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Fate/WizarDragonknight

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信用できません

 赤のヒューマノイドが飛び去っていった。
 空間が元の公園に戻り、静かな闇が紗夜の環境を支配する。

「助かった……の?」

 あの幻想的な亜空間ではなく、見慣れた現実の見滝原。足元にあるのは、柔らかい砂ではなく、地球の恵みであるところの草。

「終わった……」

 ぐったりと膝をついた黒と赤の魔法使いが、松菜ハルトの姿になる。
 声からも察してはいたが、やはり彼が正体だった。とすれば、残りの二人も。
 ライオン仮面は多田コウスケ。
 そして、赤い鉄仮面は城戸真司にその姿を変えた。

「……衛藤さん」

 日本刀を納刀した可奈美へ、紗夜は話しかけた。
 可奈美は「うん?」と首を向ける。

「あの三人も、本当に聖杯戦争の参加者なんですね」
「……うん」

 可奈美は頷いた。

「さっきも言った通り、モカさんとチノちゃん以外……多分、ココアちゃんも違うと思うけど。私を含めた六人は、参加者だよ」
「だったら……」
「でも安心して! 皆、聖杯戦争を止めたいと思ってる。願いを叶えたいなんて、思ってないから」
「……」

 だが、紗夜の顔は晴れなかった。
 可奈美は続ける。

「だから、約束するよ。私たちは、紗夜さんを襲ったりしない。紗夜さんを襲ったサーヴァントとは、絶対に違うから!」

 だが、安心できる言葉ではあるのに、紗夜の心は晴れなかった。
 紗夜は、目に暗い影を宿しながら可奈美を睨む。

「口では何とでも言えますよ。皆さんが徒党を組んでいる可能性だってあるじゃないですか」
「え?」
「動物は、生存確率を上げるために群れを組みます。あなたたちだって、本当は願いのために街を荒らしているんじゃないんですか?」
「それは……」
「待って」

 紗夜の言葉は、背後からの声に止められた。
 それは、ボートでも同じ時間を共有した青年。

「可奈美ちゃん。紗夜さんの考えも当然だよ。可奈美ちゃんからも聞いたけど、参加者に襲われたんでしょ?」
「……」

 無言で肯定。
 ハルトはそのまま続ける。

「でもさ、疑うより、信じてみない? 俺たちはずっと、皆をこの戦いから守るために戦ってきた。それは本心だよ」

 だが、紗夜の表情は変わらない。腕を組み、爪を噛む。

「……信用できません。私には、あなたたちを……誰も……」
「待って!」

 だが、紗夜は可奈美の声に耳を傾けず、そのまま去っていく。

「ユニコーン、紗夜さんに付いていて」

 そんなハルトの言葉など、耳に入ることもなく。



「おーい!」

 その声は、湖の反対側から聞こえてきた。見ればそこには、元気な笑顔をしている少女がこちらに走ってきているところだった。

「紗夜ちゃあああああん!」

 保登心愛。紗夜の前で、銀および赤のヒューマノイドに変身した少女。気絶したチノを背負いながら、元気に走り寄ってきた。

「やっと見つけたよ! どこにいたの?」

 その言葉に、紗夜は思わず顔を背ける。
 だが、今の紗夜のことなど露知らず、こちらの顔を覗き込んでくる。

「紗夜ちゃん?」
「保登さん……」
「ん?」

 いつもと変わらない眼差し。可奈美やハルトたちとは違い、彼女のことは一年以上知っている。だからこそ、信用できないわけではなかった。

「保登さん、今までどこにいたんですか?」
「え? 紗夜ちゃんを探していて……あれ?」

 ココアは首を傾げた。

「ずっと湖のほとりを走っていて……あれ? でも、ちょっと記憶がすっぽりと抜け落ちているような……」
「抜け落ちている……」

 だが、トレギアの前に現れたココアは、間違いなく自らの意識で動いていた。
 その時の彼女の表情からも、無意識とは思えない。
 ココア自身も、何があったのか分からなかったのだろう。
 だが、これだけは聞いておきたかった。

「あなたは……何か、おかしくなっていませんか?」
「ふえ?」

 ココアが素っ頓狂な声を上げる。

「おかしく? 何それ?」
「その……ッ!」

 その時、紗夜の脳裏に閃く。
 ココアがあのヒューマノイドになるとき、彼女が毎回、白いアイテムを使っていた光景がフラッシュバックする。

「保登さん、ポーチの中を……見せてもらってもいいですか?」
「ポーチ?」

 疑問符を浮かべながら、ココアは「いいけど」とポーチを差し出す。
 礼を言いながら、紗夜はポーチを受け取る。
 白い生地に、花の刺繍がしてある可愛らしいポーチ。上蓋になっているそれを開ければ、その中のココアの私物たちが顔をのぞかせた。
 財布、メモ帳、スマートフォン。そして。

「……あった……」

 紗夜が探していたもの。
 白い、納刀のような形をしたもの。赤い模様が刻まれ、その中心には青い結晶が埋め込まれている。それはまさに。

「保登さんが、あの時に使ったもの……」
「あれ? 何だっけこれ」

 それは、ココアの言葉だった。丸い目をして、ポーチから出てきた白い物体を見つめている。

「保登さん……これは?」
「うーん、私も知らない」

 ココアが本気の嘘をつけないことは、紗夜も知っている。これまで学校でそれなりに彼女と接してきた。常に心からの笑顔を浮かべているココアに、本気の状況で嘘など言うことはない。
 紗夜は、その白いアイテムを握りながら尋ねた。

「保登さん、少し手を見せてください」
「ええ!?」

 突然で驚いているが、構わず紗夜はココアの手を握る。
 左右両方。
 それぞれの手の甲は、綺麗な白い肌色である。紗夜や可奈美のような黒い紋様などどこにもない。
 つまり。

「保登さんは、参加者じゃない……!」
「紗夜ちゃん?」

 だが、すでに紗夜はココアの言葉が耳に入らなくなっていた。
 紗夜は小声で、無意識に思考する言葉を口走っていた。

「これが、あの謎の人型に変身できるものなら……これを私が使えば……」

 そこまで言ったところで、紗夜は口を噤んだ。

「紗夜ちゃん?」
「……でも、これを使ったところで、また日菜が……」
「紗夜ちゃん!」

 ココアに肩を掴まれた。
 それにより、我に返る紗夜。思わず目を見開き、ココアを見つめている。

「どうしたの紗夜さん? 大丈夫?」
「え、ええ……」

 その目から、彼女が本当にただ心配しているだけだと分かる。
 目を反らした紗夜は、尋ねる。

「保登さん……これ、少しお借りしてもいいですか?」
「ほえ?」

 ココアはぽかんと口を開けた。

「いいけど……そもそも、これって私のだっけ?」
「ありがとうございます」

 紗夜は礼を言って、白いアイテムを懐にしまって、そのまま見滝原公園の出口へ向かっていった。



「モカさ~ん、起きて~! 起きねえな……どうすっかな……お、お姉ちゃ~ん」
「チノちゃん、もう朝だよ~。お寝坊かな? うーん……お、お姉ちゃんのお寝坊さん」
「ハッ!」
「ハイッ!」

 お姉ちゃんというワードに反応したモカとチノが、勢いよく頭を起こす。すると、それぞれに耳打ちしていた真司と可奈美の頭蓋にゴチンとぶつかっていた。

「うわ、あれ痛そう……」

 そんな湖畔でのやり取りを遠目から見つめるハルト。
 別れた仲間たちを探して遊歩道を歩いていたが、彼らのやりとりが面白くてそんな感想を言っていた。

「お! いたいた! ハルト! いたぜ! 響に友奈!」
「お、いたの?」
「ああ。こんなところで呑気に寝ていやがる」

 はたして深い茂みの中でうつ伏せで倒れているのは昼寝と言えるのだろうか。
 そんな二人に対し、コウスケが「にしし」と白い歯を見せて茂みに立ち入る。

「響に友奈。さっさと起きろ。でねえと、オレが何をしでかすか、皆まで言わねえからな?」
「何する気だよお前」

 コウスケの頭を叩いたハルト。
 そのまま抗議の声を上げるコウスケを無視して、ハルトはそのまま日菜が倒れた場所へ駆けつけた。
 見れば、すでに日菜は気絶から回復しており、キョロキョロと周囲を見渡しているところだった。

「いたいた。日菜ちゃん!」

 ハルトの声に、日菜は反応する。

「あ、ハルト君!」
「探したよ。大丈夫?」
「ん? 大丈夫? ……あれ? あたし、どうして寝てたんだっけ?」

 日菜は頭を抑えた。

「何か、変な怪物に襲われたような……」
「ああ、怪物……」

 ハルトは公園を見渡しながら、誤魔化す手段を考える。だが、踏み荒らされた芝生や、壊された船着き場など、どうやったところで隠し通せることではなかった。

「怪物……は、もういなくなったよ?」
「ホント……本当!?」

 日菜が驚きの表情を見せる。首を大きく振り、安心したように息を吐く。

「あれ、何だったんだろう……?」
「さあね」

 ファントムとも異なる、謎の怪物。どこから現れたのかも全く分からない。

(怪しいのはトレギアかな……? だったら、あの結界も……?)

 だが確信はない。
 トレギアからすれば、戦場の巻き添えから公園を守る理由もない。現に、あの戦いにおける公園のダメージは、最初に現れた数分だけしかない。
 疑問の連鎖に入りそうになる前に、日菜が「ねえねえ!」と顔を覗き込んできた。

「あ、ごめん。何?」
「お姉ちゃんは? お姉ちゃんはどこ?」
「ああ、紗夜さんは、さっき帰っちゃったよ」
「ええええええええええ!?」

 心底ショックを受けたように、日菜の顔が青くなった。

「そんなあああ……お姉ちゃん……」
「本当にお姉ちゃん大好きだね」
「当然だよ! お姉ちゃんは、勉強が出来て生徒会役員で笑うと可愛くてマメで努力家でたまに優しくてポテトが大好きで____」
「ああ、ストップストップ! 日菜ちゃん、それ以上言うと時間がなくなる!」
「ええええ?」
「何でそんな文句があるような顔をするのさ」
「だってだって……」

 日菜はいじけたように頬を膨らませる。

「お姉ちゃんと一緒にいたいんだもん」
「うわ、すっごい依存症っぽい発言」

 ハルトはそう言いながら、天を仰ぐ。

「……ユニコーンの後、ガルーダに追わせるのも面倒だしなあ……」
「ハルト君?」
「あ、ごめん。何でもない。……よかったら、家まで送ろうか?」
「え~? でも、家ちょっと遠いよ?」
「別に俺バイクだしいいよ」
「バイク?」

 その単語に、日菜は目を光らせる。

「バイク!? るんってきたあああああ!」

 なぜか喜ばれた。 
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