツを作り出すだけでも脅威であるのにそれを進化させてくるとはジャッジは若かりし頃に共に研究所で研鑽した友とゴジを重ねて目を見開いた。


 ───ベガパンク……この子は貴様を超えるかもしれんぞ。


 世界一の頭脳を持つ男Dr.ベガパンク。

 かつてジャッジはベガパンクの研究所に勤めて血統因子の研究をしていた為、ベガパンクの頭の良さは誰よりも知っている。

 それに比類し、越えるかもしれない息子の成長を嬉しく思う反面脅威とも感じる。

 実際ジャッジはゴジに聞かねばならないことがあった。


「ゴジ、お前に聞かねばならんことがある…」 

「はい。なんでしょうか?」


 ゴジはまるで質問される内容が分かっているかのように自らをきつく睨むジャッジを睨み返しながらハッキリと答えた。


「とぼけるな!イチジ達に何をした?」

「ふっ…何をとは?」 


 ジャッジからの予想通りの質問にゴジは鼻で笑いながら答えると、ジャッジは自分の懸念は当たっていたことが分かり、手に持った大槍の刃をゴジの首筋に添えた。


「巫山戯るな!」


 ゴジはジャッジの槍の穂先を右手の人差し指と親指で摘みながら、左手で“5”と書かれた金色の缶を取り出して自分の腰に当てる。


「貴様、何を……ぐっ…動かん。」


 ゴジは血統因子操作により得た怪力を使って穂先を摘んでいるので、ジャッジの槍はレイドスーツで筋力が強化されているジャッジが力を入れて押しても引いても槍はピクリとも動かない。

 ゴジはこうなることを予測していたが、ジャッジのレイドスーツに一切手を抜くことなく、自分や姉兄達と同性能のスーツを作り上げている。

 しかし、見た目こそ大人の中でも体格がよく3m近い身長のあるジャッジがその日々鍛え抜かれた体にレイドスーツを纏おうとも、生身の人間と生まれながらに怪力を有する強化人間とではこれ程、地力の差が生まれたのだ。

 その上、金色の光が晴れると未だにジャッジの槍の穂先を右手で掴んだまま金色のレイドスーツを纏ったゴジが現れた。


「ようやく気づいたのか?マヌケ!姉さん達はもうお前の操り人形じゃないってことさ!」


 ゴジはジャッジの前で演じていた従順な子の皮を脱ぎ捨てると、怒りの形相を浮かべたまま掴んでいた槍の穂先をバキィンと握り潰した。


「やはり、お前がイチジ達の血統因子を…」

「あぁ。そうだ!姉さんや兄さん達の感情を抑制していた血統因子は元通りにしといたよ。設計図があったし、ただ改さんされた箇所を元通りにするだけだからな……母さんを治すのに比べれば容易いことだったよ。」

「クソ!ゴジぃーっ!」


 穂先を潰された槍を手放したジャッジがゴジを殴ろうと腕を振り上げた時、胸元の大きく開いた白いワンピースに青いマントと黄色と黒の縦縞模様の耳当ての付いた帽子を被った海の戦士ソラをモデルにゴジが母の為に作ったレイドスーツに身を纏ったソラが息子と夫との争いを止める為にゴジを背にしてジャッジの前に立ち塞がった。


「止めて!あなた!」


 振り下ろされたジャッジの拳はソラの顔の目の前でピタッと止まった。


「母さん、危ないよ!」


 母の登場はゴジも予想外だったのかジャッジ同様に驚いていた。


「どけ!ソラ、いくらお前でも容赦せんぞぉ!」


 ソラはつい数年前までベッドで寝たきり生活をしていた体で、ソラのレイドスーツは彼女の生活補助を一番の目的として身体能力向上の機能に特化するように設定してあるが、それでも一般男性より強い程度である。

 ソラとてそれは熟知しているが、ゴジとジャッジの自分を止めようとする声に全く聞き耳を持たずにその場を離れようとしなかった。


「どかないわよ!あなた目を覚まして…私達の子供が本当の人間になれたのよ。普通は喜ぶべきでしょ?」

「しかし、それでは戦争には…いいからどけ!ソラ!?」

「嫌よ!」


 何かを言いかけたジャッジはゴジを庇うソラに押し退けようと説得するが、愛する妻に手を出す事が出来ずに悲痛な表情を浮かべて拳を静かに下ろそうとしたその時…。


火花(スパーキング)フィガー!」
 

 赤い服に白いマントというスパーキングレッドのレイドスーツを身にまとったイチジが母のピンチと判断して助ける為に光の能力を纏った拳で殴り掛かる。


「ぐっ…!イチジか!?」


 ジャッジはイチジに気付いて振り上げていた腕に武装色の覇気を纏いながらイチジの拳を受け止めると、衝撃を殺しきれずに爆発ともに数メートルの後退を余儀なくされる。


「父上、止めてください!母上とゴジが“可哀想”です。」

「可哀想だ……と?やはり……。」


 イチジはジャッジとソラの間に立ち塞がり、ジャッジはそんなイチジをきつく睨む。

 イチジに可哀想などと思う感情が備わっていることがジャッジの計画の為に許せることではないが、気配からイチジ同様に続々と子供達が集まってくるのに気づいた。


「ニジ…。」

「これ以上やるなら俺も加勢するぜ!」


 青い服に黒いマントというデンゲキブルーのレイドスーツを身に纏ったニジが腰に差した刀の塚に手を置きながらイチジの横に並ぶ。


「クソ親父、大事な弟に手を出された時点でこっちはブチ切れそうなんだよ!」

「父さん、あなたの負けよ!私も母さんと弟に手を出す奴は絶対に許さない!」

「ヨンジ、レイジュ…貴様らもか?」


 緑の服に黒いマントのウインチグリーンのレイドスーツを見に纏ったヨンジと、ソラと同様に胸元の大きく開いたピンクのワンピースに蝶のような形の紫のマントを付けたポイズンピンクのレイドスーツを身に纏ったレイジュもニジの横に並ぶ。


「ゴジ、お母さん…大丈夫?」

「サンジ。」


 黒い服に黒いマントのステルスブラックのレイドスーツを見に纏ったサンジが母ソラを心配して寄り添った後、意を決した顔でニジとヨンジの間に並ぶ。


「ええ。大丈夫よ。イチジ、ニジ、サンジ、ヨンジ、レイジュ…皆ありがとう。」


 ゴジとサンジも立ち上がってレイジュの横に並び、赤、青、黒、緑、ピンク、金のレイドスーツを纏ったかつて悪魔の軍団として総帥ガルーダの指揮もと、海の戦士ソラと戦った小さなジェルマ66(ダブルシックス)達が今海の戦士ソラを守る為に総帥ガルーダと対峙した。

 子供達の小さくも逞しい背中を見て、ソラは泣きながらジャッジに訴えかける。


「あなた目を覚まして。家族を守ろうとする自分の子供達の姿をよく見て、昔のあなたは国民を想い、国を守る為に一生懸命だったでしょ?昔の優しいあなたに戻って!」

「なぜだ?私達王族は民の為に戦争に勝てないと国を養えない。そのために我が子に私の全てを与えたのに…。」


 かつて武力により北の海(ノースブルー)を統べたジェルマ王国、しかし武力による支配が長く続くはずもなく、あっさりと内乱により国は滅んだが、王族であるヴィンスモーク家はかつて支配されていた各国から反感を買い、殺さずに笑いものにする為に数隻の船と彼らに従う国民を与えられて生かされ、今に至る。

 そんな中でヴィンスモーク・ジャッジが生まれ、亡き父からジェルマ王国を受け継いた時は酷いもので国土を持たない為に作物は育たないこの国は各国に頭を下げて作物を恵んで貰わなくてはならなかった。


「食物を分けて頂きたく……。」

「なんで我々がジェルマなんかに施しを与えねばならんのだ……けっ!?おい!貴様ちゃんと頭を下げろ。誰が頭をあげていいと言った?」

「す……すみません。」


 民の為に各国の王から足蹴にされながらも媚びた笑顔を絶やさずに頭を下げ続ける父の姿を見て育ったジャッジは決意する。


「俺が変えてやる!」


 ジャッジは他国の王に媚びへつらう自分の父と貧困に苦しむ国を見て育ち、これらを打開する為にベガパンクに師事し、そこで得た知識を元に科学技術を発展させて強力なクローン兵や兵器という武力を作り出すことに成功し、他国に貸し出して富を得ることでかつての武力大国ジェルマ王国を彷彿とさせる強大な武力を持つ国をわずか一代で建て直した。 


「あなただってこの子達がいつ本当の人間に戻れたかあなたは知ってるんでしょ?」

「知らないわけないだろう!!お前が治ってすぐのこと…2年前からだ。」 

「「「なっ……!?」」」


 自分の子供達と全く接してこなかったジャッジがそんなに早く気づいていたことに子供達全員が驚いた顔を浮かべている。


「やっぱり……あなたは変わらないのね。」


 かつての慈愛に満ちた王であるジャッジを知るソラだけは彼を信じていた。

 ジャッジはイチジ達に優しさという感情が芽生え始めた事に家族の誰よりも早く気付いていた。 


「我が国は過去の因縁で他国の怨みを買って笑い物にされてきたが、科学技術の発展により武力を蓄えて他国の戦争に介入していくことでようやく民を養えるようになった。これからも民を養うためにはこれまで以上に戦争に介入していく必要がある。部隊を指揮するのは王族、つまり俺の子供達だ。だから俺の持つ知識の全てを注ぎ込んで戦争に耐えうる強い体と力を与えた。しかし、戦争に置いて優しさは酷であることは俺が1番よく知っている。我が子が辛い思いをして戦うくらいなら辛い思いをしないように戦わせてやりたかった。ぐぅぅ……。」 


 ジャッジはその場に膝を着いて涙を堪えて両手で顔を覆うので、ソラはそんな夫に駆け寄って優しく抱き締める。

 ジャッジは、他国から依頼された戦争において誰よりも前に立って誰よりも多くを殺してきた男であるが、誰よりも優しくそれ故に戦いの中で誰よりも苦しんできた男だったから子供達にそんな思いをさせない為に心を奪おうとした。

 王女であるレイジュは戦争に出るよりも政略結婚の為に相手となる他国の王子と添い遂げて子をなす必要があるので”優しさ”の感情は残し、ジェルマ王国の国益となれるようジャッジの命令に逆らえないようにした。

 ジャッジは家族や自分の幸せと、国民の幸せを天秤に掛けて迷わず後者を選ぶ生まれながらの王である。

 “王族は民の為に生きる”ことが彼にとっての”王たる条理”であり、当たり前のことだった。


「ホントに馬鹿で不器用な人ね。本当は誰よりも優しい人なのにあなたには似合わないわ。自分の子達をもっとよく見て、あなたの愛のおかげで確かに強い体を持って生まれてきてくれたわ。私達の子供を信じてあげて。」


 ジャッジが顔を上げると逞しくも優しく育った我が子達を見てさらに涙を流してその場で膝を付いて泣き崩れた。

 彼は優しく育っていく彼らの成長を見て、嬉しいと感じている自分に気付いていたが、王として看過する訳にはいかないという葛藤のもと、今日まで子供達を見守ってきたのだ。


「あぁ…。私が間違っていたのだな。。うぅぅ…ずまながっだぁ…。」


 ジャッジも自分のやり方が間違っていることにはとっくに気付いていたのだろう。

 それでも王として感情を押し殺してきた。

 自分達の父の苦悩を知らずに自分の感情を制御し、逆らえないように血統因子を操作されて彼を怨み続けていた子供達は父の真意を聞き、自分達に不器用な愛情を注ぎながらも国を思う王たらんとする姿をその目と心に深く刻み、長男のイチジが全員を代表して意を決したように前に出る。


「父上、王には王たる条理があるのならば俺達四人は王族としての勤めを果たしてみせます。しかし、どうか人間として生まれたサンジと俺達を救ってくれたゴジの夢はここにはない。彼ら2人は王族の勤めから解き放っていただきたい、」


 イチジの決意を聞いたジャッジは涙を拭い顔をあげるとそこにはイチジに続いてニジ、ヨンジ、レイジュが前に出て片膝を付いて頭を下げている。


「「なっ……!?」」


 イチジの宣言に取り残されたサンジとゴジは慌てていた。

 サンジの夢は家族であれば誰でも知っているが、特に自分の夢について誰も話してこなかったゴジはイチジの言葉に目を見開いて驚いていた。


「「「お願いします。」」」


 これはサンジとゴジの夢に気付いて、彼らのおかけで優しさを取り戻した四人が二人の為にいずれ父に訴えようと決めていたことで彼らはこのタイミングしかないと判断したのだ。


「あなた……。」

「サンジの夢、料理人だったな?」


 ジャッジはソラに促されてフラフラとサンジの元へ歩み寄り、膝を付いてサンジの両肩に手を置いてサンジと目線を合わせると、少しビクッとした後で意を決して力強く父の目を見据える。


「サンジ本当に料理人になりたいのか?」

「うん…俺は料理人になりたいんだ!」


 サンジは初めて作った料理で病床にいる母を元気づける事が出来てから料理人になることを夢見ていたが、国民の為に王族としての責務を重視していた当時のジャッジは王としてそれを認める訳にはいかなかった。


「分かった。サンジ、お前を王族扱いせずに一料理人として扱う修業先を探す。厳しいがそれでもやるか?」


 ジャッジは東の海(イーストブルー)にいる知り合いの料理人にサンジを紹介しようと考えた。

 彼が知る一番腕の立つ料理人だった。

 その料理人はたまに豪華客船に呼ばれてその腕を振るう東の海(イーストブルー)でも一・二を争う料理人であるも、荒事の嫌う優しい男なのでサンジの修行先にはもってこいだと思っていた。


「俺やるよ!」


 ジャッジは力強く意気込みを顕にするサンジの頭を撫でながら優しく語り掛ける。


「そうか。ならお前が一人前になったら、皆でサンジの作った飯を食べに行くとしよう。」

「父ざん、あ…あ”りがどう”!」


 父に夢を叶える事を認められてたサンジは我慢出来ずに泣き出してしまい、ジャッジはそんな彼を生まれて初めて優しく抱き締めるとそんな父をサンジもしっかりと抱き締め返す。

 厳格な王を演じてきたジャッジと彼の思いとは裏腹に生まれながらに血統因子の影響を受けずにただの人間として生まれてきたサンジが初めて親子になれた瞬間であった。 
 

 
後書き
次話はゴジの夢のお話です。 
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